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10人のおじいちゃんとベルートにゃん  作者: 双鶴


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第8章「完成への道」

工場の空気は、これまでにない熱気に包まれていた。大学からは学生たちがボランティアとして集まり、研究機関からは解析データが届き、制作会社の職人たちが外装の仕上げに加わっていた。町の産業会館からの寄付金で不足していた部品も揃い、工場はまるで大きなプロジェクトの拠点のように変貌していた。


旋盤の音に混じってキーボードの打鍵音が響き、溶接の火花に重なるように風洞の解析データがスクリーンに映し出される。老いた手と若い手が並び、図面の上に鉛筆の線が重なっていく。世代を超えた共同作業は、もはや一つの大きな鼓動となって工場全体を震わせていた。


試作車の走行テストが始まった。電動モーターが唸りを上げ、赤い車体が工場の敷地を走り抜ける。まだぎこちない動きではあったが、大学の学生がノートパソコンを抱えて制御プログラムを調整し、研究者が風洞解析の結果を指示し、老人たちが工具を握って微調整を繰り返した。走行のたびにデータが更新され、若者たちが数値を読み上げ、老人たちが経験に基づいて判断を下す。世代の違いはあれど、そこに上下はなく、ただ一つの目標に向かう仲間としての連帯があった。


「もう少しだ……」

源一の声は震えていた。彼の目には、かつて工場を立ち上げた頃の情熱が再び宿っていた。


ベルートにゃんの試作機も改良が進んでいた。音声認識は雑音に強くなり、声のトーンはより人間らしく、光の色と点滅は感情を鮮やかに表現するようになった。青は冷静、赤は警告、黄色は励まし――その光はべルードライビーのライトと呼応し、まるで二つが会話しているかのようだった。老人たちはその光を見つめながら、まるで自分たちの心が機械に宿っているかのような錯覚を覚えた。


夜の工場は昼間以上に活気に満ちていた。学生たちは床に座り込み、ノートパソコンを並べてコードを修正し、老人たちは工具を握りながら「昔はこうだった」と経験を語る。制作会社の職人は外装の曲線を磨き、研究者はデータを解析して次の改良点を指摘する。誰もが疲れていたが、誰も席を立とうとはしなかった。


「俺たちの最後の挑戦は、もう俺たちだけのものじゃない。みんなの夢になったんだ」

源一の言葉に、誰もが黙って頷いた。


完成披露を前に、工場の空気は緊張に満ちていた。老人たちは互いに顔を見合わせ、深く息を吸った。彼らの挑戦は、もはや町工場だけのものではなく、大学、研究機関、企業、町の人々を巻き込んだ大きな夢となっていた。


夜更け、工場の片隅でベルートにゃんが柔らかく光を放ち、べルードライビーのライトが静かに応えた。その光はまるで「もうすぐだ」と囁いているようだった。完成披露の日は、もうすぐそこまで迫っていた。


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