第5章「限界を超えるために」
ベルートにゃんの試作機が光を放ち、べルードライビーの車体が走り始めた頃、工場の空気は最高潮に達していた。だが、その熱気の中で、老人たちは次第に壁にぶつかっていった。
「音声認識はまだ不安定だ。雑音が入ると誤作動する」
藤井隆が基盤を叩きながら眉をひそめる。
「バッテリーの持ちが悪い。試験走行は数分で限界だ」
山本清志が電動モーターを見つめ、深いため息をついた。
「空力の気流制御は、町工場の風洞実験じゃ限界がある」
田村正義が図面を広げ、航空機設計の経験を思い出しながら首を振った。
彼らの技術は確かだった。だが、AIの学習アルゴリズム、電子制御の複雑なプログラム、最新型バッテリーの開発、空力解析の精密さ――それらは町工場だけではどうしても届かない領域だった。
源一は仲間を見渡し、静かに言った。
「俺たちだけでは無理だ。だが、夢を諦めるわけにはいかない。手分けして、子や孫の世代に協力を仰ごう」
老人たちはそれぞれの人脈を頼りに動き始めた。
藤井隆は大学院に通う孫を訪ね、AI研究室の教授に頭を下げた。
「音声認識の精度を上げたい。老人の声でも誤作動しないようにしたいんだ」
教授は驚き、やがて笑みを浮かべた。
「面白い挑戦ですね。研究室の学生たちに協力させましょう」
石田誠はIT企業に勤める息子に連絡を取り、電子制御のプログラムを見てもらった。
「父さん、コードが古いよ。今はもっと効率的な書き方がある」
若いエンジニアたちは笑いながらも真剣に協力し、最新の制御アルゴリズムを組み込んでくれた。
山本清志は電池メーカーに勤める娘を訪ね、バッテリーの改良を頼んだ。
「試験走行が数分で終わっちまう。もっと持たせたいんだ」
娘は父の手を握り、静かに言った。
「お父さんの夢なら、私も力を貸すよ」
田村正義は航空工学の研究機関に足を運び、空力解析の支援を願い出た。
「町工場の風洞じゃ限界だ。気流制御を助けてほしい」
研究者たちは興味深そうに図面を眺め、協力を約束した。
さらに、玩具会社からも支援が届いた。造形のノウハウを持つ技術者たちが、ベルートにゃんの外観をよりリアルに仕上げるために協力してくれた。
こうして十人のおじいちゃんたちの挑戦は、世代を超え、町工場を越え、大学や研究機関、企業、そして家族の力を巻き込んで広がっていった。
夜更けの工場で、老人たちは再び図面を囲んだ。だがその背後には、若い世代の知恵と技術が重なり合っていた。鉛筆の音、キーボードの打鍵、風洞の解析データ――すべてが一つの夢に収束していく。
「俺たちだけじゃ無理だった。でも、みんなの力を借りれば、夢は必ず形になる」
源一の言葉に、誰もが黙って頷いた。
挑戦はもはや「十人のおじいちゃん」だけのものではなくなっていた。世代を超え、町工場の限界を越え、夢は確かに未来へと広がり始めていた。




