第103話 『Re: Boy Meets Girl......s』⑫
『勇者パーティー』の4人と、『三位一体』の2人。
それに対して恥じることなどなにもないし、ありえない前提だがスフィアはもちろん、アドルやクリスティアナ殿下、カインが反対しても俺はそうする。
スフィアの様子も、記憶を継承させる対象に選んだことについては別に異を唱えるつもりもなさそうだ。問題は記憶の継承そのものではなく、その記憶に残るような行為そのものといったところなのだろう。
だがクレアとシャルロット殿下が継承したのは、記憶だけではなかったのだ。
「お2人とも眷属のまま、なのですか?」
「……よくわかったな」
そうなのだ。
確かに2人を吸血鬼にして大規模術式の種火になることを望んだのは俺だ。
それでも俺が再構築する過去では普通の人間に戻っている予定だったのだ、記憶の継承を除いては。
だがあろうことか2人とも『贄の烙印』が刻まれた状態どころか、火種となるために変じた眷属――『変生吸血鬼』として再構築されているのだ。これは俺がそんなことなど望んでいなかった以上、再構築される際に記憶を継承する本人たちが強く自認する姿になったということだと思う。
なぜそれを把握できているかというと、王城から移動した時点で2人から俺への念話が入ったからである。『うまくいきましたか?』『お姉さまのご様子は?』と、それぞれかなりしんどそうにしながらも確認してきたのだ。
彼女らを吸血鬼にした俺が『日の下を歩く者』なので、彼女らもその特性を引き継いでいる。なので再構築した瞬間がたまたま直射日光下であっても、いきなり灰になったりはしない。日中は俺よりもかなりキツいのだろうが、さすがに素体が上位冒険者級だっただけあって、念話を飛ばすくらいは可能らしい。
俺は2人に対して『真祖吸血鬼』として強い支配力を持ち、彼女たちは俺の血を与えられることで人からの吸血行為は必要なくなる、というよりは俺の許可がなければできない。加えて常に相互念話が可能であり、互いの位置や状態を共有することもできる。
ちなみに『変生吸血鬼』は誰かの血を吸うことにより『真祖吸血鬼』となり、誰にも支配されない『夜を歩く者』として独り立ちする。つまり『変生吸血鬼』に対する吸血の許可とは、眷属を一体の吸血鬼として認めることと同義なのだと思われる。
ともあれ今のところ上位個体である俺は気分次第で一切を遮断できるのに対して、下位個体である2人には一切の拒否権がない。プライベートの完全喪失どころか、俺がそう望めば自分という意志すら喪失してしまう。
ただそれはあくまでも俺がそう望めばという話だ。だからこそ俺は先刻「完全に自由意思が失われるわけじゃない」と口にしたのである。
2人がなんだってそんな不便な状態で再構築されることを望んだのかも謎だが、自分の意志でそれを実現していることが凄い。いや俺が潜在的にそうなることを望んでいたという可能性も否定できないが、その場合俺はスフィアになんて説明すればいいのか。
不本意ながら主語を大きくして、「男っていう生き物はそんなものなんです」とでも言えばいいのか。かなりキツいぞ、それは。
「ふふ、承知しました。クレアちゃんとシャルロット様とはこの後に3人だけで話す時間を頂けますか? きちんと感謝を伝えたいので」
「わ、わかった」
「ありがとうございます」
だが俺の予想に反して、スフィアは穏やかな空気に戻っている。
スフィアのことだからクレアとシャルロット殿下がそうだと予想はついていたはずだ。
にも拘らず、そこにより重い情報が増えて穏やかになる理由がわからない。
ちなみにスフィアがそういっていることを念話で2人に伝えたところ、それぞれ『はい』という短い返答以降、完全に沈黙を守っておられる。なぜ怖い空気の時には念話でやいやい言ってきていたくせに、穏やかなになったと伝えたら急に黙るんだ?
「私もここが自分の家だと思っていいのですか?」
俺が挙動不審寸前の状況に陥っていると、スフィアがこれでこの話はおしまいですとばかりに急に話題を変えてきた。
その表情はかつての王立学院でよく見た、俺で遊ぼうとする際特有の無駄なキラキラが溢れている。俺が肚落ちしていなくとも、少なくともスフィアとしては状況を把握した上で納得したものとみえる。
「スフィアがそれでよければ」
触らぬ神に祟りなしという訳ではないが、基本的には好きなようにしてくれればいいと思っている。冗談じゃなく一度悔いを残して終わっている俺たちは、二度とそんな思いを持たないように意識が変わらざるを得ない。
照れや遠慮などでやればできることを先延ばしにする愚かさは身に染みているのだ。
だからこそ、うっかり享楽的にならないように注意する必要もあるし、奥ゆかしさというかじれったさの中にしか生まれない機微(栄養素)は失わざるを得ないのだが。
とは言っても、さすがに今の時点から急に俺とスフィアが一緒に暮らすなど、言うほど簡単な話ではない。敵に対しては一切の容赦をしない覚悟ガンギマリ状態になっている今の俺たちとは言えど、味方からの完全な善意による諫言にまで耳を塞ぐつもりはないからにはなおのことである。
まだ王立学院入学前の子供同士がいきなりこんな御屋敷で同棲もどきを始めるなど、まともな大人であれば確実に止めようとするはずだ。
俺の方はけしかける連中が多そうで頭が痛いが、聖教会にはまともな大人の方が多いと信じたいところである。どこの馬の骨とも知れない勇者様の幼馴染でしかない俺と、聖教会の象徴である聖女様がいきなり交際することを祝福できるのは、よほど頭がお花畑かこっちの正体を知っている者だけだと思う。
まあ今はまだ潜在している敵を炙り出すことにもなりそうだが、その辺はそ知らぬふりをしておけばいい。
「嬉しいです。ではまずみんなで共有するための資料を整えましょうか。ふふ、懐かしいですね。あの頃の様にお手伝させていただいても?」
「是非とも頼む」
「承知いたしました」
まあまずはスフィアをいつも通りに戻すことには成功したので、よしとしよう。
さすがにいきなり今日から一緒に暮らすと言い出すつもりでもないだろうし、この手の資料作成については地頭の出来が違うスフィアに手伝ってもらうのが一番だ。
俺が再構築前の世界で得た知識の共有は最優先事項なのだ。
勇者パーティーを暗殺することを決めた連中と、それに協力した者共の名簿。
剣聖、賢者、聖女を殺せる手段の把握と完全無効化。
まずはそれを済まさないとなにも始まらないのだから。
『Re: Boy Meets Girl......s』⑬
2/6 17:00以降に投稿予定です。
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