第15話_校舎のキャンドルロード
卒業式準備の夜、校舎には生徒たちの影が揺れていた。
春奈が手元のキャンドルを並べながら小さく呟く。
「“YUZUKI ARIGATO”……これで合ってますか?」
志穂が笑いながらうなずく。
「うん、バッチリ! 光希、次のロウソクお願い!」
光希は火を灯しながら言った。
「これ、見たら泣くぞ、絶対」
拓矢は両腕を組み、照れ隠しのように笑った。
「泣かせるためにやってんだろ」
龍之介も無言でうなずき、キャンドルを並べ続ける。
やがて廊下いっぱいに温かな光が広がり、そこに「YUZUKI ARIGATO」の文字が浮かび上がった。
光希はスマホを取り出し、病室の優月にビデオ通話をつなぐ。
「ほら、見ろよ!」
画面を見た優月は、言葉を失っていた。
「……うそ……これ、全部……」
「みんなで作ったんだ」
光希の声に、優月の目から涙がこぼれた。
「ありがとう……ほんとに、ありがとう」
光希は画面に向かって笑った。
「まだ泣くなよ、勝ってから泣け!」
優月は涙を拭い、必死に笑顔を作った。
通話越しに見える優月は、涙を拭いながら笑っていた。
「ねえ光希……みんなに伝えて。私、本当に幸せだって」
「お前がそう言ってくれるなら、こっちも報われるよ」
光希はスマホをみんなに向けた。
「聞いたな? これが俺たちの勝利宣言だ!」
春奈は手を合わせ、志穂は涙をこらえきれず笑いながら泣いた。
拓矢は照れ隠しのように鼻をこすり、龍之介は無言のまま親指を立てた。
その映像を見た優月は、しっかりと頷いた。
「じゃあ……次は本番だね。絶対に勝とう」
「ああ、絶対に」
画面越しに交わした小さな拳は、距離を越えて重なった。
キャンドルの炎が揺れ、夜の校舎を温かく包み込んでいた。