第13話_校庭アカペラ
雨で音楽室が使えない日、光希たちは仕方なく校庭で練習することになった。
「ここでやるの!?」
志穂が傘を振りながら叫ぶ。
「仕方ねえだろ。今日を逃したら間に合わねぇ」
拓矢が声を張り上げると、龍之介が無表情のまま頷いた。
春奈はキーボードを雨避けのビニールで覆い、音を鳴らす。
優月は病院からスマホで参加し、イヤホン越しに指揮を取った。
「せーの!」
冷たい風が吹く中、声が重なった。
すると近所から苦情が飛んできた。
「うるさいぞ!」
年配の男性が窓から顔を出す。
「すみません、すぐ終わります!」
春奈が頭を下げたが、光希は悔しそうに唇を噛んだ。
そのとき拓矢が走り出した。
「俺、町内会に行ってくる!」
彼は雨を浴びながら駆け、しばらくして戻ってきた。
「許可もらった! 『子どもたちの声は町の宝』って言われたぞ!」
その一言で全員が笑顔になり、再び歌い始めた。
雨がやむと同時に虹がかかり、その下で声が響き渡った。
(優月……見てるか? 俺たちは諦めないぞ)
歌い終えた瞬間、校庭は静まり返った。
誰もが息を切らしながらも、笑っていた。
「……やりきったね」
春奈が鍵盤を閉じながら微笑む。
「おう、最高だ!」
拓矢が声を上げ、志穂も両手を叩いて喜んだ。
スマホ越しに優月の声が響く。
「すごいよ、みんな……本当にありがとう」
その声は少し震えていた。
光希はスマホを握りしめて言った。
「お前の指揮があったからだ。……次は絶対、本番でやろうぜ」
優月は静かに頷き、「うん」と短く答えた。
虹の向こうに夏の青空が広がっていた。
その景色は、未来への希望を示しているように見えた。