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【毎日更新】 勇者たちの功罪 【ハッピーエンド】  作者: Sin Guilty
第六章

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第055話 『初陣』①

 遡った時は最後の場面へと至る。


 アルメリア暦1992年、春待月(初春)15の日。

 クナドたちの王立学院卒業式当日。

 

 クナドとスフィアが王立学院生活の最後に、盛大にやらかした日の翌日。


 卒業生入場、会式の言葉、国歌斉唱と式次第はつつがなく進み、例に漏れず無駄に長い学院長の式辞から、無駄に多い来賓たちの祝辞がやっと終わったタイミング。ただ今年度に限って言えばこの『卒業式』は前座に過ぎず、続けて開かれる予定になっている勇者パーティーに対する『壮行式典』がメインなため、これでもずいぶんとコンパクトに収まっているのだ。


 『壮行式典』は王家主催で国王や上位貴族たちも出席するため、学院長や卒業式の来賓程度が長々と話ことなどできるはずもない。また勇者たちの同期、後輩ということで全学院生が参加することも許されているため、当事者である3年生たちですら自分たちの卒業式を前座だと認識している。


 そんなどこか落ち着かない空気の中、本日二日目となった針のむしろにクナドは座らされ続けていた。


 卒業生や在校生はもちろん、教師陣や国王を含めた来賓に至るまでその興味は先日の朝から駆け巡った聖女様スフィア醜聞スキャンダルに集中しており、卒業式どころか壮行式典ですらかすんでしまっているからである。


 それには壮行式典はまだしも、王立学院生の多くが卒業してもそのまま王都に留まるため、卒業式にお別れの空気が薄いことにも原因があるだろう。そのせいで王立学院の卒業式は切なさに欠け、毎年いまひとつ盛り上がりに欠けているので今年だけが例外だというわけではない。


 ただそんな状況にもかかわらず、スフィアはもちろんクナドですらまだ今の時点で教師陣からも、本来であれば教師陣などすっ飛ばしてクナドを尋問じんもん、いや異端いたん審問しんもんにかけかねない聖教会からも一切の接触を受けていない。


 だからこそ、周囲も卒業式や壮行会どころではなくなるほどに興味を募らせていると言えるだろう。公式な発表が何もないままなのだから、それも無理はない。


 教師陣はともかく、聖教会まで2人への尋問を躊躇ためらっているのには当然理由わけがある。


 その理由とは、卒業生代表として答辞を行うため最前列に座しているスフィアの頭上に、相当な規模の奇跡を行使する際にしか発現しないはずの『天輪ハイロゥ』が昨日から浮かびっぱなしになっているからだ。

 それだけにとどまらずスフィアの周囲の空気は昨日から常に淡く発光しており、別に聖教会の関係者ならずとも、そこに奇跡の力が満ちていることなど一目で理解できてしまう。


 つまりスフィアが聖女としての力を失ってなどいないことは、誰の目から見ても明白なのである。誰がどのように非難しようとも、人に奇跡を与えたもう神こそが、スフィアをいまなお聖女だと認めているということに他ならない。


 この状況だけならば、周囲の大人たちは昨日の出来事を「無かったこと」として扱っていたかもしれない。同期や後輩としての気安さから学院生たちが話題にあげる、いや豪の者であれば直接クナドやスフィアに直撃することを冗談では済まないレベルで牽制し、触れることまかりならず、で押し通した可能性が最も高かっただろう。


 神の恩寵を受けている者を否定してしまっては、聖教会の根幹が崩れてしまうからだ。


 臭いものには蓋をせよではないが、スフィアが聖女の奇跡を行使できるままなのであれば、大騒ぎして本人からも多くの信者からも不興を被ることは避けたい。すでにスフィアはその域で聖教会教皇庁から警戒されるほどの力を有しているのである。


 加えて卒業生の答辞とは3年間を通して最も優秀だと認められた学院生が担うことになっており、聖女が勇者、剣聖王女、賢者を抑えて最も優秀な生徒だったということでもある。アドルは論外、クリスティアナとカインは一つや二つは苦手な科目がある中で、スフィアだけが芸術や音楽、家庭科のたぐいも含めて完璧にこなした結果なのだ。


 その上今日の壮行式典が終われば勇者パーティーは魔王討伐の旅に出てしまう。触れずに済むのであれば聖教会も王立学院も、スフィアは周囲からの期待にすべて応えてみせた理想的な聖女でした、ということにしておきたかっただろう。

 

 だがスフィアの暴走がその逃げを許さなかった。


 アルメリア中央王国では、未婚の女性が髪を結いあげることはまずありえない。

 もちろん法律や教義として禁止されているという訳ではない。ないがそれは成熟した女性を示すとされており、それが変じて既婚者がする髪型だと見做されるようになっているからだ。


 つまりいくら卒業式とはいえ未婚の女性がそんな背伸びをした髪型をしようものなら、本来は嘲笑の的になるだけなのだ。


 それを今日、スフィアは堂々と髪を結いあげてうなじを晒し、澄ました顔で最前列の席に座している。つまりクナドがつけたしるしをこれ見よがしに衆目に晒しているのだ。まあその誰が見ても一目でわかる誰かに強く吸われた痕たるや、スフィアの白磁の如き柔肌には生々しく目立つことこの上ない。


 もちろんクナドは頭を抱えた。


 クナドが能天気に、あるいは純真なままの男の子のように「2人だけの秘密」などと浮ついていた所有印の付けあい。


 それはあろうことか、スフィアにしてみれば匂わせどころか交際宣言、いやそれすらも超えて「私はクナド様のものになりました!」と世界中に自慢するべき対象だったらしい。


 卒業式であえて髪を結いあげたのはもちろん大事なクナドじるしをみんなに見せびらかす目的もあったが、スフィアの心構え的に自分はもう既婚者のようなものです、という覚悟も込められているのだ。


 とんでもなく重い。


 それを目の当たりにした同期や後輩たちはさすがに茶化すことなどできなくなった一方、教師陣や聖教会としてはここまでされた以上は、さすがに「見なかったこと」にはできなくなっている。


 このままでは間違いなく卒業式と壮行式典が終了した後、クナドとスフィアはセットで呼び出しを食らうことになるはずだ。その場では教師陣などおまけのようなもので、聖教会の教皇のみならず王陛下、魔導塔の現トップ、汎人類連盟の王国駐在官も揃っての詰問になるだろう。


 おそらくは先方もそんなことはしたくないだろうが、ここまでされては組織としての面子もあるので、嫌でもやらざるを得ないといったところである。


 みんなと横並びの自分の席で、再びクナドは頭を抱えた。


 それを勇者アドル、剣聖王女クリスティアナ、賢者カインが気づかわしそうな目でチラチラ見ている一方、周囲の同期たちや後列に並ぶ後輩たちは、意識してクナドの方を見ないように努めている。

 同期や後輩たちにしてみれば、後で「君はなにか知っていたのかね?」などと王家、聖教会、魔導塔の上層部から尋問されるような事態だけは絶対に避けたいのだ。


 そんな中、たまにスフィアがクナドの方を振り返り、嬉しそうにひらひらと手を振るときている。その都度、諦めたようにクナドがそれにへろへろと振り返すと、スフィアの笑顔とふわりと広がる纏ったキラキラとともに、無音のざわめきが会場中を走る有様となっている。


 これでは卒業式の序盤で、はやくもクナドが疲れ果てていても誰も責めることなどできはしないだろう。


『初陣』②

12/23 8:00台に投稿予定です。


新作の投稿を開始しました。

2月上旬まで毎日投稿予定です。


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