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飢えないだけじゃ生きられない(日・水・更新中)  作者: なるねこ


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97/102

97.忠誠の誓い

ちょこっとAI画像生成を触ってみまして。

ep.2にオクティ、ep.10にチョーコの絵をそっと差し込んであります。

想像の一助になれば、というくらいでしょうか。

高山で牛の村以外の村に来たのは初めて。


白岩の村は、片側が物凄い渓谷になってて覗き込むとヒュッとなる。

天人さんにとっては危なくないというのもそうなのだが、どうやら瘴気は下に溜まる性質があるそうで。高台には魔獣が湧きにくいらしく。

特にこういう崖のすぐ近くは全くのゼロではないけどゼロに近い安全地帯なんだそう。


そういえば一応牛の村も丘のようになだらかだけど、大きな草山の頂上にあるよね。そっか……ダンジョンにちゃんと囲まれてない場合は、高台に住む方が安全なのね。


平地のように安全地帯がない地域に住む生活の知恵か。


ルーはご招待に答えてくれてうれしいです!とお出迎えしてくれた。

生まれたばかりだからか両親も揃って家にいてご挨拶。

皆でお土産袋を渡して果物畑の近所に新しい果物畑が見つかったという報告をしたらルーだけじゃなく親までものすごく喜んでくれたけど、喜び方は予想外なくらい穏やか。


本当に雰囲気が似てないというか、いや顔立ちは確かに両親の方が似てるのだけど、雰囲気は確実にフィーの方が似てると思った。


妹だという赤ちゃんは草で編んだ小さな籠に布を重ねて敷いて寝かされていて、めちゃくちゃ小さくてびっくりする。


新生児ってイメージだと3キロ分はあると思ってたけど、頭がちょっと大きめのみかんくらいしかないし、カゴを持たせてもらった感じ……中身入りのワインボトル1本といい勝負。

1キロくらいしかないってこと?


しかも翼はまだ柔らかくて白い産毛しか生えてないけどけっこうちゃんと大きく、身体を覆うように巻き付いてるので、大きな鳥のヒナのよう。


でも、すやーっと口を開けて眠っている小さな顔は今朝生まれたばかりだというのにそこまでしわくちゃでもなくて、髪はまだかなり短いけれどフサッとした輝く金髪。

まつげまで既にたっぷり生えてて鼻筋も真っ直ぐ、天人らしい美女に育ちそうな雰囲気は伝わってくる。


いくらなんでも小さくない?と聞いたらこのくらいが普通だという。竜人の卵も1キロくらいで生まれた直後は小さな竜らしいし、魚人の卵なんてピンポン玉くらいのが沢山だと。


聞いている話と情報を総合すると。すごく小さく早く生まれて、1年くらいで魔力の扱いを覚え始めて、最初の5年くらいは幼体期間。その5年で一気に育って亜成体としてそれなりに自立、生まれて2、30年でちゃんとした成体まで育つ。というのはどの種族でもほぼ共通。


余談だけれど、天人さんも月の満ち欠けで日数を計算できるし、『生まれた子が自力で飛べるようになる』くらいが大体1年だと認識している上。竜人が人間と同じ16ヶ月の年間スケジュールで動くから年月の概念はちゃんとある。


ただし細かい年月を全く気にしないので誕生日とか今何歳とかを覚えている人はほとんどいないらしい。

(年齢に関しては長すぎて数えていられないというのもあるみたい)


天人の子は飛翔は出来ないけどモモンガみたいな滑空はすぐ、本当にひと月ほどで覚えるので、天人の赤ちゃんはよく目を離した隙に床で寝ていたり家具の隙間に入り込んでいたりしてビックリするんだとか。

家の中でもあまり床を踏んで歩かないからうっかり踏んだりする事故はないみたいだけど。掴まり立ちは1ヶ月くらいで覚えちゃうみたいなものか……


ルーもすぐ籠から飛び出して大変だったわよ?と思い出話に花が咲く。


この世界、赤ん坊でもおもらししないから、序盤は授乳と体調管理だけでその点ではかなり楽なのだけど。魔力の扱いを覚え始めた1歳頃からが、特に魔力の強い人族たちはすごい大変らしい。


竜人は最初に覚えるのが身体強化。親の腕とかに掴まっているうちは『おっ、うちの子は力が強いな見込みがあるぞ』で済むけど、目を離すと家の柱や壁や家具を握り潰したりしてしまう。だから1歳を過ぎたら剣や棒を持たせ、外で身体を鍛えまくって力加減を覚えさせる。


天人の場合はまず風の魔法から覚え、テントを吹き飛ばしたり周囲を切り裂いて破壊してしまうため。こちらはもう出来る限り早く飛行を覚えさせ、さっさと同年代グループを作って外に出し、1日中外を飛ばせて遊ばせながら力を使わせ、疲れ果てて帰ってきたらすぐに寝かせ、起きたらまたすぐに外へ連れ出す。


どちらの種族も1歳過ぎたら、亜成体に育つまでは、とにかく毎日疲れ果てるまで外で力を使わせまくる、というのが子供の生活らしい……


子供グループの親たちが交代で付き添いをするので、近所で育った子供たちは皆兄弟みたいなもの。付き添い担当じゃない日の親は普通に家事や仕事をする。


うーん……親は共有、昼に一緒に居ることはたまにしかない、夜は毎晩一緒だけど寝るだけ。1歳からずっと起きてる間中、いちばん成長する4年をずっと同年代のグループと強制的に活動し続けて育つんだ。そりゃ親より友達の方に似るよねぇ。


そんなこんなで色々聞かせて貰えたし、出産直後の家に長居するのも悪いのでお招きはほどほどで切り上げて帰宅。

……の前に、ちょこっとだけ洞窟に寄って、ビールを見せてみることにした。


小人の洞窟で1つ実を出して、すごく苦いので薄めて飲むんだと話すと。ウィスキーを見てて思いついてたんだが、このデカいサイズの酒の実に良さそうなのがあんだよな、使うか?と奥から運んできたもの。


ねじ込み式のバルブというか、100リットルサイズの実に直接差し込んで使える蛇口かな?ネジ山の部分が触れただけで切れそうな鋭い刃物になっているので取り扱い注意だけれど。ねじ込むとけっこうしっかり抜けなくなり、コックを捻るとちゃんと漏れないように止まる。


ただ実の皮はそんな金属みたいに頑丈なわけではないから、あまりずっと使ってると徐々に緩んできちゃうらしい。最初は蛇口刺して使って、中身が減ってきたら樽に移すとかすればよさそう。


1玉100キロある実を持ち上げて樽に移すって大変だから、これはけっこう助かるかも……


1個試しにビアの実へ刺して見せながらドットさんが言うには、直接酒として飲むには苦すぎるし、薄めると酒としては薄すぎるので、これはあくまで割り材の1つであって酒とは認めたくないらしい。


大きい実用の蛇口はサンプルやるから使ってみて良かったらまた注文してくれと10個くらいくれた。


「ありがとうございました!」


新しい果物畑が見つかったから天人さんから手に入る果物が3種とヨーグルトも増えるって話は先に伝えておこうと、夕方にもう一度卸売り倉庫に寄ってから、家に帰ることにした――


***


次の日。

朝に庭に出てみると、イチゴは10粒が赤くなってきてる上に、ホウレンソウがあった空き地部分にもイチゴが蔓を伸ばして侵食を始めていた。

このまま増えていって、庭がイチゴだらけになっても困りはしないけど、そろそろどこかちゃんと広い畑に植えてあげたいかも?


そしてアズキの鞘が4つ、茶色くなって地面に落ちてた。

「あっ!アズキが熟したーっ!」


アズキはこのまま1鞘に10粒。1日に鞘が1つか2つくらいのペースで毎日熟すらしい。

生産量はそのまま木の本数に大体比例する感じなのね?早速凍土の土地のどこかにアズキの林?いや畑って言っていいのかな?トウモロコシみたいに大量に植えて増やしたい!


鞘を拾ってイチゴとアズキに水を撒いて家に戻るともうオクティが戻ってきていたけど……なんとなく難しそうな顔?


「あれ?おかえり、難しい顔してどうしたの?」

「んん、いや施設育ちの奴らにやりたい仕事はあるかと聞いてみたら、何人かにチョーコの護衛をやりたいと言われてな……」

「私の護衛?ニナ達はなんて?」


「純粋な戦闘力や防衛力の面では1人で最新フル装備の5人と良い勝負ができる彼らの方が上と言わざるを得ないから。護衛についてくれるならむしろ推奨するって」

「ニナ達が良いなら今後はいろんな連絡とか調整とか家のことを専門でお願いすることにして、護衛は施設育ちの人にお願いしても良いかも!」


何故かオクティは凄くもどかしそうな顔をしながら長く考え込む。

「なにか気が進まないの?」


「……戦うのが得意な戦闘要員、男ばっかりなんだよな……呪いから解放してくれたチョーコにすごく感謝もしてるだろうし」

ぼそっと呟いた言葉に、ちょっと苦笑してしまった。


「独身の時は心配かもしれないけど、もう結婚宣言したんだし。あの人たちだって毒を飲むのも躊躇しないくらい守りたいパートナーがいるんでしょ?

パートナーを大事にしてる人だけにお願いすれば大丈夫なんじゃないの?」


「……戦闘に関しては、メイド達よりあいつらに任せる方がチョーコの気が楽、だよな?」

「それは、うん。勿論そう」


「――はぁ、仕方ない。護衛はあいつらに任せることにする。忠誠の誓いを受けに行こうか?」

「うん、行こ。ついでにアズキが熟したから、凍土へ植えに行きたい!」


付き添いにはリナをつれて。

魔塔での見張りの仕事もして貰うと決まったから、魔塔と強制労働区画の彼らの住処を転送盤で繋げてあった。


――強制労働地区の外れに集まった824人全員から、チョーコとオクティへ向けた忠誠の誓い。

誰1人声を発さず、跪いてただ祈るような形で、ただ静かな時間が流れるだけの無言の儀式。


ちょっと右手に力を籠めたら、炎人さんのところで見た時は2本あった線が何故か今は1本ずつに。そして今再び白い線が1本増えた……あっこれ、もしかすると主人への忠誠の誓いとパートナーとの結婚の誓いで2本なのかも。


改めて見回すと施設育ちの人たちは全員、赤子まで含めて本当に全員、黒の長袖長ズボンに顔も目以外黒い布を巻いてる格好で揃えていて。その上に魔塔支給の茶色のローブ。

このまま商店街を出入りされたり商会員として混ざって働くのは……うん、絶対に目立つ!


服とか支給したら使ってくれるかな?忠誠を誓ったから、私たちが渡せば着てくれるはず?


なお、専任護衛に立候補したというのはうちに襲撃してきた2人と、宰相さんを狙いに行って逃げ切った1人だった。勿論3人ともパートナーは救出した12人の中にいる。

ちなみにお腹が大きかった子の1人と、目立ってないけど妊娠初期だという若い子と、成人済みの見た目で金目の魔眼持ちの女性がパートナーらしい。


んん……名前はないのね、番号ですらないとは。誰が誰やら分かりづらい!


名前がないのは当たり前と思ってるようなので、区別がつかないとやりにくいと言ったところ。

お互いの顔を見て、3人のことは目の色で『ブルー(青)』『シアン(青緑)』『シルバー(灰)』と呼ぶことに決まった。


ブルーが寝室へ侵入してきた方で、シアンがメイドさんに捕まった方。

秘書さん達から逃げ切ったシルバーだけがきちんと成人してるっぽい見た目の上に魔眼持ち。


シルバーの奥さんは金目の魔眼だから比較的わかるけど、ブルーとシアンの奥さんは2人とも目が似たようなピンクで魔眼でもなくて見分けがつかない……

追々頑張って覚えよう。


とりあえず。まず、実験体とはいえ茶色のローブも常に着用する義務はないので、普段から着てなくてもいい。普通に街を歩けるように全員に普通の白い服の支給をすると話し。

黒髪なのでちゃんとフード付きの生成りのローブや手袋、ゴムで止まる丈夫な靴下など全身の肌を出さずに済むものと、靴底にゴムが入った足音の立たない歩きやすい靴も全員分揃えてもらうようにリナに頼んでおく。


更に、リナの勧めで護衛の3人は貴族のいる場に入る可能性があるし、連れていて失礼にならない程度の服と下に着られるミスリル合金のチェインメイルの上下を追加。

リナはすぐ卸売り倉庫へ伝えに行ってくれた。


服が届いたら着替えて、顔と首に巻く黒い布も外して貰ってと話した時、なぜか彼らから若干抵抗を感じたな?

と思ったら、オクティが口を開く。


「お前達、身体中傷だらけだし、病院へ治療や発語訓練を受けに行くように伝言を頼んだはずだぞ。まだ誰も行ってないな?」

シルバーが不思議そうに首を傾げた。

『手が空いたら行けという指示は受けている。だれも緊急性の高い傷もないから後回しにしていたが。我々の身体の治療は優先的に行くべきなのか?』


「声が出せないのも素顔を晒せないのもこの先不便な時があるし、健康状態も一度ちゃんと確認しておきたい。――じゃあ命令として言おう。

全員。忙しくない奴から順番に商店街の病院へ行って、体調の検査と全身の古傷の治療を受けて来てくれ。発語の訓練は強制じゃないが、今後を考えると受けた方が便利だろうから、希望者は不死族に訓練を受けたいと伝えるように」


無言のままだが目くばせをし合い、子連れや比較的若いグループから先に素早く10人ほどのグループに分かれ、すぐに1つ目のグループは商店街の裏手へ降りる商会員用出口がある方へ向かっていった。入院していた2人が順番に道案内をするらしく、残ったもう1人が次のグループの選定。


どうやら入院していた2人、一般客の通る商店街を歩きたくないと不死族に頼んで、病院の裏口から出入り出来るルートを教えて貰ったそうで。

……まあ、不死族から聞いたのならいいかな、うん。


「えっとじゃあ、服が届いたらみんな着替えて、傷がちゃんと治った人だけ、顔の布を外しておいてね」

今度は皆の抵抗を感じなかった。


ブルーとシアンは傷は治ってるからとすぐに布を外すが、シルバーは外さないので、オクティが直接全身に再生を掛けて治したらすぐに外した。


3人の布が外れた姿を見ると、意外にも顔の作りはそこそこ甘めの整った顔立ち。一切ピクリとも表情が変わらないのでとっつきにくそうな顔に見えるけど、ちょっと笑えば可愛げのある感じなのに勿体ないなぁと思う。


じ、とオクティから視線を感じてそっちを見るけど。

『オクティ顔の方が見ててドキドキするけど……』とは流石に言えないし伝わったら恥ずかしいのですぐ目を逸らした。


ちょい、とオクティに肩を引かれて顔を上げると、わざわざ向かい合わせで立って目を合わせられ、段々恥ずかしくなり目が泳ぎ始めてしまう。


オクティがふっと楽しそうに表情を緩めたのが分かった。

「それでチョーコ、服を揃えて傷を治して、後なにが必要だと思う?」


「あっ。――えっと、私たちとなら会話は通じるっていっても、発話の訓練終わるまで他の人と一切話せないのって不便だよね?テレパシーの原石渡した方がいいかなって」

「確かに喋る方は翻訳機より原石の方がよさそうだ。護衛で付いてくるなら一般人と会話が必要になるかもしれないし、配ろうか」


護衛の3人が寄ってきて、自分たちのことか?という顔で並んだ。


テレパシーの魔石のことを話したら。護衛は秘書や侍従じゃないから喋る必要はないだろう?という。

チョーコたちに付き添って危険があれば排除するだけ。命令されればそのまま聞くし、質問されたり、こっちからの報告がある時もチョーコ達は聞き取れるので……問題ないと思ってるらしい。


常に護衛しかしないわけじゃないし、普通に人と話すこともあると思うと言ってもいまいちピンと来ないっぽく。

それより、テレパシーの魔石というのは似たようなのが他にもあるのかと聞いてきたから、テレポートの魔石のことも話すと、そっちは3人とも護衛に必要だから是非とも欲しいと強めに主張された。


要らないと言っても使うかもしれないからテレパシーも持つようにと。そして普通に使える魔力量もありそうだからテレポートと、オクティ、チョーコの魔石を一式持たせることにきまった。


オクティが全部使い方を説明する。


『この魔石を使ってサーチで探してそこへ飛ぶのか、了解した』

『互いの魔石も作って渡そう』

『グローブの中に縫い込んでおくか』

『主人にも渡しておく』

3人とも使い方を聞いて、テレパシーの魔石を握って数秒確かめた途端、スラスラと普通に喋り出した。


あれぇ?3人とも初めてテレパシーの魔石持ったはずなのに、全然考えがだだ漏れにならない?!

『読まれるのは分かるが漏れるってなんだ』

『相手に話す言葉だけじゃなくて全部に力を流してるのか?』

『なんで余計なところにまで力を流すんだ?』


「うぅっ?!言ってないのにぃ」

「チョーコの考えを勝手に読むな」

『……』

3人揃ってこくり。と頷く。


それぞれからも自作魔石を貰ったんだけど、オクティ以外の魔石は、全く区別が付かない。

同じ黒に見えるのに、握っても力に触れたところが甘く溶けるような感覚もないし、魔力が落ち着いて安心する感覚にもならないし。なるほどこれが相性の差ってやつ??


……オクティが普通にセットで持つみたいだし、私は多分使わないよね。1個ずつ名前を書いた紙に包んでアイテムボックスへ。


その間にオクティが暴漢は殺さずに捕縛するとかあれこれ注意事項を話している。

「3人とも、テレポートで勝手についてくるのは良いが、掴まって一緒に移動する時はチョーコじゃなく俺に掴まれ。

勝手にチョーコに触ったり、寝室とか水場を覗いたやつは燃やす」

こくり。


「家に出入りする時はメイド達の誰かにちゃんと顔を見せろ、特に夜」

こくり。


「あっ、護衛って外出の時だけじゃなくって夜もつくんだ?」

こくり。


「……3人とも急に喋ってくれなくなったけど何で?」

3人がちら、とオクティを見る。


「話そうとしてチョーコに集中するとチョーコの考えを勝手に読みそうだからだってさ」

「えぇっ?!やっぱり私の考え漏れてるんじゃん?!」

ふるふる。と3人が首を横に振った。


「漏れてるわけじゃなくて、集中すると読めるだけだから。出来るのは俺たちくらいかも」

そうかな?と首を傾げた後、こくり。


「いや今!けっこう誰でも読めそうって思ったでしょうっ?!」

一斉に目を逸らされたあと、こくり。


「うぅー、いいよもうっ、こっちで聞き取られないように頑張るもんっ!ずっと勝手に読まれるのは困るけど。用があったら話しかけて貰って良いし、話してる間は聞かれててもいいから、普通に話して!」

『『『了解した』』』


「な、なんか分からないけど何かくやしいっっ!えぇ私、そんなに読みやすいの……?」

「こいつらや俺は魔力操作がかなり得意だから読めるってだけだよ?

考えが漏れてはいないから、普通の人間にはテレパシーの原石渡したとしても、読まれることは無いと思う」


「読みやすいのは否定しないんだ……むぅ」

でも、オクティに頭を撫でて貰って少し落ち着いてきた。


「あ、3人の護衛分の給料とかってどうなるの?」

『給料?必要なものは全てそのまま全て支給されるのだろう?』

『欲しいものといえば、監視されていない安全な住処くらいだが』

『あぁ、寝る時間以外にも自由時間があればなおいいな』


「べつに自給自足で自由に暮らしたいならそれでもいいんだけどね?」

「基本は魔塔で生活費の予算をつけて、その中から必要なものを買ってもらうことになるが。

……わざわざ俺に話を通さなくても、個人的に必要な細かいものも含めて全部、直接商店街か倉庫に問い合わせしてもらえば良いよな」


『主人の許可を待たずに仕入れをしていいのか……?』

「必ず俺を通すとなると、休みに入ってすぐに食べたい物が売ってても、次の護衛の時間の後まで食べられないとかあるだろ」

『『『売っている食べ物を食べる?』』』


「――あ?!私たちに忠誠を誓ったからって、何かを売ったり買ったりするにも全部許可がいるとかじゃないからね?!」

根本的なところから説明が要りそう。


施設育ちの人たちは全員私たちの所有物だとか奴隷のつもりはないし、勿論必要なものは揃えるけど、ちゃんと働いて貰ったら他に給料も出すこと。

休みも取ってもらって自分が食べたいものや着たい衣服を買って良いようにするとか、そういう話をしていった。


『支給品の他に給料も出す……?』

『休みを取っていい……?』

護衛の3人や魔塔の監視を任せた人たちなんかも『3交代で寝て、それ以外は全て働く』気でいたらしいし、他の人たちも『寝る時以外は仕事の時間』の認識だった。


3人護衛を選んだのも、交代で寝てあとの2人が常に付く予定だったと。


魔塔の監視は広いから同時に数人いた方が良いだろうけど、チョーコの護衛なんかは1人付いててくれたら充分。

ちゃんと休みらしい休みを取って、自分たちで負担のないシフトを組んでほしいという説明をする。


ついでに、時間の理解とか読み書き計算の能力について確認すると、まず時計は読めてる。共通語も全部読めるけど書いたことはない。数字の計算は出来るけど貨幣は持ったことがない。


よし。まずお金の計算と使い方は覚えておいて貰おう。


いきなり全員にお小遣い配ってもあれだから、まず代表者とか年長者とかがいないかと聞くと、現在の代表者はオクティ、最年長はシルバーらしい。


「――え。最年長って100歳越えが3人いるって聞いたけどシルバーがその1人なの?!」

こくり。


『年齢は132になる』

30代くらいかと……

『老化が現れるのは数十年先まで寿命が近付いてからだろう?』


なるほど。思えば宰相さんとかミラルダさんだって若々しいけど孫やひ孫がいるんだもんね。

魔力の高い人の外見は平民の20代くらいで止まる感じなのか。


じゃあ一番数字の計算が得意な人はと聞いたら、普段全体の食糧配分とかを担当している女性2人を指した、その2人が122と103で最年長組の残り。


年上の方はさっきシルバーの奥さんだと紹介された金目の人で、もう1人はシルバーと同じ銀色の目だけどこちらは魔眼じゃなさそう。

ちなみに銀目の彼女のパートナーは皇帝を襲撃して死亡した3人のうちの1人だったので今はフリー。


一応この最年長3人組が集団のまとめ役みたいなものでもあるらしいので、女性2人も名前を考えた方がいいかな。


うーん、呼び名を目の色にするとシルバーと被っちゃうな。キンコとギンコとかは安直すぎる?

『キンコとギンコ?別にどう呼ぼうが構わないと思うが』

シルバーが女性2人に目を合わせて手を動かすと、2人とも数度頷いてこちらを見る。大丈夫、というようにじっと目を合わせられた。


『私がキンコ?よろしくおねがいしたい。私たち表情固まってるから、多分愛想がないと思われそうだけど、大丈夫かな、嫌われないか心配。目を見ればちゃんと聞こえるからって言われたけどこれでいいの?感謝してるし、長く仕えていきたいと思ってる』


『ギンコと呼ばれたら私のことね?この人たちが、あの施設を潰してくれた。凄く嬉しかった、沢山働いて返さなきゃね。……目を見れば了承してると伝わるって?ほんとうに伝わってるのかな?』


確かに表情はピクリとも動かないんだけれど、ちゃんと心の中では喜んでいたり色々考えているんだなというのは分かる。


「えっと。キンコ、ギンコ、あなた達もこれからよろしくね。あの施設を潰してあなた達をこっちへ連れて来れたこと、凄く良かったと思ってる。色々手伝ってもらうことになると思うから、よろしくね」

『『あ、本当に伝わるのね。よかった。頑張って働くわ』』


他の人たちは自発的には話しかけられないので、あとは護衛の3人が言葉を伝えてくる。


『あそこから出てこられたことは我々全員、感謝している』

『我々は、受けた恩は身体で返す主義だ。主人の利になる仕事はさせて貰う』

『必要なものを揃えて貰えば何でもやる』

「うん。よろしくね」


オクティから、ほら、やっぱり会話も必要だろう?しっかり休み時間が取れるようになれば手も空くだろうから、発語訓練を受けるようにと勧められて皆も頷いていた。


今現在、かなり多数の妊娠中の人がいるけど、これまでは出産ノルマがあったのだそうで。毎月2人以上、最低年間32人以上産むことが義務付けられていて。そのうえ砂に埋められたせいで流れたとか事故があっても関係なくノルマより少なければ酷い折檻という環境だったから、いつも多めに子供を作っていたらしい。


1歳から魔法、5歳から戦闘の訓練を開始。10で男女ペアを作っていってお互いが依存するように他には救いも娯楽もない環境にされ、15で初仕事。そこからは主にお互いで殺しあってどんどん減るけど、30くらいまで生きのびた人は大体その後も生き延びやすいのでそれ以降の減りは落ち着く。という感じだったみたい。


ちゃんとした誕生日とか知らないし興味もないけど育った施設が1年ごとの年齢別で区切られていたので、正月に一斉に年を取るカウントで年齢だけ覚えてる。ブルーは18でシアンは24だという。

実年齢的にはブルーとオクティ、シアンとチョーコがほぼ同じくらい?……背が低くて痩せてるせいかな、ブルーとシアンはメイドさんたちと同じ10代前半に見える。


「えっと……今の立場は魔塔の実験体だけど。アスラから回収した資料がいっぱいあるって聞いたから、交配実験に関してはもういいよね?無理に増やす必要もないと思うし、もう危険な任務で減ることもないから。出産ノルマは無しにしよう?

今後は子供は無理せず自然に任せる。男女ペアを作るとか作らないというのもこちらで強制はしない。もう子供がいるパートナーは大事にしてあげるべきだと思うけど、それ以外は付き合うも別れるも自由にしていいよ。

――そういう感じでどうかな?」


オクティを見る。

「それでいいんじゃないか?俺はチョーコに横恋慕さえしなければ口出しする気は無いぞ。

施設で強制されたパートナーと相性が悪ければ、本当に好きな奴と組み直すなり一生独り身を貫いてもいいし。

他の人間との交際は、黒髪の成人済みは魔塔にしかいないから難しいが、仕事で稼いでから商店街で不死族と遊ぶとか、彼らの伴侶の道を選んでも自由だ」


『『……了解した』』


――リナが服を持って帰ってきて、数が多いものは仕立て次第届くと言いつつ、まずは護衛の3人分。

チェインメイルシャツの上下と貴族の護衛としておかしくない服とローブ。せっかくなので3人に着替えてきてもらう。


それからリナに、彼らは今まで貨幣を握ったことがないらしいので、シルバーたち年長者を中心に金銭関係のことを教えて、自分で資産管理が出来るようにしたいと言ったら、経済をちゃんと教えられる人をここへ派遣してもらえることになった。


「各自の財布の袋も手配のお品に追加しておきますわね。彼らは魔塔の実験体身分ですので、収入は全て魔塔に入ってそこから分配ですわ」

「私や商会を手伝った分は、稼いだ分をそのまま貰えるわけじゃないのね?」

「えぇ、彼らは商会口座も作れませんし、冒険者のようにゴブリンや魔獣の核を販売して直接現金収入を得るわけでもないので、全て魔塔を通すことになりますわね」

「魔塔に入る分は俺が把握できるから、そのまま予算につけるよ」


『服装はこれでいいのか?』

タートルネックで首まできっちり覆うウェアの上に仕立てが良さそうに見えるベストジャケットとしっかりプレスされたズボン。ローブ無しだと執事と言われても納得出来そうな格好、連れ歩いても貴族の店を追い出されることはなさそう。


「あ、うん、良い感じだと思う!動きづらかったりはない?」

『ない。靴の素材や縫製の技術には驚いた。この防具も高品質だ』

身動きのしやすさを示すようにひょいひょい、と予備動作もなしで宙返りをして見せてくれる。ひらめく裾から覗いたズボンの後ろに両側から抜けるように短刀を数本仕込んでいるらしい。


ローブは白より茶の方が落ち着く。実験体身分だと分かることにデメリットはない、護衛中はそっちを着ると言い、3人とも茶色を選んで着る。

「落ち着くのならいっか……」


いままでずっと真っ黒だったのがいきなり真っ白になっても落ち着かないかもね。


誓いの挨拶もしたし、アズキを植えに行こうってことになって。

リナから今開拓中の所は街道予定の場所が中心なのでその周辺にしましょうと案内され。

凍土の回復作業を兼ねて、魔獣の核を出そうと見たら……思った以上に大量に溜まってた。


そういえば最大ダンジョンだとか、なんやかんや大量に天人さんたちから貰ったりしてたの、またすっかり放置してたね。


折角なので施設育ちの人たちに手伝って貰おう!

凍土に撒いて耕してほしいと頼んで魔獣の核をドカドカ積み上げて山を作っているだけで、黙ってどんどん運んで砕いて撒いて耕して、と作業をしてくれる……


街道予定地を挟むように畑を作っていこうかな?


充分に撒いて貰ったところへ、持ってきたアズキを1粒ずつ丁寧に埋め。大体2メートル間隔くらいで等間隔に埋めたら水を撒いていく。


……明日から毎日アズキが実るのを持ってくるから、テレポートでも来られるように目印を付けていると。


シルバーがここに転送盤を置いてくれと話しかけてきた。


『土地の回復作業というのは、核を砕いて撒いて耕すだけ、アズキは植えて水をまくだけだろう?やっておく』

「いいの?じゃあお願い!植えたアズキが育ってたくさん実るようになったら、落ちてきた鞘は拾って自由に茹でて食べたり植えて増やしたりしていいからね!」


そして。

よし、じゃあ帰ろうとリナとオクティと手を繋いでテレポートで自宅へ帰宅したら、シアンだけ着いてきて……ふっと光学迷彩で姿を消した。


「あっ、消えなくていいよ!交代の時間とか食事の時間とかは決まってるの?」


再び出てきたシアンを食堂に座らせて話を聞いてみたら。だいたい朝のベルと夕のベルの辺りで交代して半日ずつ護衛を担当、食事はいつも木の粉とコップを持ち歩いてるので支給不要。今は話をすると言われたから姿を見せているけど、普段は姿を消して近くにいて、寝室と水場はドアの外で待機してるから目汚しも邪魔もしないという。


「目汚し……もしかして前は顔を見せるなみたいに言われてた?

ここでは違うからね?そもそも姿隠しててもオクティには居るの分かるし。姿は消さなくていいよ」

「そうだな。なにか怪しいものを見つけて隠れて追跡するような時以外は普通にしててくれ」

『了解した』


そして、リナが帝国における『護衛』としてのマナー的な決まりごとについてをザラッと説明していく。

ふぅん『従者』は店の中やお呼ばれで貴族友人の家に入る時も中までついて行けるけど『護衛』だと基本は屋外待機なんだ?室内までついて行きたいならマナーを覚えて従者を名乗れるようにするのが先と。


シアンは扉の外からでもなにかあったと思えばテレポートで飛び込むので問題はないと思っているけど、丸暗記しておいて、あとで他の2人とも相談するらしい。


「……あ。薬屋さんの納品にもついてくるなら、碑文に誓ってないこと説明しなきゃ」

『不死族との関わりに主従以外の誓いが必要だと?どういう誓いだ?』

重い方の碑文を出すと、やや渋い顔をした。


「チョーコ。代償が重い誓いである必要はあるが、不死族への攻撃性はないと示せればいいんだから。彼ら用の文面を用意するのもありじゃないか?」


シアンが少々まどろっこしい様子でつまり何だと詳しい説明を求めてきたので、チョーコの右手に付いている炎の印の仕様についてからちゃんと説明し、不死族にとって重要な施設まで踏み込むならば、不死族に危害を加えたら本人の魔力を全て失うと誓って貰うと言うと。


左手の手袋を外して袖を捲った腕をチョーコの前に出す。

『代償が他のやつを巻き込まず自分の力だけなら問題ない。主を危険から守る為の行動を除き、全ての人族に危害は加えないとここに書け』


直書き希望?!


「おい、シアン本人や仲間の安全も大事なことだろう?主人に限定せず『防衛に必要な場合を除き、人族に危害は加えない』でいいじゃないか」

「あっそうだよね!オクティの言う通りだと思う。えっと……うん、じゃあそれで……ほんとに直接書いていいの?」


シアンは迷いもなく頷いたので、指で腕の上をなぞって共通語で書き込んでいく。じわわ、と焼き焦げたように皮膚の色が変色していくのが見ていて痛い。


「炎人さんが直接書くのは痛くないって言ってたんだけど、本当に大丈夫?」


『焼印くらいの痛みなら耐えられるから構わんと思って受けたが。本当に全く痛くないな……変な感覚だ』

「え。痛いつもりで、やるって即答したんだ……」


見た目は完全に皮膚に焼き付けたように見えるけれど……本当に痛くないらしい。本人は興味深そうに書かれていく文字を目で追う。


書いていて分かったけれど、炎人の誓いを身体に直書きされている人は、毒による洗脳効果を受けることがなくなり、特に不死族の毒については魅了の強制なども一切効かなくなる。

ただし不死族の『伴侶』による魔力の上書きをされると炎人の誓いや呪いの方が打ち消される。なるほど、魔人族と不死族は互いの力を打ち消せるってそういうことでもあるのね。


『ふむ、それはむしろ好都合だな?何やら黒髪は不死族に好まれるようだし、強力な魅了の毒で篭絡されるのは不本意だ。残りの2人だけでなく、希望者がいるかどうか聞いておこう』

誓いのタトゥーを入れるのに一切躊躇ないのねと思いつつ、手袋を戻す。


昼前のベルが鳴るのが聞こえた。

「……あ。ビールの話はまだどこにも報告してなかったかも」


ふと思い出した――今日は、それをやろうかな?

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