第4章「広げる支援の輪」
クラウドファンディングのページが公開されてから数週間。最初は近所の商店街や町内会の人々が支援してくれた。
「おじいちゃんたち、頑張ってね」
その一言が、工場の空気をさらに温めた。
やがて支援は広がり、インターネットを通じて全国から声が届いた。
「子どもの頃に仮面戦士を見て育ちました。夢を形にする姿に感動しました」
「技術者として働いてきた父を思い出します。応援させてください」
支援金は少しずつ積み重なり、やがて目標額の半分を超えた。工場の片隅に置かれたノートパソコンの画面に、数字が増えていくたび、老人たちの顔に笑みが広がった。
記者会見の効果も大きかった。新聞やテレビが「下町の十人のおじいちゃんたちの挑戦」を取り上げ、工場には取材が相次いだ。カメラの前で源一は緊張しながらも語った。
「私たちは工場を閉じます。だが、最後に夢を成し遂げたい。孫の笑顔を未来に残したい」
その言葉は多くの人の心を打ち、支援はさらに加速した。
そして、思いもよらぬところからも声が届いた。ある大学の工学部教授が連絡を寄せてきたのだ。
「高齢技術者の挑戦は、学生たちにとって最高の教材になります。研究室の設備を使っていただいて構いません」
別の研究機関からも支援の申し出があった。
「材料試験や安全評価なら、我々が協力できます。夢を現実にするために、科学の力を貸しましょう」
さらに、玩具会社からも連絡が入った。仮面戦士の関連商品を手がけてきた担当者が言った。
「子どもたちの夢を形にする挑戦に、私たちも協力したい。設計資料や造形のノウハウを提供します」
老人たちは驚き、そして深く頭を下げた。
「ありがとうございます。私たちの挑戦は、もう工場だけのものではなくなりました」
工場では試作が進んでいた。ベルートにゃんの基盤は改良され、光の色と点滅パターンが感情を表すようになった。青は冷静、赤は警告、黄色は励まし――老人たちがビデオを見て理解した仕組みが、現実の回路に組み込まれていった。
べルードライビーの試作車も形を帯びてきた。アルミ合金のフレームが組み上がり、電動モーターが取り付けられる。試験走行ではまだぎこちない動きだったが、老人たちは歓声を上げた。
「動いたぞ! 俺たちのべルードライビーが!」
夜更け、工場の片隅でベルートにゃんの試作機が光を放った。青から赤へ、そして黄色へ――その光はべルードライビーのライトと呼応し、まるで二つが会話しているかのようだった。
「夢は、確かに形になり始めている」
源一の言葉に、誰もが黙って頷いた。
支援の輪はさらに広がり、工場の挑戦は社会的な注目を集めていった。十人のおじいちゃんたちの物語は、もはや下町だけのものではなく、全国の人々、そして大学や研究機関、玩具会社までも巻き込んだ大きな夢へと育ち始めていた。




