第037話 『賢者カイン』④
相克相性五芒星系統5種の禁呪。
光と闇2種の古代魔法。
相克相性五芒星系統禁呪5種と光もしくは闇の古代魔法による混成古代魔法の2種。
光と闇の古代魔法による混成古代魔法の1種。
それらすべてを俺の能力で再現しても、本気でまだ余裕は十分にある。
「……それは使えば使う程、クナドの体が老化するという意味ではないよな?」
「そんな回りくどい叙述トリックみたいなこと、俺が思いつけるか⁉」
しかし頭のいい奴が警戒すると、想定する発想範囲がすげえな。
「爺さんになるまで」っていう俺の言い方が、時間の保証ではなく肉体の変化への言及である可能性を警戒するのか。
びっくりするわ。
だけど確かに俺が言っていることを、一方的に利益を受ける側だと思っているカインがそう簡単には信じられないというのもわかる。なぜかカインは、俺が必要だと判断したら寿命を使い切っても悔いはない奴みたいに勘違いしているみたいだしな。
それにカインは俺に寿命を使わせるのが嫌だからこそこの一年半、本気で頑張ってきてくれたのもわかっている。でも悔しそうにしているのは、もはやそんなことを言っている場合ではないところまで来ていることもわかっているからだろ?
だいたい俺に言わせれば、俺の寿命を年単位ですっ飛ばすほどの大魔法を一度見せさえすれば、アドルとの相乗効果でほぼ無制限に撃てるようになるだろうカインがいてくれてめちゃくちゃ助かっているんだけどな。
「じゃあ言い換えようか。俺のたった十年でアドルとクリスティアナ殿下とスフィアとカイン(おまえ)に魔王討伐を押し付けられるんなら、正直安いもんだと俺は思ってる」
嘘じゃない。
勇者、剣聖、聖女、そして賢者がここまで凄くなかったら、俺は自分が勇者パーティーに加わることを諦めるわけにはいかなかった。俺の力のことを知った4人全員が「私を信じてくれ」「王都を護ってください」「私が全部使えるようになるよ」「ステイ」と言ってくれたのは嬉しかったが、「これは俺がいてもしょうがないな」と思わせてくれなければなんとしてでもついていくつもりだったのだ。
だけど俺の10年相当の寿命と引き換えにカインがすべての魔法を駆使できる真の賢者となってくれるなら、俺は素直にお留守番して王都を護ることに集中すると約束できる。
「……ひどく狡い言い方だな」
苦虫を嚙み潰したような表情を浮かべても様になるんだから、美形はいいよな。
「俺をいいひとだとでも思ってんのか?」
まあ押し付けるなんて偽悪的な言い方をしてしまったけど、俺がカインたちを信頼していることはちゃんと伝わっているだろ?
まあ伝わっているからこそ、狡い言い方だと言ったんだろうけども。
やっぱり類は友を呼ぶんだよ、どうしたって俺はカインとスフィアには及ばないけどな。
「まあ私程度がクナドに敵うはずがない、か。あのスフィアを振り回わすことなど、クナド以外の誰にもできんだろうしな」
どうやら肚を決めてくれたらしいカインが、悪そうな顔をしてそんなことを言いやがる。
「その上勇者のアドルとは親友、クリスティアナ王女殿下の師匠、賢者と呼ばれている私の教授役なんだから、役者が違うな貴様は」
心外なことを言うな。
大変遺憾の意を表明するとともに撤回を要求する。
俺も同じくらい振り回されていると思うし、あの腹黒に関しては勝手に暴走しているだけな部分がほとんどだと思うんだが……まあ俺相手にだけああなると言われれば、返す言葉もございません。
だけど俺が言いたかった「いいひとじゃない」ってのはそっち方面じゃねえ!
「少なくともスフィアについては言いたいことが山ほどあるんだがなあ、俺にも」
「信者に聞かれたら刺されるぞ?」
具体的な反論を諦めてため息をついたら、笑顔で物騒なことを言われた。
「そこはカインたちが守ってくれよ」
まあ確かにスフィアには狂信的な信者が男女問わず結構な数がいるし、めったなことを口にしたらほんとに冗談では済まない可能性は否定できない。
情けないがそこは勇者様、剣聖王女様、賢者様のお力にお縋りすがりするしかない。
聖女様ご本人は火に油を注ぐだけなので頼りにならない。
「お願いされたらもう、仕方がないな。では守れるようになるためにも……申し訳ないがクナドの寿命を使わせてもらうことにしようか」
そういってカインは破顔一笑、立ち上がって背筋を伸ばした。
めんどうくせえんだよ、お前の言い回しは。様になっているあたりが余計にはたらつ。
しかしやっぱりカインはくそ度胸だと思う。
俺ならたった一度再現される禁呪や古代魔法を見ただけで完璧に再構築するなんていくら魔眼を持っているとはいえ、とてもじゃないけど重圧に耐えられそうにない。しかもその一発一発に、例えばカインの寿命が年単位で使われているとなったらもう、涙目で逃げ出す自信しかない。
それをこんな顔してやれるのだから、心の底から尊敬するわ。
「遠慮すんな。さっきも言ったように俺の為でもあるんだから」
せめてできるだけ気楽そうに請け負うことで、カインが俺に見せないようにしてくれている重圧を、ほんの少しだけでも減らせていればいいのだけれど。
『賢者カイン』③
12/14 8:00台に投稿予定です。
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