第058話 『初陣』④
「単体であれば勇者、剣聖、賢者、聖女に伍せる、あるいは上回る戦力をぶつけてくる。つまりまず間違いなく魔人級が来る。同時に手薄になった王都中枢にもアドルたちじゃなければ対処できない戦力を投入、要人たちの殲滅を最低条件に、可能な限りの殺戮を狙うってあたりが定石かな?」
俺なら確実にそうする。
軍を王都外に展開すれば魔大陸からの滅びの光で一網打尽されてしまうが、個の戦力であればまずそれを避けられる。その上で勇者、剣聖、賢者、聖女は個人戦力でも下位魔物の群れを薙ぎ払うなら、児戯にも等しいとばかりにやってのける。
それこそが一番被害を抑えられる方法だと人に確信させ、そこを狙い撃つ。
だからこそ、敢えてその逆を行く。
魔人がパーティーで戦闘したという記録は残っていないが、苦手だと誰が保証してくれるわけでもない。それでもアドルたちが個々での戦闘よりもパーティーとして戦った方が強い以上、その状況に引きずり混むことを狙うしかないのだ。
どっちが本当に正解かなど、戦闘が終わるまでわからない。
加えてこの広い王都全体を護ることなどできるはずがない以上、最低でも要人たちだけは守れる配置を取るしかない。最悪の場合でも全く犠牲を出さないで済む策を練れるほど、手持ちの戦力は潤沢ではないのだ。となればつまるところ、見捨てても致命傷にはならないのはなにかを見極めることが勝ち筋になるのだ。
「それは大結界を抜けてくるということですか?」
うん、さすがにスフィアもそこには反応するよな。
城塞都市が『魔物大海嘯』に晒されるのは、聖教会が展開している『大結界』があるからこそだ。強大な力を持った魔獣や魔人、もちろん魔王でも破れず、抜けられない奇跡に守られているからこそ、その荒い目を抜けられる下位魔物の群れ、つまりは数の力によって擦り潰そうとするのだから。
『聖教会』がどの国家においても圧倒的な影響力を持ち、市井の民たちから本気で崇められているのは、その『大結界』の奇跡を多くの神官たちによって展開できているからなのだ。
それを疑問視、というか正面から否定しているとしか聞こえない俺の言葉は、取りようによっては聖教会の否定にも聞こえる。確かに言い方に気を付ける必要はあるが、この状況下ではそんなことに忖度している場合でもない。
「俺はこういう時の為に、魔族側が伏せ札を有していると想定する」
「まあクナドならそうだろうね」
さっきと同じように、そんな伏せ札など無ければ無いでいいのだ。
その時は俺の慎重論が怯懦だと嗤われるだけで、楽観論で要らん犠牲を出すよりはずっといい。
これもこっちが攻める立場であればまた変わってくるのだが、守る立場であれば慎重、というよりも絶対に守らねばならないものをはっきりさせ、そのためにはあらゆる犠牲を払ってもよしとする覚悟が重要だと俺は思っている。
今のところはまだ、聖教会に睨まれる程度で済むのであれば安いものである。
アドルは俺の思考パターンを熟知しているので苦笑い。
スフィアも「なるほど」などと頷いているので、聖教会の矜持云々ではなく純粋な疑問だったのだろう。確かに我が身に降ろす神様すら「ナニモノカ」扱いする聖女様なのだ、表面上はともかく、本心では聖教会の面子などあまり気にしてはいないのかもしれない。
「俺はその魔族が有している伏せ札を、超長距離転移魔法とかなり高精度の魔力探知の2枚だと考えている。」
「どうやら本気で言っているようだな」
カインがさすがにげんなりした表情を浮かべている。
魔力探知は強い騎士や冒険者がピンポイントで魔人に襲撃されたという実例があるのでまだしも受け入れやすいのだろうが、自身が短距離転移魔法を使えるだけに超長距離転移魔法のとんでもなさがわかるのだろう。
「魔族が超長距離転移魔法と魔力探知を使えない方がおかしいんだ。『魔大陸』から大陸全土に投下される巨大魔石や『滅びの光』の仕組みもそれらを有しているならすべて説明できる。自由自在にとはいかないとは思うけど、ここぞという時には使えていなければそっちのほうがおかしい」
そうなのだ。
確かに『魔大陸』は天空に浮かぶ大地というまさに理外の存在だが、魔族が思うがままにその位置を変えられるという訳ではない。少なくともこの百年の観測では、大陸上空を一定のルートでゆっくりと移動していることが確認されている。
その観測結果を前提に、アドルたちは約5年後にヴァレリア帝国帝都ルーヴェンブルグにある『魔導塔』の先端に接続される『魔大陸』へ乗り込んで、魔王を斃さんとしているのだ。
その5年の間に大陸各地の魔物支配領域や迷宮を攻略し、あらゆる国を魔族の脅威から救うとともに自らを強化するという、なかなかに場当たり的と言わざるを得ない杜撰な計画である。
この3年間でアドルたち勇者パーティーのとんでもなさを目の当たりにしていなければ、あまりにも無責任としか思えない『魔王暗殺計画』とでもいうべき無茶に、百曼陀羅文句を言っていただろうと思う。
とにかくその魔大陸から投下される巨大魔石によって、魔物支配領域や迷宮は創り出される。だがその創り出される位置は、魔大陸の飛行ルートとまるで一致していない。なんの脈絡もなく、ある日突然城塞都市の直近に創り出されたこともある。
そのでたらめさに加えて、大陸中のどこであろうと一定数以上――千を超える人間が集まればそこへピンポイントで『滅びの光』が炸裂するのだ。
以上のことから考えれば、魔大陸は巨大魔石や『滅びの光』をどこであっても好きな位置に落とせる――超長距離転移魔法を有していなければおかしいという結論になる。
さすがに連射は無理だと信じたいし、100年かけても人を滅ぼせていないことからもそれはまず間違いないとは思うが、一時的にであれば可能と見做しておいた方がいい。ここ数年、新たな魔物支配領域や迷宮が生まれず、『滅びの光』が落とされた場所もないことが、よりその可能性を高めているとみてもいいだろう。
千年前に魔王を討った勇者の二代目を排除するために、魔族側もこの数年ぬかりなく準備を進めていたとしてもなんの不思議もないのだ。
「……確かに、そうですね」
真剣な表情でクリスティアナ王女殿下が頷いている。
他国も含めた危険地帯の増減情報を俺たちに提供してくれていた王族の1人であるからこそ、俺の言っていることが実感できるのだろう。
そして俺の予想を前提とするのであれば、聖教会が誇る最大の奇跡である『大結界』が意味を成さないことはすでに確定している。カインが短距離転移魔法の再構築に成功した直後、聖教会、王家、冒険者ギルド立ち合いのもと、王都アーヴェインの『大結界』をすり抜けられることを実証してみせたからだ。
あの時の聖教会と魔導塔における、偉い人たちの対照的な表情は見ものだった。
仲が良くないとは耳にしていたが、カインとスフィアがあまりにも凪な感じだったので相互不干渉みたいな感じだと思っていたのだ。
だけど実際はもはや怨嗟の域にあった。
『初陣』⑤
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