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飢えないだけじゃ生きられない(日・水・更新中)  作者: なるねこ


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9.上下水道もない

眠って次の日、獣人たちに挨拶をしてから村の前に目印を付けさせて貰い。また来るからねと出発。


「さーて、どっちから探しにいくのがいいかなぁ!」

「普通に飛んでいくんじゃ一時間ごとに降りて休まないといけないけど。今はチョーコがいるからな。思いっきり高く飛んで、上から気になるものの所へテレポートで飛ぶのが良いんじゃないか?」

「わかった、面白そうなところ見つけたら飛ぶね」


また夜のように抱えて貰って、ぐんぐん高度を上げていったら。街から離れる方向に、森が長く切れ目になっているようなところがある。


「あそこって、たぶん川だと思うけどどう?行ってみる?」

「川……は聞いたことが無いな」

「え、ないの?!街に水引く時、海からは引けないから湖とか川とかから引いてくるでしょ?」

「いや?わざわざ水を持って来る仕組みを作らなくても、飲み水くらい誰でも出せるし」


あぁそうか?料理しない、風呂もトイレもない、泥汚れくらいしか服が汚れることもないってことなら、水道なくても足りちゃう……?

ちなみに出した水で手や顔や足の泥を洗ったりすることはあるので水場と排水の概念はあるけど、下水はなくて家の庭に流すだけらしい。


「たまたま知り合いに誰も水出せる人が居ない人はどうするの?」

「3種全部持ってるのなんて魔塔にしかいないから、普通はお互い必要な時に手伝うし、近所全部見回して1人もいないってことはないかな。

まぁ、なんかちょっとケンカになって暫く頼みづらいとかだったら、冒険者組合とかに水属性持ちに通いか泊まりで来て欲しいと依頼すれば駆け出しの冒険者とかが小遣い稼ぎで手伝ってくれるよ」


「ご近所付き合い苦手だと生きていけないね」

「ひとりで生きられないのは皆そうなんじゃないか?近所の人が苦手なら職場でもいいけど。普通は髪が黒でも青でもないのに水出すの頼みに来なかったら、家で干からびて死んでないか見に来られると思うぞ」


「火と風の人はやって貰ってばかりにならない?」

「火は体拭くからお湯にしてくれとか、ごみ処理とかでよく呼ばれるかな、風はちょっとこれ切ってくれとか、重いもの運んでくれとか」

「オクティはなんでも出来るから重宝されそうだね」

「いやお返しが出来ないから頼みづらいってさ。物とか金とか可愛い子紹介するとか言われても困るし」

「そっかぁ……」


「で、結局川ってなんなんだ?」

「見たことないなら行ってみよう、テレポート」


かなり広い幅で削れた跡があり、広く土が見えているのに比べて、水が流れてる部分が随分と少なくてちょろちょろしている。

川に近付いてみるけど、魚の一匹も見当たらないし、水深も浅い。


「最近日照りだった?雨が降ってなくて干上がっちゃってるのかな」

「雨……?」

「それも知らない?!」

「うん。……この辺は討伐隊が来てないからか、魔獣がけっこう湧いてるな」


魔獣が森の中にかなり居るらしい、と言われても川より高い所に森の地面があるのでチョーコには出てきたやつしか見えないのだけど。

オクティが風の魔法を撃っているので奥に何匹か来ているんだと思う。


「片付けとくよ、んで雨って?」


暖かいところでは雨、寒いところでは雪が降って、山に染み込んで川が出来て、それが湖や海に流れてって話をしたら。


海だけは魚人が住んでいる地域だと聞いたことがある。雨も雪も知らないけど、日照りで地面が干上がるとかそういう変化は見たことがない。

魔獣の核を撒けばどこでも木は生えるし暑くも寒くもならない、季節の変化自体、地域を移動しないと変わらないのだと。


地域が変われば森だけでなく海や砂漠、溶岩や高山だとか色々な環境がある。海にしか住めない魚人のように、特殊な環境にしか住めない種族も多いんだそうだ。


季節が動かないなら果物とか作物の類を育てたい時にどうなるんだろうと思うけど、そもそもここに来てから森の木以外の植物を見たことがないんだよね……などと考えつつ川の水面を目で追っていたら。

オレンジ色が水の中を転がっていた。


あれなに?と指さす。正にオレンジくらいの丸っこいものが川をころころと流れ下っていく。

魔獣ではないみたいだから拾ってみるかと、オクティが水を操ってポンと空中へ飛び出させ、飛んできたのをキャッチ。


オクティがそれをじっと見るけど、特に魔法っぽいものじゃなさそうだと見せてくれる。


受け取ってみると本当にオレンジだった。細かい品種は知らないけど、香りも色も間違いない。


「わー、オレンジだぁ!」

ちょっと剥いて中を嗅いでみる。別に腐ったり虫がついたりしてる様子もないので、ひと房千切って端に噛みつく。


そのまま絞ればオレンジジュースになるだろう、しっかり甘くて酸っぱい。おいしいと言ってオクティの口にも薄皮を剥いて入れてあげると、新しい味覚にまた目を見開いた。


ひと房食べたら充分な気持ちになったので、残りはアイテムボックスにいれておいて。上流から転がって来たから川の周囲に何かある筈、と集中して見回しながら上流へ向けて歩いていくと、それほど長く歩かないうちに甘酸っぱいいい匂いがしてきた。


周りの木よりは背が低いので上空から斜めに見た時は見えなかったけど、川側から横に見ると、木々の隙間にオレンジ色の身をたくさんつけ、幅の広い葉も付いた大きな果樹が何本も生えているのを見つけられる。実から落ちた種で増えたのだろう、もう実を付け始めているくらい育った若い木も、周囲に何本も生えているみたいだ。

周囲の木々と場所を取り合って狭そうではあるが、そんな状態でもたっぷりついた実から目が離せない。


早速オレンジの木の傍に転移の目印をつけ、熟した実をアイテムボックスに詰めていくことにする。

若木もどこか広い所に植え替えてあげたら増やせるんだろうけどなぁ。植物の種も苗も一度入れちゃったら死んじゃうらしいし、直接持ち運ぶしかないんじゃ、今は放っておくしかないか。


実を食べても良いし、オレンジジュースにしても、皮を刻んで砂糖と煮てジャムも、皮を干してお茶に。

口から全部漏れていたみたいで、そんなに色々作れるのかとオクティが反応した。

そうなの、帰ったら色々試してみたいねと、ひと休みがてら先程しまった剥いたのを出して続きを食べる。


休むといっても相変わらずオクティはちょいちょい魔獣を狩っているようなので、チョーコがオレンジを剥いて口まで入れてあげる。


朝ごはん代わりだけど、オレンジ半分ずつで充分に感じるのは、やっぱりこの身体の胃が小さいのか、あまり魔力が減ってないからか。


成果はあったし、もう昼は過ぎたし、そろそろ帰ろうか。と帰路に就く。

また高く飛んでテレポートで帰れば早いけど、折角だから何かついでに見つかったりしないかと、木々のてっぺんくらいの高さで街の方向へ少し飛んで森の中を眺めてみることにした。


昼間の明るさのおかげで木の隙間に動くものも時々目に入ってくる。ゴブリンらしいものが、魔獣っぽい黒い塊と戦っていたり。獣人が丸っこい茶色のブタのような謎の動物を集団で捕まえて噛みついていたりするのを見ていたら。

急にぐんっと勢いよく飛び上がった、と思ったら、足元の木のてっぺんから巨大なムササビそっくりの形をした魔獣が飛びつこうとしていたらしい、風の刃でスパッと切られて煙のように消滅し、核が落ちていくところが見える。


「地面だけじゃなくて木の上にいることもあるんだ……びっくりした」

「飛ぶやつが良く出るダンジョンもあるし、凄いスピードで地面を走ってくるやつも居るよ。さっきのやつは高い所に貼りついて待ってて、獲物が近くを通ると滑空して襲い掛かるんだ。あのダンジョンに居た奴は真上から落ちてくるか目の前で飛びついてくるだけだけど、今のは猛スピードで正確に飛んでくるから地上にいるときに襲われると避けるのが難しいんだよね」


そんなふうに話しながら暫く飛んでいたが、ふわっと止まって遠くを見るオクティの目に光が動く。

「どうしたの?」

「まだだいぶ遠いけど、綺麗に隊列組んで動いてるから軍人の魔獣掃討部隊だな、複数人が魔法を使ってるのが見える」


ちらっとチョーコの方を見て、見られると面倒くさいし、ちょっと遠いけどあそこの木の上に飛び出してる石があのダンジョンの入口のてっぺん、見えるか?と指さされた先。

ギリギリあのピラミッドっぽい遺跡の先っぽいものが見えた。

あぁうん、見えたから飛ぶねと素直にダンジョンの真上目掛けて『テレポート』


到着するとすぐに素早く地面に降り、チョーコも地面に降ろした。

「ここから先はテレポート禁止な、何か聞かれても喋らなくていいから」

と小声で言うと、城門の方へと広い空き地を突っ切って歩き始めたので、チョーコもちょっとフードを深めに被って、後ろをついていく。


夜には見えなかったけど、昼はそれなりに兵士のような恰好の男女様々な人間が、鎖でつないだゴブリンや獣人を連れて森に近い所を巡回したり、動き回っている。


広場をまっすぐ歩いて門まで辿り着く。木製の大きな扉が開け放たれている脇に椅子を置いて腰かけた、槍を持った兵士のおじさんが、オクティの顔を見て「ようオクティ、今回の仕事は長かったな」と気軽な様子で話しかけながら立ち上がって寄ってくる。


「ただいま」

「その後ろにいるのは、魔塔の子かい?俺とは初めましてか」

喋らなくていいと言われたけど、どうしたらいいんだろう。ぺこ。と頭だけ下げながらオクティの後ろに隠れるように少し横にずれる。

「ダンジョンの仕掛けについてちょっと調べることがあってさ。詳しくは『制約』で言えないんだけど、この子の力が必要だったんだ」

「あのダンジョンに仕掛け?もしかしてちょっと前に入口のあの建物が割れたとかいう?」

「報告は冒険者組合に提出しに行くよ。危険な仕掛けではあったけど、ちゃんと最深部までクリアして来たから、暫くあのダンジョンはおとなしくなったと思う」

「おう流石だな!んーで……そいつのことは『制約』か、名前は?」

と、軽く下から顔を覗いて目を合わせてくる。

聞かれても喋るなと言われたし、喋れない、と黙って首を横に振る。

数秒目を合わせられて不安になり、無意識にオクティのシャツの裾をぎゅっと掴んで肩に顔を伏せるように寄った。


門番は数瞬考えてから、半歩下がり両手を広げて頷いた。

「確かにその目は魔塔の秘蔵っ子っぽいし、オクティに懐いてるのも間違いないな。通っていいぞ」


オクティがチョーコの手を掴んで引き、ぺこ、と頭を下げて通り抜ける。

ホントに何も聞かずに通してくれたね。と小声でささやく。


『制約』というのは、魔塔や城で使われている契約魔法で、守るべき内容を読み上げ、それについて互いが制約すると答えると、その条件をクリアするまで双方その内容には絶対に反することは出来ないという魔法なんだそうだ。

魔塔の任務で動いていて、制約で内容は秘密と言われたら、どんなに本人が喋ろうとしたとしても内容を喋れないので、尋問は無駄らしい。


内容を強制的に守らせるということで『隷属』にも似てるが、納得できない内容なら制約すると言わなければいいし、実は抜け道も幾つかあるとか。


気にはなるけど歩きながら目を閉じて情報検索は出来ないから後にする。


門からしばらく歩いて、商店街のようなところを通り抜ける。食べ物関連のお店が一つもないというのが私にとっては凄い違和感だけど、繁華街あるあるの腐臭や下水のような嫌な空気は一切ない。

薄く透ける滑らかな布、精緻な刺繍、木や白い石を削りだした小箱や小物、金銀等や磨いた石や宝石を使った宝飾品、食器、家具、カバンや靴などがたくさんの店先に並んでいるのが見える。


商品自体はとても豊かに色々なものがあるようだし、道行く人々も皆清潔な服装で、道端にゴザみたいな荒い敷物を敷いて寝ているような人さえ、汚らしさとは無縁だった。


街並みは清潔で、皆健康で、誰でもきれいな水が魔法で出し放題。飢えることもない。寒さに震えたり、雨に打たれたり、暑くて地面が干上がって何も育たないなんて苦しみもない。

ある意味ものすごく平和で幸せな国なのかも……


でも、食べ物が粉。


何というディストピア感。いや、それが当たり前で、そこに満足してる人たちは良いかもしれない。むしろここにおいしいものを持ち込んだら、貧しい人は水と粉で生きていけなくなって苦しむかもしれない。


それでもさ、と思う。美食や享楽を追求しろとは言わないけど、ほんのちょっとの楽しみとか、少しは満足できる生活を求めてもよくない?


歩いているうちにもう一つ気になったのは、刺繡で色のついた宝石を縫い付けた布はあっても、糸や布自体を染めてある服が見当たらないこと。

視界に見えるのは生成りというか、若竹ならぬ若木の繊維を取って加工したそのままの色ばかり。


おかげで魔塔所属を表すローブの地味でくすんだ茶色が目立つことこの上ない。オクティには話しかけるのにこっちには客引きすら何も言ってこないのは浮いているからだと思う。


そういえば花も草も無いんだもんね。染料は魔法を研究で合成して作りだすような特別なもの?

ってことは絵具はない?画材欲しいんだけど、むり?


オクティは表通りからは外れた、衣料品などが置かれた布類の店に入ると、破れたシャツの替えや、チョーコが着られそうなサイズのワンピースと靴や室内履き、タオルなどを何枚か買い込んだ。

店主もオクティとは顔見知りらしく、チョーコのこともすごく気にしていたが、任務で一緒だったんだと説明するだけだったので、念のためフードで顔を隠したまま背中に隠れて黙っておくことにする。


通貨は何だろうと見ていたが、商品の所には値札っぽいものが何もない。

店主が火でお願いしますと言って差し出してきた、白っぽく半透明な指先で摘まめるほどの小さいガラス片をオクティが一つつまんで何かすると、それがサッと赤く染まり。それを渡して包装した商品を貰って店を出た。


店を出てから聞くと、あの石は魔獣の核に『圧縮』という魔法をかけて作る『魔石』という結晶で、あれに特定属性の魔力を込めたものを、その属性持ちの人が身に着けると、魔力回復がちょびっと早まる効果があるらしい。

気休めみたいなものではあるが、大切な人へ贈るお守りとして人気があるそうだ。


よく読んだ作品では火の魔石の魔力を使って火魔法を使うなんて話もあったけど、そういうものではなくて、本当にただのお守りとして使われているらしい。

見てた感じかなりサラッと作っていたけど、魔石に魔力を籠めるには強い魔力を当てる必要があるので、魔力の少ない一般人が作ろうとしたら、同じ適正持ちを5人くらい集めて作るものらしい。


「あぁ、そんなに強い魔力がないと作れないから頼むのね。私だったら大事な人から貰うなら、その人が直接籠めたのが欲しいだろうなって思っちゃった」

「そうだね、それは俺も同感」


通貨について聞いたみたところ、通貨として使われているのは鉄、銀、金の粒と宝石類なのだけど、文字や数字をよく知らない庶民の間では物々交換も普通だし、売り手によっては、魔石や珍しい色の獣毛や立派な羽など、通貨より自分で素材として使えるものを直接貰った方が嬉しい場合もある。


長年安全な街に引き籠って時間があるせいか技術職がかなり多くいて、刺繍の少ないワンピースとかシンプルなものはかなり安くなってしまうから、ちゃんと値を付けて売られている服は宝石を縫い込んだり無駄に細かい刺繍をしたり、彫刻したボタンを取り付けたりしてわざと値を上げられているものが多く、オクティの趣味ではないらしい。


さっきのお店はいつも、単体では値にならないシンプルなものを数点まとめ買いで魔石一つとか、そういう売り方をしてくれるので愛用しているだけで、別にお金がないわけじゃないぞ?宝石が付いた服や家具が欲しいとか、言ってくれれば用意出来るから言ってくれという。


「私もいつもシンプルなの着てたし、服にはこだわりないからなんでもいいよ」


可愛い服は好きだけど、シンプルで充分というか普段着ジャージだったし……このままじゃ生活費全部をオクティに貢がせることになっちゃうもんね。

お返しできないのはやっぱり良くない。そのうち何か収入を得る方法を考えて、自分で買えるようになろう。


ぐっと決意をしているうちに、オクティの家に辿り着いたみたい。

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