第057話 『初陣』③
「大変申し訳ないのですが、卒業式を一時中断します。いま王立軍より『魔物大海嘯』の発生が報告されました。現在王立軍と冒険者ギルドが総力を挙げて迎撃準備に入っています。現時刻を以てアルメリア中央王国は国家非常事態宣言を発令、魔物迎撃態勢へ移行しました。皆さんにはこのまま講堂での待機を命じます」
学院長が極力落ち着いた声でそう宣言すると同時、卒業生も在校生も関係なく全員が一瞬だけざわめいた。
だがそこはさすが王立学院生、緊急時には準軍属扱いとされるだけあって、学院長の「国家非常事態宣言」及び「命じます」の二言で私語を慎み、誰もが静かに自分の席に座している。直前に卒業証書を受け取った女子も素早く自分の席に戻って着席した。
……しかしこのタイミングで『魔物大海嘯』の発生か。
魔物や魔獣と違い、魔王やその配下である魔人たちは人と同等、あるいはそれ以上の知恵を有している。言語による表面的な意思疎通が可能なことは過去に何度も確認されているし、だからこそ戦略、戦術も理解する魔王軍は厄介なのだ。
魔王軍は勇者の認定とその育成として王立学院に入学していたこと、剣聖、賢者、聖女も同様だという情報程度は確実につかんでいたはずだ。とはいえさすがに王都の結界内に内通者がいるとは考え難いし、その実力を正確に把握できているとは思いたくない。
それらを前提として、勇者の実力を測り、可能であればそのまま勇者、剣聖、賢者、聖女を『勇者の国』と呼ばれているアルメリア中央王国ごと始末するというのが、今回の魔王軍の目的だと仮定する。
となれば『魔物大海嘯』は毒餌だと考えたほうがいい。
発生すれば王都級の城塞都市にも甚大な被害を与えるとはいえ、ほとんどの都市が今なお通常戦力のみで陥落を免れているのが『魔物大海嘯』だ。当然今までで最大の規模にはしているのだろうが、それで魔王討伐の旅へ出立する勇者パーティーの実力を測れるとも、ましてや殺せるとも思っているはずがない。
その程度だと思っているのなら、そもそも仕掛けてはこないだろう。
卒業式と重なったのは偶々、ただの偶然という可能性も否定できないが、いくらなんでもそこまで楽観的にはなれない。
準軍属扱いになるとはいえ、『魔物大海嘯』を王立学院生たちの初陣にあてるとは考えられないので、このままここで待機となる可能性が高い。だが勇者アドル、剣聖王女クリスティアナ、賢者カイン、聖女スフィアという突出した戦力を遊ばせておくとも考えられず、ちょうどいい初陣として実戦に投入しようとすることもまず間違いないだろう。
「アドル!」
そこまで思考を進めた俺は、不躾にも勇者様を呼びつけた。
「なんだい?」
なんの疑問も差し挟まず、すぐに俺のところへアドルがやってくる。
当然、アドルをリーダーとするクリスティアナ王女殿下、カイン、スフィアも同じように集合してくれた。
一人一人に声をかけなくていいのは地味に助かる。
俺が勇者パーティーを呼びつけたことに一部の来賓たちは驚いているようだが、流石に付き合いの長い同期や後輩たち、先生方や上層部の方々は慣れたモノである。
「このままだとアドルたちに迎撃命令が下されると思うので、それを止められますかクリスティアナ王女殿下? あと王陛下をはじめとした要人たちをこの場に留めてもらえれば助かります」
俺が仮定したとおりだった場合、勇者パーティーを分散させること、また現時点の最大戦力である勇者パーティーと要人たちを分断させることは悪手にしかならない。来賓として参加していない要人たちも、可及的速やかにここへ集めて欲しい。
勇者たちをそれぞれ軍の命令系統に組み込むのではなく、アドルをリーダーとするパーティーとして自由に動けるようにすること、またその目の届く範囲に死なれては困る要人たちを集中させておくことは最低条件だ。
アドルたちが守り切れないようなら殺される順番が変わるだけだし、守りながら戦わねばならないデメリットよりも、手の届かないところで別戦力に始末される可能性を潰せるメリットの方が大きい。
その意見を通すのには、剣聖かつ第一王女でもあるクリスティアナ王女殿下にお願いするのが一番通りがいいだろう。まあ通らなければ無視するだけなのだが、立てなくていい波風をこちらから立てる必要もない。
「できると思います。ですが……」
「理由は聞かせてもらえるのだろうな?」
クリスティアナ王女殿下とカインが疑問を持つのは当然だろう。
一方で落ち着いているアドルは俺と実戦に何度も出ているから俺の思考も追えるのだろうが、スフィアがにこにこしているだけなのはどうなんだ?
「ああ。『魔物大海嘯』は罠だと考えていい。魔王軍の目的はまず間違いなく勇者、剣聖、賢者、聖女――勇者パーティーの戦力把握、可能であればその無力化だ。同時に最低でも『勇者の国』であるアルメリア中央王国に壊滅的な被害を与え、人々の楽観論を粉砕すること」
とにかく掻い摘んで俺の考えを共有する。
黙って従えというのはあまり好きではないし、俺の思考をベースにより良い案を出してくれるのが理想だ。切羽詰まっている時はその限りではないが、今回の場合はまだ時間的余裕があるのでなおのことである。
特に賢者様には、今後勇者パーティーの頭脳を担ってもらいたいしな。
魔族が――魔人に限らす、本能に従っているだけのように見える魔物や魔獣であっても――わざと人に絶望感を与えるように振舞うことが、俺は昔から気になっていた。無力化した相手をすぐ殺すことなく、戦闘中にもかかわらずあえて嬲るような真似をするのだ。
魔族は人を憎んでいるからといわれればそれまでなのだが、相手の行動を予測する要素に組み込めるほどとなると、もっと実利的な理由があるような気もするのだ。
それこそ人をより絶望させることによって、自分たちが有利になるような。
「なるほど。となればまずは僕ら4人を分断させると同時に、国家の要人たちからも引き離すことが『魔物大海嘯』の最初の目的になるね」
俺の予想を聞いて、アドルが即座に具体的に魔族がなにを狙っていると俺が予想しているのかを言い当ててくれた。
「そゆこと。勇者パーティーはパーティーゆえの相乗効果があってこそ魔王すら打ち倒せる。今の段階ではまだ装備拡充とか成長の余地を残しているとはいえ、その基本は変わらない」
「だけど『魔物大海嘯』程度であれば、僕らを固めているよりも効率的に配置した方がいいと普通は判断するよね。そうすると、例えば王都の四方を僕ら一人一人がそれぞれ護る配置になったところで――」
アドルが続けてくれた通り、まずはその優位点を自ら放棄させるのが相手の狙いだと見做す。
魔族はそこまで考えていないと思うよ? が正解だったら別にそれでもいいのだ。
だが実戦では常に最悪を考えて行動した方がいい。これは行き過ぎると諦観に繋がりかねないのだが、そこは警戒するだけ警戒しても無理だった場合、諦めて死ぬしかないと腹を括るしかない。
『初陣』④
12/24 8:00台に投稿予定です。
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