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飢えないだけじゃ生きられない(日・水・更新中)  作者: なるねこ


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96/102

96.ビール発見

目が覚めたらもうすっかり明るくて、ベッドのカーテンが全開。


その前の日が酔った上に寝不足だったし連日魔力を使いまくったし、確かに疲れてはいたかも。


隣にオクティがいなかったから、サーチしたら魔塔だと分かって。


起き上がったら寝すぎて背中が痛い……伸びをして、ベッドを降りようとしたところにパッとオクティが現れ、むぎゅっと抱きしめられた。


「おはよう。よく眠れた?不死鳥の羽根はまた魔塔で管理することにしたよ」

「おはよう……そうなの?」


「施設育ちのやつらは俺の下につく以上、仕事はするって。何人か実験資料室の見張りとして仮眠室に3交代で寝泊まりして貰うことにしたんだ」

「早速働いてくれるんだ、よかった」


「うん、あと。録音石が商店街のリシャールさんから届いててね。昨日出発前に怪我が酷かった2人を病院に運んだろ?血の匂いに当てられたヴァンパイアが数人、吸血衝動起こしてちょっと揉めたらしい」

「え、大丈夫だったの?」


「大丈夫。碑文に誓ってたおかげで、暴走状態であってもちゃんと自分で『まず本人の了承を取らなきゃ』って踏みとどまったから、いきなり血を吸ったり攫うような真似もしなかったんだって。あの誓いの碑文を不死族にも徹底したのは正しかったってメッセージだった。

軍関連の搬送ってことで人払いもしてたし、被害的には入口奥の治療室の壁が一部、その人達の強引な突入で壊れたくらいで、処罰も月末のご褒美無し程度で済んだらしいよ」


「搬送された2人の容体は大丈夫?」

「それはもう手厚く処置されて、傷はすっかり塞がったってさ。血が足りてないからホウレンソウとニンニクを食べさせながら検査してるけど、すぐ出られるって」


「そっか、よかった。あの人たち全員、古傷が多いでしょう?一度全員の治療を頼もうかなって思ってたから。怪我人見たら暴走しそうって聞いて心配になったけど……たとえ暴走しても誓ったことは守れて冷静でいられたのなら、任せていいかなぁ?」


「発語の訓練とか、手間も時間もかかる治療が必要だもんなぁ」

「うん、その辺りもお願いしたいよね?」


コツコツ、とノックの音がして。起きたのでしたら朝食はいかがですかと声がかかる。

あ。急にお腹が空いてきた。元気に鳴ったお腹の音にちょっと赤くなる。


「ふふ、昨日は大変だったからね――行こう?ミナが色々作ってくれてるよ」


着替えて下へ行って時計を見たら、朝のベルどころかその次が鳴りそうな時間。

えっ?夕方6時に寝て朝8時?14時間も寝てたってこと?!


メイドさん達はまだまだ忙しいみたいで、ミナ以外全員外に出てるっぽいし、自分だけ休ませて貰ってるみたいで申し訳ないけど、遠慮なくミナの朝ごはんを頂く。


胡麻たっぷりふわふわ平パンと豚肉を赤ワインとスパイスで煮込んだワイン煮に薄切りキュウリ、きなこ豆乳、カットバナナにチョコレートソース。

いつもよりかなりたっぷりめに見えたけどぺろりと完食。


「ふわー。やっぱり作って貰える美味しいごはんはありがた過ぎるぅ……昨日忙しかったのに、よく色々作っておいてくれたよね!」

「いくつか下ごしらえだけはしてありましたし、圧力鍋があれば朝から作っても間に合いますのよ。他は切るか焼くだけ、素材の力ですわね」


「ううん、すっごい美味しかった。昨日から今日までで、何かあった?」


「国際的な協議関連はまだ色々と途中ですが。まず、不死族の方々は、凍土に住み始めた彼らの気配を感じていらっしゃるようで。強制労働地区は不死族立ち入り禁止ですから近付いてはいらっしゃらないのですが、時々来てくれないかと、そわそわしていらっしゃる方が多いようですとか……」


「魔塔の実験体って正確には帝国民ではないっていうか、戸籍がないみたいな感じ?お手伝いなら商店街のお仕事も出来るの?あ、古傷が酷い人とかが結構いっぱい居るし、まだちゃんと喋れないし、仕事するより先に順番で病院へ治療に行って欲しいかな」


「商会への就職は出来ませんが、オクトエイド様の指示で作業は出来ますわね。全属性の高魔力ですから色々器用にこなせそうですし、求人募集があれば魔塔へ提出しておきます」

「それなら俺の方で届いた分を見ておくことにするよ。作業分の支払いは魔塔の予算に付けるように伝えておくね」

「うん、よろしく!」


「黒髪の方々全員の治療は不死族の皆様からも喜ばれそうですし、要請を出しておきますか?」

「頼んでおいて貰える?」

「承りました。

――あ、先日のホウレンソウに関してレガリアから返答がありましたわ。こちらが種を手に入れていることを知ったらすぐに全部手放して条件を全て受け入れると選択されましたので。コンヴィニ商会が一括で権利を全て買い取りました。精製済み薬剤の継続的な提供や兵士の治療もお約束しております」


「もう精製してない危ない薬が出回らなくなるならいいね。中毒治療は大丈夫そう?」

「元々が軍に管理された薬物で、日常的に摂取するようなものではございませんでしたから。殆どは自宅での投薬治療だけで済むようですよ」

「それなら良かった!」


「それと洞窟からの要請により、時計は全て補助針付に差し替えとなりました。以前の室内時計も全て無料で補助針付にして頂き、大時計3個の文字盤を直す件も国に許可を取りニナが付き添い。

追加の室内時計20個については、帝国との連絡用の通信石と共に同盟各国、村や分地も含めて最低1つは配備すると決まりましたので、配り切った上に追加の発注も掛けておりますわ」

「あ、ちゃんと使い道があって良かった!」


「商会からはまた発注が色々ときております。まずウィスキーが千本、ワインボトルは元が素晴らしいので薄めるのが勿体なく、カクテル開発はなかなか進んでおりませんが。調理関連ではもうあちこちで是非欲しいと要望が強く、赤白どちらも追加で千本ずつ頂きたいそうです」


ワインはおととい初めて見せたばかりで、昨日はアスラと開戦するかどうかということがあったはずだけれど、商店街は平和だったらしい。

転送盤で飛んだ先の話だったし、昼から夕方までの半日で終わったもんね。


いや、そんなことよりも、新しく入って来たヴィンテージワインの扱いについてや、調理やカクテルへの使い道など。こちらはこちらで別の戦場が繰り広げられていたってことかな……


なお、火を通すとアルコールが飛ぶのはこちらでもそうで。煮込んだりフランベしたりして揮発させれば強いお酒を薄めずに使っても酔っぱらわないものが仕上がると発見されてから積極的に煮込みや焼き料理などの風味付けに使われ始めたという。


ブランデーとかも熟成が浅いものがあればお菓子作りに使えそうな気がするね……


もちろん、加熱により揮発したアルコールは人間にとっては有毒ガスなので、調理場の換気にはかなり気を付けなくてはいけないんだけど。


ミナに聞いたところ。

元々、火付けや火加減の調整とか水差しでお湯を湧かすくらいならともかく、調理自体を全て自前の火の魔力だけで出来る人間なんて居ないので。調理場は薪を燃やすものだし『かまど』と『換気設備』は必ず一緒に設置するのが当たり前。


少なくとも現状は心配いらないみたい。


「ならよかった。納品、数が多いから倉庫に直接行って入れてこようかな?」

「お手すきでしたらお願いします」


――外出用の恰好に着替えてオクティと一緒に卸売り倉庫へ行くと、今日はマイクの方が事務室にいた。


「お待ちしてましたよオーナー!いやいやいや、新しいお酒、ワインですか?!あれは香り、風味、色合い、他の食材との調和!どれをとっても素晴らしかった……。ただ水やソーダで薄めるだけではもったいないのでカクテル開発は時間を掛けさせて頂こうと思うのですが。調理部門がどうしても使いたいと強く要望が出ておりましてね」


「こんにちはマイクさん。裏手で調理に使うだけでしたら、ワインはボトル詰め前のものがありますけどどっちがいいですか?殻が付いた状態だとあの蛇口付きのガラス樽1個分で丁度くらいです」


「あぁ!あの樽も大変便利で、調理部門では酢やオリーブオイルなど液体関連はあれを揃えているんですよ。あのサイズに丁度いいとおっしゃるなら勿論そのままで結構ですよ!あの殻から取れる染料も、丁度赤ワイン白ワインイメージのカラーリングで、焼き菓子の包装ですとか、そういったものにそのまま使えて大変よろしいですよね」


ボトル無しの実のままだと多少お安くして頂けるんでしょうかと交渉が入ったおかげで判明。チョーコに入る素材費は、ウィスキーボトルは1本ミスリル1枚、ワインボトルと殻は合わせて金貨65枚なので、実のままのものは16本分だと1040枚ですが、きりよくミスリル10枚でどうですかだそう。


交渉とか無理だし、勿論いいですよと答えておく。


3割くらい貰ってるじゃん……と内心ドキドキだった。アイデア料だけだと5%とかだったからその感覚でいたけど、そっか仕入れ値だから全然違ってたのね。


軽くオクティにほら納品しよう?と背中を撫でられて我に返る。

分量的に千本分というと60個ちょいくらいかなと言われて、詰める前の赤と白をそれぞれ出し。

ボトルワインも酒場でも欲しいけど、自宅用にもボトルのままの販売希望があるというので更に500本ずつ出し、ウィスキーのボトルも千本――


言われるままにポンポン出していった。実のままで売る場合の値下げ幅を見ると、あのワインボトルに入れるだけで金貨2.5枚分の価値があるってみなされてるってことに……いや実際そのくらい払ってもいるね。そもそもこのボトルって使い捨てじゃないし、完全に規格均一なボトル自体にも価値がある。


なおウィスキーのボトルがミスリル3枚で売ってると聞いた時も驚いたけど、ワインの方もミスリル2枚で売り出すらしい。こちらは酒場とかでプレゼントすることもできるけど、直接人間が自宅用に買っていく目的で絶対売れる。ヴィンテージワインボトルに関しては、現物を自分で持っているというだけで自慢できるという類のものになるはずだと。


大人の貴族の新しい楽しみとして開かれるようになった『お茶会』ならぬ『飲酒会』というのがあるそうで、そこにこのワインボトルが出てきたらもう一躍大人気。絶対売れますから!と力説された。


なにそのホームパーティーで生ハムの原木が出てきたら人気者みたいな扱い。

――あ。いや、確かに100万とか200万のヴィンテージワインを持ってたら無茶苦茶自慢できるみたいな話、向こうにもあった気が?


こっちのワインは本当に少量ずつしか飲めない強いお酒だし、大人数で分けられるからむしろコスパいいのかもしれない??


色々と驚きつつ気を取り直して。


マイクには、このワインはしっかり熟成された古いもので、そのうちヌーヴォーワインが取れるようになったら取りに行ってくる予定、そちらはフルーティーな熟成の浅い感じのものが取れると期待しているという話や、熟成が浅い方は蔓草なしのボトルに詰めて持ってくる予定という話をしたら興味津々。


ウィスキーや他の酒もそういうのはあるのかとあれこれ聞かれ、そのうち見に行ったら教えますとか、ヌーヴォーワインは熟成を待たない分、集めやすいので少し安めに卸せると思うと、金貨60枚とミスリル9枚に下げる約束をしたり。


話しが長引くほどに、染料増産しててニガブドウが足りません、白ゴマ、黒ゴマ、豆乳も数箱、オリーブオイル、メープルシロップ、各種蝋石、スイカも在庫が減ってますね、そういえば影猫の増殖が予測より早くてハーピー肉の仕入れがちょっと遅れていましたとか、段々納品物が増えていく。


――凍土の後退していく速度的に、近いうちにまた数軒ずつ商店街の延長工事をする計画ではあるけれど。影猫カフェみたいに今の時点で既に席が埋まり過ぎてるお店がかなり多くて。順次、それぞれのお店の地下に二層目を掘ってお店の規模自体をを広げていっているらしい。


そっか、下に掘れば何階層分でも広げられるんだ。拡張スペースがちゃんと確保されているのはいいよね。


「あぁ!そういえば、リリアンが14日のビューティサロンでトータルコースの予約を取って頂けたと、大変に喜んでおりましたよ。是非お礼を伝えて欲しいと申しておりました、あれは長時間で1日に受け付けられる人数が限定されているスペシャルコースですから、人気過ぎて既に数ヶ月先まで予約枠は埋まっている状態なんですよね。それこそオーナー権限で開店前に枠を押さえておいていただけたからこそ体験できると言っておりました。ありがとうございます!」


「え、あ、そんな感じだったんですね?実はあまり内容を把握はしていなかったんですけど、うちのメイドさんが絶対に良いって凄くお勧めしてくれたコースなんです。喜んで貰えそうなら良かった」


どれだけリリアンが喜んでいたかと、のろけ交じりの報告を早口で語り尽くす彼は満面の笑みで幸せそうだったので微笑ましく聞きつつ。

そろそろ充分に納品もしたし、切り上げて薬屋へ移動することに。


薬屋の倉庫で今日作業をしていたのはリシャールさんだった。


「おぉ2人とも。昨日は刺客に狙われたり人間の国同士の戦争が起こりそうだったり、色々大変であったと聞いたが、見たところ息災のようだな」

「こんにちは!こちらの病院も大変だったってオクティから聞きました。一昨日ダンジョンに行って見つけたもの、一応薬効はあるみたいなのでこちらにも持ってきたんですけど」


きゅうりの壁一面分の塊を引っ張り出して見せる。

「あぁ、これはさっぱり系の化粧水が作れるな。ルーズベリーと合わせて強めの吐き気止めにもなるから、この塊ならあと2つほど引き取ろう」


「じゃあこれと。あと……すっごくただのイメージなんですけど。なんとなく不死族の人ってワイン好きそうな気がしていたので、差し入れです」


ワイン?と言いながら赤と白のワインボトルを見て、リシャールさんが奥の机から2つのゴブレットを出してきた。仕事場で普通に個人所有のお酒のグラスがしれっと出てくる……


ミラルダさんに貰ったグラスと同じような雰囲気の、かなり精緻な彫りの入ったクリスタル製だと思うそれに、それぞれ注ぎ。揺らしてから目を閉じて香りを楽しむ仕草も、透かして色合いを見てから味見をする仕草も似合う。


「あぁ……なるほど。確かにこういった系統の香りは……。うん、とても好ましいな。アルコールとしての効果を狙ったものではなく、純粋な嗜好品として非常に美味い。

特にこの品は深く熟成した風味、瘴気化する直前の肉のような旨味。そして何よりこのボトルが美しい……酒場での販売を期待するとしよう。よい酒のボトルを2本も持ってきて貰ったからな……この辺りはあまり香水向きではないし薬効も微弱だが、料理に使えるものだと思う」


ワインの代わりにと、それぞれ籠に入った『シソ』『バジル』『パクチー』『ローリエ』を貰ってしまった。

「わ、ありがとうございます!」

あとでミナにあげようっと。


不死族の人たちで何か困ってることありますかと聞くと、むしろ待遇は良すぎるほど。小人が持ってきた王と女王への手土産も、元はチョーコ殿が知り合いの天人に力を籠めて貰った魔宝石だそうだし、チョーコ殿の方で困っていることがあるなら遠慮なくという。


今は黒髪の子たちの傷跡が酷いこととか、発語練習のこととかが気になってるのでそのくらいだと伝えたら。

もちろん本人たちが望めば治療も訓練も手伝うので、いつでも紹介して欲しいと言ったあと。それでは結局チョーコ殿への礼にはなっていないなと苦笑されてしまった。


何か必要なことが出てきた時にお願いしますと言って話を終えて帰りかけた所で、オクティが思い出したように声をかけてきた。


「そういえばチョーコ。施設育ちのやつらが、俺たちに忠誠の誓いをしたいって言ってたんだけど。受けても平気か?」

「忠誠の誓い?」


「うん、施設育ちのやつらは全員、碑文への誓いは重いのも軽いのも拒否するって言っててさ。俺たちに直接忠誠を誓いたいって」

「え??んっと流石に、私たちのことは守るけど敵なら容赦なく殺していいみたいな感じだとちょっと困るよ?」


「あぁいや。人族に危害を加えるなとか、取引相手から搾取はするなとか『俺たちの指示』には従う。ただ単純に誓うなら直接俺たちに誓いたい。それが例えエスだろうと炎人の碑文だろうと、他の何かに誓うつもりは一切ないってこと。

チョーコが嫌じゃないなら、入院してる2人も含めて、凍土の強制労働地区で集まりたいってさ」


エスのことすら認めたくないっていうのは、この世に神も仏もあるものか、って感じなのかな。

「あ、うん……分かった。それなら今はまだ2人が病院だから、明日行ってみる?」

「分かった明日な。じゃあ、今日はまだ昼にもなっていないし、軽くどこかに行こうか?付き合うよ」

「良いのっ?じゃあ高山行きたい!」


一旦家に帰ってハーブ類をミナに預け。山へ行ってくるねと言付けてから牛の村へ――


***


今日はフィーが1人で待っていて、2人を見ると「あっ、チョーコとオクティが来ましたね!遊びにいきますよ!」と寄って来たが、喋り方でルーかフィーのどちらかっぽい、としか分からずにいたらオクティが「今日はフィーだけか、ルーは一緒じゃないんだな」と声を掛けてくれた。


「ルーは今朝、妹が生まれたのでおうちに帰ってます!」

「わ、そうなんだ?!おめでとうだね」


「はい!お祝いに今日は美味しいもの探して持って行ってあげましょうね!」

「お、美味しいものがあるかは分からないよ?今日はすぐ終わりそうな小さい所へ行こうかと思ってたんだけど……どこか良さそうなところある?」


えぇー!とフィーが不満げに口をとがらせて説明することによれば、小さい所では今見つかっている以外の甘い美味しい実を見たことはなくて、せいぜい最下層に酒の実が何種類かあるくらい。


「せっかく果物畑の目の前に新しい風の柱が立ったので!そこから近いところに中規模ダンジョンがあるんですよ、そこに行きましょう?!」

と、半ば強制で引っ張って行かれたところは、入り口が岩棚になっていてめちゃくちゃハーピーが住んでいたのだけれど……


例のごとく、チョーコが来ると察した途端、卵を足で掴んで一斉にザザーッと逃げて行った。


「わぁ!言い伝えみたいですっ?!本当にハーピーたちはチョーコが姿を見せただけで逃げていくんですねーっ!」ときゃあきゃあ喜ばれる。

言い伝え……?


――なんか、天人さんの間では『チョーコがワイバーンの大軍の前に姿を現すと、彼らはその目に宿ったエスの威光に恐れをなして尽く逃げだした』みたいな物語調の噂というか、既に言い伝えの1つとしてすっかり広まっているみたい。


気を取り直して中に入ると魔獣はモモンガタイプ。蔓に生っているのはペイントボールにそっくりな手触りと大きさの白いボールで、見たら『ヨーグルト』だった。

名前の割にサラサラした完全な液体だし、乳酸菌飲料って名前の方が合ってそうな気がするけど、実から出して器に入れてしばらく置いておくと、知っているヨーグルトみたいな感じに固まるみたい。これの皮は性質的にはメープルシロップの皮と同じ寒天だけど、ペイントボールのようにむにゅむにゅ柔らかいのでついでに食べちゃっても全然大丈夫そう。


無糖ヨーグルトだから嫌かな?と思ったけれど。フィーは「これは牛乳と似てるしそこまでは酸っぱくないから大丈夫です、甘いのを食べながら飲みたいです!」と思ったより気に入った様子だった。


そして他には『洋ナシ』『レッドチェリー』『マスカット』というラインナップ。

マスカットの本物があった?!……そっか、そういえば説明文にマスカットと味と香りが酷似しているってあったんだから、本物のマスカットも無いとおかしいよね。


毒抜きカラットよりもマスカットの方が香りも味も強いと聞いていたから味見してみたけど、正直チョーコの舌だと甘さは分からない、香りは確かに強めだと思う。生で食べるんじゃなくて、ケーキとかに使うならこっちの方がいいかも?


洋ナシは本当に柔らかく甘くて薫り高くて……すごく好き。レッドチェリーは……あれだ、クッキーとかに乗ってるような真っ赤な半透明のゼリーみたいな見た目でサクランボ味の甘い味と香りが付いている赤い粒。それが、大きなキイチゴみたいな付き方で枝の先にもりっと固まって実っていた。


どうやらレッドチェリーとヨーグルトの組み合わせがフィーの好みに合ったらしく、サラダボウルに使っている大きな石のボウルとスプーンを出して、味見というには多すぎる量をほっぺいっぱいに膨らむほど詰め込んでる。

実ってるもの全部食べられる上に果物畑のすぐそばにあるなんて!とだいぶ嬉しそう。


1層は多分皆が来るから2層から集めながら降りることに。皆に配るというから半分以上はフィーに譲りつつ降りていく。10層もあったけどフィーは全然気にせず付いてきてくれた。


最下層で見つけたのはウィスキーやブランデーと同じように地面に埋まっているタイプの、転がるくらいまん丸い実に詰まった『ビア(度数100%)』という酒の実。ビール?なのに……100%は強すぎるんじゃない?


説明を読むと……平たく言えば、苦みとアルコール度数を限界まで濃縮したビール原液、かな。

一個の実が大きすぎるからちょっと今この場で薄めて試すとかは出来ないんだけど。説明を読む限り、水にほんのちょっとこれを足すと炭酸抜きのビールになるみたい。ほんのちょっとってどのくらいなんだろう。

ともかく、このまま舐めたら死ぬほど苦いんだろうなということだけは分かる。


苦いお酒だと聞いてフィーは一発で興味を失い。上の9層分の甘い果物とヨーグルトだけでいいです、これは全部あげます!と即答。

ここは人間しか関係のなさそうな場所だから、しっかり場所を覚え。

パワーの上がったフィーはサニーさんみたいに部屋中掘り返して実を出すのも、集めるのもやってくれたから、ありがたくお願いする。


そして、集め終わるとすぐに「さぁ終わったしルーのおうちに行きますよ!」とお土産を入れる用の草袋を2つ渡された。


ご招待って向こうから呼んで貰うものじゃないの?と思ったけど、チョーコとオクティが来たら美味しいもの探しに行ってお土産持って行きますからね!と先に宣言してあるらしい。


今日取れた洋ナシとチェリーとマスカットをそれぞれ袋に詰められるだけいっぱいに詰めて、牛の村みたいに遊牧民のテントっぽい建物が20個ほど固まって建てられた、広々とした真っ白な大岩の上。


『白岩の村』に案内されることとなった――

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