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10人のおじいちゃんとベルートにゃん  作者: 双鶴


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第6章「夢の公開」

秋の柔らかな陽射しが差し込む午後、下町の工場はいつもと違う賑わいに包まれていた。ベルートにゃんとべルードライビーの試作機が完成に近づき、ついに公開イベントの日を迎えたのだ。工場の前には近所の子どもたち、商店街の人々、新聞やテレビの記者、そして大学や研究機関から駆けつけた研究者たちが集まっていた。


源一は仲間と共に試作機の前に立ち、深く息を吸った。老いた手は震えていたが、その目は若者のように輝いていた。

「俺たちの最後の挑戦を、ここに見せよう」


まず披露されたのはベルートにゃんだった。試作機の中央が青く点滅し、落ち着いた声が響いた。

「ようこそ。私はベルートにゃん。君たちの夢を支えるために生まれた」


観客からどよめきが起こった。青は冷静、赤は警告、黄色は励まし――光の色と声のトーンが変わるたび、子どもたちは歓声を上げ、大人たちは驚きの表情を浮かべた。


続いてべルードライビーの試作車が工場の扉から姿を現した。赤い車体が光を反射し、電動モーターの音が響く。ぎこちないながらも走り出し、ライトが青から赤へ、そして黄色へと変化した。まるでベルートにゃんと会話しているかのように、光が呼応していた。


子どもたちは目を輝かせ、声を張り上げた。

「すごい! 本物みたいだ!」


老人たちは互いに顔を見合わせ、静かに頷いた。彼らの挑戦は、もはや工場の中だけのものではなく、観客の心に届いていた。


だが、イベントの終盤、源一はマイクを握り直し、静かに告げた。

「ここまで来るのに、資金はほとんど使い果たしました。これ以上、金銭的な支援をお願いするのは難しい。私たちが必要としているのは――技術的、そして作業的な支援です」


会場は一瞬静まり返り、やがてざわめきが広がった。老人たちの言葉は、金銭ではなく「力を貸してほしい」という真摯な願いだった。


その直後、大学の教授が立ち上がった。

「学生たちをボランティアとして送りましょう。彼らにとっても最高の学びになります」


制作会社のスタッフも声を上げた。

「舞台大道具や小道具の技術を活かせます。構造や外装の仕上げは私たちに任せてください」


さらに町の産業会館の代表が前に出て、源一の手を握った。

「完成車を寄贈する前提で、寄付金を出しましょう。町の誇りになる挑戦です」


拍手が広がり、老人たちの目に涙が浮かんだ。資金は尽きても、夢は尽きなかった。支援の輪はさらに広がり、挑戦は新たな段階へと進み始めていた。


夜、工場の片隅で源一は仲間に言った。

「俺たちの挑戦は、もう終わりじゃない。ここから始まるんだ」


ベルートにゃんの光が柔らかく揺れ、べルードライビーのライトが静かに応えた。夢は確かに現実となり、未来へと走り出していた。


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