92.救出作戦
さっき寝たばかりだったおかげか寝落ちもせずに甘い時間を過ごせたし、オクティもすっかり機嫌がよくなった様子で日が暮れるまで過ごしてから下へ降りる。
お風呂で着替えた布屋フレムの室内着は平民なら多分これ普通に外で着ると思うくらいちゃんとワンピースで急な来客でも安心かも、布地が凄く柔らかくて着心地が良い。
折角なので頂いたカクテルなどを楽しみませんかと食堂に呼ばれ、頂いたおつまみセットから少量ずつお皿に並べられたものをはじめとして、フライドポテト、小さく切って崩れないように串を刺したカナッペ、一口サイズのチーズケーキにルーズベリーが乗ったものなど、お茶会のように小さく盛り付けられたおつまみと『ミラルダ様のお茶会』のボトルが出てきた。
ミナが作っていたように、薄めた状態のものへ更に好きな割り材を足して飲むスタイルのカクテルベースボトル。今回もチョーコとオクティだけまず最初はそのまま氷だけ入れて楽しんでみる。
同じ木から作っているはずなのにどうやってより香りを引き出しているのか不思議でしょうがないけど、ウィスキーに負けないくらい強く紅茶の香りが響いてきて、しかもケンカはしていない。
ただ水で薄めたものみたいな薄まっている感じがしなくて、本当に香り深くて美味しい。
おつまみもどれと合わせても凄いしっくりした。
「うまいな」
「うん……すっごい香りがいいね」
なんだか妙にメイドさんたち皆の機嫌が良くて、ちょっと飲みたい気分らしく、皆も飲む?と誘ったら素直にグラスを持ってくれた。
メイドさんたちは最初からしっかり割ったものをゆっくりと飲みながら、昼の報告。
まず、コロセオ家はユガから聞いた情報通り、ユガだけでなく引き取られていた孤児たちも全員、完全に奴隷待遇で現金は与えられず、食料は木の粉のみで葛湯ですらない。水は自前で出して飲めという状態で昼夜こき使われていた。
ただ重労働と無給だけで体罰的ことはされていなかったため(木の粉は法律的にはきちんと食料として認められているので)傷害罪はなし。不正受給の返還、支払っていたと書面で出していた額面分の支払い、国への高額な罰金。それらを遡れる限り遡ってキッチリ全額払うようにと命令が出た。
地位もはく奪で一般事務となるので引継ぎの間は猶予を、と思ったら。もともとの仕事ぶりも本人がやっていたのはただの事務作業だけで、自分の派閥とは関係のない責任が重いものの承認などは全て部長に回していたらしく、大して重要な引継ぎもないから即日で挿げ替えられる予定。
支払うものさえ全額支払えば一般事務への降格だけで済むそうだけど、長年そんな感じで孤児たちを使っていたそうなので、遡るとけっこうな額になり。払えなかったら犯罪者として強制労働地区へ一家で送られる、今はもう親戚一同から集めてでも金策を頑張らないといけない状況。
でもコロセオ家の親戚の中でも羽振りの良い2家が明日の強制捜査の対象に入っているので、どうなることやら♪とルナが特に大変楽しそうに教えてくれた。
今日はその後2ヶ所、財務部長の補佐をしていた事務員2名を家宅捜索。片方は孤児たちだけだったけれど、もう片方には孤児と共に5歳に達しているかどうかという幼い庶子の女の子が2人見つかった。
コロセオ家は搾取だけで体罰の類は無かったけど、こちらの2家はどちらも全員に暴力や激しい虐待の跡があり、特に女の子の状態は全員酷かったそうで。庶子2人と孤児4人は回収して即病院へ緊急入院。
男の子たちは重労働をやらせるために動けなくなるような怪我はさせられてないけど、傷や痣はたくさんあったし仕事はきついしで早急に凍土の空き家へ引っ越すように薦め。手続きが終わるまで仮避難を兼ねて検査入院させているそう。
チョーコは庶子で捨て子というと孤児院の前に籠に入った赤子がみたいなのを想像するんだけれど、貴族はそういうことはしない、とメイドさん達に教えて貰った。
まずお嬢様育ちが突然赤子を抱えて家を追い出されたら育てられなくなる可能性は高いと思うけど。
よほど社交をしていないのでない限りどこかの家に顔を知られてしまっているので、家から出してもすぐばれる。なのでこっそり子供の方を何とかするのが普通。
スザンヌは本当は結婚が決まっていたけど城にメイドとして勤めた途端に手を出されてしまい、親に相談したところ。娘に手を出したのだから正式に側妃や愛妾、出来れば皇妃として召し上げて欲しいと申し入れをしてクビになった重役が過去に何人もいたし、皇帝への嘆願は無理だと言われ。
本人も皇帝の妻になる気はなかったので。辞表や配置換えの希望を何度も出したのだけれど。皇帝が名指しで探せば答えないわけにはいかないし、辞めさせるなと言われれば辞表も返されてしまうのでどうにもならず。運悪くそんなことをしてる間に妊娠発覚。健康体だったので飛んだり走ったりでは全然効果がない。
婚約者の方は家同士のつながりが欲しいだけで、皇帝に飽きられて退職した後に身請けはするから庶子は処分してくれと言ったらしく。スザンヌは子供に罪はないだろうと猛反発。
城の職員として勤められるのは貴族のみと決まっているのを逆手に取り。親も婚約者も自ら縁切りして貴族籍を捨てることによって城勤めを辞めた。
そして市井の商会組合の門を叩いて文字と計算の基礎は出来るから事務を習わせてくれと急遽弟子入り。産むまでの半年で一通りの事務作業をバッチリ習い、職員として本就職し、独り立ちを果たしたという、異例中の異例なんだそう。
そんなガッツのある貴族子女はなかなかいないので、普通は子供が生まれてからなんとかするのだけど。
1歳に達しない子供を捨てるのは殺人罪が適用され、見つかると色んな意味で終わる。なら1歳以降と思うと、子供が魔法の暴走によって周囲に被害を与えた場合、その器物損壊の責任は親が取らねばならないので、特に魔力の強い貴族の場合は捨てる前に魔法の扱いの教育だけは施すのが常識というか、施さなければ重罪に繋がるのでやらざるをえない。
何年も一緒に過ごすうちに情が湧いてやっぱりそのまま育てるというケースももちろんあるため、後から出生届を出して実子として育てられている人も多いし。捨て子として街に出された庶子も、実は意外とその親関係の貴族からは時々様子を見られている、というのが貴族の常識。
そのため、これまでは庶子に手を出すとその子の親絡みの貴族から目を付けられる。と思われていて、わざわざ手を出そうと考える貴族がほとんどいなかったらしい。
家から出される頃にはもう5歳近くて平民ならば当たり前に外で働き始める頃だし、貴族家からの援助が全くないだけで周りからの横槍もなく、平民として助け合いの輪に混ざることさえ出来れば、むしろ周囲の誰より魔力の強い庶子は歓迎されてそのまま自活までいけるケースが多かった。
でもコロセオ家から、今までは孤児ばかり狙っていたが、庶子を奴隷にすると魔力は強いし何人分も安く使えて良いぞ。引き取ったことがバレても、雇用の書面さえしっかりしておけばトラブルどころか捨ててしまった子をまともな待遇で雇ってくれている恩人として感謝すらされるほどだ。現状の確認などわざわざしに来たこともない。善人の評価はされるし、補助金まで貰えて良いことずくめ!
――と聞いてから、まだ働き口を見つけていない子を探しては良い条件で働けると騙して連れて行くようになったんだそう。つまり今こき使われているのはその時点で就職出来ていなかった5歳は過ぎてるけど定職にはまだ就けていなかったような幼い子や仕事を何かでクビになったとかで路頭に迷った人ばかり。
ユガが働き始めたのが6ヶ月ほど前、貴族に自慢していたのは働き始めて2ヶ月くらい経ったころと話していたそうだから、庶子がターゲットにされるようになったのはそれ以降、孤児の子たちはともかく、庶子が働かされていた期間は最大4ヶ月くらい。
そうかとちょっとだけ安心して、お酒が進む。
後から調べた2家は肩書こそ副部長などの役員ではないけど経理部長の補佐をしていたので、『不正受給にはべったり関わっているでしょうし、他にも情報漏洩などの不正の片棒を担いでいる疑いという話も信ぴょう性があるかもしれないですねぇ?』と、あの末っ子さんがわくわくしながらお話を聞きに行ったそうなので、今頃お仲間のことも含めて詳しく聞かれている頃だろうと。
使用人を虐待する人達なら……ちょっとくらい末っ子さんの犠牲になって貰ってもいいよね、うん。
ちなみに経理部長の家も残りの家宅捜索のリストには入っているそうで。時間を掛ければそれだけ色々隠されるので、残りは明日早朝から一気に行きますと。メイドさんたちもチョーコ達の朝食を済ませたらすぐ手伝いに行くらしい。
「あっ。朝食くらいは自分で食べられそうなものを勝手に食べて済ませるから、こっちは放ってすぐ行っちゃって!まずはその子たちを早く助けてあげて欲しい」
そんな感じで暫く飲んでいて……ふと。
明日の捜索の対象外で、まだ虐げられてる庶子っているのかなぁ?と思いながら炎の導きを出してみたら、グイッと強く引っ張られた。
あっ。回らないから1ヶ所確定?
捜索漏れの子。見つけちゃったよ、どうしよう……
「……チョーコ?もし軽く風にでも当たりたければ、俺も行こうか?」
「ん?――あ、うん。そうだね。ちょっとだけ外に出たいかも」
パジャマに見えないシンプルなワンピースだし、オクティも外に出て大丈夫なやつ。
「行先はチョーコに任せるから、どっちに行けばいいか教えてくれればどこにでも行くよ?」
「えっと、じゃあちょっと空を飛んで貰って、お散歩に行きたい、かな……」
「――敷地から出るならわたくしも付いていきますからね」
「わっ?」
いつの間にか真横に居たマナがしっかりとチョーコの服のそでを掴んでいる。
浮遊でおふたりのローブの裾にでも掴まって付いていくだけですから、全くお気になさらずご自由にお散歩なさってくださいというので、飲んでふわふわした頭でまあいっかと思いつつ外へ。
オクティに抱えて飛んでもらい、マナはオクティのローブを掴んでいて背中側に居るので、マナから見えない所で導きを使う。あっちあっちと指さしながら飛んで貰っていると、貴族街でも城に近い大きな屋敷の上空に着いた。
「ねぇマナ、なんだかあの屋根が木製で壁が石の大きい家が気になるんだけど、誰の家?」
「外務省長官……あ、外交官とは別人です。形式的に降嫁した元皇族候補に与えられる長官役職の1つでして。血筋的には今の皇帝と同じ母親から生まれた実兄にあたり、確か……降嫁と同時にご結婚されましたが奥様には早くに先立たれ、再婚はせず。今はお1人で過ごされているはずですわね」
「オクティ、あのお屋敷ってどう見える?」
「うーん、人の気配は使用人用の離れに全員集まってるな。母屋には誰も居ない、家主は外泊中か?」
「えぇと、母屋の特に右の手前のあのあたりかなぁ。何かすごく胸騒ぎがするっていうか……気になる感じ」
導きで見えた方向を指さすと、マナもそちらを見る。
「……わたくし、とても気になりますので、見に行ってもよろしいですか?」
「お願いできる?」
「はぁい、行って参りますわねっ!」
ぴょん、と身軽に飛び降り、右手前の部屋の窓に両手を翳して3秒ほどすると窓が開いた。
するっと、その窓から猫のように中へ消えていく。
「……あぁ、なるほどな。マッピング避けの対策がされてた、締め切った地下室があったみたいだ」
静まり返った夜風に響く音は1つもないけれど、オクティの目がチラチラと光っている。
きゅっと、通信石を握って黙って待っていると、『本当に捜索漏れ1名発見ですわ。こちらも病院へ連れて行きますが、下手人はどうしましょうね?』『朝まで逃げないように眠り草の睡眠薬1服だけ飲ませておいてくださいな。明日の捜索に加えますわ』と会話が聞こえ。
しばらくすると裏口からシーツっぽい布に包んだものを肩に担いだマナが出てきたので、オクティがすいっとそちらへ飛んで近付く。
マナがすぐにそれを抱えたまま、再びオクティのローブの裾を掴んだ。
「すみませんがまず病院へ行きましょう、お願い出来ますか?」
「わかった、テレポート!」
テレポートで薬屋さんへ飛んでから商店街の病院へ。流石にこの時間は行楽で病院へ寄りたい貴族などは居ないらしく、病院の前に人けはない。扉を開けると診察室の所からひょいと、天人さんを治療した時に主治医だったヴァンパイアのお医者さんが顔を出した。
「あぁチョーコ殿と伴侶殿と従者殿。……追加か?」
「はいその通りですわ。お願いできますか」
「処置しておく。他の患者は病室にいるが、治療の間に見舞っていくか?」
マナからひょい、と風船でも抱えるように重さを感じない動きで受け取ってからこちらを見た。
「あ、じゃあちょっとだけ」
治療を任せて病室まで降りたら、丁度病室から白衣を着た女性のサキュバスさんが出てくる。
「まぁチョーコ。どの子のお見舞い?」
「今日入院した子供たちの様子を見に来たんです」
「症状が軽い子はもうむこうの大部屋に移したわ。皆眠ったばかりだから静かにしておいてあげて。今私がいた部屋の子だけまだ眠れていなくて、緊張して喉が渇いたって言うからお水を取りに行こうと思ったところよ」
「水なら出せるぞ」
「あ、じゃあお願いするわ。それと何か、酸っぱい果物もあると良いんだけど」
チョーコがルーズベリーをひと掬い見せ、オクティがコップに水を入れる。
「あら、丁度いいわねぇ。ルーズベリーなら他の子にも少し食べさせたいから、多めに貰っていい?」
それならとどんぶりくらいの金属のボウルにザラザラッと入れて渡した。
「戻ったわ、ロノノちゃん?ほら、お見舞いに来てくれてる人がいるわよ?」
開いたドアの傍で見ると、皇帝の所へ連れて行った魚人の女の子と大体同じくらいの年に見えるし、同じように髪が真っ白くて、クリッとした目だけど、目の色だけ薄いグリーン。
チョーコとオクティを誰?と思いながら目でなぞり、マナの顔を見るとあっという顔をして、少しホッとしたのが分かる。
サキュバスさんがコップと皿くらいは置ける小さな机にボウルを置いて数粒ベリーを女の子に食べさせてから水を飲ませ。頭と背中を数回撫でた。
「そこの女性の方がチョーコさん、この商店街を作ったすごい人で、隣の男性はオクティさん、チョーコさんの伴侶、旦那様よ。あなたを助けたあのメイドたちは、2人の従者なの。つまりこの2人があなたを助けてここに連れてくるように言った人たちってことね」
「……?しらない人が、どうしてあたしをたすけた人なの?」
「えぇとね、たまたま、あなたと同じような生まれの人を助けることになって。その子が他にも自分と同じようにひどい目にあってる人がいるんだって教えてくれたの」
「同じ……だれ?」
「直接の知り合いかどうかは分からないけど、ユガっていう男の子」
「ユガにいちゃん……?!にいちゃんもここにいるっ?」
「知り合いなら良かった。うん、ユガもこの商店街に来てるよ、ここで働いて貰って、好きなもの食べさせてあげるって約束してるの。あなたも何かしたいことはある?」
「たべる、ごはん……作って、食べれる?」
「え、作れるの?」
「ロノノね、洗うのできる」
「お皿洗うだけでもいっぱい洗えばいっぱい好きなごはん食べられるよ」
「ん。いっぱい作ってごはん食べる!」
「じゃあしっかり食べてしっかり寝て、早く元気にならないとね。働くのは元気になってから。ユガにもお見舞いに来て貰えるように伝えておこうか」
「ん。にいちゃんといっしょする!」
伝えておくわね、とサキュバスさんが言って。彼女をひょいと抱えて寝かせ、布団をかけていく。
「さあ、そろそろ眠れるでしょう。おやすみなさい?」
彼女は少し、楽しみにしている様子で素直に目を閉じた。
「ん。おねーさんたち、おやすみ」
「うん、おやすみ」
あとをサキュバスさんに任せてまた上へ戻ると、処置が終わったらしい。さっきの子よりだいぶ背の高い、完全に成人してそうな女性。髪はかなり短くまばらにあちこち切り取られ、身体も顔も骨が浮くくらいに痩せているのを、先生が抱きかかえて階段に向かってきていた。
「……どうでした?」
「少なくとも10年は栄養が足りない状態が続いていたように見えるし古い傷もかなりあった。……だが問題は身体より心の傷だな。経過を見てみないと回復の見込みは分からんが。出来る処置はしよう」
「そう、ですか」
チョーコが乱雑に切られた短い髪を気にしている視線を見て、オクティが待ってくれ、と声を掛けて彼女の頭に手を翳し、再生をかける。するすると髪が腰ほどまで伸びた所で止めた。
「これでいい?」
「うん……ありがとうオクティ」
オクティはそのままチョーコをひょいと抱き上げる。
「じゃあ俺たちは帰らせて貰う。明日も多分何人か届くと思うから……よろしく」
「よろしくお願いします」
ぺこっと会釈すると、マナが掴まってきたのを確認してから玄関までテレポート。
――すっかり4人勢ぞろいで立って待たれていた。
「あ、ご、ごめん。ただいま」
「おかえりなさいませ。やはりマナを付いて行かせて正解でしたわね」
「だんだんわかって参りましたわぁ」
「チョーコ様の胸騒ぎは落ち着きまして?」
「うん……後は明日だけで大丈夫そう」
「それは何よりですわ。それでは、仕事後のもう1杯をどうぞ?」
食堂へ行って、改めて皆で杯を持つ。
「明日の作戦の成功を願って」
7つの杯が小さく鳴った。
***
昨夜見つけた庶子の子は女性ばかり3人だったが、早朝からの捜索で見つけた庶子は男性ばかりで女性はまだ幼女の1人だけだった。
その子は親戚が生んだ子を露呈しないように密かに引き取り、未成熟児の孤児を引き取ったと申請を出していたために調査。木の粉だけはちゃんと与えており、まだ幼すぎるせいか働かせたりもしていないし、魔法の扱い方は正しく教えていたし、単に食事が最低限で態度が冷たい程度で適正範囲の育児といえた。
出産届を出さずに親戚の家に隠して育てていたのを孤児の引き取りとして提出していた部分はちょっと話し合いが必要だけど。その家だけは完全に無罪の可能性があるので聞き取りは末っ子さんじゃない他の秘書さんが担当するそうだ。
……新しく9人追加かぁ。
今回見つかったのは幼女以外5歳は越えていたし男性ばかりだったからか動けなくなるような酷い虐待はなく、痣などがないか検査はしたけど重労働を課されていただけと判定。コロセオ家と同じように不正受給や給与の未払いがあれば罰金含めて清算する命令と、城勤めのものの降格処分、それと末っ子さんのしっかりした事情聴取だけで済むそう。
財務部長、補佐達にそそのかされてやってしまっていたらしく短期間なので払いきれるけれど降格処分になってしまったそう。
実は財務の副部長がスザンヌの父親らしいのだが、彼が部長へ繰り上げ、一般部員だったミーティアの父親が副部長に上がるらしい。
うん、宰相さんの派閥がグイグイ各所のトップを埋めていっているね。
庶子も孤児も含めて希望者は全て5歳を越えていればそのまま商会員として働けることになったし、長官の娘は完全に成人しているので、そちらは養子縁組など保護者の変更はわざわざしないけれど。
なんだかすごくスザンヌにべったり懐いたユガと、昨夜のうちに助けられた2人の女子、それと朝見つけた幼女も育てられないというので4人まとめて、スザンヌの養子として引き取られた。
もともと双子を育てていたから急に6人兄弟の親になるってこと?大丈夫なのかと思うけど。ユガは子供の世話が妙に上手かったので、まだ赤ん坊の双子の男の子たちの相手をしてくれて助かっているそう。
またロイドの指示で商会から母子手当がつくし。これまで未払いだった給与が子供たちに払われるし、不正受給されていた支援金も正しくこちらへまとめて払い直される。
財務部長に上がった父親から謝罪の申し入れがあったのを蹴った代わりに、しっかりその辺りの支給が今度からは公正に支払われるようにと返したらしい。
商店街では南の海の魚人さんたちが不死族に心酔しすぎていて商会員としては扱いづらいというかチームワークで人間と息が合わないというか。結果的に水は必要だけど人間だけで回さざるをえないところが幾つかあってちょっと水不足気味だったので、今回の庶子が来てくれたのはロイドさんがとても喜んでいるそうだ……
――昼にもならないうちにそんな結果報告が来て、酷い怪我や労働環境が最悪だった人は昨夜の内に全員助け終わっていた、という事にまずホッとする。
昨夜チョーコが見つけた捜索漏れの彼女だが、どうやら皇帝が即位すぐの頃、まず手を出したのは新婚ほやほやの兄の奥さんだったらしい。外務省長官の夫との子供を持つ前に彼女を生むことになってしまって夫婦仲もぎくしゃくしてしまい、結局奥さんはすっかり病んで次の子も出来ないまま。娘が15になるくらいの頃に儚くなってしまったそう。
長官はそれらの苛立ちを全て血の繋がらない娘にぶつけてきてしまっていた。
捜査から漏れていたのは奥さんが生きていた頃から隠して育てられた上に、子供がいたと気付かれたところで既婚者だからと誰も掘り下げて調べなかった。奥さんが亡くなって引き籠っている長官をわざわざ弄りに行く人はいなくてそのまま15年、家に仕える従者たちが言いふらすわけもない。
噂も書類上の動きもないのですっかり捜査から外れてしまっていたらしい。
――見つかって良かったよね……うん。
資産をほぼ全て彼女に贈与する指示が下り、長官の肩書も外されたものの。貴族として最低限の衣食住は維持されるし貴族の肩書自体はそのまま、という判決になったそうだ。
こんなふうに完全に閉じ込めたまま密かに闇に葬られてしまった人も居たんだろうかとふと思ったけれど。幾ら30年分とはいえ、47人も見つかったので流石にもういないだろう……と思いたい。
気にしているように見えたのか、リナが追加の情報として教えてくれたことによると、いわゆる出来ちゃった婚で赤子を抱えたまま縁組をした水属性の女性を調べると、妊娠発覚ではなく出産直後で結婚したカップルの殆どが、母親の髪は白に近いのに子供の髪が青らしい。
聞いても教えてくれるわけではないけど、おそらく捨て子にならなかった子は上手く実子か養子として扱われているだろうから心配いらないという。
――色々終わってホッとしたけど、何となくずっと気が張っていたせいか疲れてしまった。と思っていたら、マナがミラルダさんから貰った石鹸の1つを持って来る。
「さぁさぁ、折角大仕事が片付いたんですから力を抜きましょう?こちらはリラックスの香りとなっております。軽めのマッサージもおつけ致しますわね。……あ、オクトエイド様もたまには受けられます?」
「いや俺は良い。後で石鹸だけ試させてくれ」
軽めに、湯船に浸りながら頭や肩や腕などをゆっくりマッサージしていって貰いつつ息を吐く。
リラックス石鹸はラベンダーベースで何種類か何かの香りが入ってるような感じで、このまま眠ってしまいたくなるような柔らかい安らぎの香り。
「ねぇチョーコ様?チョーコ様の胸騒ぎって、どういう時に起こるんです?」
「え……心配ごとがこのままだとちゃんと解決しないような気がする、行かなきゃみたいな……?」
「なるほどー。今度からはちゃんと、気になる時は、胸騒ぎがするって言ってくださいね?」
「ん?」
「チョーコ様のやりたいことが正確に分からないと、わたくし達も動きづらいですので。動くなら動くと、先にわたくし達にも伝えて頂けると助かります」
「それで言うのが、胸騒ぎがする、だけでもいいの?」
「時計の時に思いましたけれど……チョーコ様は何がどうなるという具体的な考えではなく、ただやたらと正確な胸騒ぎに従って動かれることがあるんじゃないですか?おそらくその時点では説明が出来ないというか、具体的に何がどうなるのか分かっていらっしゃらないので何も言わずに動こうとされてません?」
「……うん」
「胸騒ぎがするとだけおっしゃる時は『説明できないけど気になる』という意味と受け取ります。ですから、わたくし達も直接付いて行きますわ」
「えっ?」
「何が起こるか分からないなら、自分で見て判断するしかありませんでしょう?」
「……いいんだ、それで」
「もし、わたくし達が行けばかえって邪魔になるのなら、何故かわからないけど付いてこないで欲しいとおっしゃるでしょうから、遠慮なく参りますわよ」
「……ありがとう」
「死ぬまでお傍にいると誓った身ですもの。わたくし達には遠慮なさらなくて宜しいんですよ?分からないなら分からないと。ただ胸騒ぎがするとおっしゃってくださいな」
「うぅ、頼りになり過ぎるぅ……」
漏れた言葉に、マナは優しい目でふふっと笑った。




