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飢えないだけじゃ生きられない(日・水・更新中)  作者: なるねこ


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89/89

89.そちらが狙われるとは

一歩外に出ると公園みたいにピンクで綺麗な歩道と楽しそうな人々の流れが目に映る。

なんだか嬉しい気持ちで通りがかったケーキ屋さんには、既にルビーメロンのケーキが出ていた。


「わっ、新作出るのが早い!」

「ミナが全面協力で、新しい食材が来る度に宰相家で研究開発したレシピを商店街に卸してるらしいぞ」

「そうなんだ?」

「ハンバーグのための、肉のミンチを作るための業務用機械も開発中だってさ」

「えぇぇ、はっや?!」


「ふふ、折角だからふたりで何か食べに行こうか?デートらしいのはコーヒー店とか?」

「はっ……確かにこれってデートっぽいかも!えっと、うん。コーヒー店試してみようかな?」


ちょっと恥ずかしいけど、オクティが手を繋いできたのでコーヒー店まで歩く。お店に入るとコーヒーとケーキの香りが混ざった暖かい空気が満ちていた。

店員さんは人間の女性が1人だけカウンターに居て、ただいま満席ですと待合いの椅子に案内されるが、他に待ってる人も居ないようだし、のんびりと店内を眺めてみる。


まず隅っこの2人席でガチガチになりながら単品のカップを1つずつだけ注文した平民っぽい服装の男女2人組、女性の方にはカフェオレ、男性の方にはコーヒーが来て。男性の方が口に入れてにがっと驚いている姿がなんとも微笑ましい。


貴族の男性が仕事の合間に来ているようで、同じような2人掛けの席で1人、コーヒーを飲みながら書類らしい紙を片手に難しそうな顔をしているのも応援したい気持ち。


奥の4人掛けで和気あいあいと話している奥の貴族らしい女性グループのテーブルが既にカップもケーキ皿も空になっていて、そろそろ席が空きそうかなぁと考えていたら……


扉が開く音に振り返る。

新しく入ってきた高そうなフリルドレスの女性がチラッとこちらを見て。あら満席?と呟いて店内を見回すなり。店員の案内も待たずに平民の男女の席へ直行した。


「そこ、譲ってちょうだい?」

「「……??!」」

奥には食べ終わってる女の子たちがいるし、こちらはまだ明らかにさっき飲み始めたばかりでほぼ減っていないカップを持っているのも気にせずそう言い放つが。しばらく固まって返事が出来ない2人を見ると面倒くさそうに財布を出して銀貨を2枚机に投げる。

「分かったわよ、ほら。これでまた後で来ればいいでしょう。早くどいて下さらない?」


いやいやいや。見ていてつい、口が出てしまった。

「あの!私たちも待ってますし、ちゃんと座って待ってください」


「何よあなた、私を誰だと思っているの?コロセオ家を知らないのかしら?」

「知りませんけど」ぐっと通信石を握って「コロセオ家の偉そうなお嬢様ってどちら様ですか?」

「んまっ?!」

『アリア・コロセオ22歳、兄が3人、総務の副部長の末娘ですが、7年間に30回以上お見合いに失敗していると伺っておりますわね。サラ様とカリナ様のお父様が総務部長ですから、おふたりとは顔見知りだと存じます』

スラスラとニナの声がする。

「アリア・コロセオさん?うーん、サラとカリナとお知り合いなんですか?彼女たちから一度も聞いたことはないんですけど」

「は?!平民の冒険者風情が!どうして総務部長のお嬢様方とお知り合いなの……よ?あ……?そ、の髪、ぃ、いや違いますのよ?まさかあなた達、いえ、あなた様、は……」


オクティとチョーコの間を視線が忙しく行き来している。『黒髪金目の冒険者2人組』の特徴はやっぱり分かりやすいらしい。おろおろと真っ青になって「し、失礼いたしますわっ」と外へ逃げていった。


やり取りを見ていた店員も青い顔をしているし、店の中はしんとして、特に席を譲れと迫られていた2人は銀貨を机に置いたまま固まっている。


……雰囲気を破るようにオクティが立って、平民2人の机から銀貨2枚を取り、金貨を1枚そっと置く。


「これはこっちで返しておくから忘れていいぞ。ここは()()()が作った大事な商店街なんだ、懲りずにこれでまた来てほしい」

「は、えっ、金貨……えっ?」

「ぁっありがと、ございます?!」


オクティが待合椅子に戻ると、奥にいた貴族の女の子3人が慌てて早足で出てきてチョーコとオクティの前に並び、ペコペコと頭を下げてきた。

「お、お待たせしましたわっ。わたくし達ただお喋りしていただけでしたので、お2人がいらっしゃったと聞けばすぐお席をお譲りしましたのに……」

「私たち今日は本当にプライベートで来ただけだから、ゆっくり楽しんで貰っていいですよ。ありがとうございます」

店員も急いで女の子たちの会計を済ませてその席を清掃し、チョーコ達を席へ。


オーナーをお待たせしてしまって大変申し訳ございませんとかなり謝られてしまう。先ほどのグループ、もう結構長く追加注文なしで居座っていたらしい。

「私は少しくらい待つのは気にしないので」


ただオクティは少し不機嫌そうな顔で、いちおう声のトーンは抑えめに口を挟んだ。

「チョーコはこう言ってるけど、席の独占だけじゃなくさっきの割り込みも、客に言わせる前に店員が止めるところだったんじゃないのか?」

多分、本当は『チョーコに言わせるな』と言いたかったんだと思う。


「う、申し訳ございません。その……」

店員さんはさっき座っていた3人組やコロセオ家とは派閥が同じで家格が凄く下という立場だそうで、混雑時の席の独占や強引な割り込みを注意して目をつけられたら簡単に家ごと潰されかねないと、言いづらかったらしい。

「店員として立っている今は、実家ではなく『商店街の方針』を優先してくれ」

「はい……申し訳ございませんでした」


「……ねぇオクティ。店員としては注意するのが正しいけど、流石に完全に顔見知りで同派閥の偉い人が相手だと直接注意するのは怖くても仕方なくない?」

「まぁ、家ぐるみの知り合いだと逆恨みは確かに心配か。他の店でも同じような問題はあるだろうし、ロイド会長たちにも改めて対策を考えて貰った方が良さそうだ」

「そうだね。――店員さん。商店街の指示には従ってほしいけど、もしそれで家を脅すとか嫌がらせがあったら、こっちで絶対何とかするからね、必ず隠さないで報告して?」

「は、はい!ありがとうございますオーナー」

お礼を言われつつ、改めてメニューを見せて貰った。


「へぇ、コーヒーとかカフェオレの単品はおかわり一杯無料の上に、別でミルクとか追加していいんだ。うーん、私はお勧めにあるコーヒーとケーキのセットにしようかな、わぁ、りんごとシナモンのケーキだって!」

「俺もケーキセットで、チーズケーキってなんだ?家ではまだ出たことないな」

「あっ美味しそう!レモンはまだないからチーズと生クリームと砂糖かな?私も気になるから半分交換しない?」

「いいよ、交換しようか」


チーズケーキはスポンジの上にミルク感の強いチーズクリームだった。オレンジの風味が付いており、甘さはかなり控えめでこってり重めの贅沢な味。向こうのチーズケーキの頭で食べると違和感が……いやこれはこれでちゃんと味のバランスは取れてるし美味しいんだけどね?レモンの入ったレアチーズケーキが食べたくなってきた……

りんごとシナモンも黒砂糖で甘さが付いていて風味は最高!あぁここまでの完成度ならケーキじゃなくて『アップルパイ』が欲しい!

あと一歩がもどかしい気持ちもあるけど……どちらも手探りでここまで漕ぎ着けてるんだよね。


「美味しかったぁ」

ゆっくりケーキとコーヒーを楽しんで帰ろうとした際、あのカップルの机にもチーズケーキとリンゴシナモンケーキ、そしてミルクも追加注文されているのが見えて、とても幸せそうな雰囲気にほっこりしながら店を出た。


「面倒事はあったが、ケーキとコーヒーは良かったな?」

「うん、美味しかったし、あの人たちもちゃんとデート出来たみたいだし。それに……」

はっきり『妻』って言ってくれたの初めて、だよね?とによによしてしまう。


「む。知り合いの前だと名前呼びしちゃうし、あまりチョーコの事を知らない人に話すことって無いからな。しかしこれでときめいてくれるならもっと言いたいような、たまの驚きにしておきたいような……」

「私が呼ぶなら私の旦那様かうちの主人とか?えぇ……どっちがいいんだろう迷う」

「んなっ、どっちも捨て難い、けど。んん、僅差で旦那様……いやでも、んんん」


結論が出ないまま話しながら歩いているうちに、ミーティアデザインのグッズを扱うアクセサリーショップの近くを通りかかった。

新作のデザインリングが入荷したというイラストを見るとまたオクティが入ってみるかといって中へ。


「「「いらっしゃいませ」」」

揃った落ち着いた声に迎えられて入店。奥のカウンター内で商品を丁寧に磨いて並べる作業をしてるヴァンパイアの男性が店長さんかな?他は人間の女性が3人店内にいるけど近付いてはこない。お店で店員さんに張り付かれるのは得意じゃないので、呼ぶまで来ないスタイル助かるぅ!と思いながら見て回る。


見覚えのある商会紋のバラシリーズは入口近くのすぐ見えるところに棚が作られ、木彫りや銀から宝石付きまで様々。木彫りなんかは銅貨でも買えるし、高い物でも銀貨数枚。大きなバラで髪留めになっているものとか可愛いなと思ったけど木彫りの黒しかなくて、黒髪に黒いバラだと紛れちゃうので買わず。


その棚より奥へいくと徐々に高価なものが増えて、本当に高級な品はカウンターの中だけみたい。

奥へ踏み込んだ途端、女性の店員たちからの視線が強い警戒に変わったのが分かった。フードまで被った冒険者っぽい2人組だから?


3人分の監視するような視線がすごくジロジロと感じられて流石に居心地が悪いなぁ。

――と、思った瞬間。カウンター内にいた彼がバッと顔を上げて近寄って来た。


他の店員たちは全員『えっ』と固まったあと「いらっしゃいませオーナー!失礼しました付き添いもせず」の声で真っ青に。


店員さんたちは、平民はどうせ商会紋シリーズの安いところしか買わないので付き添っても売上に繋がらないと思って放っておいただけで。

店長は付き添おうと思ってたけど、チョーコが呼ぶまで来ないで欲しいタイプだから待機してたみたい。


「あ、こんにちは。今日はプライベートなので、一般客として扱ってもらっていいですか?」

「これはこれは、伴侶様とお忍びデートでしたか、失礼致しました。なにかお揃いで付けられるようなものをお探しでしたらペアのネックレスやペアリングなどございますよ、どうぞどうぞ」


気まずそうな他の店員と目が合わないように奥へ行って指輪を見せてもらうと、デザインはシンプルなものから豪華なものまであったが、流石にヴァンパイアの目が肥えているのか安っぽいものはひとつも無い。まぁ、お値段も相応に高めなものが多いけど。


細かい彫金で表現された影猫の顔、三日月、バラなどそれぞれモチーフがトップに入っているものや、宝石から削り出したらしい彫刻リング。

あれこれ悩んだ結果、女性用はバラの花、男性用は蔓草のデザインで、組み合わせるとリアルな薔薇が現れる細い金色に黒石で花びらと葉が表現されたペアリングを選んだ。


包装はせず、そのままお互いの左手の薬指に嵌め合う。

『結婚指輪』の習慣もここにはないらしいけど、なんだかそれっぽくて嬉し恥ずかし幸せな気分……で帰ろうと振り返った時。

正面から見た他の店員さんたちが、またのお越しをと頭を下げた瞬間にちょこっと目が合ってしまう。


『えぇっ何あの凄いチョーカー。そんなお金持ちならもっと分かりやすい格好して来なさいよ?!』『あんなみすぼらしい平民っぽい子がオーナーだったなんて、もうっ紛らわしいわね!』『なんであんな貧しい服で、えっまさか抜き打ち審査?!まずいかしら……』

一気に流れ込んで来てしまった、彼女たちの方も色々びっくりしたらしい。


外に出て改めて自分たちを見直すと、いつもの無地のローブにフードで前まで全部閉めた格好。まぁ確かにシンプルで平民の冒険者に見える?

一応これもマナが選んだものだし、そんなに安物ではないと思うんだけど。


「ねぇオクティ?やっぱり商店街に来る時はもうちょっとオーナーっぽい格好した方がいいのかなぁ」

「チョーコが作りたいのは平民も貴族も誰でも行ける、昼でも夜でもいつでも開いてる、なんでも揃う店なんだろ?店員が普通の客にどう接してるかも見えたほうが良いんじゃないかな」

「そっか、そうかも……びっくりさせたら悪いかなって思ったけど、オーナーだから丁寧にされても他が雑なら意味無いもんね」


「ただ――さっきの店員たちはちょっと人を見る目が無さすぎだけどな」

ぼそりと漏れた言葉はけっこう怒ってそう。

「まぁしょうがないと思うよ?」

「いやみすぼらしいとか貧しいとか流石に――」

「別にオクティ以外からどう思われてるかなんてそんなに気にしないし。それより結婚指輪、嬉しい!」

腕を組んだら少しだけ機嫌が直ったのでそのまま歩き、相変わらず満員の影猫カフェの前を通って、顔を上げたら突き当たりの病院が視界に映った。


「そういえば、魔塔で病院に預けた子達ってどうなったの?」

「あぁ無事に4人とも入院したよ、会っていこうか?」


病院は入口を開けてみたら待合席や受付に思ったよりずっとたくさん人がいて、そんなに具合悪い人が多いのかとビックリしたけど。

見てる感じでは元気そうな人たちばかりだし、受付で本日の来診理由で聞こえてくるものもちょっとした頭痛や腰痛、中には肌荒れが酷いとか、病院より薬屋案件ではと思うものもいくつか。


少し周りを見回したオクティが肩をちょんと触って目を合わせてくる。

『大したことの無い症状でも重い体調不良の前兆だったりする時もあるから、軽い症状のうちに来るのはいいことなんだって。あと、薬屋はカウンターが狭いから化粧品か常備薬の販売だけで、薬はこちらで簡単に診察して処方することにしてるから、処方だけの人は薬師に振り分けてる。ただ、完全な仮病の人はこっそり見習いとか忙しくない人に振り分けてるみたい』

『あ、そうなんだ』

確かに早期発見は大事か、投薬だけで済みそうとか仮病の見分けが受付で出来るのも凄いね。


順番が来たので、オクティが名乗って見舞い目的と告げると、白衣を着た男性が案内に現れた。

「さ、こちらへどうぞ。オーナーと伴侶様がお連れになったのは、天人の男性1名と、人間の黒髪の女性3名と男性1名でしたね」


髪が栗色で牙が無いからサキュバスだと思うけど、飲み会であった彼のような軽いノリではなく、冷静で賢そうだけど雰囲気は柔らかい、クールビューティーなイケメンさんがきた。めちゃくちゃメガネが似合いそう!絵にしたい!


――と、考えた途端にオクティがエスコートするように腕をぎゅうっと絡めてきたので、チラッと横目で見ると少し不機嫌そう。……はっ!これはもしや……嫉妬してくれた?!と少し嬉しい気持ちになって口元がにやついてしまったら不機嫌は落ち着いたけど、腕は強く絡めたまんま。

エスコートされながら左の廊下を進んでから階段を降りていく、案内板を見ると最初のフロアが診察、手術など、1階下は泊まり込みの患者が使う身体のリハビリやメンタルケアの設備など、2階下が入院用の病室や浴室や食堂などがあるフロアみたい。


入院用のフロアも状態ごとで大部屋や個室や色々なタイプの病室があるらしくて。今回は一番端の子供向けらしい広くて明るく床に柔らかい敷物が敷きつめられた集団部屋と、騒いだり暴れたりする人向けの防音で鍵もかかる、けれど明るくて清潔な個室それぞれに案内された。

子供たちの方は12歳の女子、8歳の男子、7歳と6歳の女子といて、全然寝たきりとかそんな感じでもなく、今は数字を学ぶ教本とペンと紙を並べて勉強中。


上が12で下が6?どう見ても全員同じ中学生に見える……12だけ年上っぽい雰囲気だから学年上かなってくらい。やっぱり5歳以降の外見年齢の変化はものすごく遅いみたい。

子供たちは皆、ここへ来てから全く苦しくなくなったし、魔塔の独房みたいな個室と違って綺麗な広い部屋で仲間と一緒に居られて楽しいと表情も明るい。


迷子だったマキシさんは暇そうで「先生たちの翼も変だけど、お姉ちゃんたちは翼がないんだねー?変なのー」とポヤポヤしていたけど、しっかり目が合う。だいぶ回復してる気がする。


帰る前に所見を説明されたところ、やっぱりマキシさんはもうフラッシュバックも落ち着いてきたから、もうすぐ山に帰れるらしい。ただ、子供たちはまだ4人とも身体が成長途中で魔力の生産が不安定なため、正確な投薬量を毎回確認しながら投薬していかないといけなくて。急変も家に居たら対処が間に合わないし、そうでなくても毎日朝晩病院で診察が必要な状態で自宅療養は厳しいだろうから、少なくとも身体が完成して魔力の生産が安定するまで、数年は入院だと言われてしまった。


なるべく魔力生産が安定する頃、正常値付近で安定するように治療はしていくけど、どうやっても高めか低めに寄りがちなので、投薬自体は一生付き合っていくことになるという。


そっかぁ、としょんぼりしかけた所に衝撃のセリフが聞こえてきた。

「ただ……我々不死族の伴侶となれば、魔力回路そのものが上書きされますから治せます。もしその気があるなら、彼らには伴侶となる選択肢もあると覚えておいて頂いても良いでしょう」


「へ?えっと、不死族にとっての伴侶って凄く大事なものですよね……人間の治療のためになんて、良いんですか?」

「いえ……もちろん治療の為だけ、というわけでは。

実は不死族にとって全属性と無属性の人族は黄金律でしてね、彼らが受け入れてくれると言えば引く手数多なんですよ?もちろんオーナーと伴侶様も、もしフリーであったならと悔しく思ってしまいます……」


うっとりした表情で流し目を貰うと思わずドキリとしまうけれど、彼の視線はオクティにチラッと向いた途端、すぐに困ったような微笑みに変わった。


「黄金律って?」

「俺とチョーコみたいなもので、相性が良くて魔力が美味いってことだろ?」

「勿論個人差はありますが、そういうことです。加えて我々は相手が全属性か無属性ならば繁殖が可能でしてね。『伴侶』に選ぶ相手として考えた際、より特別な相手となりえるのは間違いありません」


オクティは、少し真面目に呟く。

「あの4人の将来は、死ぬまで病院か、苦労して自宅療養か、伴侶として()()()()()()()か、か」


「それは誤解です。我々にとっての伴侶とは『共に真の死を迎えられる他種族との愛』のことで、決して伴侶の意思を無視して無理矢理生かして傍に置こうとするものではありません」

「死ぬための相手だと?」


「あぁまぁ確かに、真の死を望んで伴侶を得ようとする者もおりますが……本来の伴侶とは『望む限り永遠を共に生き、死すら二人を分かつことが出来ない』ものです。もし何らかで死を迎える時にさえ必ず共に。それも真の死を迎えられる。私達は胸の核を取り除いたり陽に焼かれれば灰になりますけれど、それは無念の死であり永劫の苦痛であるとも言われていましてね。やはり……憧れますよ」


共に生き、共に死ねる。確かに素敵だと思うし憧れるのも分かるけど。元々永遠に生きる彼らはともかく、伴侶になる側は……覚悟が必要だよね。

「少なくとも人間にとって、永遠に生きられる存在になるのは、簡単に決めていいことでは無いかも……でも本当に信用出来る、ずっとそばに居たいと思えた人とならどんなに長く生きても幸せかもしれないから。伴侶の道を選ぶかどうか。本人がしっかり考えてその道を進むと決めたのなら応援したいです」


「ふふ。それでは彼らと生きることを望む者には、本人からきちんと信頼と愛情を得られるよう努力せよと伝えますね。人間族が老いるまでは本当に短い時間しかありませんから。……うぅん、あぁ本当にオーナーとはもっと早く出会いたかった。残念です」

ちら、と彼がオクティの方に視線を向けたと思ったら、オクティが口を尖らせて不機嫌な声を出した。

「おいこら。確かに寿命は分からないが、チャンスを待とうとするな。諦めろ」

「あ、聞こえてしまいましたか。失礼しました……冗談、ですよ?」

そう言いつつ、再び流し目をくれる。

「えっ。あの、私はオクティと添い遂げるつもりだから……ごめんなさいっ!」


天人より黒髪や無属性の方が狙われるとは……うん、最初に出会ったのがオクティで良かった。

……色んな意味で。


***


すっかりデートになったお散歩をから帰ると、マナとミナも帰って来ていて。2人が玄関ホールに現れた途端にズザッとこちらを振り返り。

「お帰りなさいませ、オクトエイド様、チョーコ様」と5人揃って頭を下げられる。


「ほえっ?ど、どうしたの?」

「いえ、美しい護符を仕立てて頂けるお話について皆で話していたところですわ。商店街に行かれていたということでしたが。あの問い合わせは一体……アリア嬢がまた何かやらかしましたの?」


「あっそういえばニナに聞くだけ聞いて何も結果報告していなかったごめんっ!」

謝りつつ、ユガを商会員として推薦したことから始めてお出かけ中のあれこれを順番に、ついでに全属性と無属性の人族は不死族が伴侶に望む相手として垂涎らしいということまで纏めて報告しちゃう。

オクティも「あ、それでこれ回収したんだけど、本人に返しておいて貰っていいかな」と銀貨2枚を出したら勿論ですとさくっと受け取ってくれた。


宝石店のことは別にね、こちらが平民の冒険者に見える格好をして高級品に近付こうとしたのを警戒されただけだから理解出来るけど……喫茶店みたいな問題はちゃんと解決した方がいい。


平民と貴族のあれこれについても、ある程度は仕方のない所もあるけれど、『貴族のみ』の表示がない所ではもうちょっと身分平等にしてほしいな。平民と同じ扱いが嫌なら貴族のみのお店へ行けば良いし。そうでないなら屋台で貴族は器代も払うみたいに、予約席だとか別のルールが必要だよね……


マナが後で商店街へ行く時に色々まとめて話しておきますね!と受けてくれたのでお任せ。


「あ、そうだチョーコ。これ預かったままだった」

オクティがポケットに入れていた懐中時計を出す。

「あ、私も忘れてた。宰相さんが小さくてもっと細かく時間が分かるのが欲しいって言ってたんだよね」


ニナがハッとする。

「そうでしたわ!おふたりが戻られる少し前、洞窟のドット様が転送所までいらしてチョーコ様をお呼びでしたから、わたくしが応対したのですが。『渡した時計は後でよく見直したら針のスピードの比率が全然美しくなかったから、作り直したんだ。悪いがこれと交換してくれ』とおっしゃって、こちらをお預かり致しました」


ニナから渡された時計と、オクティに預けていた時計。並べると見た目も針の形も同じものに見える。

針のスピードの比率……?

美しさ……?

何を言っているのか全然分からない。


「それから『針の呼び名も刻針、分針、秒針と改める』とおっしゃっておりましたわ?」

「刻針は今までの赤い針のことだよね。んん?『分針』と『秒針』……なの?」


見せられたものをよーく見ると、確かに回るスピードが変更されたらしい。

まず刻針(2時間)はこれまで通り、そして分針が刻針1目盛りに2周するようになって(5分)、さらに秒針が分針1目盛りに5周するようになった(5秒)


しかも文字盤の刻みに4つずつ細い線が追加されて凄く見慣れた1分1秒を示す目盛りを5つに分ける線まで描かれている?

更に、刻針はそのまま滑らかに動くが、分針と秒針の針の動きはチッチッと細かい目盛りに合わせた幅で動くように変わっているし……


「あっ?え?!分針と秒針が、本当に分針と秒針だ?!合ってる!えっ……なんで?……1刻が2時間なだけで、ちゃんと合ってる?!どういうこと?!なんで?!」


なんで1分が50秒じゃなくなってるの??


オクティがじっと見て、あぁ。と呟く。

「針のスピードの比率と言われて前のと比べてみたんだが。1つ印が進むのに必要な時間の長さのことか。前のは144:12:1なんだけど。新しいのは7200:300:5で1440:60:1、刻針に対して分針が2回回ってるし、本来は1刻を2つに分けて720:60:1なんじゃない?」


「え……?ご、ごめん、説明してもらっても全然分からない。ただ1刻を2時間と考えたら、1分と1秒は本当に1分と1秒なの。60秒で1分、60分が1時間、2時間が1刻で合ってるの……」

「なるほど、確かに『美しい』だな」


???


……よし、わからない!考えるのをやめよう。

「とにかくこれで完成ってことなんだね?えっとじゃあ、前のは洞窟へ返しておかなきゃ。それで、完成品は宰相さんが欲しがってたやつだから、届けてもらえる?」


ニナが軽く首を傾げてから受け取った時計を見て、こっちを見る。

「当主様に差し上げる際は、小人族の皆様は時計の赤い針を刻針と呼んでおり、チョーコ様の知識によれば1刻は2時間のこと。このたびは、当主様が細かい時間を知りたいというご希望であったため、回転の速い分針と更に速い秒針という補助針を追加して頂いた。60秒で1分、60分で1時間、2時間で1刻であるとお伝えしてよろしいですか?」


違和感がない、合ってるんだと思う?ちら、とオクティを見ると、オクティが「あってる」と頷いた。

「えぇぇニナぁ、ちょっと理解力すごすぎるよ……それでお願い!」


メイドさんたちのおかげで説明が助かる!本当に何かお礼を……

「――あ、欲しいアクセサリーって決まりそう?カリナには黄色を贈ってたけど髪はサラと同じ緑だから魔宝石は寄せて黄緑にしようと思ってるの。だから金髪用はメイドさん達に預けっぱなしで良いけど。借り物より自分専用のものが早めに欲しいよね?」


さっきまでこちらに箱ごと持ってきて話し合っていたらしく、黄色の箱から幾つか出してきた。

「メイドが主人から頂くご褒美のアクセサリーとしては、こちらのクリップ付きのブローチやリボン留めなどが一般的なのですけれど、こちらの護符の役割を考えますと服の上より直接肌に触れるものの方が良いので、こちらの薄型のビーズを大量に作らせて頂いてあれこれ仕込む方が、見せないアクセサリーとして研修生に配ることも可能で、量も調節しやすく何かと便利かと考えておりましたわ」


「あ、元の石がすごく大きいからブローチはブローチで5つ作って、残りを全部、薄型ビーズと残りはボタンとかにしちゃっても充分足りるから、両方作っちゃって良いよ?」


そういうことなら、ご褒美として貰うブローチなどは主人の髪色のものが欲しいというので、黒ではなく黒に見えるくらいの焦げ茶の万能色をまず1つ。

メイドさんたちや秘書さんたちの訓練施設は宰相さんの家系の分派なので、風属性揃いで黄色か緑系の髪色がほとんどらしいし。黄色ならこのへんが……と濃いのから薄いのまで何個か出してはメイドさんに渡し、あと緑……秘書さん達みたいな髪色っていうとこれかな。と出そうとしたら急に重たい。


うっとなった途端、すぐに横からニナとリナの手が伸びてきて素早く引っ張り出してくれたら、縞瑪瑙のように濃い緑から薄緑や黄緑まで様々な同系統で違う色がランダムにくっついた、形的にも複数融合してるなというかなり長い塊が引っ張り出されてきた。多分ルーとフィー辺りが「変なかたち!」とか言いながら放り込んだやつだと思う。


「わぉ、こんな大きいのも入ってたんだ……このくらいあれば足りそうかなぁ?」

「……え、っと。全部とおっしゃいました?わたくし達と研修生どころか、秘書たち含めて訓練所にまで全部回せそうな分量になっておりますけれど?」


「あっ、秘書さん達にも色々連携して働いて貰ってるでしょう?まず、普段手伝って貰ってる範囲の人には全員ビーズだけは充分に分けてあげてくれる?風属性じゃない人は茶色のビーズが使えるから、そっちを配ってみて?秘書さん達には特にけっこうお世話になってるから、イヤーカフくらいの小さいものならアクセサリーも追加で作ってあげていいかなって思うの」

「分かりました、返還分の時計を返すついでに、純アルコール払いで注文して参りますわね」


「チョーコ様。ご当主様への懐中時計だけでなく秘書達にまでアクセサリーを贈られるのでしたら、ミラルダ様にもおひとつくらい何かお贈りになられては?」

「あっ。そうだね!黄色の箱から何か、良い感じのを選んでもらえる?ミラルダさんが好きそうなものなら、どれを渡しちゃっても大丈夫だから」


「そうですわね……金はチョーコ様もお似合いですからご自分用に使われても良いと思いますけれど。ミラルダ様がお好きで、チョーコ様はお使いにならなそうなデザインのものでしたら。――こちらの大ぶりのネックレスなどはいかがでしょうか?ちょうどミラルダ様のお色にもぴったりです」


取り出されたのは博物館とかに置いてあったら、古代のなんちゃらの王妃が好んでましたみたいな感じ。大粒の魔宝石を繊細な金属枠で繋ぎ合わせた、デコルテラインにどどーんと広がる超豪奢な一品。

「あ。確かに、そういうのってミラルダさんくらい迫力のある人じゃないと似合わないよね。それならこのブレスレットも、色合いとか石の周りの枠の形が全く一緒だから、セットで使えそうじゃない?」

「あぁ……これは素晴らしいですわね。さぞお喜びになられるでしょう」


マナが商店街へ行くついでに贈り物の包装も用意してくるといい、リナが返還と注文に向かい、戻り次第ニナが宰相家に向かうということで任せて。


――玄関の扉が開くのを見て、そういえば昼に、ホウレンソウの種の出来を見に行こうとしたらユガを見てしまったから、そのままにしちゃったなと思い出した。

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