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飢えないだけじゃ生きられない(日・水・更新中)  作者: なるねこ


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93/102

93.魔力切れ体験

朝食時、7日後の15日の正午からサラの結婚宣言式が行われるという、家門らしい印が銀箔押しされていて、文字はお揃いで持っているカラーインクのグリーンで書かれ、薔薇の香水の香りがする、厚手のちょっとはがきより小さめの四角いカードが、巻かずに平たいまま届けられた。

会場はサラとカリナの自宅、歌唱の品評会のドレスコード指定らしい。


ドレスコードについてはお腹周辺を締め付けないストンとしたドレスのことで、丁度、ミラルダさんに頂いたフォーマルのシュミーズドレスならピッタリだという。

わぁ本当に()()使()()()ものを選んでくれた……?


結婚式の招待状……でも出席確認『出席/欠席』みたいなのがない。メイドさんにどうすればいいのかを聞いたら、口頭で行くと答えているので当日このカードを持って行って入場時に見せるだけらしい。

無くしたり何かに紛れると怖いからメイドさんに預けておく。


「ねぇニナ?結婚祝い代わりに、前日のビューティサロンはこちらで払うってどうかな?」

「結婚祝いは参加する友人全員で一緒に買ったものを贈るものですから。サラ様以外の6名で頭割りがよろしいでしょうね。皆様であれば物品を贈る場合はお1人金貨1枚程度、ビューティサロンのようにご自分も楽しむようなものでしたら2枚以内といったところでしょうか」


ひょこっとルナが顔を突っ込んで来た。

「商会口座の金券を支払いに充てるとか、オーナー権限の範疇でなるべく上のコースを安く受けられるようにするとかは別ですからぁ、そういった割引を最大限付けるのはいかがですぅ?」

「うん、じゃあ今月の金券はそれに全部使っちゃおうかな?」

「はぁい!ではそのようにしますねえ♪」


どうやらルナが最初考えていたのはベーシックプラン金貨1枚に各自好きなオプションを盛るつもりだったけど、そういうことならトータルプラン金貨6枚を7人分から金券分差し引いて金貨12枚を6人で2枚ずつにしましょう!と言うのでおまかせ。


どう違うのかも説明されたけど、正直よくわからない。ただトータルプランならマリアンヌ様とリリアンヌ様でも大満足だと推しまくってたし、きっと良いんじゃないかな?


朝食後にのんびり庭の畑を見にいく。

アズキの鞘は段々長くなってきたけれどまだしっかり緑。苺は10株とも徐々に緑の実が大きくなってきたし、今度は一気にもっといっぱい収穫できそう……うふふ、楽しみだなぁ。アズキ♪和菓子♪自家製イチゴ♪


ホウレンソウが丁度食べ頃になってたので、種用は残さず4本とも根を切ってしまい不死族に渡すことになったんだけど……折角なので1束だけ味見したい!と、ミナに頼んで試しに茹でてちょっと端っこを醤油と出汁にちょんちょんつけて味見したら、すっごく甘みがあって美味しいホウレンソウだった。


「んっおいしい!これは体力回復に本当に良さそうだし……葉の部分は無害だから、病院に居る弱っている子にも少し持って行ってあげたいかも」

「本当に、風味も香りも良いですわね。アクやえぐみも茹でただけで綺麗に抜けて……このままではちょっと衰弱してる人には繊維が強そうですし、元の形が分からない方がいいでしょうから。すり潰してカップケーキにしましょうか」

子供用だから甘く、でも酔わないようにメープルシロップたっぷりに。


「ミナのお菓子は美味しいし、それなら子供たちでも喜んでくれそうだよね!」

リナが思い出した様子で声をかけてくる。

「あ、チョーコ様?凍土でのホウレンソウ栽培について。完全に人払いを済ませた場所と人員を確保済みですし、その場所であれば栽培もしていいと許可も下りておりますわ。実際こちらは役に立つ植物ですので、わたくしとしては栽培を推奨致します」


「あ、庭で育てるのは危ないけど、人払い済みならお願い!でも先に不死族の人に見せてからね?種も植えてるもの以外は全部不死族に管理してほしい」

「かしこまりました。わたくしこの後、商店街に行く予定がありますから。カップケーキが出来次第まとめて届けに行ってまいりますわね」


――そんな話のあと、魔塔へ行っていたオクティが不死鳥の羽根を6枚とも持ち帰って来た。

「あれ?おかえり。どうしたの?」

「報告書を読んでる時に何か変なものが俺の索敵内に引っ掛かってさ。窓から見たら下に、秘書たちが使ってたような姿を消す魔法を使ってる奴が見えたんだ。知らないやつだったから追いかけようとしたんだが、鋭いやつですぐ俺に気付いて逃げられちゃったんだよね」


「魔塔にまで侵入するスパイ……?心配だね」

「うん。魔塔に居る魔眼持ちは俺だけじゃないから、すぐに警備強化を通達して、姿を消してるスパイがいるって探して貰ったんだけど、まだそれらしい人物は見つかってない。――メイド達も警戒しててくれ」

「「はいっ!」」


「それで羽根を持ち帰って来たのは分かるけど……オクティが持っておくの?」

「これは不死族の所にも預けられないし、アイテムボックスにも入れられない。これで何かを作るなら洞窟に預けるんだけど、まだだし。侵入者の目星が付くまでは俺が持っておくのが一番だろ?」


「もしそれでオクティが狙われたりしたら、嫌なんだけど……」

「そろそろまたチョーコが新しいダンジョンに行こうって言うかなと思ってさ。いくら腕のいい偵察でも未踏のダンジョンの中までは付いてこられないだろう?俺の服の下にでも隠しておくのが一番安全だよ」


「あはは、まぁ確かに。私と一緒にダンジョンへ潜っちゃえば誰にも見つかりようがないもんね?じゃあ今日もダンジョン行っちゃう?」

「よし、行こうか」


今度からは夕の鐘までに帰るねと声をかけてから、いつも通りに牛の村へ。

今日待機してたのははサニーさんで、白い羽根と草の紐で編み物のようなものをしながらふわふわ飛んでいたが、こちらに気付くとそれをしまって寄って来た。


「あぁ、おはようございます」

「おはようございますサニーさん。さっきのは……編み物してたんですか?」

「えぇ、天人の間では自分の羽根を使った編み物や筆などお土産やプレゼントとして時々贈りますから。換羽で溜まった時などに草紐を集めて編むんです」


そういえば、確かにお土産で羽のショールみたいなのを貰ったことがあるような気がする?……メイドさんに預けてそのままだったかも?小さい女の子と交換した羽根の筆は愛用してるけど。


「自分の羽根で作ったものってけっこう贈るんですか?」

「はい。自分の羽根の魔力は何となく分かりますから、相手に纏って貰うと側にいるような気持ちになれますし。すごく仲良くなりたい、いつも一緒にいたいという意味で好きな人に贈ります。

あ、受け取ったものを身に着けると『私もそばに居たい』というお返事ですから。恋人以外の異性から贈られた場合は身に着けず、風通しのいい場所に掛けて放置しておきましょうね」


「放置……ですか?受け取らずに返すんじゃなくて?」

「直接手渡しで告白された場合は別ですが。お土産の袋は社交辞令というか、単純に挨拶なので受け取ってあげてください。アイテムボックスへ入れず、身に着けもしないで放っておくといつの間にか消えていますから。――今日はどうしました?」


「また新しいところへ行きたくて、サニーさんが気になっているダンジョンはありますか?」

「気になる所ですか……あぁ、果物畑の隣に少し奥まで降りるとバナナが取れる所があるのですが。入口で色違いが取れる小型ダンジョンが見つかってから全く行ってませんでしたね。久しぶりに様子を見に行きたいかもしれません。行ってみますか?」

「わ、いいですね。よろしくおねがいします!」


果物畑っていうのもよく聞くわりに一度も行ったことなかった、楽しみ!

場所は牛の村から中型ダンジョンへ行く時に遠くに見えた灰色と黒の双子山の黒い方が果物畑。そして今回行ってみようというのは、灰色の山のほぼ同じ所に開いているもう1つの入り口。


サニーさんに連れて行って貰いながら聞いたところによると、果物畑は8層まであり天人さんが入るには深めだけど、パイナップルとメロン、蔓にはマンゴー、最下層にはマンゴーの酒の実が生るという。まさに果物畑なので。唯一、最下層までしょっちゅう天人が降りるダンジョンらしい。


ちょうど紫と青と黄色の柱の中間地点にあってどこの聖域から来るにも遠いのだけど、皆よくこの辺りには来ていますねという言葉の通り、真っすぐ飛んで行く間だけでも数人、別の柱へ向かって飛んで行く後ろ姿が見えたし。黒い山のダンジョンの中は外から見ても明るそうだと思うほど光って見える。


対して灰色の入り口はしーんとして真っ暗。


どちらの山も魔獣は走るやつしか出ないし、今朝ダンジョンブレイクで魔獣を掃除したばかりだから思い出してここに誘ったというので安全そう。

サニーさんが先に入って灯りをつけて魔獣の見回りもしてくれるので、いつものように壁からチェック。


リィコが先行してるとひやひやしたけど、サニーさんが先行してるのはなんでこんなに安心出来るのか。ここの蔓は全体的につやつやのグリーン、ところどころ枝のように垂れさがっていて、果実は無い。


『きゅうり』酔い覚まし、熱さまし、薄切りや摩り下ろして貼れば鎮静消炎作用がある。水分が多く爽やかな風味と香り。身体を冷やす作用により食べ過ぎるとお腹を下すことがあるので注意。


違和感はものすごいけど。確かに……太さと皮の色合いはきゅうり。

ちょっと試しに端っこを折り取ってみたら、種部分がなく実の所だけがみっちり詰まっている感じでかなり瑞々しく、冷やしてもいないのに少しひんやりして、齧ってみたらとっても爽やかで美味しい。

「歯ごたえも香りもいいな、味噌と合いそうな気がする」

「合うと思う!弱いけど一応薬草かな?ルーズベリーと合わせて不死族にも納めておこうっと」


食べ過ぎるというのはチョーコの知っているきゅうりの量でいうと3本くらいなので、常識的な食べ方でお腹を壊すことはないんじゃないかな。

オクティが視ても薬効的にはかなり弱いし、普通の野菜として食べても問題ないという。


サニーさんにも食べさせてみたら納得したように頷いていた。

「あ、美味しいですね。なるほど……木材として使うには柔らかすぎて水っぽいと思っていましたが野菜でしたか。これなら隣に来るついでに少し持ち帰ってもいいかもしれません」


他の作物は何も薬効のないレモン型で緑の『ライム』と丸い黄色の『ユズ』だった。床からピョンピョン生えた茎から直接果実が出来て、床いっぱいにゴロゴロ広がっている光景には違和感があるけど。実自体の見た目や切った姿は名前の通り。本当に味も香りも普通で使い勝手は良さそう。


「わ、ライムとユズだー!良い香り」

サニーさんには熟していないオレンジにしか見えないそうで、結果的に全部チョーコのアイテムボックスに集めればいいということになったので、サニーさんがまとめて集めるのを手伝ってくれたのだが……


回収が、早い?!パワーアップの成果なんだろうけど、ひと部屋ずつじゃなくて広範囲の部屋から一気に飛んでくるようになった。


もうただひたすら真っすぐ下へ歩いてるのと変わらない速度で8層目。実っている内容が変わったのが最初に見た蔓ですぐ分かる。

前に見たバナナは皮が赤かったけど、ここのはちゃんと黄色くてそれっぽい!ものとしては単純な色違いらしいので他も確認。


『白ごま』真っ赤ではなくちょっとオレンジっぽいカプセル植物。お団子まで開発されているくらいだからこれはけっこう使うかも!

『黒ごま』こちらはちょっとピンクっぽいカプセル植物。どちらも回収!


サニーさんは聞く前から要らないなって顔をしていたので、そのままチョーコのアイテムボックスへ全投入となった。


こっちのダンジョンは8層まで降りた時点でバナナ以外美味しそうじゃないと分かり、これより先には行かずに帰ったから最下層は不明だというし、回収を手伝ってもらいながらどんどん降りていく。


16層で、完全に隣の黒い山までぶち抜いてませんかと思う勢いの広いホールに辿り着き……ここのはオリーブオイルと同じような液体入りの床一面に直接ゴロゴロ重なり合うカプセル植物だった。

誰も取りに来ていなかったせいか、小さめの樽くらいの大玉がこれでもかと限界まで積み上がっている。


ふんわりした最下層の灯りの中に照らされた黄緑っぽいグリーンの玉と、深い赤紫のワインレッドの玉。色合い的に混ざって並んでいるのは遠目に葡萄の粒々に見えるな、と思いながら触ってみると……

『白ワイン』『赤ワイン』どちらも一般的な酒の実と同じ魔力40%で液体状態のお酒。

サイズはどうやら蛇口付きのガラス樽と同じ32カップ16リットルピッタリ。


ヴィンテージワイン。濃い魔力の中にじっくり寝かせた奥深い味わい、だそう。ちょっと気になったのでよく見てみると、新しいワインが実って1年くらいまでは若いフルーティーな味わいらしい。そちらは一週間くらいでぽつぽつ実る。


つまり今ある分を回収して少ししてから来れば、ボジョレーヌーヴォー的な若いワインが取れる?!

わぁ、それはそれで欲しいかも!


サニーさんに説明すると、天人が好きなお酒は桃とかマンゴーとかそういう甘い酒の実だからワインは飲まない。そもそもこのサイズの液体が満タンに詰まった巨大カプセルはすごく扱いづらいので全部持って行っていいという。


ワインはきっと色々使い道があるので貰えるというなら貰っちゃう。出力の上がったサニーさんの操る風でぐんぐん吸い込まれていくのが気持ちいいほど。

ボジョレー楽しみだし、マークも忘れずにつけてと。


うーん、でもまた全部貰ってしまった。このダンジョンのものでサニーさんが受け取ってくれそうなのは教えて貰ったバナナくらい。しかも楽に取れるところと皮の色が違うだけかぁ。何かちゃんとお礼を――と思って、思い出した。


「そういえば、このまえ見つけた新しい風の柱って、どこに運ぶとか決まりました?」

「あ。――そうでした、これをお返ししておかないと」

最大ダンジョンの最下層前に置いた転送盤はそのまま残してあるけど、毒物ばかりの下層への入り口を牛の村に置いたままにはしておけないと、転送盤の片割れを返された。

「あっ忘れてました!回収ありがとうございます」


「牛の村の長老に聞いてみましたら。あの柱は古い長老たちが協力して取り出して各所に立てたということが分かりましてね。新しく出来ているなら置きたい場所を決めてから竜人の皆さまにお願いしにいこうと決まったのですが。どこに置くかというところで全く皆の意見が纏まらず……そのままです」

「風で運べないと、運ぶ時に竜人さん達にたくさん手伝って貰わないといけないってことだし、あまり気軽に動かせませんもんね」


「そうなんですよね。自分たちで運べるならば、まず1つだけは置いてみたいのですが」

「1つだけ?どこに置きたいんですか?」

「それは勿論この果物畑にですよ。ここだけは是非置いて欲しいという意見が多いのです。ですがあとからあとからぽつぽつと、今度はあっちに、やっぱりこちらへと何度もお願いするのはお忙しい竜人の方々に申し訳なくて、ある程度まとまってからお願いしようと保留されているんです」


うん、めちゃくちゃ日常的に来る場所がテレポートポイントから遠いと、なまじ一瞬で移動出来る手段を持ってるだけに余計不便に感じるよね……わかるわぁ。


「いつもたくさん色々貰ってますし、手伝いましょうか?丁度この転送盤も目印にできますし」

「……大丈夫ですか?」

「やれるかどうかは試してみないとわからないですけど、いつもいっぱいお酒や作物を貰ったり、案内して貰ってるお礼になれば」

「とても助かりますし、皆喜びます!」


ワインを吸い込み終わってから外に出て、果物畑のある山のすぐそばの平地にこの辺りに柱が立って欲しいという場所を確認して転送盤を置き、風の柱のダンジョンへ飛ぶ。


「無理なら無理で大丈夫ですが、いけそうですか?」

「あ、この柱だけはギリでいけそう……ですね」

なぜか都合よく1つだけちょっと小さめの柱があった。

大きさ的に問題ないみたいだし、使えるのならと触ってみたら……ギリギリいけそう。でも本当にギリギリ。すぐに何か食べないと飢え死に注意だなってくらい、本当に限界っぽいのが分かる。


「俺とサニーさんは転送盤で飛べるから運ぶのは柱だけでいいけど……無理はしなくていいんだぞ?」

「ううん、無理ではないと思う。ただ、限界までお腹空いちゃいそう」

「あぁ、魔力を限界まで使う時には、先に酒の実などを食べておくと余裕が持てますよ?」


「あっ、そっか!こんな時の魔力回復効果!」

探したら薄ーく切って飲み物に乗せるのに使ったマンゴーの酒の実がほぼ丸ごと残ってたので早速1つ食べてみる……うわ、遠慮なく食べるとやっぱりアルコールきっつぅ!

あとでお腹が空きまくるのも分かってるから、わらび餅とかも一緒に食べながら。酒の実を食べきって、お腹もいっぱいにしておく。


ほぼ丸ごと酒の実を食べたのは初めて。食べ終わる頃には全身にカーッと熱が回る感覚がしてきたので、そのまま柱に触れる。視界が酔ってぐるぐるしそうだけど、右腕の二の腕辺りが熱くなって落ち着いてきた。

魔宝石のアクセサリーって本当に効果あるんだ、飲んでも視界が揺れない。改めて集中してみたらブースト分で余裕ある。


「あ、ホントに余裕出来たみたい。いけそう!やってみるね……果物畑へ、テレポート!」


――よかった。丁度自分が転送盤の上に立って目の前に風の柱を置けてる。流石に転送盤が柱の下敷きになったりしたら取れる気がしないもんね。

追って二人がすぐ傍に現れ、サニーさんだけふわっと柱の周りをひと回り飛んでみる。


「おぉ……ピッタリ良い位置です!ありがとうございます!皆にも知らせておきますね!」

「はい、ありが……あっ」

転送盤を拾おうと屈んだらぐわんっと視界が回って。気付いたらオクティに抱き上げられていた。


「チョーコ、流石にあれだけ魔力を一気に使ったんだから、魔力切れだよ。急に動いちゃだめだ」

確かに。魔宝石のアクセサリーも働いてはいるみたいだけど、焼け石に水。上限いっぱいというか上限をアルコールと魔宝石でブーストした状態からほぼ空まで一気に使い、今は強いアルコールを消化しながら全力で魔力回復中という。文字通りの乱高下。


視界はぐらんぐらんしているし、全身怠いし、断食2日目みたいな空腹感と、深酒したみたいな胃腸の気持ち悪さが同時に襲ってきて胸はムカムカするし。


様子を見ながらオクティがキスをして回復を手伝ってくれようとしたけど、アルコールとの重ねがけは逆に回復の勢いが上がり過ぎてまずかったので、すぐに止めてただ抱きしめて撫でるだけにした。しがみついて深呼吸していると視界の揺れも少しずつ収まっていくのを感じるから回復中なのは間違いないし……このまま暫く休んでいれば治っていくと思う。


サニーさんが流石に心配そうな顔で寄って来る。

「あぁ本当にすみません……チョーコさんは特別であるとはいえ、人間族ですからね……無理をさせました。

ここに置いて頂けたのはこれまでのお礼としては十分過ぎるほど、皆も喜ぶと思います」

「あ、いえ、逆に心配かけちゃってすみません。皆が喜びそうならよかったです……」


とはいっても、気持ち悪いし目が回ってどうもなら……あっ。そういえば、さっきのきゅうりの説明に酔い覚ましってあった気がする。

物は試し。折り取ったやつを取り出して、ポリポリ食べ始めたら、本当にめまいがすーっと収まった。


「あれっ?なにこれ、めちゃくちゃ効く!目が回ってたのも気持ち悪さも、治っちゃった??」

「え。魔力欠乏症を回復するほどの効果はないはずだが……あぁ、なるほど。魔力を上げたり下げたりは出来ないが、流れを整えてめまいや吐き気なんかの症状の方を落ち着かせる効果があるんだな」


落ち着いたからといって降ろす気はないようで、オクティはチョーコを抱えたまま地面から転送盤を拾ってくれたので受け取ってアイテムボックスへしまう。消化も進んできているみたいで少し空腹感も感じ始めたので、バナナとかを取り出して補給していたらすっかり気持ち的にも落ち着いてきた。


「お帰りでしたら、私がおふたりのご自宅まで運びましょうか?」

「あ、もうだいぶ回復してますし。2人くらいのテレポートなら全然負担じゃないので大丈夫ですよ」


心配はされたけど、受け答えもしっかりしてるし大丈夫そうと。今日はこのまま解散ということになり、サニーさんは皆にもこの柱のことを教えると言って去っていった。空を見るとまだまだ明るいし、ワインのボトル詰めもしてしまいたいなと油の木を集めてから洞窟へ向かうことに。


……ようやく自力で歩かせて貰い、果物とかを追加で食べたりオクティに魔力を回復して貰ったりしながら油の木を沢山集めて洞窟へ行くと。ドットさんじゃなくてノームの5人組が出迎えをしてくれた。

「こんにちは」

「おぉ客人!あんたらはこっちに来たのか、今日はドットの旦那や他の奴らは、客人が紹介してくれた商店街ってとこへ、マッサージを受けに行くって皆で出かけてるぜぇ?」


「あっ、今日商店街へ行ったんですね。私たちはダンジョンへ行っちゃってたので知らなくて……でもいつも一緒に居るメイドさんはむこうに居るので、案内は大丈夫だと思います。ちょっと新しいお酒のボトル詰めがしたくて来たんですけど、いつもの1リットルボトル以外に、沢山作れてあのカラクリで詰められる新しいデザインのボトルってありますか?」


「「新しい酒だとぅ?!よーし待ってろすぐ持って来る!!」」

容量は同じで形や柄の違う様々なボトルが持って来られたが、新しい型を作るのはノームたちが得意なので、作りたい希望があれば完全に新デザインでも作ってくれるらしい。

形だけでなく、表面の処理でスモーク仕上げと鏡面仕上げで変化を付けたりもできるそう。


色と香りが2種類あるので、似ているけれどハッキリ見分けのつくデザインがいいというと。

お勧めとして出てきたのはフランスワインのような肩がなだらかなボトルで、蔓草が斜めに巻き付いた、凄く上品な浮彫が表面に施されている。全体がスモーク仕上げと鏡面仕上げのペア。


巻き付いているのが葉ではなく花輪だったり、逆になにも巻き付いていないもの。ワンポイントで一輪だけ花が付いているものなどバリエーションも豊富で、すっごい素敵!


あとでヌーヴォーを頼む時は同じシリーズのボトルでバージョン違いにしたいし、ヴィンテージはやっぱり、シックな蔓草の葉っぱが巻き付いたボトルのセットで頼みたいなぁ!

今回のはカプセル植物だからウィスキーと違って皮は食べられないですと白と赤をそれぞれ見せた。


オリーブオイルの殻と一緒か、確かに食わねーなぁといいつつ、しれっと手回し式の殻搾り機を持ってきてじょうごの上にセット。残さず中の酒や油を搾り取って殻は横に溜めていくらしい。これをこうするとなーと説明を受けながら言われるままに白ワインと赤ワインの実を順に出していく。

こうして絞った後の殻はこうでな、こうやって詰められるんだぞ、白からどんどんよこしな、よーしそろそろ赤もいくか……


次々と出来上がって渡されるボトルをボックスに放り込んでは次々と新しい実を出して、詰めて受け取って次の実を出して……


――あれ?


気付けばオクティにしっかり抱きかかえられて、帝国の街の中を徒歩で帰宅中だった。


「ふえ??……えっと、なにしてたんだっけ」

「目が覚めた?もー……チョーコ。受け答えはすごくしっかりしてたけど、途中から完全に酔っぱらってただろ。ちょっとアイテムボックス見てみな?」


もの言いたげなオクティの声にアイテムボックスを見てみると。

蔓草ボトルの赤白ワイン3960本ずつのセットと、黄緑と紫の殻を25個ずつ圧縮した大きな殻の塊が10個ずつ入っていた。

しかも空を見ればだいぶ日が傾いていて夕のベルが近い。


「うわぁ。――ま、まぁ、素敵なボトルだったし?こっちは酒の実くらいの濃さだから、そのまま売っても安心だし、このくらいは売り切れるよね?」

「それはいいんだけど。うーん、きゅうりは確かにめまいとかは落ち着くけど、泥酔してるのに普通に受け答え出来ちゃってたのが怖いんだよなぁ。今後絶対、俺が見てない所で酒の実食べたり、強いアルコール飲んだりしちゃだめだよ?」

「う、うんわかった。オクティがいない所で酔っ払ったりしないように気を付ける」


「努力、じゃなくて。絶対、だぞ?……視た感じは完全に回復してるけど、気分はもう大丈夫?」

「うん。良く寝たしスッキリ。……心配かけてごめんね?」

「力の限界知っておくのも大事なことだから、次が無ければいいんだよ。チョーコの今の限界値は理解したし、今度からは別の方法を考えようね」


結局最後までオクティに抱えられたまま、家の門をくぐって帰った。

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