Wawu!!!~乾坤一擲の向かい風~
今、俺は自身の通っている中学校のグラウンドに立っている。
他の生徒のように放課後を迎え部活動に励むわけでもなく、まっすぐ帰宅するわけでもなく、立っている。
「すいませーん! そのボール取ってもらっていいですか?」
「......」
「......? は? 取ってくれねえのかよ。そんなところに突っ立ってんならそれくらいしてくれたっていいだろ」
俺の横を通り過ぎたサッカーボールをサッカー部の男子部員が取りにやって来る。
その生徒が俺の横を通り過ぎる瞬間、大きな音を立てて俺の顔を打ちつける。
『ビュオォォォォォォォォ!!』
向かい風だ。
俺は心を高ぶらせながら風圧に負けじと両目を開く。
「クッ!! ......。まだだったか」
俺の視界の中心―――グラウンドの端に置かれた木製の椅子にはまだ誰も座っていなかった。
「おーい、タイミング悪ぃ。ボールも飛ばされすぎだろー」
サッカーボールを追いかけていた生徒の声が遠のいていく。
向かい風の余韻もすべて無くなり、再び何をするでもなく俺は立っている。
「だあぁぁぁぁ。今日のメニューきつーい」
「わかるー。まだ大会まで2か月もあるのに先生気合入り過ぎじゃんね」
「......」
「ってかさ、今日初めてここに座って休んでるけど、この人毎日この時間ここに立ってるよね?」
「だね、先輩に聞いても関わるなとしか言われないし、何なんだろうね」
俺の背後の階段状に重ねられたブロックに座って、おそらく陸上部の女子部員が話している。
「ずっと同じ方向見てるね。あっちになんかあったっけ?」
「特別変なものはなかった気が......ってうわ!」
『ビュオォォォォォォォォ!!!』
再び向かい風がやって来た。
そして再び俺の顔を打ちつける。
それでもやはり俺は両目を開こうと力を込める。
「......やった。やった! 今日は白だ! やったぞ!」
俺の視界の中心にあったのは、誰も座っていない木製の椅子ではない。
木製の椅子に座ってトランペットを吹いていた、吹奏楽部の女子部員の制服のスカートのその奥であった。
「やった......! 今日は白なんだな!」
「この人黒だ」
俺がその場でガッツポーズを取っていると、後ろから先ほどよりも低い声が聞こえた。
俺が振り向くとそこには女子部員が一人だけ立っていて、奥の方に目を凝らすともう一人の女子部員が教員を連れてこちらに走ってきていた。
「あぁ......白でよかった」
真っ黒な俺はそれ以来、放課後にグラウンドに入ることを禁止された。




