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【毎日更新】 勇者たちの功罪 【ハッピーエンド】  作者: Sin Guilty
第六章

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第056話 『初陣』②

「ではこれより卒業証書授与に移ります――卒業生総代、聖女スフィア様」


 式次第進行役を務める卒業生(3年生)の学年主任、カレルレン先生の声がスフィアの名を呼ぶ。


 聖教会に所属する聖女や聖女候補たちには苗字みょうじはなく、洗礼名だけなのでちょっと変な感じだ。アドルも勇者アドル様と呼ばれるのだろうか? 予行演習リハーサルでは全員への卒業証書授与は省略されていたからわからんな。


 ぐう胃が痛い。


 できることなら昨日の早朝の俺に鉄拳制裁をくらわし、スフィアを舐めてんじゃねえ、あいつはお前の想像の斜め上どころか異次元で全力疾走を決める女だ、だからお前はもっとよく考えて行動しろ、と怒鳴り散らしたい。


 とはいえ時間遡行にかかる寿命は半端ではないので諦めざるを得なかったし、戻ったところで他に有効な手があったのかと問われれば、今もってなお返す言葉もないのでどうしようもない。


 昨日のはあくまでもトリガーを引いたに過ぎず、この3年間で蓄積されていたものは昨日に戻った程度ではどうにもならん。さすがに一年生まで戻ってやりなおすつもりも寿命もないし、やったところで時々の行動のなにが正解で、なにが間違いかだったなどわかるはずもないしな。


 なにより迂闊にもスフィアが俺とつけあった痕を全方位にアピールしたい派だと見抜けていなかったことを除けば、現状は俺としても限りなく理想に近い状況ではあるのだ。正解も知らずにやりなおしても、より悪化する結果しか想像できない。


 それにしても胃が痛い。


 間違いなく「将来の約束を交わしただけです」で通じる状況ではなくなっている。口にした日にはさぞや生暖かい目で見られ、「そういうのはいいから」と平坦な声で言われることになるだろう。


「じゃあなんで見える場所にキスマーク付けたの」とか直球で聞かれたら、その場に崩れ落ちることしかできない。もしも「クナド君が聖女様スフィアに見せつけろって言ったの?」とか言われたら、思わず殴りかかってしまうかもしれない。一番きついのは「クナド君にもついているってことだね? 聖女様がつけた痕が」と問われることだろう。


 死んでも左肩の歯形痕は見せられん。


「はい」


 俺がアホなことを考えているうちに名を呼ばれたスフィアが澄んだ声で答え、美しい所作ですっと立ち上がって俺の方を振り返り、見惚れるほどの笑顔を浮かべている。


 いや俺に向けられているのは素直に嬉しいんだが、頼むから時と場所を選んでくれ。

 立ち上がった瞬間にスフィアのうなじに集中したみんなの視線が、それこそスフィアの視線に誘導されるようにして次は俺に集中するのがぐうキツい。


 名を呼ばれて立ち上がった状態で俺の方を向くな、手を振るな。

 振り返さない俺を見て哀しそうな表情を浮かべるな。


 ……振り返さない限り動きそうになかったので、すべてを諦めて小さく振り返す。


 それで満足して卒業証書を受け取りに歩きだしてくれたが、ホントに昨日からずっと天輪と周囲のキラキラを維持したままである。


 ちなみに昨日カインに聞いた話では、内在魔力インナーに換算すればあれを維持しているだけでも、アドルが常時覚醒状態を維持しなければならないほどの消費量になるらしい。つまりは禁呪級を常時発動しっぱなしに等しいということになる。金髪金眼(発動状態)の自分の姿を気に入っているアドルは喜ぶかもしれないな。


 とにかくスフィアの浮かれっぷりがとんでもない。


 放っておいたらそのうち周囲のキラキラが背中の羽にでも変化して、本格的に天使化しそうで怖い。しかしこれ、逆に思いっきりスフィアが病んだりしたら悪魔化したりもするのかな? ビジュアル面だけでいえば見てみたい気はするが、それこそ今の魔王なんか指先一つでダウンさせそうで怖い方が勝るな。


 カインが真顔で「クナドとそういう行為をすると、ああなるのか?」とか聞きやがったからわりと本気でぶっ飛ばしたが、アドルとクリスティアナ王女殿下まで興味津々だったのはどうなんだって話だ。


 俺は奇跡に特化されたアドルの固有能力なんかは持っとらん。


 ただクリスティアナ王女殿下とカインが言うには、スフィアがそんなとんでもない状況になっているからこそ、俺もスフィアも御咎おとがめなし、というか誰も手を出せなくなっているとのことだ。


 2人に言わせれば、もはや俺とスフィアがどういう関係であれ、今のスフィアがスーパー聖女状態になっている以上はとがめたてのしようがないらしい。神様がより巨大な力をスフィアに与えるのであれば、所詮は人間の組織に過ぎない教皇庁が定めた禁忌など、吹けば飛ぶようなものに過ぎないというのは確かに理解できる。


 信じる神の意志を否定して、信仰が立ち行くはずなどないということだ。


 この後呼び出されて「わしらの聖女様になんてことをしてくれてんだ!」というお叱りなら、いやスフィアは変わんないですよね? なんなら強くなっていますよね? で逃れようと思っていたのだが、「もっとやりなさい」とか真顔で言われたらどうしよう。


 スフィアの攻勢だけでも我がジェリコの壁は崩壊寸前なのに、聖教会ぐるみとなったらもはや手の打ちようがない。昨日今日の暴走を見る限り、スフィアは喜んでその指示に従いそうだしなあ。

 

 こうなったらひたすら無となって壮行式典をこなし、勇者パーティーが魔王討伐の旅に出発するまでじっとやり過ごすしかないなこれは。その後は誰になにを聞かれても「聖女様に聞いてください。私が勝手なことを言うわけにはいきません」で乗り切ろう。


 そうしよう。


 そんな情けないことを考えている間に、スフィアが総代として卒業証書を受け取り、後は名簿順に一人一人に卒業証書を渡す段階に移行している。俺の順番はもう少し先だ。

 みんなも自分自身が壇上に上がって卒業証書を受け取らなければならないためそわそわしており、しばらくはなんとか一息つける状況になってくれた。


 基本的に真面目なスフィアは、同期たちが名を呼ばれて緊張しながら自分の卒業証書を受け取るたびにきちんと拍手しており、俺の方に気を取られるなどという不作法はしないのだ。その辺はきちんと聖女らしく、至極まっとうなんだけどなあ……


 だが粛々と同期たちの名前が呼ばれてゆく中、血相を変えた王立騎士団の騎士たち数人が、来賓席の王陛下や大臣たちのところへやってきてなにやら報告している。それを受けた王陛下以下、来賓たちが俄かに席を立って講堂外へと消えると、教師たちも急にバタバタし始めた。


 ――なんだ?


 教師のうちの1人が壇上の学院長に耳打ちすると同時、その表情が愕然としたものに変わった。


『初陣』③

12/23 18:00台に投稿予定です。


新作の投稿を開始しました。

2月上旬まで毎日投稿予定です。


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