第3章「夢を広げるために」
べルードライビーの試作が工場で形を帯び始めた頃、源一は仲間を集めて言った。
「俺たちだけで作るには限界がある。資金も、人手も足りない。だが、夢を広げれば、きっと応援してくれる人がいる」
その言葉に、工場の空気が変わった。十人のおじいちゃんたちは互いに顔を見合わせ、静かに頷いた。彼らの挑戦は、もはや工場の中だけのものではなくなっていた。
クラウドファンディングの準備は、若い世代の力を借りて始まった。石田誠はパソコンの前に座り、慣れない手つきで文章を打ち込む。
「私たちは十人の老人です。工場を閉じる前に、最後の挑戦をしています。孫の夢を形にするために、仮面戦士ドライビーの“ベルートにゃん”と“べルードライビー”を現実に作ろうとしています」
文章はぎこちなく、写真も手ぶれしていた。だが、そこには誠実さがあった。藤井隆は試作基盤を手に取り、孫の笑顔と共に写真を撮った。山本清志は車体のフレームを磨き、光を反射させて撮影した。
「派手さはいらない。俺たちの本気を見せればいい」
源一の言葉に、誰もが頷いた。
やがてクラウドファンディングのページは公開された。最初の支援者は、近所の商店街の人々だった。
「おじいちゃんたち、頑張ってね」
その一言が、工場の空気をさらに温めた。
数日後、制作会社の協力で記者会見が開かれた。小さな会場に集まった記者たちの前で、源一はマイクを握った。
「私たちは工場を閉じます。だが、ただ終わるのではなく、最後に夢を成し遂げたい。孫が遊んでいたベルートにゃんとべルードライビーを、本気で作ろうと思いました」
記者たちは驚き、やがて笑みを浮かべた。質問が飛ぶ。
「なぜ仮面戦士なのですか?」
源一は静かに答えた。
「孫の夢だからです。そして、夢は世代を超えて人を繋ぐものだからです」
その言葉に、会場は静まり返った。やがて拍手が起こり、老人たちの挑戦は一つの物語として広がり始めた。
会見の後、竹村龍馬が彼らに声をかけた。
「俺も応援します。作品は人の心でできています。あなた方の挑戦は必ず伝わります」
その言葉に、十人のおじいちゃんたちは胸を熱くした。工場の旋盤の音は、もはや下町だけに響くものではなく、全国へと広がる夢の鼓動になりつつあった。




