第012話 『5人目のメンバー』⑥
「なんか今日は魔物が多いな?」
早朝の王都巡回任務を遂行中のクナドが、誰に言うでもなく独り言ちている。
たった今、自分以外の冒険者たちを後ろに下がらせて中型魔物――翼蛇を切り伏せた直後。クナドの記憶にある限り、王都巡回任務で翼蛇と接敵したのはこれが初めてだ。
とはいえ別に、場違いなほど強力な魔物が湧出しているというわけではない。
王都アーヴェインは平原のど真ん中に位置しているので、魔物が潜めるような場所はほとんど存在していない。
だからこそ魔物がのこのこ動いていれば見逃すことはあり得ない。
だが大体は一桁程度のはぐれを仕留めるくらいで、日によっては一体も接敵しないことも特に珍しいことではない巡回任務で、まだ任務半ばでその数が二桁に乗っているというのはそう滅多にあることではないのもまた事実。
加えて王都周辺に湧出することが絶対にないとまでは言わないが、すでに中型が3体目ともなれば、異常事態一歩手前とみなしてもおかしくはないだろう。
まあその異常事態も「未曽有の」という類のものではなく、前回からのインターバルを考えれば少々早いとはいえ、発生してもそこまで不思議な話ではない。
「すみません、厄介なのはクナドさんに任せっぱなしで」
中型を討伐したため、位置を含めた各種情報と魔物素材回収要請の書類を仕上げてくれているD級42等級の冒険者が、申し訳なさそうにしている。
「いやその為に俺がいるんだし、稼ぎも増えるから気にしなくていい」
そういってクナドは笑っている。
クナドとしては一番面倒くさい書類仕事を全面的に引き受けてくれるので、本気で気にしなくていいと思っているのだ。それに自分のようなC級がこの任務に参加して喜ばれるのは、今のようにD級では厳しい中型などと接敵した場合に安全に処理できるからこそ。
国と冒険者ギルドの連携による冒険者育成と最低限の報酬保護を兼ねているこの任務で、重傷者はもとより死者を出すことなど論外であるのは言うまでもない。その意味ではクナドのような保護者兼指導者が同行してくれているのは、依頼者側も受ける側もともにとても有難いのである。
そのことをよく理解できているD級の冒険者たちは、小型魔物などはきちんと率先して危なげなく処理してくれているので、謝る必要などどこにもないのだ。
「……ありがとうございます」
それでも忸怩たるものを感じてしまうのは、己の力で魔物と対峙することを大前提とする冒険者である以上は当然のことでもある。
魔物を倒して上がるのは冒険者等級であって、別に自分の能力や身体機能がレベルアップするというわけではない。つまりクナドとD級の彼の差は装備と経験、細かいところまでいえば日頃の鍛錬や自分の能力の掌握と使い込み――能力は使えば使うほど少しずつ強化されていく――だけなのだ。
クナドと彼らD級冒険者たちの装備にそこまでの差が感じられない以上、同じことができない自分を不甲斐ないと思ってしまうのはクナドにも理解できる。
いっそクナドが誰にも真似できないような固有や血統が冠されている技、魔法で魔物を蹴散らしているのであれば諦めもつくのだろうが、汎用的な剣技のみで淡々と処理しているのを見れば自らの不甲斐なさを詫びたくもなるのだろう。
実際のところC級上位やB級に至れる冒険者は、固有や血統とまではいかなくとも希少とされる能力を持っている者がほとんどを占めている。
そういう意味では、いとも簡単に汎用剣技だけで中型魔物を倒している――ようにしか見えないクナドの姿は、同じ汎用的な能力しか持ちえない冒険者たちの希望であり、同時に手本にもなっている。
|自分に配られた手札《神様から与えられた能力》に腐らずにコツコツとやっていれば勇者たちに親友と呼ばれ、B級冒険者たちから親しげに声をかけられる存在にもなり得る。
それを理想論ではなく実際に成立させているクナドは、実は若手からの受けもかなり良い。自分もそうなれるかもと単純に憧れる者と、どこまで行ってもC級の実力でありながら勇者たちに好かれる人誑しぶりに感服している者に分かれてはいるのだが。
そのクナド自身が一般的な冒険者としてはまだまだ若手に分類される年齢ではあることは忘れられがちである。
そうみられている自覚がなくもないクナドとしては騙しているようで心苦しくもあるのだが、こっそり強力な技を使っているという訳ではないので勘弁してもらいたいところである。
「あれ? 王立軍の王都警備隊?」
この分だとまだ魔物との戦闘はありそうだと思いながら移動を始めた矢先、前方から迫りくる白馬を遠距離系の技、能力を持つ者たちが捕捉した。
――やっぱりな。
クナドとしてはまず間違いなくこういう展開になると思っていた。
王都巡回任務中の冒険者集団に、王都警備隊がわざわざ早馬を飛ばす理由など一つしかない。クナドが予感していた異常事態――すなわちモンスター・スタンピードが発生したのだ。
クナドが冒険者になってからすでに8回経験しており、そのすべてを王都アーヴェインはほとんど犠牲を出さずに乗り越えている。その度にモンスター・スタンピードの規模は大きくなっているが、魔大陸から投下される引き起こすための魔石も大きく、また複数になっていることも含めて、凌ぐことさえできれば利益も大きい。
加えて魔王軍もアルメリア中央王国、王都アーヴェインが勇者パーティーの出身地であることを把握していると見え、ここ数回は戦力を一極集中してきているのは間違いない。
勇者パーティーによって上位魔人を配した魔物支配領域や迷宮すら鎧袖一触で攻略されている現状、後顧の憂いを生み出して足止めする、可能であれば引き返させようという思惑なのだろう。
その分他国への定期的なモンスター・スタンピードは止まっており、汎人類連盟規模で考えれば勇者たちの快進撃も併せて、ここ数年ずいぶんと復興も進んでいる状況なのだ。
なのでクナドとしては少々多めに使うことになってはいても、アドルたちの後顧の憂いを断てているのであれば十分見合った対価だと思っている。
「まさか……」
さすがにクナド以外の冒険者たちも、王都警備隊の早馬がなにを意味するかくらいは理解できる。
まだD級以下の冒険者たちにとって、逃げようもない都市へのモンスター・スタンピードの発生は死を覚悟するのに余りある非常事態なのだ、絶句して青ざめてしまうのも無理はない。
たとえここ数年、8回にもわたってほとんど犠牲者を出さずに撃退に成功しているとはいえ、ほとんどは皆無ではない。そのほんのわずかな犠牲者が自分にならない保証など、戦場に身を置く以上は誰もしてはくれない。
そうやって文字通り『険しきを冒す者』であるからこそ、市井で働いていてはとても稼げないほどの報酬が支払われるのだ。
「大魔嘯発生! 王都周辺巡回任務は即時中止、急ぎ冒険者ギルドへ帰還願います。冒険者の方々は予備兵力任務が発令されます!」
「いくらなんでも前回からの周期が短くないか?」
「魔王軍の最後の足掻きか?」
まだ年若く見える王都警備隊員が予想通りの言葉を発し、それを聞いた冒険者たちは動揺したり、あえて笑い飛ばして自分を鼓舞したりと忙しい。
次話『五人目の仲間』⑦
12/2 19:00に投稿予定です。
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