第020話 『勇者アドル』⑤
『命懸け』という言葉の意味を、子供ながらに理解せざるを得なかったからだ。
足手纏いである事を理解してからは、できる限り邪魔にならないように立ち回ることを徹底しながら、それでもクナドにくっついて魔物支配領域や迷宮に行くことは止めなかった。そうした方が魔物と戦える能力に目覚める可能性が高いと、クナドが言ってくれていたからそれに甘えていたのだ。
おかげで僕は後に勇者に選ばれるほどの固有能力と、それを基とした魔物と戦える能力に覚醒することができた。
素人目に見てもとんでもない速度で強くなっていくクナドとともに、クレアを護りつつ魔物を狩れるようになるのにそれほど時間はかからなかった。
そしてクレアも僕と同じだった。
なんとしてでもクナドの力になりたいと思っていたのはわかっていたので、大人しく孤児院で待っていろとはどうしても言えなかったのだ。どうにも僕たち兄妹は認めた人だからこそ、一方的に施される関係のままではいたくないと思ってしまう性らしい。
そのために加えて迷惑をかけたのだから、僕もクレアも、もう一生クナドには頭が上がらないと思っている。言えば嫌な顔をするのはわかっているので、僕もクレアも胸の内にその想いは秘めているのだが。
いや、クレアはちょっと違う形で駄々洩れになっているとも言えるか。
まあもしも僕も女の子だったら間違いなくクレアのようになっていただろうなと思うので、あまり強くは言えないのだけれど。
姉妹じゃなくてよかったよ。
とにかくクナドはお人好しが過ぎる。
自分が能力に目覚めたからといって6歳からもぐりで魔物を狩り、孤児院を支えようなんて狂気の沙汰でしかない。その上に能力に目覚めるかどうかもわからないクソガキを、2人も庇いながら魔物と戦うというのはもはや意味が分からない。
同時に容赦なくもある。
当時僕らの孤児院を食い物にしていた大人たちを皆殺しにして、敢えて生かしておいた奴に名目上の代表をやらせるなんて、とてもではないけれど子供の発想と実行力ではない。
それは能力のあるなしよりも、そうできる覚悟がガンギマリ過ぎだと思うのだ。
悪人だからといって、能力的にそれが可能だからといって、人を殺すという行為はとんでもないストレスがあることを、僕もクレアももう知っている。それを一桁の年齢で出来ていたのは、どこか頭のネジが外れていなければ無理だと思うのだ。
でもクナドがそうしてくれていなければ、今の僕たちはいないことだけははっきりしている。人の心がないだの、思いあがった子供だの、人の命というものは云々だの、したり顔で正論とやらを述べる連中は、誰も僕たちの孤児院を救ってなんかくれなかった。
だから正誤善悪損得一切合切関係なく、僕は必ずクナドの側に立つ。
強い決意だとかそういう大げさなものではなく、ただ当たり前に。
成長して綺麗になったクレアにちょっかいをかけるようになった馬鹿どもには、本気で言って聞かせたものだ。クナドが怒ってくれている間に本気で反省して、二度としないということをわかってもらえるように、お前らの全身全霊を尽くせと。お前らに対してクナドが怒りを見せなくなったら、そこがお前らの「おしまい」になるぞと。
まあそこまで言っても懲りない連中なのであれば、クレア以外の誰かにも同じことをするだろうから、とっと殺しておくべきだというのは僕もクナドに同意するところだ。
幸いにしてその連中は今でも生きている。
わりと頼りになる、孤児院の用心棒として。
実は僕は今でもクナドは人生を何回かやりなおしているんじゃないかと疑っている。
クナド本人にそれを言うたびに「アドルは想像力がすげえな」といって、笑い飛ばされてしまうのだが。
だが僕がそんな突拍子もないことを考えてしまうのは、クナドの能力に起因している。
技も魔法もなんでもござれ、鍛えれば鍛えるほど真綿が水を吸うように戦闘技術を吸収していくクナドは、本人曰くB級冒険者になれるだけの才能を持っているらしい。
だからこそ僕は12歳の時に自分の固有能力が発現した時には大喜びした。
自分が強くなれるのももちろんだが、『絆魔法』によってクレアと、誰よりもクナドをとんでもなく強くすることができると思ったからだ。
だがそれは結論から言えば不可能だった。
なぜならばクナドの能力が自分の寿命を対価にあらゆる望みを実現化するモノであり、内在魔力を使って発動させる技や魔法とは全く違ったものだったからだ。
どちらかといえば、聖教会が司る奇跡に近いと言ったほうがいいだろう。
クナド曰くありふれた技や魔法であれば数秒分しか必要とせず、自分の寿命も把握できているから突然限界を迎える心配はないらしい。寿命の消費という条件を聞いて思うよりもずっとコストパフォーマンスのいい能力なのだと、笑ってそう言っていた。
だがそれもどこまで本当なのかはわからない。
それに僕の固有能力が機能しないのでそんな荒唐無稽な話を信じることもできたが、もしもこの固定能力に目覚めていなければ、いくらクナドの言うことでもそう簡単には信じることができなかっただろうと思う。
絆魔法を繋いだらからこそわかるのだが、本当にクナドは内在魔力を一切使用していない、というよりも多かれ少なかれ人間であれば必ず持っているはずの内在魔力そのものが存在していない。
これで魔導器官と体内に魔石を持っていたら、まるで魔人である。
幸いにも王立学院入学の際に行われる厳正な検査で、クナドからそんな剣呑なものは発見されずに済んでほっとしたことはまだ記憶に新しい。
孤児院出身で7歳の頃から魔物を狩っていたクナドの苛烈さと、その固有能力のとんでもなさを知っている身としては、実は魔人の捨て子でしたと言われても納得してしまいそうで怖かったのだ。
ただそうなると技や魔法以外の身体能力は生来のものなのかと驚くと、いたずらがバレたような顔をしてこう言い放ったのだ。
――さすがにただの子供の体では魔物を狩ることなんかできなかったから、B級冒険者相当の才能になれるように力を使った。A級にしたら寿命半分も持っていかれるから、B級にするしかなかったんだよなあ……その上才能だけだから実際にそうなるためには鍛錬が必要なうえ、覚えた技や魔法を使うのも内在魔力じゃなくて寿命が必要なのには参ったけどな。
と、笑いながら。
次話『勇者アドル』⑥
12/5 18:00台に投稿予定です。
新作の投稿を開始しました。
2月上旬まで毎日投稿予定です。
よろしくお願いいたします。
【恐れ入りますが、下記をどうかお願い致します】
ほんの少しでもこの物語を
・面白かった
・続きが気になる
と思っていただけましたら、ブックマークや評価をぜひともお願い致します。
評価はこのページの下側にある【☆☆☆☆☆】をスマホの方はタップ、PCの方はクリックしていただければ可能です。
何卒よろしくお願いいたします。




