87.神珠石の伝説
「おっ?!おうチョーコ。今日はなんだかツレが多いじゃねーか」
洞窟へ皆を連れて、いつもの部屋に行ったらドットさんがまた地面にどっかりあぐらをかいてアルコールのソーダ割りを片手に焼きウニを殻ごとボリボリやってた。
「ウニって殻は外しません……?」
「分かってねーなぁ、焼いた時に殻に染み込んだ塩気と香りが良いんだよ」
殻まで齧れるなんて、風の石を直接齧っておやつにするとか、生の酒の実の皮や油の木をバリバリ食べるどころじゃなかった。
「えっと、今日はミスリルを持ってきたので、この5人の武器防具をちゃんとしたやつに新調して欲しいのと。彼女達の後輩の30人くらいにもそれなりに使える防具が欲しいのと、転送盤にアルコールとかで自動魔力補充が出来る魔道具をこの鱗とオリハルコンを使って作って欲しいなと思ってきたんです!」
ミスリル塊10個をメイドさんの手に出していって、鱗の皿にオリハルコン結晶を乗せてドットさんに見せる。
「うっひょう、新しい魔道具に35人分の武器防具か!派手な仕事だぜぇ!」
聞いてる間に食べ終わったというか、『新しい魔道具』の話が出た途端に急にスピードが上がって飲み込むように食べきってからこちらにすっ飛んできた。
「まず鱗ってのは……うぉ?!サラマンダーじゃねえか!どうやって取ってきやがった?!」
「炎人さんが飼ってる子に産卵草とマタタビあげたらくれたんです」
「あ、あぁびっくりしたぜぇ……炎人に貰ったなら納得だ」
オクティが紙束の図を見せながら指さして説明する。
「こうアルコールタンクを鱗に接続して、直接繋ぐと転送盤に使ってる魔石板は流し込みすぎで割れるから、ここに少量オリハルコンを挟んで、周囲は強度の保持とかで少し金属とかで包んだらいけると思ったんだ。鱗も1枚まるごとだと出力が強すぎるから、細かく分割して使いたい」
鱗を摘まんで透かすようにジロジロ見て品質確認をしながら話を聞いている。
「なーるほど?要領はわかったぜ。何個いるんだ?」
「えっと、多分今すぐ使いたいのは6個くらいかな、でも将来的にはかなり増えるかも……」
「この鱗なら1枚で12個はいける。オリハルコンは接続部に薄く使うだけだから10枚全部使い切ってもこの結晶1個で足りそうだ」
「じゃあまず12個お願いします。追加があったら注文しに来るので、この材料はまとめて預けておいてもいいですか?」
「おう、まぁお前が持ってるとうっかりボックスに入れそうだしな。預かっといてやらぁ」
ドットさんはノームを呼んで鱗とオリハルコンを預け。次にメイドさんたちをじっと見てふぅむと顎に手を当てる。
「この5人分は専用装備でフルセット、あとの30は汎用っつったか?」
「はい」
「んじゃ色々測るからちょいと待ってな」
また奥に声をかけると、ノームもドワーフも混ざって30人くらいどやどやと登ってくるが、入りきれない。狭ぇな押すなと文句を言い、下の大空洞まで来いと、メイドさんからミスリルもまとめて受け取り、5人とも連れて奥へと降りていく。
ついていこうかと思ったが、大丈夫だから任せとけとオクティとチョーコだけ残った。
それより小さい時計なんだがな、とドットさんが腰の後ろをゴソゴソやって、ちょっと懐中時計と言うにはまだ大きく、懐中時計デザインの卓上時計と呼べそうな、金属の蓋がついた丸い薄型時計を見せる。
「わ、だいぶ薄くなりましたね?!」
「そうなんだよ。ただこうしていつでも見れるようになるとよ、1つ印が進むまでがゆっくりに感じてきて、もう少し細かく印を増やしてみたらゴチャゴチャして見づれぇし、しかももっと小さくしたら余計だろ?」
「針を増やして1つ印が進むまでの時間に1回りさせるとかどうですか?」
そうすると速い方の針は10分刻みになるはず?
「……?!なんてこった、ヤベェなお前!いや前からとんでもなかったけどよ?!速針と遅針がパッと見て見分けられるには……ま、長さか太さか素材を変えりゃいいか。うぉぉ最小時計に挑戦してやるぜぇ!出来上がったら1個はサンプルでお前らにやるから、気に入ったら買いに来いよ!」
そう言いつつ堪えきれなくなったように走っていこうとしたら丁度トレイを持ったノームの人が来た。
「おうドットさん、鱗のカット終わったぜぇ?なんだどこいくんだ?」
「んお、そうだ今はこっちが先だな!うんよし、これならいけるだろ。さっさと片付けてくるぜぇ!」
皿を受け取って、そのままどどどどっと足音を立ててドットさんは奥へ走り去っていった。
「なんだったんだぁ?」
ノームの人がその後ろ姿を見送り、こっちを見る。
「客人の従者たち、顔も格好も似てるけど装備は個性あって面白いなぁ!」
「種族違うと顔で見分けは付けにくいから余計にそうかも。彼女たちの仕事は防戦のほうで討伐ではないので、護り重視で使いやすいのをお願いします!」
「任せときなぁ。帰りは全員転送盤で街へ送り返しゃ良いんだろ?素材費はあのミスリル10個で値引くとして、今日の支払いはあのデカい酒の実5個と30個分のボトル詰めでどうよ?」
「あ、わかりました!じゃあ先に実5個は渡しておいて、全部終わったら詰めに来ますね?」
「よっしゃあ、毎度あり!」
5つ実を渡し、通信石でメイドさんたちの帰りはノームさん達が送ってくれるって言ってるから、支払いだけして私たちはダンジョン行ってくるねと話しかけると、いつもより少しテンションの高いニナの声で行ってらっしゃいませと送り出され、再びダンジョン攻略の続きへ――
大型ダンジョンの24層へ戻り、またひたすらメロンと死卵草を集めながら降りて、降りて……
時々壁に亀裂が出来てて溶岩漏れたっぽい跡がちょいちょい見られるけど、普通に作物は生えてるし湧いてくる魔獣もモモンガ一色で湧き方に異変もないのでわき目もふらずにどんどん回収。
――とうとう40層まで来たけど、変化なし。
また16層分進んだから、ここを回収し終えたら帰ろうかな。
「高山最大って……これ、いつまで続くんだろうね?」
「あ、もうすぐ終わりそうだよ」
「ほんと?終わるならもう少しだけ降りちゃおうかな?」
「多分この下だから、そうだな。様子だけ見てから帰ろうか」
オクティが言った通り、41層は壁も天井もクリスタルっぽい白く透明感のある結晶に覆われた鍾乳洞とかそういう雰囲気の洞窟のような大空洞が広がっており。
ここもまた、モモンガが海のように床を埋め尽くして波打っている状態だった。
出入り口はそのまま床じゃなくてちょっと高い所にあり、目の前は崖。崖下に波打つモモンガたち。
一応、飛び飛びの足場っぽいものが斜めに崖下まで続いているのは見えるけれど……この夥しい魔獣と戦いながらモモンガの海に向かってここを歩いて降りていくの……?怖すぎるでしょう。
「えぇ……ブランデーのとこみたいになってる、どうしよう?」
しかも広さがまた凄い。
見ている間に気付かれちゃった、壁や天井にいたモモンガたちがバラバラと襲いかかってき始めたので、慌てて風で斬り払う。サニーさんがやってたのを思い出し、アイテムボックスを開いて、オクティにどんどん吸い込んで貰いながら細かく切って放り込んで。
……まぁ、今みたいにバラバラと散発的に飛んできている今はなんとかなるけど、下のあれに突っ込むのは流石につらそう。
「うーん別に急ぐ旅ではないし、俺としては2人きりでコツコツ進めていってもいいと思うけど。牛の村から誰か助っ人呼んでもいいよ?」
「コツコツ進めるって、ブランデーのとこみたいに魔獣湧きっぱなしになってたりしてたら終わらないじゃない?」
「いや、ここはまだいっぱいになってないだけで、放っとくとダンジョンブレイクする。いっそブレイクするまで放っておいて、綺麗になったタイミングを狙うのもありかもな」
「えぇぇこれでまだいっぱいじゃないの?!……そうなんだ。うーん……牛の村で誰か呼んじゃおうかな」
「わかった。とりあえずあんまり遅くなると心配されるし、今日はこのくらいにして戻ろうか」
崖の下から一斉に飛び上がって来られるわけじゃないので、撤退するだけなら楽でよかった。
40層へ戻って階段の近くに転送盤を置いてから戻ることにする。
薬屋で昨日と同じように納品を済ませ、充分にメロンも死卵草も手に入ったと喜んで貰えたところで「そういえば」とリシャールさんが思い出したように言った。
「メイジア国の先にも、レガリア魔法国の先にも次々新しい国が見つかっていて、外交官は大忙しだと店の客が話していたそうだが、チョーコ殿はそういった国との交流に何か関わっていたりするのか?」
「わぁ、新しい国がまた見つかったんですか?いえ、新しい同盟国との調印とかには全く関わってないですよ?でもまた知らない作物とかが保存されてるかもしれないし、楽しみですね!」
「なるほどな。コンヴィニ商会員として参加している者の中にも、レガリアやロシュサントにいる親戚の商会と直接取引をして欲しいと持ち掛けてくるものがいるのだが。チョーコ殿がレガリアの特産品に興味を持って取引にも前向きだから、友好的に取引すべきだと直接名を出した者が居てな。『そう言っておいた方が聞くだろう』と考えていたので虚偽であろうと最初から断ったが、やはりチョーコ殿が他国との交流に関わっているというのは偽りだったのだな」
「あっ、はい。他国との関係は私じゃなくて宰相さんとか外交官が前に立って国同士で話し合って貰ってるので、私は本当に無関係です」
「まぁチョーコ殿なら回りくどいことはせず、こことも取引してあげてくれと直接言ってくるだろうから、そうだろうとは思っていた」
「レガリアか……もしそのチョーコの名前を借りた奴がどこの誰か分かるようなら、魔塔に送っておいて貰えると助かる。今後も名を出して来た奴は教えて欲しい」
「分かった、随時録音石に入れて送ろう」
「ありがとう」
「オクティ?何するの?」
「いや、ただ秘書達に知らせるだけだよ?何かあったらちゃんと教えてくれって言われてるから」
「……あまりおおごとにならないくらいにね?」
ついでなので転送盤の自動魔力充填機の開発をした話とか、小さめの時計も開発されそうだけど必要かとか、不死族は皆耳が良いから大時計のベルの音が普通に聞こえるし、時計付近にいる人とテレパシーで話せば直接確認もできるし困らないから人間優先で良いとか。
喋ってたら家に帰るのが思ったより遅くなってしまい、もうすぐ日が沈みそう。
「おかえりなさいませ、遅くなる時はご連絡くださいと申しましたよね……心配しましたよ?」
玄関に飛んだ途端にミナがぐぐいと迫ってくる。
「ご、ごめん。帰りに薬屋に納品に寄ってリシャールさんと喋っちゃってた」
「すまない。日が沈む前には帰るつもりだったんだ。次からは夕のベルまでに戻るようにするよ」
「分かりました。次からは夕までにお願いしますわね?魔力充填機12台はこちらですが、もう夕食のご用意が出来ておりますから、ご覧になるのはほどほどでお願いします」
ホールの隅にきちっと並べられているのはかなり大きな旅行用トランクくらいの金属箱。空の状態なら全然重くはない。ただやたらと嵩張る上に取っ手も上ではなく広い方の両側についていて、複数人で運ぶ想定になっている。
『大きくないとチョーコがうっかりアイテムボックスに入れるから大きくしといたぞ』ですって。……反論出来ないっ!でも、アルコールは高級素材で、簡単にひとりで持てる大きさだと盗難の危険があるのもわざと大容量の嵩張るサイズにした理由の1つらしいので、私のせいだけじゃないってことにする!
下に蛇腹型のホース部分があり、先端に大きい金属のクリップがついていて、それで充填する板を挟めばタンク内のアルコールを吸って充填が始まる仕組み。見ると挟む部分の内側の奥の方にだけ金色のメッキみたいなものが付いていて、よほど指を奥へ突っ込まなければ届かないようになっていた。
クリップはチョーコの腕では両手でもびくともしないくらい固いやつだけど、途中で板から外れたら困るもんね。
「硬いな。わざわざ自分でこの痛そうなクリップに手を挟むような妙な真似をしない限り、充填部分には触りたくても触れないし、内側からも手を突っ込める太さじゃないから安全そうだ」
「ドットさんのところは本当に安全装置に気を使ってくれるから安心して任せられるよね」
実際に試すのはあとにして夕食へ。
宣言通りしっかりハンバーグが用意されていて、オコメと葉野菜がたっぷり添えられ。
豆乳から豆腐を作ったら風の石を入れ過ぎたのかしっかりしすぎるものになったので、下味を付けて揚げたら思った以上に美味しく出来たと言って、厚揚げと野菜とジャーキーを醤油味で煮込んだものが出て来たり。
オコメの粒と片栗粉を粉砕して混ぜて茹でたという『お団子』に黒蜜ときな粉を掛けたものがお茶と一緒に出て来たり。
かなり豪華で気合を感じる料理を楽しみつつ。
5人揃って装備更新のお礼を言ってきて、軽く説明をして貰う。
今までは本当に服の下にうまく形を合わせた『鎧』を仕込むしかなかったけど、ドワーフの技術でチェインメイル型の薄い防具に薄くて強力なポイントアーマーを組み合わせたものにして貰えたので、かなり服装が自由になったとか。
今までの武器の類も使いやすく作り直して貰えたとか。
お礼に何人かに軽くマッサージをしてあげたらとても喜ばれたけど、やっぱり人間は力が弱いなと言われたので、商店街の不死族にも教えてある。彼らの方が力はあるし上手なので、小人族とか人間以外の種族なら彼らにやって貰った方が気持ちいいかもという話をしたら、商店街のマッサージ店には興味を持ったようだったとの報告もあった。
「リシャールさん達も小人族には謝りたいと思ってるって言ってたし。もし商店街のお店を利用したいみたいだったら行ってみて貰えたら嬉しいかな!でも……多分人間のお金とかは持ってないと思うから。もし直接来るみたいだったら資金は全部私の口座から出してってリシャールさんにも伝えておいてね?」
「――そうですわね。国で管理していない通貨は贋金ですから、もし彼らが自作の通貨を持ち込んだ場合もチョーコ様の口座から差し引くようにお伝えし、額面を確認してから貨幣の追加発注の形で調整しましょうね」
「あ、そっか。本物と全く同じクオリティの偽造通貨になっちゃうんだ」
「幸い彼らの製造する通貨は素材や技術そのものが高い金銭的価値を持ちますので、仮に大量に見逃しても問題はそれほどございませんが、出来れば製造枚数だけは正確に把握しておきたいのですわ。転送所からご案内する名目で接触してお持ちの換金物を先に把握できれば一番ですわね」
色々難しいんだなぁと思いつつ。新しく見つかったという国についても聞いてみる。
レガリア魔法国の先で見つけた土地は完全に空白の空き地が丸ごと2つと、国とは呼べない規模の小さい集落が2つだったため、そのまま帝国民と帝国の分地としてスムーズに吸収され、今後色々な農作や養鶏を任せていこうと話が進んでいるところ。
ただ、メイジア側の向こうにあった国の方が問題で。
2つの安全地帯がかなり近くにある環境の大きな国で、2国がくっついた広い土地を持つのに見合った人数の多さ。そして見た目には軍事国家と思われる様子だという。ロシュサントより激しい抵抗が予想されるので、同盟国内で4ヶ国連合を作って向かう予定らしい。
「それと――ご報告だけですが。最近になってから、物乞いと思われる身なりのものが複数人、門から敷地を覗き見たり、塀を乗り越えられないか検討している様子が見られると警備の者から報告がありまして。覗くだけで帰るものもおりますが、数人は庭の作物を欲しいと言ってきたとのことです。今のところは口頭注意をして追い返すに留めておりますわ」
「お腹が空いてそうなら……商会でも交易路開拓でも働き手が足りないんだし、簡単そうなお仕事斡旋してあげられないかなぁ?」
「仕事の募集は常にかかっておりますから、申請していないだけではないでしょうか。わたくしとしてはやる気のない者にそこまで手を掛ける必要があるとは思えませんが……」
「まぁ働きたくない人もいるのは分かるけどねぇ……」
何もしなくたって生きてはいけるんだから、贅沢せず働かずに一生安穏と暮らせればいいや。
って私も思ってたから。何もしないで生きていきたいって気持ちは分からなくはない。
私が水とパンで生きるだけなら生きられる環境に居られたのだって、自力で身に着けて苦労して手に入れたものではなかったけど。ここの人たちは水と木の粉だけで満足なら働かなくても生きてはいける環境に最初からいるわけで。
常に飢えなくて清潔で、暑くも寒くも無くて、安全地帯にさえ引き籠っていれば危険なものに襲われることだってない生活が出来る世界。
道端に毛布敷いてゴロゴロしてるだけでも生きていけてしまう世界なんだから、ずっとそれで満足ならそのままでいれば良いと思う。
でも……周りが豊かになったのが羨ましいと思っていて、人の家を覗いて侵入を考えたりするほど現状に満足していないのなら、話は別だよね。
私のイラストレーターの仕事はそんなに売れっ子でもなかったから微々たる稼ぎとはいえ、食パンだけ買ってきて1食1枚で食べるような生活は嫌だし、自炊の食材買う足しになる程度の仕事をと思って始めたことだったもの。
より良い生活、私だったら日々まともなご飯が食べられる生活。望む生活ややりたいことや欲しいものがあるのなら、その分だけは無理しない範囲で働けばいい。
私の場合はエスからチートを貰ったし、オクティもずっと付いててくれたし、今ではメイドさんたちまでいて、楽して良い生活が出来ちゃってるから、あまり偉そうなことは言えないけど。
そもそも、美味しいものを持ち込んで彼らの平穏を壊したのは私だなって自覚もあるんだけど……
「俺は別にチョーコに力がなくたって、俺を選んでくれさえしたら養う気ではいたけど。チョーコだって何もしてないわけじゃないだろ?ちゃんと色々探し回ったりあちこち交渉したりしてたしさ。うろついてる連中だって、ちょっと探せばそんなにきつくない内容の仕事だってそれなりにある。俺も『問題があって出来ない』ならともかく『やらないことを選んだ』なら、人の生活を羨むのは間違いだと思うよ」
「そうだよね?メイジアから追い出された難民みたいに、制約で無理矢理戦犯にされたわけでも、人の家に侵入しようっていうなら大怪我で動けないとかでもなさそうだし。……あっ。でも仕事してない人の中には、酷い虚弱体質でそもそも働けないとか、そういう理由があって働けない人も居るよね?
例えばホウレンソウの健康効果を見るためとかで食べるだけのお仕事、とか。『事情があって働けない人』が居たら回してあげられないかな?」
ちら、とニナを見ると。かなり苦笑気味に眉を下げられた。
「薬品関係のテスターなどは、優先的にそういった方々から募集する方法はありますわね」
「あんまり危険なものじゃなくて、不死族が作って商店街で扱う予定のものでね。色々聞いてみて貰える?」
「かしこまりましたわ」
――出来ることをそれぞれが無理せずやっていったらいい。『生きたいように生きる』って、そういうことだよね?
***
次の日も日の出からすぐオクティは魔塔へ向かい。自動魔力充填機についてエイディッドにしっかり使い方や構造の説明をしてテストもさせて。
丁度3カップ分のアルコールで転送盤8枚がピッタリ満タンになるという結果だったらしい。
こちらの重量で換算するとちょっと数字が細かいけど、向こうの数字にするとアルコールはカップ1杯400ミリで1トン転送できる魔力を生む。
1トンかぁ、そりゃあ……人間が直接飲んだらヤバい液体なわけだわ。
使った素材については『オクティとチョーコにそういう効果を持つ素材を探す依頼をした』と具体的には濁して、ロイドさん達トップ陣に使い方を、特にアルコールタンクに中身がある時にクリップの奥を素手で触ると危険だとか注意事項を開発者としてエイディッドに説明して貰うよう任せるらしい。ちゃんとニナに付き添いも頼むから大丈夫だと思う。
秘書さんにもメイドさんたちから通信石で連絡を入れたところ。
メイジアの先に見つかった軍事大国へ話し合いに向かう為に連合軍を送る際にあれば絶対に助かるので、是非数台貸して貰いたいと申し入れがあった。
今商会で稼働し続けたいルートは『門前から屋台前』『卸売り倉庫から商店街』『卸売り倉庫から組合の大倉庫』の3つで往復6個なので、6個を貸すことに。足りなければ材料はもう預けてあるから、追加で洞窟に発注すればすぐ作って貰えると思うし、そこはロイドさん達の希望を聞いて欲しい。
加えて転送盤に商会の倉庫で預かっている魔石板を大幅に追加した大人数を一気に送れる大容量転送盤も3組改造する許可を求められたので許可した。メイジアはもう既にほぼ主だった人員は転民済みで帝国軍の中に組み込まれている状態なので、ロシュサントとレガリアにそれぞれ充填機付きで1組ずつ貸して、同時に乗り込む準備を早急に進めるそうだ。
ロシュサントの前例もある通り、相手が軍事国家であるなら初手の戦力誇示は無血開城の手段としてかなり重要なので、勝てるかもと思わせないくらい、しっかり準備していくということだった。
***
戦争になるかどうかという緊迫した交渉ごとは国のことだし全部お任せ。
オクティとチョーコは予定通り朝から牛の村で最終層の助っ人を頼んでダンジョン攻略へ行こうと思う。
まず最初に待っていたのはリィコさん。
「あらぁチョーコとオクティ!あそこの大きいダンジョンを攻略中だって聞いてたけど、もう攻略したの?新しい美味しい果物があるってサニーに聞いたから私も行ってみたんだけど、ほんっとうに入り口がめっちゃくちゃ臭くなっててびっくりしたわよー!……まぁ、確かにあれなら近寄らないでしょうね」
「あはは……外だからすぐ匂いは散っちゃうかなと思ってけっこうしっかり撒いたんですよね。もし効果が薄れてまた住み着いていそうってことなら連絡貰うことになってるので、今後も撒きたてはあんな感じになると思います。
ダンジョン攻略はまだ一番最後のフロアが残ってるんですけど、これがまたすっごい広くて魔獣も大量に溜まってて。ダンジョンブレイクして空になるのを待つか、手伝ってもらうか迷って――」
「大型ダンジョンの最終フロア?!見に行きたーいっ!!」
「「なんですか?リィコはどこに行くんです?あ!チョーコですっっ!」」
リィコさんの叫びに反応して、また村に来ていたらしいルーとフィーがひょこりと顔を出し。引率っぽく子供たちを構っていたサニーさんも振り返ったのと目が合った。
「――チョーコ、これは皆で一緒に行って貰うか?」
「あ、うん。そうだね……じゃあ、この前ワイバーンが大量発生したダンジョンの最終フロア、攻略するのは皆さんに手伝って貰っていいですか……」
これで断ったり1人だけ選んだら、大騒ぎしそうだなと思う。
「子供たちとリィコだけでは少々心配ですから、私も行っていいですか?」
すいっとサニーさんも寄って来たので、もう素直に頷いて、対の転送盤を出した。
「えっと。あのダンジョンは上の方は美味しい実があるんですけど、下層の実はほとんど全部、毒があるものばっかりだったので、その辺にあるものは勝手に取って食べちゃだめですからね?絶対に!」
特にルーとフィーとリィコさん!……あれ?サニーさん以外皆心配だ。
「「「はーい!」」」
昨日の夜に灯りを点けたばかりなので、まだ少し付いたままになっている階段付近で周囲の魔獣を軽く片付けてから階段を降りる。
「「「うわー!すごいっ!ダンジョンの中なのにこんなに広ーいっ!」」」
きゃーっと勢いよく奥に向かって飛んで行ってしまう3人を困ったようにサニーさんが見送りつつ。すぐ戻って来るんですよーと呼びかけ。
「ルーとフィーはともかくリィコはもう年齢的には充分成人しているんですけどねぇ。さて……それでは少し魔獣を払いますか?」
「あはは……よろしくお願いします」
チョーコのアイテムボックスを開いて、そこに直接吸い込んでもらう。細い竜巻のような形でぐんぐん掃除されていく魔獣がいた地面には、色とりどりの大きな宝石の結晶が土の中のあちこちに覗いていた。
「わぁ、このダンジョンの最下層は宝石が生成されるんですね……すごいいっぱい色々な色がある」
「どれもかなり魔力を含んでいるように見えるし、普通の宝石ではなさそうだな」
「綺麗ですね……あそこまで大きいと持ち歩くには不便でしょうけど。沢山ありますから、必要ならご自由に持って行って良いと思いますよ」
「ニナとリナは宝石好きそうだから、お土産に1つ持ってってあげたら喜ぶかも!」
「うん……?もう少し先の方に、随分大きい塊がいくつも見えるぞ」
「ちょっと近付いてみましょうか」
サニーさんがオクティとチョーコの肩にポンと手を置いてまとめて飛び、少し斜め下に降りて地面に近付く。
宝石の塊はどれも一抱えはあるほど大きく成長しており、どちらを向いてもほんのりと光を帯びているように見えた。
『魔宝石』強い魔力を帯びて変化した宝石各種。
魔力を吸収、あるいは放出する性質を持つ。
それぞれ自分の属性に合う宝石を選んで身に着けておくと、急激な魔力の減少や増加が起きた時、それを緩やかにしようと働くらしい。
一気に魔力を使うと魔宝石から魔力が放出され、アルコールなどで一気に増加すると宝石が吸収してくれるという。害のある魔力に侵された時も、抜けやすくしてくれる効果もあるっぽい。
「オクティ、これって何かに使えそう?」
「俺は使わないが、一般的には護符として使われそうな石だな」
「それなら普通に身に着けるものとして使えそうかな、サニーさん達も使います?」
「護符ですか。私たちはあまりこういったものを身に着けるということはあまりしないのですよね。使えそうでしたら人間達の方でお好きにどうぞ……おや?」
サニーさんが見た方を向くと、透明で巨大な石柱型の宝石が魔獣の隙間から姿を現した。
「あれっ?なんか見たことある形かも」
「聖域の風の柱がなぜここに?」
「あぁ、確かに形は風の柱か。今は中に含まれている魔力の属性が無属性だが……石の性質自体は同じに見えるな」
サニーさんが柱に近付いて、手を当てて魔力を流し込むと。ふわふわと緑と白の光が上に向かって流れていく。
「……ちゃんと、テレポートの基点にも使えますね、これ」
繋がったらしい。
奥の方を見ると、洞窟はまだまだ続いており。オクティの見立てでは奥の方にも同じように大きな反応がざっと15個くらいはあるという。
「「「サニー!いちばん奥にねー、これよりもーっとおっきいのがあったー!」」」
叫びながらばささーっと3人が降りてきて。4人がかりで周囲の魔獣たちをチョーコの袋に放り込みながら奥へと引っ張っていかれた。
たまに風に巻き込まれて地面の宝石までポンポン袋の中に飛んで来てたけど。いっぱいあるしダンジョンの中のものはそのうちまた増えるから、好きなだけ持って行ったらー?と誰も気にしない様子。
むしろ、これ綺麗で大きいとか、変な形ー!色が違うー!とか、わざと放り込まれたりもする。
「高山の聖域に設置されている風の柱は、古い時代にここから運ばれたものかもしれませんね……」
サニーさんがぽつりとつぶやいた。
「ってことは、ここからこの柱を好きな所へ持って行ったら、天人さんたちがテレポートで飛んで行ける先が増えるってことですよね?」
風の柱の聖域みたいに、出られるけど入れない結界を張れるのなら盗まれる心配もないと思うし。
「かもしれません。だとしても……山から外へ持ち出すのは慎重にした方がよいでしょうね。山以外の風の魔力が薄い土地には定住するのが難しいので、全く知らない者たちの中にテレポートの出現場所を設置するということになりますよね。私たちが現れる時は必ずここへ出現する上、飛んでくるまでは周囲の状況が分かりません。待ち伏せしやすい場所、ということでもあるので」
「私としては商店街のある凍土の土地だったら、置いて貰っても良いかなとは思ってますけど……外じゃなくて高山の中でも、柱がなくて不便だったところがあればそこに置くのが良いんじゃないですか?」
「今のところはまず、高山の中の移動ポイントを増やす方向で使っていきたいですね。この柱は風で飛ばそうとしても力を吸ってしまって持ち上がりません、地上の柱の傍にテレポートで移動させてから、竜人の皆さんにも声を掛けて運ぶのを手伝ってもらうことになりますね」
「飛べる先が増えたら、天人さんたちも便利になりますね!」
「えぇ。見つけて頂いてありがとうございました。風の柱はこちらで頂きたいですが。周囲の宝石は全てお持ちいただいて構いませんから」
「じゃあ使う時には取りに来させて貰いますね!」
4人がかりだと流石に早くて。喋っている間に洞窟の最奥らしい壁の近くまで辿り着く。
壁に半分埋まるようにして、高い天井の上につっかえそうな程巨大な……というか、奥の壁はほぼこの柱そのものと言えるような状態で存在する大きな風の柱には、あまり多くないけれどふわふわと緑と白の光が泳いでいる。
「私たちじゃないわ、最初から光ってた!」
ほら、と3人も試しに力を送ると新しくふわふわと光が増える。
「おそらく……高山各地の聖域を作った昔の誰かの力が残っているのでしょうね。帰ってから長老たちに聞けば、ご存じかもしれません」
サニーさんも奥の柱に力を注いでここを基点にする。
そしてその柱の一番根本に、ほぼ柱に飲み込まれて同化しているような形で、直径1メートルくらいありそうな大きさの、真珠のような輝きを放つ白い石があった。
チョーコとオクティには、見覚えのある色。
「ねぇオクティ……あれって、すごい大きいけど神珠石にそっくりじゃない?」
「本当だ。力の種類も確かに同じに見えるな……」
「神珠石?かつて大いなるエスがこの地に降らせたという、ダンジョンを生み出す石の話ですか?」
「え、これってそういう石だったんですか?」
言い伝えによれば。全地に満遍なく魔獣が生まれていた頃。家の中でも夜中でも無差別に生まれてくる魔獣たちに辟易していた人族たちのため、ある程度魔獣が生まれる場所をひとところにまとめて、それ以外の地を住みやすくしようとエスが考えた。
また力の弱い人間族が多く住む地にはよりしっかりと安全な土地が出来るようにと。沢山の神珠石が地や海や山に降り注ぎ、そこから生まれてきたのがダンジョン。
それによって魔獣の発生地点に偏りが生まれ、住みやすい地が出来て人族たちは皆喜んだという伝説。
アイテムボックスから、ずっとしまっていた小さな神珠石を出してみると、ほわほわと柔らかく白く輝き、大きな石も呼応するように輝いている。
なんとなく。大きい方の石に触れれば、また話が出来そうな気がした。
「あっちに触ったら、またエスと話せるかも」
「……俺も一緒に触ってみていいかな」
「エスと話が……少し興味はありますね」
「「「さわってみたいですっ」」」
皆で触っても大丈夫かなと思うと、特にダメという感じはしない。
触っても何も起こらないかもしれないけど、だめではなさそうだから、触ってみようということになり。
周りに並んで同時に石に触れてみることに。
――せーのっ。




