第014話 『5人目のメンバー』⑧
だがおそらくはクレアも今回のモンスター・スタンピードを凌ぎきれば、次までの間に勇者である兄たちが魔王を討伐してくれると確信しているのだろう。そうなればこれ以上、クナドが寿命を削ってまで戦う必要がなくなる。
であればこれまでどれだけクナドが王都防衛に貢献したのかを言いたくなったのだろう。そうでもしておかなければ平気でクレアとシャルロットに手柄を譲って、『三位一体』のリーダーは正体不明のままいなくなってしまいかねない。
クナドが抜きまくっている伝家の宝刀「そんなことになったら寿命が縮むよ」を使われたら、王家も冒険者ギルドも汎人類連盟中枢部も、クナドの要求をあっさり認めてしまうだろう。王家と聖教会としては自分たちで手柄を二分できるのでなおのことである。
加えてクナドを温存しつつ、正体不明のままの『三位一体』のリーダーを秘匿戦力として抱えている《《ふり》》ができるというのは、王家にとっても聖教会にとっても都合がいい。
勇者たちに伍する個人戦力を保有しているという前提は、魔王討伐の世界においてとんでもない優位点になることは間違いないのである。
「魔王討伐をアドルたちに任せっきりの身としては、せめてそれくらいはね」
それにクレアと自分がそういう言い方をすれば必ずクナドはそう答えることを、今ではシャルロットでさえ完全に理解できている。
クナドは誰よりも自分の能力の歪さ、ピーキーさを理解できていると思っている。
賢者カインが復活させた古代魔法や禁呪を一発撃つだけで数日から数週間の寿命を持っていかれてしまう以上、勇者アドルとの連携で事実上、上限なしにその規模の技、魔法を撃てる勇者、剣聖、賢者には遠く及ばないことを自覚しているからだ。
聖女の奇跡に至っては初めから内在魔力量など関係なく、スフィアの気分が乗っていればいくらでも発動できるというのだから、もう比較するのもばかばかしくなるほどの差があるのだと。
なにもそれはクナドだけではなく、その力の仕組みを知っている者のほとんどが同じだ。
だがクナドから格上だとみなされている、当の勇者たちはそうは思っていない。
いや王立学院時代に自分たちを飛躍的に成長させてくれたクナドの能力を自分よりも高く見積もっていることも事実だが、それ以上にその能力を駆使するクナド自身の方を警戒、というか心配しているといった方がいいだろう。
寿命の件さえなければ神の如き、というよりも神そのものといっても過言ではない力を持つクナドを勇者パーティーから外したのは、勇者アドル、剣聖クリスティアナ、賢者カイン、そして聖女スフィアの総意だった。
連れて行こうものならまず間違いなくこのお人好しが仲間を護ることを最優先し、魔王を倒すために平然と寿命を使い切ってしまうことを危惧したからだ。
だからこそクナドは勇者たちの留守を預かる身として自分にできることに骨惜しみはしないと同時に、親友たちがそうなることを「嫌だ」と思ってくれたことに感謝しているからこそ、むやみやたらと寿命を縮めるような無茶もしない。
王都を護ることと、自分こそが魔王討伐という偉業を果たした友人たちを出迎えなければならいということを、かろうじて両立させている。
ただ今までのモンスター・スタンピードの規模が、とんでもない対価を求める規模ではなかっただけだともいえる。そうしなければ守れないと判断した場合、友人たちに内心謝りながら平気で使い切ってしまいそうな危うさを、クレアもシャルロットもクナドに対して常に感じているのだ。
その当時、自分たちがクナドの行動を左右できる立場にいれなかったのは残念なクレアとシャルロットではあるが、放っておけば平然と無茶をするクナドに対して、これ以上ない楔を打ち込んでいってくれたことには素直に感謝している。
それでも2人からみたクナドは今ですら十分に無茶なのだ、それがなければどうなっていたかなど想像もしたくない。
確かに一度のモンスター・スタンピードを薙ぎ払うのに必要とする寿命は数週間程度だとクナドは言っている。また能力のおかげで自分の寿命が見えているらしく、心身ともに寿命に気を使って生活しているから100歳以上生きられるとも豪語している。
だがそれが本当の話かどうかなど、クナド本人にしかわからない。
対価が寿命という話そのものが嘘ならいいが、寿命が見えている話、一度に消費している寿命の量の方が嘘だったとしたら血の気が引くのだ。
「お力を借りている身で言うことではないのは承知しているのですが、本当に無茶だけはなさらないでくださいね?」
だからこそクレアはくどいくらいに無茶だけはしてくれるなと、ことあるごとに言い続けている。たとえクナドにくどいと疎まれようとも、これだけは傍にいる自分が絶対に言い続けなければならないことだと思い定めている。
「しないしない。あいつらに怒られることもできなくなったら、本気で許してくれなさそうだしな。それにスフィアあたりなら平気で生き返らされてから説教されそうだし」
クナドはいつも通り、クレアは心配しすぎだよと言わんばかりに笑い飛ばす。
その表情に無理しているところは感じられず、勇者たち――中でも聖女を「怒ったら怖いんだよ、スフィアは」などといっておどけている所を見れば、本当に大丈夫なのだろうと信じたいクレアなのである。
モンスター・スタンピードを凌いだ直後に、「ごめんな、どうやら限界が来たみたいだ」といって消えていくクナドの夢を何度も見ているクレアにしてみれば、今回こそはそれが現実になってしまうかもと内心では本気で怯えているのだ。
「まあ確かに、聖女様のお力ならそれくらいできそうなことは認めざるを得ないところですけれど……ある程度を王立軍や冒険者ギルドに任せることを、今一度お考えになられては?」
自分もクレアとそう変わらないシャルロットが、現実的な提案をする。
今一度といっている通り、これは今までに何度もクレアやシャルロットからだけではなく、王家や冒険者ギルドからも提案されているものだ。
支配階級にある者たちにとって|ある程度替えの利く戦力《王立軍や冒険者たち》で、絶対に替えの利かない戦力を、できるだけ《《長く使える》》ようにしようとするのは当然ではあるだろう。
「そうすると必ず犠牲者が出るから駄目だ。自分を軽んじるつもりはないけど、ちょっと寿命を削ればそれを防げるなら俺はそうするよ。まあ、クレアとシャルロットと一緒に王都を――あいつらの帰る場所を護れるならいいんだよ」
だがクナドは一度たりともそれを受け入れたことはない。
だからこそ王都はこれまで大きな被害を出さないまま、八度ものモンスター・スタンピードを退けることができたのだ。
確かに誰の命もみな平等だとするのであれば、たった一人の数週間の寿命で数百、数千、下手をすれば万の命を救えるのならばそうすべきというのはわからなくもない。その寿命を削ってくれる本人が言っているのだから誰も文句などいえるはずもない。
だが中長期的に見ればクナドの寿命が尽き、それで一気に王都が攻め滅ぼされてしまうことを想定すれば、犠牲を小出しにして致命傷を避けるという考え方を、簡単に間違っていると断言することもできないだろう。
「いいなぁ、アドル兄さま……」
「それには心の底から同意しますの」
次話『五人目の仲間』⑨
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