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飢えないだけじゃ生きられない(日・水・更新中)  作者: なるねこ


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95/103

95.施設制圧

アスラ共和国へ乗り込むのは国の動きに合わせて昼から。それまで暇だし出来ることはあるかな、と考えていたらオクティが捕まえた2人を指さしてチョーコの方を向く。


「チョーコ、まずこの2人に何かまだ発動してない制約が掛けられてないか、炎人に見て貰うのはどうだろう?」

「あ、それは必要かも!何か変なの掛けられてたりしたら嫌だもんね、ちょっと連れてってみよう」


「「?」」

「「あ、わたくしたちがエスコート致しますわ。こちらへどうぞ」」

何を言ってるか一切理解出来ない顔の2人をマナとルナがにこやかに逃がさない圧を纏ったまま腕を組んでエスコートして、マナ達はそれぞれチョーコの腕に手を乗せる。


チョーコはオクティと手を繋いで6人まとめて魔人の交易所へテレポートした。

「「ひ……ひゅっ?!」」

唐突に周囲の景色が変わって、カッと照らす真昼の太陽。溶岩や黒煙に囲まれた巨大な黒い溶岩石のステージの上。


そんなところへいきなり放り込まれた2人の前に。ふわーっと炎人さんが現れて寄って来ようとするのを見たら、暗殺者たちはあっさり腰が抜けたようで、逃げ腰の体勢のまま後ろへ転びかけるがマナが支えてそっと座らせ。

ルナがにこにこしながら説明する。

「あの方はご主人様たちのお知り合いですから♪怖がらなくても大丈夫ですわぁ」


『しりあい、だと?』

――怖いものは怖いらしくすっかり縮こまって身を寄せ合うように並んでビクビクしている。ただこれは威圧が掛かった時の恐怖じゃなく、単純に驚きすぎて腰が抜けてるんだと思う。


明るい中で見ると2人ともまだメイドさんたちとそう変わらないくらい若そうな少年たちで、上下全て真っ黒の服に顔まで黒い包帯で覆って目しか出ていない。1人の目が薄い青、もう1人は秘書さんの髪のような薄い青緑だった。魔力は凄い高いけど、2人とも魔眼ではなさそう。


「おぉ、今日はなんじゃ?妙なものを連れてきておるのう」

「おはようございます!今日はちょっとこの2人におかしな制約とかが掛かってないかを見て欲しくて来たんですけど、お願いできますか?」


「むーん……お前さん。下っ端が刺客として送られてきたがそやつらを始末したくないから、そやつらを契約から解放してやりたいと望んでおるのか?契約というのは善悪ではないのだ。たとえ理不尽であろうとも、結ばれてしまった契約の破棄には代償が伴う。今こやつらを縛っておる者はプルシュカ・ワールデンとやらで……ぬ?この契約はまだ完成しておらん?しかもこの絡みついておるものは……砂人の呪いで間違いないな。どうなっておる……?」


「プルシュカ・ワールデン?砂人さん達の呪いがこの人達に……?」

「……あ、ヒュ……カヒュ……!(施設長は『流砂の呪い』って石版を持ってて、任務の時は代償に指定されたやつの命を盾に俺たちに命令をするんだ。俺たちが逆らったら、女たちが死ぬぞって!)」

呪いと聞いて心当たりがあるのか、チョーコ達が捕まえた方が急に一生懸命説明しようとし始めた。


流砂の呪い?と頭の中で読んでみると、チョーコは炎人さんから炎の印を貰ったけど、砂人さんから貰えるのもあるらしい。『生贄』を置く魔法陣を作り、その場所に置かれている生物の命1人分につき1人。その生贄と深く関わりのある者を対象として『絶対服従の呪い』を発動させる……が、『既に服従しているもの』にはそもそも発動しないので、発動しなければ置かれた生贄が死ぬことはない。


どうやら施設長という人は彼らのパートナーを人質にして生贄を捧げる場所に置いてから彼らに命令を出し、『拒否せず命令に従えば呪いは発動しないから、生贄を生かしたまま返してやれるぞ』と彼らを働かせているらしい。逆らったところで呪いが発動すれば、人質は死ぬし本人は操り人形みたいになってしまうから、どちらにせよ逆らえない。

……厄介だなぁ。


2人に今回の命令は何かと聞いたら、『ターゲットは必ず殺せ、殺すまで帰って来るな』と『捕縛されそうになったら、その毒を飲め』だそう。2人共捕まる前に毒を飲みはした、吐かされたけど。なので、後の縛りは『このままでは国には帰れない』だけみたい。


「――ふぅむ。()()()2千年ほど前に出会った冒険家の人間たちを気に入ってリーダーへ餞別に石版をやった覚えはあるが、その後は会いにも来んし回収しておらんかったと。ほう……契約者の変更を無断でやられておるな、非常に良くない。これは早急になんとかせねばならんのう」

奥の方を向いて誰かに火を吐いて(しゃべって)いた炎人さんが、くるっとチョーコの方を向くと、ちょっと右手の手袋を外せと言って迫ってくる。


「まっ、待った!まずはどういう効果の力か、先に説明して貰っていいですかっ?!」

「安心せい、お前さんには砂人が渡して回収出来ておらん石版を破壊しに行って貰いたいのでな。その呪いや石版を焼き消せるように、炎の印をちょいと強化してやるだけじゃから」

「消す……だけですか?だけ、ならいいですけど」


早く早くと寄ってきて炎人さんが手を取ろうとしてくると、熱くはないのに何故か服だけチリチリし始めたのを感じたので、あまり寄られ過ぎる前に手袋を取って手を前に。


右手の甲と掌を突き抜けるように炎がぼわっと吹き出したけど、やっぱり全く熱くはない。


手の表裏を見た時はやっぱり何もなかったけど、少し手に魔力を籠めると、右の手に炎が燃え上がるのが見えた。オクティやメイドさんたちにも、炎のような光や、ただ白く輝くだけの光で出来た線が絡んでいて、内容までは分からないけど、なんとなく誓いであったり、制約であったりするように感じ。暗殺者の2人には白い2本の線の他、明らかに違う赤茶色く光る太く絡みついたものが見えて、それが呪いなんだと感じた。


感覚的に、呪いに限らず、どれでもこの光の線を掴んで焼き消せるな、と分かる。

そして呪いはこっちが先端で根っこ側が向こう。根元から焼かないと意味がないのも分かった。


「契約の途中放棄には代償が伴うものだ。誓いも呪いも無理に焼けばお前も焼かれるからその力はあまりむやみに使わんようにな。だがその呪いだけは片方は無断で所持者を変更しておる不正利用、そして大元の砂人の頼みじゃ。全て燃やしてきておくれ。生贄は発動前なら取り出せる、巻き込まれんようにそやつらを運び出した後に呪いを焼き消すがよい」


「先に人質を巻き込まれないようにしてから燃やせばいいんですね、分かりました。……助けた人たち、一旦ここに送って終わるまで待たせて貰ってもいいですか?色々片付いたら全員連れ帰るので、ここだったら広いし炎人さん達がいるから安全かなって」

「おぉ、構わんぞ。まぁあの辺りに固まっておれば邪魔にもなるまいて」


黒髪の2人に説明すると、炎人さんが思ったより理性的な人だとわかったようで、ここで待ってれば安全という言葉に納得したように2人で頷き合い、素直に立ち上がって指さされたすみっこに座り直した。


「お、そうじゃった。この前の葉と枝をあやつらがたいそう気に入ってもっと食べたいとねだられておるんじゃ。そやつらを保護する代金としてそれをちいと多めに取ってきてくれんかのう?お前さんらが迎えに来るまで守っておいてやろうぞ」

「あ、わかりました!じゃあ産卵草とマタタビは色々片付いたら沢山取ってきますね。この人達の保護をよろしくおねがいします」


頭を下げて家に帰ると、残っていたミナが出迎え、サンドイッチをアイテムボックスへ詰め込みながら経過報告をしてくれた。


今朝襲撃があったのは4ヶ所同時だったらしい。皇帝の私室に5人、宰相本邸に3人、外交官邸に2人、そしてオクティを狙った2人の計12人。


まず皇帝のことを襲撃した5人についてはそばにいた魚人ちゃん達がテレパシーで殺意を感じて威嚇のつもりで水の刃を撃ったら初撃で壊滅したらしい。3人即死、2人は一命は取り留めたものの意識不明のまま……なので実力は不明。


宰相さんのところは分断せずに秘書さん5人と暗殺者3人で一斉に戦って、装備のアップデートが魔宝石の護符だけでもまともに戦えたそうだし。1人は逃げられたけど2人を生かして捕まえている。


外交官は防衛成功で問題なく治せる切り傷を負っただけで済んだが襲撃者も腕を負傷して2人とも逃げてしまった。


オクティが捕まえた彼が12人の中で1番魔力が高かった上に、もう1人もフル装備のメイドさん5人をしっかり足止めしてたわけなので、おそらくこの国で戦力的に1番強いのはオクティとチョーコの夫婦だとみてこちらに強い2人を選んで送ったのではないかとのこと。


うん、魚人ちゃんたち亜成体なのに強いね、流石……

本人たちは力加減を間違えただけで殺すつもりはなかったと泣いちゃったそうなんだけど、皇帝を守ったのは愛妾として正しいし魔獣と同じで本当に殺す気で向かって来ている相手は倒していい。よくやったと沢山褒められ落ち着いたみたい。


秘書さんが捕縛した2名は交易所へ送ったそうなので。

逃走したままの3人の位置はチョーコがこっそり炎の導きを使って探し、秘書さん達やメイドさんたちを連れて行って、ちゃんと毒を飲むまで待ってから、捕まえて毒を吐かせて彼らも交易所へ。


瀕死の2人は治療に時間がかかりそうだから『捕獲前に指定した毒を飲めが絶対命令だから、面倒でも一度飲ませてから吐かせたり解毒するまで拘束はしない』を頼んで不死族の病院へ預け。


***


――そして、本日正午。

魚人ちゃんが倒した3人の遺体を皇帝への暗殺目的の襲撃を受けた証拠としてアスラ共和国へ運び、帝国とメイジア、ロシュサント、レガリアの連合軍に騎竜部隊も連れて宣戦布告と同時に、おとなしく全面降伏すれば人道的に同盟に組み込んでやろうと降伏勧告。


アスラは丸ごと2国分の国力があるとはいえ、冒険者や軍隊として鍛えている人間の数の比率はむしろ他の国より低いらしく、軍隊は1国分よりちょっと多いくらいのようで。

3国分の各国から集めた木の粉から抽出したアルコールのおかげで大量に送り込めた地上部隊と、騎竜部隊の後ろに乗った魔法使いによる上空からの爆撃戦術もあることを示せば、流石に戦力が倍どころではないことは明らか。


しかも。おそらく荒事が一番得意なトップ12人が『暗殺するまで帰って来るな』だもんね?


正規の軍隊がそうやって正面で派手に引き付けている間に、チョーコとオクティはメイドさんたちと秘書さんたちをぞろっと連れて上空から光学迷彩を使って姿を消して侵入。


炎人さんに貰った力で呪いの出所を直接辿れたおかげで施設と人質の場所は簡単に分かったし、生贄を詰め込む小さな丸い小屋周辺の警備は確かに厳重だったけど、姿を消していても侵入に気付ける鳴子付きの網など、見通しのいい罠ばかりだったのが運のつき。

テレポートで抜けて、メイドさんと秘書さん達の光学迷彩からの一斉不意打ちで難なくクリア。


そうして見つけた、魔法陣のような模様の光が浮かぶ、流砂のように柔らかい砂が床に満ちた小さな部屋には、ぼろの黒布を着た女の子たちが胸くらいまで砂に埋まった状態で12人みっちり詰まってた。

生贄の女の子と潜入した人数が同じなら、短期決戦で実力者を限界まで一気に送り込んで重要な人物だけ暗殺して決着をつけようとしたってことだろうね。


聞いていた通り彼女たちを魔法陣から引っ張り出すのは抵抗なく出来そうだったし。チョーコたちが救出作業を担当、秘書さんとメイドさんたちは施設内を内側から制圧開始。


引っ張り出す時に、数人の女の子のおなかが大きいことに気付く。そんな状態の子を埋めておくなんて、施設長ますます許せん……


「先に潜入していた人たちが待ってる所へ送るから、色々済むまでそこで待っていてね」と話しかけてから交易所へテレポートして彼らに合流させ。

7人しか待っていなくて5人は色々察した顔をするけど、取り乱す様子は全くなく。待っていた彼らが女の子たちにハンドサインで伝えているのを見て、頷いたりしている。


そこは任せてチョーコとオクティだけ戻って生贄の魔法陣を確認。確かにこれが刺客たちに絡んでいた呪いの根っこ部分で間違いない。右手に力を籠めて浮かび上がって見えた魔法陣を右手で掴む。

「呪いよ燃えろ!」

すぐに炎が吹き上がって、砂溜りがただの周囲と変わらない石の床へと変わるというか、戻っていった。燃え上がった炎はどこか遠く……おそらく火の大陸の方角へと吸い込まれるように消えていく……


ただ呪いの祭壇は破壊したけど、情報によると改めて『流砂の呪いの石版』を使えば、また何度でも生贄の魔法陣は作り直すことが可能らしい。その石版というのも探して燃やさないといけないみたい。


***


一方、施設制圧をしているメイドさんたちと秘書さん達。

こちらは当然、黒髪の居残り組の応戦を予想……していたんだけれど。


『生贄の設備は破壊した!もう脅しには怯えなくていい!』と宣言しながら走り回ったら、驚くほどあっさりと、黒髪の人たちは全員ぺったり床に伏せて降伏姿勢になってしまった。


どうやら『強制指令できる人数には上限がある』というのは暗殺者たちも何となく理解していて、たぶん今は12人も枠が埋まっているからこれ以上追加は出来ないんじゃないか?と予想。


もし追加出来ても犠牲者は少なく済むはず。


今ここで施設が潰されてしまえば『次』はない。それなら多少犠牲を出してでも侵入者に全面降伏するのが賢いと判断。施設関係者に危害を加えないように誓ってるのか、加勢まではしないけど。黒髪の人たちは全員完全に無抵抗を選んで、蹴られようが怒鳴られようが伏せたまま梃子でも動かなくなった。


慌てたのは施設の人々。彼らだけでなんとか対処しようとはしたが、きつめの荒事は全部任せて本人たちは大した戦闘訓練もしていなかった様子で、負傷を負わせずに全員捕縛出来るくらいの実力差。


施設がけっこう広いので2人ずつ5つに分散して制圧し、年齢別や性別で分かれた繁殖育成設備や訓練所などを巡って黒髪の人たちをかき集め、監視や施設の人間たちはひたすら無力化して回っていく。


流石専門の施設なだけに、減らし過ぎた際に黒髪を補充するための交配方法についてや、近親婚を防ぐための判定方法など、色々な資料もあったし、魔塔の交配実験については一挙に研究が進むだろう――


***


チョーコがまずは呪いを完全に破壊しようと、炎の導きで呪いの石版はどこか探してみたら。

施設長……ちゃっかり自分だけ、石版を抱えて隠し部屋に潜んでいた。

どこかに通路が繋がってるとか、廊下の長さと部屋の大きさが違うみたいな違和感もない場所なので、炎の導きがなかったら、獣人部隊でも連れてこないと見つからなかったんじゃないかな。


かなり分かりにくい床のタイルを持ち上げた下の狭い空間に寝そべるように息を潜めていて。


オクティが出入口のタイル部分どころか天井部を丸ごと切り取って風で引き剥がしたら、ひぃっと情けない悲鳴が聞こえて姿が見えた。


真っ赤な髪のけっこう老齢に見える宝飾品をじゃらじゃら付けたお爺さん……

これが、オクティを殺そうとした人かぁ……


「えーっと、あなたが施設長のプルシュカ・ワールデンで間違いない?うちに、じゃなくて帝国に暗殺者を送ったのはあなたなんだってね?

その流砂の呪いの石版?二千年前にあなたのご先祖様に石版を渡した砂人さんは、勝手に子孫へ引き継ぐなんて聞いてないって言ってたよ?……壊しに来たの。はい、出して」


「なぁっ?!こ、こ、これは、我が家が古くから受け継いでおる宝、なっ、何故貴様がそんなことを知っておる……」

「直接、魔人族から教えて貰って、壊すための力も貰ってきたの。それより……ほら。

うちに暗殺者を送り込んできたことだけじゃなくって、黒髪の子を増やして奴隷みたいに暗殺とか危険な任務をやらせてたことも許せないし。妊娠中の子を砂に埋めたり、とにかく色々許せないから!早く出さないと、凄いお仕置き……えっと、思いついたもの全部試すっ!」

「ひっ?!」


具体的なお仕置方法は思いついてないけど、怒っているのは本当だと伝わったのか、逃げ場がないと理解したのか、震えた手で差し出したものはノートぐらいの大きさの砂色の石版。

楔形文字に見える模様が刻まれたそれを受け取ってみると……


『わが友プルシュカ・ワールデン、我はお前の理想が果たされることを願う。逆らうものをも従えることができる力をやろう。我らの友情は永遠なり――シュオゥラ』と書かれているのが読めた。


黒髪の子たちを縛ってる主人の名前もプルシュカなんちゃらって炎人さんが言ってたと思う、と改めて聞いたら、単純に『当主の名』として名ごと石版を代々引き継いできたらしい。


自分の力を使っている呪いなのに代替わりされたことに砂人さんが気付いてなかったのは、血縁者が同じ名前でを使っていたからってこと?遠い地から伝わってくるぼんやりした内容だけだとそれで誤魔化せてしまった?


ほんの2千年っていってたから、1人の人間がどのくらい生きて力を使い続けるのか、よく分かってなかったというのもあるかもしれない。永遠の友情の証を勝手に使われてた、のか……


「ちゃんと燃やしておくね……」

チョーコが右手で掴み。一瞬でぼわっと燃え上がった石版はそのまま砂になってザラーッと崩れ、風に溶けるように流れて、その砂さえもおそらく炎と同じようにどこかへと、跡形もなく消え失せていった。


「あぁぁ……」と力の抜けたような彼の声がして、施設長は膝からがくりと床に崩れおちる。

これで新しい生贄の魔法陣を作り出すことは出来なくなったし、一安心。かな?


***


秘書さんとメイドさんが集めてくれた黒髪の人たちをオクティとチョーコの二人でせっせと交易所へ送り込み。他に施設に残っている黒髪の子は居ないかと炎の導きでしっかり探し。隠れている責任者が他に居ないかもしっかり探し。


後はもう任せた。


チョーコとオクティの2人だけで、一時避難させた彼らの保護代のために、最大ダンジョンの8層へ飛んで上へ登りながら産卵草とマタタビを、そしてついでに豆乳とルビーメロンも集めて黒髪の子たちに配ってあげようかな、と2層分くらい丸ごとしっかり回収してから交易所へと飛ぶ。


改めて見ると……助け出した黒髪の人たち、思った以上にいっぱいいてびっくり。

妊婦も見てはっきり分かるだけで20人はいるし赤ちゃんも幼児もいっぱいいるし、でも老年の人は1人もいない。魔力が高い人だと完全に成人して見えるのは30は越えてからだと思うけど、成人した見た目の人すら半分も居ない。若い人ばっかり。


最初に捕まえた2人に施設は無事潰せたし呪いももうないと報告をしてから、皆に向かって2人で軽く自己紹介をしたが、彼ら、赤ん坊に至るまで全員喉を潰されているようで誰も喋れない、赤子の泣き声すらしないのはもう気味が悪いとすらいえる。完全に無言……


メロンと豆乳を配りながら数えていったら、ここには822人、病院に追加で2人。


数が多いのは危険な仕事なので『予備』の為に沢山産ませていたというのと『深い関りのある生贄』の為に、働ける歳になった途端にすぐ強制でカップルを作らされているせい。

最年長は100歳越えが3人だけいて、あと他に生き残ってるのは全員50歳以下しかいないらしい。


アスラでは国のお偉いさん同士がそれぞれ別々にこの施設から暗殺者を雇って送り合ったりしてて、同士討ちをさせられることすら日常茶飯事……

全員表情は完全に死んでて一切変わらないけど、施設を潰すことは満場一致で賛成だったと目を見れば伝わってきた。


炎人さんへお礼の産卵草とマタタビをごっそり渡し、おまけとしてブランデーやウィスキーの実やオリーブオイルなんかも渡して、いざ連れ帰ろうってことになったんだけれど。


……ここまで大人数だとは、正直、予想外。どうしよう?


通信石で相談した結果、彼らは実際皇帝暗殺を目論んだ実行犯とその仲間ではある。罰の意味も込めて『魔塔の実験体』として、オクティの管理下に置くと決まった。


施設の人間達が綺麗に捕縛出来て、交配実験の記録など資料も押収出来たし。魔塔の交配実験は相当飛躍的に進んだというか、黒髪を生み出す交配実験についてはほぼ研究完了。

あとは魔力量が上がるかどうかの研究だとか、元実験体だとしても何かやりたい研究があれば研究員に格上げをするとか、順次考えていくけどその辺りはオクティが担当するそう。


『魔塔の実験体』になるなら相変わらず人権は平民以下なのだけれど。本人たちはオクティがトップの組織に組み込まれるなら何も問題なさそうな反応を示してる。


見回して目を見ると。まず、オクティが黒髪で名前が番号というところで色々察した。それに魔塔へ差し向けたのは近接戦トップと魔力量トップ、それをいなすだけの実力もある。そのうえ砂人の呪いを破壊出来るチョーコがパートナー。どれを取っても文句なし。


魔眼持ちの数人はチョーコが無属性だと気付いて驚き、右手の印や首の竜人の鱗を見て、違う意味で色々察したらしい。


オクティが助けた以上は生活の面倒見るのは当たり前だから。今後の生活について要求したいことがあるかと聞いてみると。

『ちゃんとした安全地帯で監視の目が無く寝れる場所がほしい』だけしか出てこなかった。


食事は木の粉を自分で葛湯にして飲む。ナイフとかの鉄器はたまに素材を追加して欲しいけど修理自体は自分でやる。家具でも布でも木から自作するし。ダンジョン行って魔獣の核を取ってきて自分で育てるところからやれるという、無欲だし手のかからなすぎる人たち……


魔塔の実験体用の生活スペースでも流石にこの人数が一気に増えるのは想定されていなかったし、すぐに千人規模がいきなり住める空き家なんて凍土の強制労働区画くらいしかないというので。

一旦そこに住んで貰って、凍土に魔獣の核を撒く仕事もやって貰うことに。


表向きにも、暗殺組織は実験体身分になった上、ちゃんと強制労働地区で働かせてますって言えるから、それ以上の刑罰をどうこうとか言われることもないだろう。


――実際の皇帝暗殺命令を出したプルシュカについては、メイドさんたちから報復を望むか聞かれたけど。もう石版を失った彼に一般人以上の力はないから、国の判断にお任せで良いと伝えて丸投げ。


アスラ共和国は元々冒険者だった者たちが建てた国だからか『制約』を悪用する王族はいなかったし。そのまま貴族階級以上は全員誓いの碑文に誓わせて同盟に組み込み、アスラの名前はこの地域の名として残すけど、所属は全員帝国民となるらしい。


その土地は『北の海』まで繋がる長い長い大河の上流にあり。川から充分な水の妖精が取れる、食生活的にはかなり恵まれた状況。


彼らの国は肉の焼き方、サカナやウニの存在は知ってたし食べてた。クラゲは死ぬと消えるし焼いても消えるし、茹でると溶けてしまうだけで食べられないとだけ。ゴムはないらしい。あと抽出も知らないので砂糖と塩はないが、塩気はウニがあったし、紅茶に緑茶、葛湯や茹でた水草も知っていた。……そっか、情報にあったレシピって殆どここの知識だったのかも?


初代のプルシュカ・ワールデンは正にエスの導きを得ていたと言い伝えられている人なんだそうで。

ドットさん達のご先祖さまから地界語を習って、海底洞窟を抜けて火の大陸へ渡り、砂人さんにその理想を応援するよと友情の証を貰って……長大な川を遡って二国サイズの大きな安全地帯を見つけ、大陸最大の共和国を建てたという建国の英雄。


彼の持ち込んだ呪いの石版があって絶対の命令を誰にでも聞かせられることから特権階級と奴隷階級が作られたのをきっかけに、より魔力の強い奴隷階級の人間を作る実験が黒髪の交配実験となり。帝国よりかなり前から黒髪の血筋を確立するに至っていたという話を聞くと、英雄とはって気持ちになるけれど……


おそらく、石版を引き継いだ子孫が色々やらかしたんだよね?

そもそも砂人さんに気に入られるくらいだもん。本人は理想に燃えた本物の英雄だったんじゃないかな。


「――今日は早朝から大変だったな」

「もうむり眠い……でも、無事に済んだね……」


昼に宣戦布告の宣言をするのに合わせて突入してから、あっちこっち飛び回ったし、千人近く移動させたし、朝食以降はちゃんとした食事をする間もなく、途中でアイテムボックスに入れて貰ったサンドイッチを齧りながら駆け回って、ようやく戻れた。


いや国全体のあれこれをやっている宰相さんたちや上層部の人たちはまだまだ働いているし、メイドさんたちも交代で休憩しながら常に3人は飛び回ってて戻ってない。話が終わったわけではないんだけど。


黒髪の人達を凍土の強制労働地区に全員送り終わったから、もうこっちのお仕事は終了!

あとは国の人にお任せ!


オクティと交代でお風呂でお湯だけ浴びて、さっさとパジャマに着替え。こんなバタバタの中でもしっかり綺麗にして貰えていたベッドに飛び込んだところまでしか記憶になかった……

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