第044話 『聖女スフィア』①
遡った時は再び今に近づきつつある。
アルメリア暦1992年、春待月14の日。
クナドたちの王立学院卒業式を翌日に控えた早朝。
つまり勇者アドル、剣聖王女クリスティアナ、賢者カイン、聖女スフィアの4人で構成された、所謂『勇者パーティー』が魔王討伐の旅に出る前日。それぞれの肩書からは逃れられぬとは言え、それでも彼らが学院生でもいられた日々の終焉。
なお紆余曲折はあったものの、最終的にクナドは勇者パーティーには加わらないことがこの時点で正式に決定している。
だがすでにその能力は一部を巧妙に隠蔽された上で、王家、魔導塔、聖教会の上層部には共有されている。
もちろんその情報提供者となったのは、王家へはクリスティアナ、魔導塔へはカイン、聖教会へはスフィアである。彼らはクナドを「けして無視できない在野の戦力」として、勇者アドルがあえて隠蔽していたことも匂わせつつ、正式に報告を上げたのだ。
その結果、上層部たちはクナドの能力を「自身の寿命を対価に、一度でも目にしたことのある技、魔法を制限なく再現できる」ものだと信じさせられていた。本来のクナドの能力とは程遠いが、それでも勇者パーティーに選ばれてもおかしくないほどの力がその報告を彼らに信じさせた。
だからこそ勇者たちがクナドをパーティーに加えようとしない理由も、一方で幼少時から一流冒険者のような活躍をできていたことも納得できたのだ。
技や魔法、奇跡を日常にしている者たちにとって、命を対価にして何かを成す能力というのは受け入れやすかったのだろう。唯一能力や血統能力、神遺物級武器に宿る固定能力などで、規格外の能力の存在を彼らが知っていたことも大きい。
ただしそれらの情報は、汎人類連盟には開示されていない。
それはクナドの稀有な能力をアルメリア中央王国が独占せんとしており、それを世界的組織である魔導塔と聖教会が承認しているように見える。いや見えるのではなく実際にそうであり、万が一このことが露見したとしても、アルメリア王家も魔導塔も聖教会も、クナドの処遇に関する主導権を手放すつもりなどありはしない。
それはクナドを、自分たちの都合のいいように使い潰すためではない。
その真逆、クナドの意志によってのみその力が行使される状況を堅守する為だ。
そうしなければ、勇者パーティーの全員が人類の敵に回りかねないからである。
そんな俄かには信じ難い事実など、魔王討伐までは一枚岩のふりをする必要がある汎人類連盟で共有できるはずもないし、すべきでもない。
当然、御しきれないほどの力を有するに至った勇者たちに対する人質としての意味も大いにあった。また自分たちがまだ勇者たちを飼い慣らせていると信じたい者たちは、クナドの存在を隠蔽せずに勇者たちが自ら報告してきたことによって、適度に油断させられてもいる。
支配階級に在る者たちにはその理由までは理解できないが、勇者アドル、剣聖王女クリスティアナ、賢者カイン、聖女スフィアが揃ってクナドに懐いていることは間違いない。王立学院の教師、学院生にも潜り込ませていた諜報員からの報告でもそれは確かだ。
それらの状況を前提に、勇者たちに対する『首輪』としてのクナドの価値は跳ね上がったのである。
今の時点ではまだ勇者たちと進んで敵対したいわけではないが、した際を想定して常に有効な手札を揃えておく。それは支配階級に在る者たちにとって当然のことでしかないのだ。その手札とやらが魔王はともかく、人の戦力程度が相手であれば安全だと勇者たちが判断できるほど強いことを知らないので無理もない。
そのクナドは今、自身をそうなるように積極的に動いていた張本人である聖女スフィアの私室で、らしくもなく狼狽していた。
青年期の終わりを前にしたスフィアに、最後の大勝負に出られたからである。
◇◆◇◆◇
「いいからまず服を着てくれ」
豪奢なベッドの上に今も全裸で佇んでいるはずのスフィアに対して、俺は意識して平坦な声を出してそう告げる。いや懇願する。
一瞬で目を逸らして振り返ったので、今俺の視界にはついさっき自分が暢気に開けたドアとその周辺しか映っていない。だが服を身に付ける衣擦れの音がしているわけでもないので、スフィアが全裸のままであるのは間違いない。
早朝だからといって完全に油断していた。
普通はこういう仕掛けをしてくるなら深夜の呼び出しとかだろうが。
おかげで一瞬とはいえ、完璧に見てしまった。
エロいというよりも朝日を浴びた裸体は宗教画のようだったとかなんとかそんな言い訳をかましたところで見てしまった事実は覆らない。ああ、動揺しているな俺は。
だがこの動揺の大部分は驚愕が占めていると思う。
とんでもない美女の素っ裸を見ておきながら失礼な物言いだとは思うが、ドアを開けて欠伸をしながら「なんだよ朝っぱらから」と聞いたら、全裸のスフィアがベッドの上に座っているのが目に飛び込んできたら、そりゃ驚くだろう。
ああびっくりした。
エロと驚愕は、エロと笑いと同じくらい相性が悪いと思うのだがどうか。
こんな状況で即座に襲い掛かれる奴は、情緒が取っ散らかっているとしか思えない。
しかしびっくりして即座に扉を閉め、その上鍵までかけてしまったからには不埒者(俺)の言うことなど誰も聞いてはくれないだろう。詰んだかな、これは。
「嫌です。私はもう大人ですから」
即答である。
くそ。
俺が動揺しているのは見抜かれているな、声に喜色が滲んでやがる。
というか動じないにも程がありませんかね?
いやまあ確かに、言われて素直に着るくらいなら初めから脱いでいないというのは道理かもしれん。だが覚悟のほどは理解するが、大人だからという理由も、そもそもスフィアが大人であるという主張にも俄かには同意いたしかねる。
異議ありである。
「大人の女性は、正式にお付き合いしてもいない男性相手に裸を見せたりはしない」
大体今スフィアがやっていることは「大人の女性」などではなく「痴女」と呼ばれるべき所業である。古いと言われようが誰になんと言われようが、あくまで個人的な性的嗜好として「恥じらい」は欠かせないと思っている俺にとって、これは悪手でしかないと主張させてもらう所存である。
『聖女スフィア』②
12/17 18:00台に投稿予定です。
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