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飢えないだけじゃ生きられない(日・水・更新中)  作者: なるねこ


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98/102

98.街を歩けば

思い出したビア原液のこと。大量の水にこれをちょっと入れればってどのくらいなんだろう。


「チョーコ、あれは結局どうするんだ?」

「あれは、人間専用のお酒になるから、思いっきり薄く作って平民でも気軽に飲めるくらい、安く広く手軽に飲めるようなものとして出したいの」


新しい飲み物の話にミナが寄ってきたので一緒にキッチンへ行って、洞窟で試しに蛇口を刺したビアの実を桶へ置くのを手伝ってもらいつつ、お酒はお酒でも、これは本当に平民でも飲めるくらい薄いお酒として広めたいと説明をしながら。


純アルコールと同じ強さだからかなり薄めてと言って、水差しに作った100倍希釈をちょっと味見したら、まだまだ苦みがキツすぎる。200倍で何とか、苦味がかなり強くて炭酸も入ってない、薫り高い濃厚な海外の地ビールみたいな感じで飲めるようにはなった。


苦味はきついが爽やかな風味で香りは強く味わいもある。ちびちび飲めば好きな人は好きかもしれないけど、私の好みとイメージ的にはもっとずっと薄くて炭酸入りで冷やしてぐっと気軽に飲める感じがいい。


色々試した結果。元の実から千倍くらいに薄めて風の石を入れたらようやくイメージに近いビールっぽくなった。私は断然これ。

ここまで薄めれば黒砂糖溶液とあまり変わらないので平民でも飲めるし、ほぼ水と風の石だから値段も安く済むはず?


最近は氷製造も安定して店舗でなら冷蔵庫を置いているところも増えてきて、製氷機の魔道具だってある。各家庭では難しくても店舗でなら冷やして飲むのは難しくない……といいな!


――ミナに聞いてみると、水で希釈するのも氷を作って冷やすのもそれなりに魔力は必要、つまり人件費がかなりかかる。

ウィスキーが1リットル当たりの仕入れ値ミスリル1枚なのを参考に考えたら、千倍希釈の1リットル原価は銀貨1枚、おそらく売値はコップ1杯が4分の1リットルとしたら銀貨1枚は越えるという。


ビール1杯200ミリカップで千円越えはお祭り屋台価格だなぁ……ウィスキーはボトル詰めを含めてるし、これは元々の度数もちょっと低いし、何より庶民も気軽に飲める感じでもっと安く出回って欲しい。


皆にも試し飲みで意見を聞きつつ考える。

オクティはビールがあまり好みじゃないないみたいで、これよりはただの甘くないソーダ水の方がいいという。安くするとしたら家庭用に原液に近い濃い状態で卸して薄めるのは自分たちでやって貰うのが安くなるんじゃないかと。

ただ、各家庭には製氷機や冷蔵庫が無いので、冷やして飲めないということになっちゃう。


ミナは千倍を炭酸強めで冷やして単体で飲むのも、最初の濃厚なのをぬるめで食事と共に少量だけ飲むのもどちらも好き。


ミナの意見では。

輸送費も問題になるので、最初から千倍にはされず。まず卸した実は普通に出回っている100リットルサイズの飲料用樽を実を1つにつき200樽用意して一気に200倍希釈へ。それを原液として小売店へ販売。

そして以前注文していた20リットルサイズの密封出来る蛇口付きの樽。これの製造技術が上がって、炭酸で割ったものも詰められるようになっており、小売店や酒場などではよく扱われている。ビール樽を買った小売店で原液を5倍に薄めて風の石を足して蛇口樽に詰めてから、冷蔵庫に入れて販売する。という流れになる。


普通の人は樽いっぱいの水を出すのも無理なので、どうしても人数を雇う必要があって高くなりがち。こちらでまとめて薄める所までやった上で卸せばその分だけぐんと安くなる。たとえば200倍原液まで薄めて売れば1杯銅貨5枚か6枚までは下がるはず。

最終的な蛇口付きの樽に千倍希釈で風の石も入れた状態まで薄めるならば、冷やして注いで売るだけなので1杯銅貨3枚か4枚で売られるだろうけど、こちらは輸送費が上がるしあまり勧めない。


……うん、薄めてから売れば平民でもたまの楽しみに飲むくらいは出来そう。

千倍希釈もかなりしっかり香りがあるので、店によってはそれを更に薄めて売ったりもするだろうということだけど、まぁそこから先はお店の自由だよね。


シアンは苦いのが好きで炭酸が苦手らしく、最初の200倍希釈炭酸無しがダントツで好き、というか味見をおかわりしてコップ1杯なみなみ注いで飲んでた。


そして『つまり安く売るためには、薄める作業を我々がやればいいんだろう?』という。

「出来るなら……お願いしたいけど、大変じゃない?」

『大量生産は出来ないが、出来る所まではやる。

それで……強制労働地区は凍土中心部に近くて魔力をじわじわ吸われていくし、水の魔力を多く使う希釈作業を担当する以上、我々にもこのくらいの弱い酒は飲ませてくれてもいいんじゃないか?』

かなり期待半分の顔をする。


あ。やっぱり気に入ったのね。


実もいっぱいあるし、樽に分けて薄める作業を引き受けるんだったら施設育ちの人たちが飲む分くらい自由にして良いと思うと言ったら。

ミナが強制労働地区は万単位の人が住むので、彼らだけ特別扱いはよくありませんと割り込んだ。


ちゃんと正式に商会からの魔力欠乏症に対処する健康維持支援の一環として、食糧給付所に買い取った200倍原液の樽と風の石を配布してもらいましょうという。

原液を自分たちで配布される飲料水に風の石の粉末と共に好きな濃さで混ぜて自由に飲んでもらう。ついでにコンヴィニ商会の新製品テスターとして濃さや風の石の量なんかについてアンケートも取れば色々な意見も得られるだろう。


勿論施設育ちの人たちが飲む分は作ったものから先に取り分けて貰うけれど、他の人たちにも配ると決まっていればうるさいことは言われない。と主張されて納得したので、手続きはメイドさんたちにお願いすることにした。


うん、これで平民でも飲めるお酒が出来るかも……良いと思う!日々のうるおいって必要だよね!


***


ビールの飲み比べをしていたらお昼も過ぎちゃったし、今日はあまりダンジョンとかへ出かける感じではなくなってきたから。軽く街をお散歩でもしてこようかな?


出かけると言ったら、まだ忙しいだろうに付き添いのためにニナが来てくれて。

オクティ側にシアン、チョーコ側にニナが付いて街の商店通りを歩く。


帝国の街には。以前見かけたような地面に敷物敷いてごろごろしてる人たちは1人も居なくなっていた。


ニナ曰く、商会から直接街にいる無職の人達に声をかけ、何らかの理由で働けない人でも治療をセットでとか、薬剤のテスターの仕事とか誰でも出来る仕事があると働きかけてスカウトしたら、話題のコンヴィニ商会と聞いて無職だった人々が我先にと飛びついたそう。


そして『面倒くさくて働かないだけだろう』と思っていたニナの予想とは裏腹に、意外なほど皆ちゃんと真面目に働くようになってくれたそうだ。


どうやら騙して重労働させるようなスカウトがあちこちにいたし、しかも識字率が低くて自分で採用募集の案内が読めない。商会組合は忙しすぎてゆっくり話を聞いて貰える暇なスタッフが居ない。

働く気があってもどの商会へ行けば安全でちゃんとした給料で働けるのか分からないから怖くて応募できなかった、という人が多かったらしくて。


今は『働く気があるならまずコンヴィニ商会に就職相談をしてみる』というのが流行り。

商会は現在人手不足が極まってるので新規の相談は大歓迎。よく話も聞いて貰えるし、仕事が多岐にわたるので、本当に何かしらの技術、魔力、体力、やる気のどれかさえあれば仕事は貰える環境になっているみたい。


うんうん……それは良い傾向だよね!


街に並ぶ店の種類を見ても、以前は小物や衣類や宝石と家具類ばかりだったところに新しく店舗が増えていたり入れ替わったり、美味しそうな匂いが漂う屋台だとか、入って食事が出来るお店だとか、チョーコが知っている商店街っぽい雰囲気に変わってきていた。


「わぁ、この辺りも新しいお店増えてる!」

「本当だな……」

「各国から転民してきた方々も増えましたので。新規店舗が続々と開店しておりますわね」


歩いている人々の様子も、街の中で天人さんや魚人さんを見かけることが増えてきたからか。前ならば遠巻きに眺めるか人垣を作って取り囲んだり騒いだりしてしまっていたところだけど、自然な距離感になってきたように思う。


「まぁ、チョーコ様ではございませんか!」

「ん?」

急に声を掛けて近付いてきたのは魚人の女性。うーん?魚人で女の子の知り合い?身長高くて飾り気の何もない格好、お洒落が好きなリタさんではないことだけは確か……


誰?と思ってたら、いきなり跪いて「本日もご機嫌麗しく――」とか挨拶をして来られたので分かった、南の魚人さん!


「まま待って待って、こんなところで跪かれたら目立つから立って?!あのですね、もう不死族の人たちへの償いはしてもらったし誓いもしたし交易も始まって、全部一旦水に流しましょうって話をしたはずなのでっ、西の魚人さん達と同じように普通に接して下さい!」


「寛大なご容赦に感謝いたします」

言われるままに立つけれど、態度はあまり変わってないというか……悪化した?


あれぇ?話はついて落ち着いたはずだよね。なんでまたそんな感じになっちゃったのと思ったら。

西の女王様にもチョーコのことを誤解していたけど、話し合いをして和解したことを伝えたら。まぁ呆れられたり怒られたりはしたけど、西の海で元々街歩きをしている子たちが誘って南の魚人さんたちも無事、時々海の石を持って交代で街を見に行くようになり。


そこで西の魚人さんが、馴染みの天人さんたちに南の魚人さんたちを紹介。


天人さんたちおしゃべり好きなので、チョーコとオクティが牛を守りに高山まで来てくれて空を埋め尽くすワイバーンの群れを追い払ってくれた武勇伝から、炎の大陸で炎人から印を受けて不死族を助けるための保護区を作った話や、行方不明の天人をダンジョンから探し出したとか、組合前の広場の大時計は火の洞窟のドワーフたちがチョーコへの商店街を開いたお祝いに贈ったものなんだよー。

などなど……


それはそれは()()()()()に仕上げられた沢山の話を聞かせて貰えたそうで。


一気にそんなものを大量に聞いてしまった結果。チョーコに対するイメージが、今度は尊敬と驚愕の方向へ天元突破してしまったらしい。


話しているうちに「またそのような方に我々はなんてこと……!」と感極まって膝をつきそうだったので慌ててニナに止めて貰い。

もう本当にいいですから!と、最近街を歩くようになったということであれば、何か困ったこととかないですかと話を変えてみる。


「この街にも商店街にも不備など御座いませんけれど。強いていうならローレライ種の者たちに非常に激しく羨ましがられることくらいでしょうか……」

「それは……うーん」


もしローレライ種も傾向としてこんな感じなのだとしたら、不死族の皆様にご挨拶をとか、それはもう、どうにかして来たがってるだろうねぇ、うん。

でも転送盤で飛んで来るにしても、おもいっきり陸に上がってしまう。


たとえば……お城で魚人ちゃんたちが入ってたような、水を入れても大丈夫な大きめの台車にでも入れて誰かが押して連れ回ってあげる?


オクティもちょっと考える。

「湖とか池の中に転送盤を置いて、そこへ飛べるようにすることは出来ると思う。ただそこからの移動は人力じゃないと無理だよなぁ」

「なんですって、水の中へでしたら移動出来そうなのですか?!せめて分地の大池まででも行きたいそうなのですが!」


分地?あぁ、卸売り倉庫がある分地に凄く大きな水場を魚人さんの力で作って貰って、魚やウニやら昆布やらの大々的な養殖を始めたって言ってたっけ。


「あ、確かに。海の中とその池の底に転送盤を置けばいいんだもんね?」

「おぉ……是非に!ローレライたちは街で遊ぶためのお金を稼ぐために歌を歌いたいと申しておりましたわ。人間の街には色々な職業があると聞きますけれど、それは可能なのですか?」

「可能かどうか……ねえニナ?ローレライの歌が聞けるってなったら、普通にお客さん呼べそうじゃない?」


振り返ると頷いた。

「ローレライ種の歌は話題性があるかもしれませんわね。……チョーコ様、ロイド会長へ企画をお出し致しますか?」

「うん。ロイドさんに聞いてみて?」


とりあえず歌う仕事が出来るかどうかは聞いてみないと分からないけど。西と南の海と、分地の大池を繋ぐ転送盤はすぐに手配するということを約束すると、南の海の魚人さんはすぐに海の方へ報せに行ってくると頭を下げながら去っていった。


ニナが通信石で連絡しておいてくれたので、転送盤を届けるのはすぐにしてくれると思う。大きい魔石板も家へ持ち帰っておいてくれるそうだから帰ったらまた予備の転送盤を追加で作って預けておこう。


そうして彼女と別れてほんの数分も進まない内に。

「チョーコとオクティみーつけたっ!美味しいもの取れるところ行きたいっ」

「ねぇねぇ、また僕たちに新しいお仕事ないのっ?新しいおやつー!」

また捕まった。

今度はやや幼い感じの男女の2人組の天人さんが飛んできて、周囲をひらひら飛びながらキャッキャと喋る。


えーっと、ダンジョンから荷物を届けて貰った時のルーとフィーじゃない方の子たち!

「おそらくミィ様とククル様ですわね」

だれだっけ、と顏に書いてあったのかニナがこそっと耳打ちで教えてくれる。

さすがニナ、頼りになるわぁ。


「ミィとククル、こんにちは。んー、今は特にお仕事はないかなぁ……」

「えぇずるいー!リィコもルーとフィーも新しい甘いのがいっぱい取れるダンジョンに連れてって貰ったって言ってたのにっ!」

「僕たちも新しいおやつ探したいー!連れてってよー!」

「あれはたまたま行った所が食べ物だっただけで、その新しく見つかったダンジョンに食べに行けばいいじゃない?」


「だって自分で取りに行っただけじゃ、チョーコのおうちでお菓子とジュースがたべられないもん!」

「僕たちはチョーコのお手伝いでお呼ばれもしたいのー!」


えぇー、いや、リィコもフィーもあの時はお菓子とジュースを出してあげたわけではないんだけども。

まぁここでそれを言っても引かないだろうなぁ。


「んじゃあ……ミィとククル。最下層に酒の実が生ってるって言われてる小さいダンジョン1つ、他のものも全部集めてきて貰える?」

「わかったぁー!」

「あとでおうちに行くからねーっ!」


コロッと笑顔になって飛び去っていく2人。

「なにか甘いお菓子と飲み物を用意しておくようにと伝えておきますわね?」

「ありがとう」


気を取り直して街歩きを再開。

平民街に出来た新しい喫茶店は狭くて、一応机に向かって座れるだけという作りだったけど試しに入ってみた。


4人席だったからニナとシアンも座って貰い、コーヒーと焼き菓子のセットを頼む。商店街なら銀貨数枚取られると思うけどここだと銅貨6枚。

カップは大きいけどちょっとコーヒーは薄めで、焼き菓子はどら焼きサイズの薄く小さいホットケーキっぽいものが2枚に黒蜜がかけてあるだけ。値段相応かなと思うけど、風の石がしっかり入って柔らかく膨らんでるし、普通に美味しいんじゃないかな?


もうすっかりミナの絶品料理に舌が慣れてしまっているから物足りないのは否定できないけど。

お店としてはけっこう賑わっていたし。カップも赤と緑で大きく曲線と丸の柄が付いていて可愛いし。

商店街のメイド喫茶に触発されたのか、ウエイトレスさんの制服がやたらとフリフリミニスカートでヘッドレスを付けた感じなのもちょっと面白いと思う。


そこから出て、歩き始めたと思った途端にまたすぐ呼び止められた。

「おーい!オクティにチョーコじゃねぇか!」

振り返るとそこにいたのは、大振りな焼肉串を5つものせた皿と大きいドリンクを持ったパリィ。


「あ、パリィ!街に戻ってたんだ」

「パリィも今日は休みか?」

「おう、アスラの件が終わったからな。明日からまた出るけど。おっ?そっちの奴がアスラで育てられてたってぇ噂の黒髪か?」

パリィがよっと手を上げて挨拶するが、シアンは少し訝しげに目を細めたあと、黙ってチョーコとオクティを振り返る。


「ああそうだ。こいつはシアン、腕が立つから護衛を頼んでるんだ。愛想はないけど、別に人嫌いってわけじゃなくて喋ることに慣れてないだけだから気にしないでくれ。

シアン、こっちはパリィ、俺の冒険者としての仲間だった。今はワイバーン乗りで第一部隊の隊長だ」

「パリィだ、よろしくなシアン!」


じ、とパリィの方を見つめているから喋ってるんだと思う。

「へえ、確かに強そうじゃん。けどもうちょっと食って鍛えて肉付けないと押し負けるぜぇ?食うか?」

シアンは焼肉串の皿を見せられてふるふる、と首を振る。


最近出来た持ち帰りできる屋台のスープ屋が魚介出汁でうまいとか、白砂糖茶屋だったお店がスイーツパーラーに変わってて、フルーツと生クリームがふんだんに使われてて気になるけど男だけだと行きにくいとか。

あれこれパリィ情報を聞かせて貰ったお返しに、砕いて軽くローストして食べると美味しいよ、とロックナッツを幾つか袋に入れて渡してから別れた。


ニナ曰く、教えて貰った魚介出汁スープのお店はミナが本家へ行って開発しているのに参加してるメンバーが出しているもので、ミナも作れると。飲んでみたいなら夕飯のスープをそれにしてくれるというので頼んじゃう。


……家に帰ると、シアンがさっきパリィにあげていたロックナッツが気になる様子で、あれは何だ?本当に食べ物かと聞いてきたので何個か出してあげた。


するとシアンは何枚か皿を持ってきて、切ったり砕いたりすり潰したものを加熱したり色々と試し……


いつのまにかミナが興味津々で、もうかぶりつきで見ている前で。

細いスティック状のローストナッツ、極薄のスライスナッツチップ、無糖ピーナツバター、アーモンドプードルまで作って見せた。


まあ!とミナが叫んであれこれ確認したあと、こちらを向く。

「チョーコ様、こちらを使って色々試してみたいのですが、護衛の方々には、こちらでお作りした物を食べさせたりお渡ししても宜しくて?」

「シアン、ミナの料理食べてみたかったら食べていいけど、どうする?」

『食えと言われれば食べるが。今はこれだけでいい』

と自分で作ったローストナッツの皿を指さす。


「無理にってわけではないから、今日はそれと……ミナ、ビールに合いそうなジャーキーとかはストックある?持ち帰りで多めに包んであげて」

「お持ちいたしますわ」


ミミズ肉は牛すじに凄い似てるので、凄く薄く削ってから塩コショウや砂糖などを混ぜたシロップに漬け込み、焦がさないようにじっくり焼いたジャーキーへ白ゴマを潰して掛けると、かなり味が濃いめのおつまみ系で美味しい。ミナ特性のそれをちょっと大きな弁当箱みたいな木箱にいっぱい詰め。

ローストナッツも別の蓋ができる箱にたっぷり入れて一緒に並べる。


シアンは差し出されると断らず、両方とも受け取った。

そんな事をしているうちに夕の鐘が近づいたようで、パッとシアンの隣にシルバーが出現。


暫く情報交換らしく黙って手を動かしながら2分ほど見つめあったあと、シアンは箱を重ねて持ち、ビア原液を2玉と差し込む蛇口を1つ受け取り、浮かばせながら玄関経由で裏門の魔塔へと帰っていった。


「夜の護衛はシルバーなのね、よろしく」

こくりと頷く。

『先程の丸い実で酒を作ることになったと聞いたが……本当にこちらで飲みたい分を勝手に確保して飲んでもいい……のか?』

「横流しして売ったりするのはダメだけど、自分たちが飲む分は自由に飲んでいいよ。あれは高山でダンジョンから取ってきたものだし、いっぱい取って来てるから大丈夫。薄めるのに使う水の魔力をかなり沢山出してもらうことになるし、好きに飲んでね」

『待遇が違いすぎて困惑する。……まずはこれを書いてくれ』


シルバーも左腕を出してきたので、防衛に必要な場合を除いて人族に危害を加えないと書き込む。

なんとなく満足そうに袖を戻して部屋の隅というかドアの傍に引っ込み、姿は消してないけど気配が目立たなくなった。


「チョーコ!来たよー!」「いーれーてーっ!」と玄関ドアのすぐ外から甲高い子供の声と騒がしい羽音が聞こえて、すぐにリナが天人のミィ様とククル様がおいでですと呼びに来る。

「いらっしゃい、ミィとククル、もう終わったの?」

「「うん!おじゃましまーす!」」


渡されたお土産袋はバブルキャンディーとメロンガム。しっかり新しいところも行っているらしい。

「今日も荷物運びありがとう、おやつを用意するからね」

「「わーいおやつー!」」

リナにお土産袋を渡して食堂へ2人を連れて入ると、ミナがケーキ皿と大きな木のコップが乗ったトレイを持ってきた。


「いっぱいとってきたよー!」

「でもどれも美味しそうじゃないよー?ほんとにこれでいいのー?」

「うん、ありがとうね!」

二人で手分けしたらしく、同じ内容のものが一気にザラザラと流し込まれてくる。

魔獣の核はなんだか大量にあるけど、今回ハーピーはいなかったみたい。ダンジョンブレイク直前だったのかな?


流し込み終えてから、スッキリした顔でパタパタとケーキが置かれた席へ飛んで行って座る。

今日のケーキは特別甘そうに見える、普通のホットケーキサイズのふわふわ平パンにたっぷりのルビーメロンを並べて、ホイップクリームとメープルシロップを全面にプラスした1ホールずつ。

飲み物はヨーグルトにかなり細かく刻んだレッドチェリーが層を作るほど入れてあるもの。


チョーコとオクティの前には小さめに作ったものを更に半分に切って、メロンは乗ってるけどメープルシロップは抜いて生クリームもベッタリじゃなくちょんちょん飾るように絞っただけ。ヨーグルトもチェリーは少量、グラスの口にだけ飾ってあった。


「きゃあ、あまーい!すきー!」

「チョーコのおうちのおやつが1番甘くておいしい!」

「喜んで貰えてよかった!じゃあせっかく持ってきてもらったし、何が取れたか見てみようかな」


小規模のダンジョンにしては多すぎるくらい魔獣の核が大量。蔓はアロエかサボテンみたいに中がゼリー状で表面が緑で実は付いていなくて。切り口からはちょっとネトッとする液体がたくさん出る何か。


『ニス』木工製品の表面に塗って乾かすと硬化し透明なツヤが出て、水なども染み込まなくなる。食べても毒ではないけど液状は非常に苦く乾燥後はガラスのように固くなって水や油も弾く。ニガブドウのように色を保持する効果もある。


「あっ、これは工芸で使えるね!家具とかに塗ったらツヤも出るし長持ちすると思う」

ニガブドウの類似品というかあっちが布用でこっちが木工用かな?


作物の方は『モチゴメ』赤いけどオコメと並べてみるとちょっとだけワインレッド寄りのカプセル植物。

『シガツギ』なんかニラよりもう少し肉厚な感じの緑の細長い葉が不思議なねじれ方をしている見た事ない植物で、漢方薬っぽい匂いがすごい、めちゃくちゃ喉に効く薬草らしい。

『渋柿』皮を剥いて日に当てて干すと甘い干し柿に、また抽出で防水塗料としても使える『シブ』が取れる。


アズキが安定して手に入るようになりそうだから、もち米は嬉しい!これで和菓子のレパートリーも増えそうだし、お餅もいいなぁ……砂糖醤油もきな粉もあるもんね!あぁ楽しみ。


――ん、お餅つき大会ってどうかな。年越しのイベントなんかにいいかもしれない。

喉の薬は不死族行きで……渋柿を干すのは広いところがいいから、これも凍土で施設育ちの皆に手伝って貰っちゃおうかな?干し柿も色々お菓子作りに使えそうだよね。


干し柿は皮を剝いて天日で干すだけだから作れそうだけど、天人は何となく面倒くさがりが多いイメージなので、喜ばなさそうだなぁと思いつつ。一応取ってきてもらったものはこういう使い方が出来るものだと説明する。


「日に当てて干すと甘くなるの?!」

「じゃあ今度それ作ったら食べさせてね!」

と予想通りな答えが来た。


そして最後の最下層『甘酒』ってなってるけど、見た目はピンクの皮にヒョロヒョロした葉みたいなものがついた、ドラゴンフルーツみたいな形で、切ってみるとこれまた中は真っ白。実は柔らかめのゼリーみたいな実だった。


度数は5%だから白砂糖並で酒の実と呼ぶには弱いけど、人間が食べるなら4分の1くらいが1食分かな?甘味があって滋養もよく、毎日少しずつ食べると美肌効果もあるという。

これはお酒扱いじゃなくて不死族行きにしてもいいやつかもしれない。


「ミィとククル、これは甘いけど持って帰って食べる?」

「甘いけど、なんか、うーん、違う味が強くてすきじゃなーい」

「僕もこっちの赤いメロンに生クリームとシロップかかってる方が好き!」

どうも子供には不人気な甘さらしいので、そっか、じゃあそのまま貰うね!と貰って。


代わりにメープルシロップの大きい実を1つずつ、お土産にあげたらすごい喜んでいた。

アイテムボックスには食べかけで入れても零れないんだから、一気に全部舐めちゃダメだよと言い聞かせ。2人はきゃあきゃあ嬉しそうにしながら飛び去っていった――


「お疲れ様、チョーコ」

「あはは、今日はどこにも行かなかったはずなのになんか忙しかったね?」

「ちょっと街を歩いただけで色々あったよなぁ」


木箱にもち米、ニス、甘酒を出してメイドさんたちに1箱ずつ納品を頼もう。

渋柿は干し柿にしてから納品予定だけど、渋柿の状態でも抽出で塗料のシブが取れるからと1箱はそのまま納品。


喉の薬と甘酒は不死族へ。

「ん……まだ夕のベルがなったばかりだし、倉庫は話が長くなるから任せて、薬屋さんだけぱぱっと行ってきちゃおうかな?ちょっとリナ連れて行ってすぐ戻るね」と、本当にすぐ戻るつもりでリナだけ連れて飛んだつもりだったのに、オクティもシルバーもちゃんと着いてきてた。


「あらチョーコ、今日も忙しそうね。……あらぁ?なんだか素敵な男の子連れてるじゃなぁい」

サキュバスの白衣のお姉さんがシルバーを見つめてウインクする。

「今は仕事中だからダメ?真面目ねぇ、じゃあお休みの日に是非遊びに来てね?それでチョーコ、今日はどうしたの、納品?お見舞い?」

「納品です」

「はいじゃあこっち、あら、甘酒良いわねぇ。病院の子達にも使えるし、お肌もつるつるよ。こっちは喉の使いすぎに使う薬ね」

普通に引き取れるだけ引き取ってもらう。シガツギで作るのどの薬は発語訓練でもかなり活躍するはずだという話から、再びシルバーに視線が向く。


「ねーぇ?今病院に治療と健康診断で沢山来てる子達って、その子のお仲間でしょう?既にちゃんと伴侶がいる子が多いみたいだけど、そうじゃない子もまだの子も沢山いるじゃなぁい。人間にしては魔力が強い子が多いし、全属性で美味しそうな匂いがするんだもの。時々ここにも遊びに来て欲しいわぁ♪」

「伴侶がいるかどうかって見て分かるんですか?」


「見てというより匂いでわかるわよ?男女の2人で深く匂いが混ざり合ってたら、人間にとっては伴侶の関係ってことでしょ?」

「あ。そういうことなんですね……あの人達はまだ来たばっかりで色々落ち着いてないので、遊びに来るようになるか分からないですけど、おすすめはしてみますね!」

「うふふ、来たらサービスしちゃうって伝えておいて、よろしくね?」


チョーコもオクティも無属性と全属性なのに不死族の人たちからそこまでしつこく言い寄られたりした覚えがないなと思ってたけど。最初から匂いで既にオクティとカップル認定されてたからなのか。

あれ?でもシルバーだってキンコとパートナーだよね?


『俺からは複数の匂いがするからだろうな。ブルーはまだ若いから入れ替わってはいないと思うが、俺のパートナーは流産や懲罰で死んで入れ変わってるからキンコで4人目だ。キンコも何度かパートナーが戦死して変わっている。シアンは分からん、気になるなら本人に聞け』

あ……長く生きてるだけに色々あるらしい。


――皆でまとめて帰宅すると。シルバーはまたすぐ隅に引っ込んで気配を消してしまった。


本当に邪魔にならない。目を向ければちゃんと姿は見せているのに、人の意識から消えるのが上手い。

炎の導きで見つけた時には本当に信じられないって感じでびっくりしてたけど、実際逃げたり隠れたりが上手かったから最年長で生き延びてこられたのかな……


夕食もお風呂も終えて寝室へ向かうと、シルバーは既にドアの外に待機していて中へ通された。


布団を被って横になりながら、こそっと話す。

「ねぇオクティ、シアンはお酒とかおつまみみたいなものが好きみたいだったけど、シルバーって何か好きなものありそうかなぁ?」

「特にそういうことを考えている様子はなかったな。あいつら全体がもう脅かされずに安定して暮らせる場所が欲しいとしか考えてないみたいだから。今のところはまだ自分の幸せとか考える余裕もないんじゃないのか?」


「そっかあ。早く、ここはちゃんと安全な場所だって思ってくれるようになるといいね」

「急に環境が変わったんだ、慣れるのにしばらくかかるのは仕方ないだろ」

「うん……」


ぎゅっとオクティにしがみついて目を閉じたら、すとんと眠りに落ちていった。

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