第015話 『5人目のメンバー』⑨
だがクレアもシャルロットも、自分の命の使い方は自分で決めるのは当然だと思っている。それは一度でも自分の意思で、自分の能力で命がけの戦場に立った者であればすとんと肚落ちする考え方なのだ。
だから無理をせず、平和になった後の世界でおじいちゃんになるまで生きられる程度に自重してくれているのであれば、そのクナドの判断を尊重する。
クナドがなんのためにそこまでするのか、してくれるのかについては、心の底から勇者たちが羨ましいとしか思えないのではあるが。
「いつも通りさっさと片付けて、アドルたちに後顧の憂いが無いようにしようか」
だがクナドがもう当然のように、それを自分たちと一緒に遂行しようとしてくれていることが誇らしく、今では勇者たちに対する羨望と天秤を保てるくらいになっている。
先刻クナドがさらっと口にした「クレアとシャルロットと一緒に」の一言で嬉しくなってしまう自分たちは、ちょっとチョロすぎるのではないかと2人でお泊り会を決行し、夜通し話し合ったこともある。
それでも嬉しいと感じてしまうのだから、自分たちももう駄目なのだとの結論に至っている。少なからず自己欺瞞であることは認めつつ、勇者や剣聖、賢者に留まらずあの聖女様を骨抜きにした相手と戦場を共にしているのだ、自分たちがチョロいわけではないと信じたいところなのである。
「あの……本当にクナド兄さまは、アドル兄さまたちと一緒にパーティーを組まれるのですか?」
まだ迎撃準備のために移動を開始するまで時間があるので、クレアは近い未来の予定をクナドに確認してみた。
「俺は無理だと思うんだけど、確かにアドルとスフィアはそう言っているな」
クナドは早朝に自分の担当受付嬢であるレナにそう言った通り、そのつもりでいる。
それは妄想でもなんでもなく、勇者討伐の旅に出るに際して、勇者と聖女それぞれからはっきりそう告げられているからだ。
少なくともその2人は、平和となった後の世界でそうするためにこそ魔王をぶっ倒してくるとまで言い放っていた。
それでも救世の次期国王とその正妃、魔導塔と聖教会の看板が自分と組んで冒険者暮らしというのは、いくらなんでも無茶が過ぎないかと思っているのも本音のところなのだ。
「……となるとクリスティアナ様とカイン様はお2人に従いますね」
「だろうね」
それはクレアの言う通りで、アドルが言うならクリスティアナは、スフィアが言うならカインはそれに従うというのは想像がつく。そして勢いと感情で動きがちな勇者様と聖女様とは違い、剣聖王女様と賢者様は根回しも含めて「そうなるしかない」ようにすべてを掌握しそうでもある。
「きっと聖女様は本気ですわ。クナド様と一緒にいることを阻もうものなら、我が国はおろか聖教会も、汎人類連盟ですら平然と敵に回しますわ。そして完膚なきまでに勝利しますの」
「アドル兄さまたちに協力してくださっているのも、その約束があるからこそですものね」
だがクレアとシャルロットに言わせれば、聖女スフィアが一度そうと決めたら誰にも止めることなどできまいという認識らしい。
なにやら『三位一体』の名が他国にも知れ渡るようになって以降はスフィアから2人に「お手紙」が定期的に届いているらしく、ある意味一番スフィアの人となりを知っているのかもしれない。
「…………」
クナドもまた王立学院時代に「清らかなる聖女様」の素をこれでもかというほど見せつけられているので、シャルロットの言葉に何度も頷きながら補足しているクレアたちの言いようには沈黙を守ることしかできずにいる。
聖女スフィアはやると言ったらやるのである。
魔王討伐もそのために必要だからやっているに過ぎないと知れば、先方も言いたいことの一つや二つはあるだろうなあとクナドですらそう思う。
「そ、それでも私は諦めませんから!」
「もちろん私もです!」
達観した笑みを浮かべているクナドになにを思ったのか、クレアとシャルロットがなにやら改めて宣言している。
それがなにを意味しているかわからないほどクナドは朴念仁ではないつもりだが、この2人も冒険者になるなどと言い出したら、上層部は泡を吹くだろうなあなどと、わりと暢気なことを考えていた。
◇◆◇◆◇
そうしてアルメリア中央王国王都王都アーヴェインが、いつも通りほとんど被害を出さずに9度目となるモンスター・スタンピードを退けたその日。
俄かには信じ難い情報が王都のみならず、大陸中に広がった。
帝都ルーウェンブルグを爆心地にヴァレリア帝国の大部分が突如消失。
それと同時に、帝都上空に位置していた『魔大陸』も地に墜ちた、と。
現時点で生存者は確認できず。
つまり――
勇者パーティーもその全員が死亡したものと思われる。
次話『勇者アドル』①
12/3 7:00台に投稿予定です。
新作の投稿を開始しました。
2月上旬まで毎日投稿予定です。
よろしくお願いいたします。
【恐れ入りますが、下記をどうかお願い致します】
ほんの少しでもこの物語を
・面白かった
・続きが気になる
と思っていただけましたら、ブックマークや評価をぜひともお願い致します。
評価はこのページの下側にある【☆☆☆☆☆】をスマホの方はタップ、PCの方はクリックしていただければ可能です。
何卒よろしくお願いいたします。




