第11話_波止場の誓い
夜の港町は静かだった。
街灯の下で、光希は海を見つめていた。
(負けたままじゃ終われねぇ……でもどうしたら)
その背後から足音が近づく。
「……やっぱりここにいたか」
龍之介が無表情のまま立っていた。
「お前も落ち込んでんのか?」
「別に。ただ……悔しい」
その声には、普段見せない熱がこもっていた。
二人はしばらく無言で波の音を聞いていた。
光希が小さく口を開いた。
「俺さ、もう一度挑みたい。大会の決勝に動画審査枠があるだろ? そこに出してやろうぜ」
龍之介は驚いたように目を見開き、そして頷いた。
「……やろう」
その時、携帯に着信が入った。優月からだった。
『光希……負けちゃったね。でもありがとう、諦めないでくれて』
弱々しい声に、光希は拳を握った。
「なあ優月。もう一度歌おう。お前と一緒に」
しばし沈黙の後、電話口で小さな笑い声がした。
『うん、約束』
波止場の風が二人の頬を撫でた。
光希は空を見上げ、静かに誓った。
「必ず、勝つ」
光希と龍之介は波止場に立ち、拳を合わせた。
「動画審査、やるぞ」
「……ああ」
短いやり取りだったが、その声には迷いがなかった。
次の日、学校で光希はメンバーを集めた。
「もう一度挑戦する。決勝の動画審査だ」
拓矢は目を見開き、春奈は少し驚いた表情を浮かべた。
「そんなこと、本当にできるの?」
志穂が不安そうに聞くと、光希は力強く答えた。
「できるさ。……いや、やるんだ」
優月はベッドからオンラインで会議に参加し、画面越しに微笑んだ。
「ありがとう、光希。……私、諦めない」
その一言で全員の顔が変わった。
彼らの挑戦は、ここから始まったばかりだった。