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飢えないだけじゃ生きられない(日・水・更新中)  作者: なるねこ


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83/89

83.ボトルって、ボトルか!

美術館から商店街まで登って戻ってきたら、画面でたまに見る休日の渋谷みたいな人混みがあった。手に幅の広い布リボンを持った人間スタッフが達があちこちで待機列の整理や人の流れの誘導に奔走している。

この美術館も私たちが見学中ということで立ち入りが制限されていたらしく、3人が出てきたのを合図に小旗を持って15名前後のツアーグループを作っていたスタッフたちが1チームずつ順番に、周囲へアナウンスをしながら入場を開始した。


ツアーは作品の隣に付いているパネルが読めない人が大多数なので説明する人が居た方が良いだろうというと考えられ、本来は銀貨1枚で1グループ何人でもという設定。

ただ、初日は好き勝手に入られると混雑がひどいことになりそうなので、無料にしてツアーのみ入場となっているそうだ。


正面の屋台広場は平民たちがひと目見ようと押しかけているのもあってどれも長蛇の列が出来ているし。徒歩転送盤無料が効いているのか途切れることなく転送盤から人が訪れ続けているし。ベンチはもう既に満員で立ち食いをしている人や、外側の店の前にある遊歩道のベンチを利用しようと通路へ移動した人たちがかなり先の方まで席を埋めているのも見える。


事前に金券をばらまいたせいも少しはあるかもしれないけど、平民の感覚ではお安くない値段設定にも拘らず、屋台のものはどんどん売れているみたい。


獣人車の通りもすっかり渋滞してしまっており、近くの車止めに入りきれない人達は一旦折り返してもらい、帰り通路の側にある車止めに誘導したりなど、スタッフたちがあちらこちらで声を上げているし。帰り通路側の車止めに止めたからと先にそちらのお店から回る人も多いようで、屋台だけでなく両車道外側の各店舗の入口付近にも人だかりが出来ていた。


帝国から直接獣人車でくると片道2時間かかるというのはやはり面倒みたいで、今度からは数日滞在するとか、ショッピング目的で荷物が多くなる予定といった場合を除いて、転送盤を利用して飛んだ後、商店街で車を借りた方が良いわねと話している声が時々耳に入ってきたり。


伝説の不死族たちと直接触れ合えるお店があるんだって!と、比較的若い男性のグループや、少ないが女性のグループも、奥の方にある白砂糖茶屋や酒場を店の窓からだけでも見てみようと喋りながら、店舗側の歩道を頑張って徒歩で奥へ喋りながら歩いていってたりもする。


「大盛況じゃないか、良かったなチョーコ」

「うん……あっ、影猫カフェ、また1週間くらい放置しちゃった。拗ねてないかな」

「では視察を兼ねて案内しよう。影猫たちは『メイド』を『チョーコが食事係として来させている配下』と認識したようでな。メイドが来れば満足していると聞いているぞ」

「あっ、それなら良かったです……折角だから歩ける範囲で色々歩いてみたいかも」


人混みの中を歩くのでチョーコとオクティがローブを出して被り、屋台広場から右の歩道へ移ったら、オクティは自然と車道側に、リシャールさんは背が高いので前が見えなくなるだろうと後ろについてくれた。


屋台や立ち寄って小物を買うだけのエリアを過ぎて喫茶店などのお高めなお店しかないエリアに来ても、明らかに貴族ではなさそうなシンプルな服装の姿がまだまだたくさんある。屋台で買ったものを食べるためのベンチ確保や冷やかしの人だけではなく、『銀貨3枚握ってくれば1軒くらい行けるはずだ』と気合いを込めている様子もたまに伝わってくるし、覚悟を決めてコーヒー店や紅茶専門店などに挑戦している人もいる。


そして、添い寝屋さんは特に混み方が凄かった。

初日は最大数で120室と書いてた気がするけど明らかに足りてなさそう。

女性のサキュバスさんが『ただいま満室です』の札を持って入口上空を頭上くらいの高さでふわふわ飛んでおり、お客さんがつやつやした顔をしながら1人出ると裏の『空きあります』にして、男性のサキュバス部屋空きましたとか声を掛けると待っている人がすぐに飛び込んでいってまた満室に。


「わぁ、凄い人気……」

「もう少し警戒されるだろうと思っていたが、本当にこれほど人間が集まるものなのか……」

「前から不死族との触れ合いを望む声はけっこう多かったしな。強制的な魅了や誘拐監禁は怖いが、安全が保障されているなら興味があるという人間は多いはずだ」

「そうか……」


待つ人は歩道じゃなくて向かいの車止めの一部を待合居場所に使って、歩く人の邪魔にはならないようには工夫してるみたいだけど、この待機列は早めになんとかしないとかも。

「こんなに待ってるなんて、整理券を用意するとか、並びすぎてて無理そうなら次回のサービスチケットでも渡して帰って貰うとか、何か工夫した方がいいのかな?でもこんなに混むのは最初だけかも?」

「ほう、先着順に札を渡して待機人数を分かりやすく、列に並ばずともよくする工夫か、それは合理的だ。検討しよう」


とか言っていたら、待ちが長すぎて諦めようと車止めから客引きの看板を持ったサキュバスさんの方へ戻ってきた男性が「なぁ姉ちゃん、混みすぎてて無理そうだし、もう諦めるから姉ちゃんにハグして欲しい!」なんて看板持ちのお姉さんに言い出すから驚いたけど。

サキュバスさんは慌てもせずに、あらぁもう帰っちゃうの?また来てねぇ♪と降りてきて、むぎゅーっと抱きしめてほんの数秒でパッと離し、じゃーねバイバイとあっさり手を振って上空へ戻っていく。


ほぼ水着のグラマラスなサキュバスさんにハグして貰った男性の方が硬直してしまって動けずにいると。もしその気があるなら奥の酒場やホテルにも来てねぇ?いっぱいお金持ってきてくれたらサービスしちゃうわー♪と投げキッスするサキュバスさんの言葉に我に返り、奥の酒場とホテル……と呟きながら財布っぽい袋を出してチラ見してから入口の方へ戻っていった。


見るからに平民っぽい人だったので、単純に触れ合えるお店でいちばん安いお昼寝屋さんに来てたのかも。


「なぁ、あれ。並んでても入れなかったらサービス券を配るより、帰る前に好きな種族と性別のやつとハグ出来る方が喜ぶんじゃないか?」

「かも?」

「そのくらいなら交代で4人客引きに並べておけばいいわけだし悪くないな、何人か呼んでおこう」


今の人を見て、同じように待つのを諦めてハグだけしてもらったら帰ると申し出てくる人が増え始めるのにつれて、テレパシーで呼ばれたんだろう、警備担当してた人とか近くのお店の人とか、不死族の人達が何人もササーッと集まってきてフリーハグ会場みたいな状況にちょっとなりかけたけど。

皆ほんとにしっかり抱きしめてはくれるものの、挨拶くらいの短さで数秒しか触れずにまた来てねと離れてしまうので、要望していた人たちはすぐにはけていく。


テレパシーで心が読めるだけに、暫く待って何度もハグして貰おうと企んだりする人はズルはだめよーと降りて来ずに上空から頭をポンポン撫でるとか軽くあしらわれてしまって1度しか抱きしめて貰えないし、チョーコ達の案内についているリシャールさんが例外で、基本的に不死族たちは作業中や建物の中以外では頭上を飛んでいくので、囲まれてベタベタ触れられたりというトラブルもなさそうだ。


どこを向いても行列と満席が続いていて人込みはすごいのに、全然騒ぎっぽい騒ぎは起きてなくて。万引きや引ったくりや無銭飲食といった軽犯罪を心配してたのは杞憂……と思ったら。

何かやらかそうと思っただけで警備員さんが気付いてすいーっと空から寄ってきて。どうした、金が無さそうだが財布でも落としたのか?とか親切に話しかけてくるので何もできないだけだった。


テレパシー持ちの警備員さん……強い。


影猫カフェの所まで歩いてきたら。完全に満席の上に、窓の前にもぎっしり。中から混雑のため餌箱が空の状態での長居はご遠慮くださいとアナウンスされているのも聞こえてきて。長居したくて餌箱を何度も買っている声もする。


オーナー権限で割り込めると言われたけど、それはちょっとしたくないので、店の外から窓越しに『猫ちゃんたち客引き頑張っててえらいね!』と目で話しかけるだけにしておく。

猫ちゃんたちがその声に気付いたら急にやる気を出して、餌を貰うのを頑張るようにお客さんを構い始めるのが見えた。


いっぱい食べて大きくなってね!


奥の飲み屋や宿泊施設があるような辺りまで来ると『ご利用は貴族のみ』のお店が増えてきた。流石にそこまで来ると平民っぽい格好の人はほぼ見なくなって、窓からそっと覗いて帰る人がたまにいるくらい。


そしてこの辺りはお客さんも店の外では獣人車に乗ったままだから、不死族の仕事は病院や薬屋のような特殊な施設を除いて、完全に店内で客をもてなす担当のみ。外で客引きだとか、調理や掃除やホテルのスタッフといった作業は全て人間だけで行うので。

街並みは帝国の貴族が獣人車で乗り付けて入るような店舗が並ぶ区画とほぼ同じ環境。


そんな貴族専用区画の雰囲気漂う中、見るからに質素な格好の女性3人グループが、甲高い大声で騒ぎながら白砂糖茶屋を覗いては追い払われ、しかし暫く隠れてからまた見に行って騒ぐのを繰り返していたようで。「お金を払って利用する気がないならお客様ではございません。これ以上覗き見を繰り返すのなら捕まえますよ!」とスタッフが語気を強めているのが聞こえる。


「ただ窓から見えたってだけで何なのよ!」

「そうよ、何が悪いっていうの?!」

「きゃーっ、彼今こっちを見てくれたわ!」

「えっうそっ!あーん見えなかったぁっ」

キーキーとかなりうるさく騒いでいる所へ人が呼ばれ。店の入り口ではなく隣の店との間くらいにある、シンプルな木の扉から人間の男性スタッフが5人ずらずらと出て来て彼女たちを取り囲み、そのドアに連れていこうとする。


「きゃー!ちょっと、放しなさいよっ」

「触んじゃないわよっ!」

「きゃー変態っ!」


「あの扉は……」

よく見ると、入り口の合間全部ではないが、3つに1つくらいの頻度で同じようなドアがある。


「あれは裏手に回るための従業員用の通路だ。行きの通路側には会長室や事務室、会議室、あのような客と話をするための部屋、および商会員が寝泊まりする設備などスタッフ関連。帰りの通路側は大きな倉庫や一括調理など作業関連の設備が纏まっている。連絡通路で繋がっているのでどちらから入っても移動は可能だが、ロイド殿などに話がある場合はこちら側の扉から入る方が近い」

「わかりました」

とりあえずロイドさんたちはさっきイベントを終えたばかりだし。今は会う用事もないかな。


「えっ、ヴァンパイアじゃないあれ、かっこよ……?!」

「本物がこんな近くにっ」

「あっこら!」

3人が腕を振りほどいて無理やりこっちに駆け寄ってきた。


この女の子たち、見た目はもうとっくに成人してると思うのだけど……

「キャー超かっこいいっ?!」

「触って良いですか!」

「握手してくださいっ!」

「断る。――不死族へ不用意に触れるのは感心せんな」


リシャールさんが勝手に掴まれそうになった手を引っこめてかわし、明らかに迷惑そうな眼を向けてもお構いなしでベタベタ触りに来る。追ってきた人たちを振り払おうとして全力で暴れる。

「別に減るものじゃないでしょっ?」

「記念に握手くらい!」


流石にちょっと、話しかけることにした。


「あのう、嫌がってるのを無理に触ろうとしたり、窓から何度も覗き見て大騒ぎっていうのはさすがに迷惑なので、やめて貰えますか?」

「はぁっ?なによあんた!文句でもあるって……」

「あっ!え、ちょ、まずいかも!ほら黒髪で金目の2人!」

「え。あっ?!」

チョーコもオクティもローブは着てるけど、正面から見れば髪や目の色は分かる。


「えっやば?!ごめ……きゃあぁっ!」

「全くとんでもないな、来いっ!」

「失礼いたしました、ほら行くぞっ!」

動揺して固まったところで3人とも今度こそしっかりと男性スタッフ達に取り押さえられ、スタッフの方がこちらに頭を下げて、今度は痛いくらいの力で引っ張っていってしまった。


「リシャールさん、彼女たちってどうなるんでしょう?」

「迷惑行為の範疇で罪人にはならないが、最終的には軽い方の誓いをして商会員として働くか、今後商店街への出入り禁止か、どちらかを選んでもらうことになるな」

「出入り禁止って……ずっと入り口でチェックするんですか?」

「いや?『もうコンヴィニ商店街へ入ってはならない』と暗示を掛けてから帰らせるだけだ。その場合は暗示を掛けやすくする毒の使用は許可が出ているし、解除の方法もあるから問題ない」

そっかその方法が使えるんだ。つよっ。


「――あっ?!チョーコさ……オーナー!リシャール様もお疲れ様です!」

さっき店先で怒ってた男性、一度はそのまま店へ戻ろうとしていたけどこちらが誰か気付いて慌てたように駆け寄ってきた。

青い髪とその顔と声に見覚えがある。ミラルダさんのところで1人だけ混ざってた男性だと思う。

白砂糖茶屋の店長さんだと聞いてたけど、ここのお店の担当をすることになったのね。


「わざわざお越し下さりありがとうございます。先程は助かりました」

「店長さんこんにちは」

「店主殿、先程のような客は多いのか?」

「多いという程ではありませんが、街で開いていた時にも似たような方はよくいらっしゃいました。ただあそこまでしつこい方は初めてですねぇ。まぁ初日ですし、多少のトラブルはつきものです」

「問題がなければ良いのだが」


「えぇ。厳重注意を3度行っても一切改善の見られない迷惑客の指導は不死族の方に任せてよいとまで言って頂いてますから。もう充分すぎるほど助かっておりますよ」

「あ、そういうルールになったんですね」

リシャールさんを見ると頷いた。

「会長や副会長たちの意見でな、わざわざ街からここへ来て騒ぐものは不死族見たさが高じてというものが多いだろうから、我々がしっかり話を聞いてやれば素直に落ち着くかもしれんと。先ほどのように確保したあとは奥の部屋で手の空いたものが話を聞いて処遇を決める。我々を求めてのことならば話すくらいはしてもよかろう」


「本当に助かりますよ。いやはや、それにしてもこの商店街の設備は素晴らしいものばかりで!搬入や下見の時点から既に色々と驚かされておりましたが、最後の最後に出てきたのがあの時計!

洞窟の小人に依頼して設計した特別なものであるとか……日時計の代わりに正確なからくり時計の導入を、まさか帝国を巻き込んで進めていらっしゃったなんて……」

「うむ、あれは我々も驚いたな。洞窟の小人族殿とは我々の方からいずれ謝らねばならぬと思っていたが。商店街のためにあれほどのからくりを作って貰えるとは、やはりチョーコ殿の人徳であろう」

「いえその、あれは本当に小人さんたちが凄いだけです」


宰相さんの情報統制により、小人たちに商店街の開設祝いにからくり時計を作って貰えることになった時点で、この機会に帝国全体にも正確なからくり時間の導入はどうだろうかと宰相さんに相談はしていた。ただ導入時期については帝国側の主導で行うため、勝手な発表は禁止されていたので、直前まで秘密にせざるをえなかった。

――そんな話になってて。

直前じゃなくてもうちょっと前から通達してよという不満は宰相さんが被ってくれているらしい。

つくづく色々話を合わせてもらってありがたいけれど申し訳ないとも思う。


なお。時間のずれについてはやっぱり『日の出』『日の入り』は別として上半分をそのまま使うかたち。変わったのは6時のベルのところが『遅い朝』ではなく単純に『朝』のベルと呼ぶようになったくらいで、もともと時計に依存しない生活だったから、今のところそれほど大きな問題だと意見する人も居ないようだし、むしろ24時間営業のこの商店街においてはからくり時計の方がシフトの時間割が公平だと、導入歓迎の意見が多いっぽい。


「店長さん、営業の方は順調そうですか?」

「順調といいますか、売り上げがもう、あの、とんでもなくて。怖いほどですよ、えぇ」

落ち着かない様子の揉み手がせわしないほど止まらない。

「そんなにですか?」

「はい。コンヴィニ・ウィスキーのボトルと、ウィスキー使用のカクテル各種が、想像よりはるかに売れておりますものですから」


ちらり、とリシャールさんを見上げたら目が合った。

「ウィスキーボトルはミスリル貨3枚、カクテルは50倍に薄めたものをあらかじめ用意しておき、そこへ注ぐ割り材を選んで小グラス1杯金貨1枚から3枚で販売しているそうだぞ」

「ひぇっ……ミスリル貨ですか」


1ボトル300万――あぁっ?!そうか!ボトルって、ホストクラブのシャンパンだ?!


「もちろん、不死族の皆さまへプレゼント出来るものは小グラス1杯銀貨1枚の純アルコールから色々ございますので。ウィスキーはあくまで特別なお客様だけの遊びということでございますよ?

ですが不死族とカップルシートでプレゼントしたボトルを分け合って飲めるサービスが大当たりしましてねぇ!プレゼントされたボトルから作ったカクテルは無料ですから、1本買えば分け合って飲み放題。1本飲み終わるか、次にプレゼントする人が出てくるか、お客様が酔い潰れなければ帰るまでずっとふたりきりの同席を独占できるんです。いやぁ、本当にこちらへの出店を許可して頂けたおかげです!」

余程儲かっているのか、揉み手で店長さんの手相が消えそう。


「白砂糖茶屋のお客さんって女性が多いんですよね?」

「えぇ。酒場では酔いつぶれてご退場のお客様が多いでしょうけど、こちらのお客様は目当ての方を取り合ってプレゼント合戦で競り負けるパターンの方が多いですねぇ」

「うわぁ。……そんなに男性スタッフに貢いだらお家で怒られるんじゃ」


「いえいえ、ミスリル貨をポンと支払えるようなお方には必ず従者が着いておりますからね。お小遣いを越えるような使い方は絶対になさいませんし、遊び方を心得ていらっしゃるので安全なんですよ?」

「あ、そうなんですか?」

「えぇ。むしろ金貨を少々しかお持ちでない、お1人でいらっしゃる方が危ないですね。ですが不死族の方々は流石、馴れ馴れしいお客様の躱し方も鮮やか。お支払いに無理をされそうな方は的確に見分けて高いものは飲ませないように気遣い。こちらがすぐに気付けるように動いてくださるのでフォローもし易くて、ほんとうに助かります」

「よかった。無理なく楽しんで貰えたらいいですね……」


「オーナーも一度ご覧になりますか?」

――と、店長さんが笑顔で誘って来たタイミングでリシャールさんが何か通信を聞いたらしく、ん、と中空を見てからこちらを向く。

「すまないチョーコ殿。なるべく急ぎで卸売倉庫に顔を出して欲しいそうだ。品切れになりそうなものが幾つかあるらしい」

「えっ?はい。――すみません店長さん。見学はまた今度で」

「あ、いつでもお待ちしております」


お店に戻る店長さんを見送ってからオクティと一緒にすぐ卸倉庫の方へ向かうと、リックさんが通信石を握ったまま慌てたように駆け寄ってきた。

「あぁオーナー!呼びつけてしまいすみません。ボトルウィスキーですが、開始直後から今までで、多い店では既に20本出ているそうで!流行に聡い富豪の方々が最初に動いているのでしょうから、それが過ぎれば落ち着いていくとは思いますが、まだ午後にもなっていないうちからこれではどこまで持つかわかりません!取り急ぎ500本ほど追加納品をお願い出来ますか?それから、メープルシロップから作った透明なラッピングとカラー蝋石が大人気過ぎて――」


次々に不足品を言われるままに納品しまくり、取り出す端から荷運びのスタッフが各所へ運んでいく。うん、ユーゴも大量の荷運びに大活躍してくれてるみたい。

それらが終わったところで手を止めたので、もう他に困ったことはないかと聞いてみると。即答でリックの顔にアルカイックなスマイルが浮かんだ。


「あの。マリアンを4日のチョコレートフルーツパーラーの開店に合わせて商店街に誘おうとしましたら、オーナーからの誘いが何日に入るかまだ分かっていないからダメと断られてしまったのです。えぇ、オーナーがお忙しいことは重々承知しておりますが!なんとか、お早めに日程を決めて頂けますか?」

「あっ、はい、ごめんなさい……」


「開店直後の今すぐにお誘いになるのも良いと思いますし。6日にオープンの総合ビューティサロンなどは特に女性同士のグループで行かれるのにはお勧めです。あぁ、15日がサラ様の宣言式で呼ばれるから空いていないと聞いておりますが、前日14日は満月の日で不死族たちがサービスデーにしたいそうですから、各店舗で何らかの特典が付くはずですよ。如何でしょう?」

「へぇ?……じゃあ明日か明後日のどちらかで集まれる日と、14日の予定をみんなに聞いてみますね!ありがとうございました」


「こちらこそお早い決断ありがとうございます。ウィスキーはまた減ってきたらお声をかけさせて頂きますが。資金がだいぶ増えましたので、次からは千本単位の納品でも受けられるでしょう」

「あ、じゃあ多めに用意しておきますね!」

「逆にオーナーが開発や入手を願うようなものは何か……ないですよね」

「ん……あっ、新しく同盟に参加した国で手に入った新しいものとかって何もないんですか?」


「オーナーが興味のありそうな情報でしたら。ロシュサント騎士国に国宝として保管されている落ちものらしき植物の硬い実があるという話くらいでしょうか……あ、レガリア魔法国では天人の国にあるという葉野菜を育てて儀礼の日の特別な食べ物として有難がっているというのもありましたね。高山由来の葉野菜ということでしたらそちらは不要かと今のところ取引の要請はしておりませんが、ご希望でしたらそちらは現金で買えますから取り寄せますか?」


「栽培してるならダンジョン産じゃないので、それは見てみたいし少しだけ買ってみて貰っていいですか?実の方も気になるけど、国宝にしてるんじゃ見せては貰えないかなぁ」

「でしたらすぐに手配しますね。その国宝なのですが……話によると落ちものであろう出現の仕方だったために保存はしたものの、使い道もなく持て余しているそうなんですよ。国王はこんなものよりただの剣や盾でも落ちてきてくれる方がまだましだったと零しておられるとか。実用的なものでなければ意味が無いとお考えの方であれば、価値のあるものとの取引は応じられるかもしれません」


「落ちものと交換できる価値のあるもの?……あ。騎士国の人たちってお肉をよく食べるんですよね?ニワトリも落ちものなので、あれと交換して貰ったり出来ませんか」

「ニワトリとの交換……それは良い案かもしれませんね。生肉は日持ちがしないので輸出できませんし、卵や生きたままの状態で輸出すると向こうで育てられてしまいますので少々悩んでいたところでした。なにか話が進めば連絡致しますね」


新しい葉野菜と、硬い実ってなんだろうな、楽しみ!

見学を切りあげてきたから少し早いけど、油の木をまた少し持って洞窟行って千本詰めて貰って帰ろ。


***


オクティと共にまた油の木のダンジョンへ行ってワンフロア分くらいせっせと集めてから洞窟に向かうと、足の踏み場もないほどに大小様々な箱や部品が並べられていた。

「うわわ、なっ、なに?」

「これは全部……時計か?」

「おおっとすまねぇな。いやすげぇからくり時計を作ってここに設置しようと思ったらこの部屋には入り切らなくってよぉ。やっぱデカくて邪魔かぁと思って小さくし始めたら、小型化が楽しくなってきちまって。今どこまで縮められるか挑戦してんだ」


「小型化か。見たところ色々な別のカラクリごと一度に小さくしようとしているように見えるが。一旦ベルを鳴らしたりする機能を全て外して、時計の機構だけを限界まで小さくしてみたらどうだ?」

「ぬぅん。一理ある!まずそこからやってみっかぁ」

「ちなみに今って、とにかく小さくって言ったらどのくらいまでいけるんです?」

「そこにあるのがそうだ。それ以上はノーム達に特注でちっせぇ部品から作ってもらうしかねえな」


指さされたのはちょっと大きめのランタンサイズ、銀色の金属箱。前面には白い石っぽいものを磨いた丸い文字盤がはめ込まれ、針は1本、12の色石が周囲に嵌めてある。……え、部屋置きにするなら全然このサイズでいいじゃん?!壁に掛けても机に置いても良さそう。

「こんなに小さくなるなんて凄いですね?!このサイズだとどのくらいの頻度で魔力補充ですか?」

「部品がでけぇだけでオリハルコン自体はちょっとしか使ってねぇからもって3日だ。文字盤の下にある四角い金色のとこに触れば補充できる。ベルの音はかなり小さいが、1日に12回鳴るぞ」


文字盤の印が12個あるのは、2時間刻みではあるけど凄く見慣れた感がある。使っているベルを試しに鳴らして貰うと、小さな風鈴みたいに可愛くて涼やかな音が鳴った。

まぁこのくらいの音量なら……1日中2時間おきに鳴っててもいいかな?


「3日補充無しで動くなら使う人は居そうですね……これはどのくらいで買えますか?」

「そいつはオリハルコンは少量だから技術料だけでいい、まぁまけてデカイ酒の実1つで2個ってとこだな。20個以上買うってんなら流石にオリハルコンも小さいやつくらいは付けてもらいたいが」

オクティを振り返る。

「家にも一応1個買うとして、卸売倉庫と、宰相さんは……家だけじゃなくて城の机にも置きたいって言うかな?」

「そうだな、行く先々に置きたいと言いそうだ。各組合長室と、一応商会の会長室にも形だけは置いて貰うか?」

「新しいものだから、ミラルダさんが持って行っちゃったりして」

「まぁそれはそれで後でまた追加……うーん、軍部なんかも時間は気にするだろうし、少し予備は用意するべきかな」

ウィスキーの実を5個で時計を10買うついでに、千本のボトル詰めも頼んで皮と10本を譲った。


受け取ったボトルをしまうついでに時計もアイテムボックスに入れようとしたら――

「コラーッ!動いてる最中のからくりは繊細なんだぞ!アイテムボックスに入れんな、手で運べっ!」と強めに注意されたので、10個纏めて箱に入れて貰ってオクティが持って帰る。


……何故か。メイドさんたちが全員揃って一列に並び。話を聞く姿勢で玄関で待たれていた。


「「おかえりなさいませ!」」

「え。た、だいま……どうしたの?」

「いえ……きっと何か、ご用があるかと思いまして」

「卸売倉庫に呼び出されて退出されてから、こちらに戻られるまで、間がありましたので……」

「その手にお持ちのものをまずお見せいただいてよろしいでしょうか……?」


素直に食堂へ集まり、箱から時計を机に並べて3日しかもたないからこまめな魔力補充が必要だとか仕様説明。1つだけ買って家用に置こうかと思ったけど、今回は色々迷惑かけたので、商会とか宰相さんとかあちこちにお詫びの品として贈ろうと思うの、というと少し雰囲気は和らいだ気がした……あ、やっぱりお詫びが必要なやらかしと思ってたよね?


……実際今日は一日中チョーコとオクティへの付き添いの手も足りないくらい全員あっちこっち走り回ってくれていたから、メイドさんや秘書さんたちにも後で何か考えないとかな。


「よろしいと思います。10個あるのでしたら……1つはここの玄関ホールに設置しましょうね。商会、宰相家、軍部は各2個、冒険者組合、商会組合は広場がすぐ近くですので1つ、魔塔も所長室へ1つ置いてはいかがでしょうか?」

じゃあそれでというと、ニナとリナが手分けして持って出て行った。


「あと商店街へマリアン達を誘おうと思ったんだけど、明日か明後日で集まれる方と。サラの宣言前日の14日に総合ビューティサロン?みたいな所に行かないかって誘おうかと思ってるの、どうかな?」

真っ先に食いついたのはルナだった。

「総合美容のビューティーサロンって6日に開くやつですよねぇ?!良いと思いますわぁっ、14日の予約取っておきますわっ!明日か明後日もお連れしたいお店がお決まりでしたら、そちらもわたくしが予約して参りますぅ」


「えっとじゃあ……影猫カフェは行きたいけど、他っておすすめ何かある?」

「そうですわねぇ、まず移動に時間が取られますので、朝食後なるべく早めにお集まりになって移動。昼半ばからお昼前には着きますので、先に美術館をゆっくり歩かれて、小腹が空きましてから屋台体験。香水石鹸やレターセットのお店をご覧になったり、ドレスやカバン、帽子、靴の店などをご覧になって、歩き疲れましたら影猫カフェに近いネイルケアサロンへ移動、そのまま心行くまで影猫カフェで楽しんで、薬屋で化粧品を見て、出口でお土産のお店に寄ってからお帰りになれば、遅くならないうちに帰れますわね」


「メイドさん達みんな商店街に行ってたりする?詳しいね……じゃあ任せようかな。出かける時の付き添いもルナに頼んでいい?」

「お任せくださいませぇ。では皆様にご予定伺ってまいりますわっ」


残っているのはミナとマナ。

「あとは……家の事任せっきりだけど、手が足りないとか困ってることある?」

「家の中のことは問題ございませんわ。ですが……」

「国外にまで情報を集めてくる先が増えましたので、後輩たちを研修がてら短期で雇えたらと思うことが時々ありますねぇ。情報収集の遅れは由々しき問題ですから」


「うん?必要なら雇ってもらって構わないと思うけど、どのくらい?」

「各同盟参加国、分地、商店街にはそれぞれ2、3人ずつ放っておきたいので同盟数が増えることも考え……取り急ぎ15名ほどでしょうか。仮にでも雇うとすると私たちと変わらない基本給が発生します。研修のていを取れば無償になりますが、腕を認められれば雇用の機会も与えられるのが常ですので。そのまま正規で雇って貰えるかもしれないと期待をさせることになりますわね」


「えぇっと、今後同盟国が増えたら信用できる偵察の人がもっと必要になるってことでしょう?そしたら、研修で実力を見て、メイドさんたちが使えると思った人から雇っていっていいんじゃないかな?」

ねぇ、とオクティを振り返る。


「そうだな、腕のいい偵察員なら15人に限らず必要なだけ雇っていい。警備員と同じで装備関連も共用できるものはこちらで揃えてくれ。雇用のサインは直接会う必要があるだろうから俺が立ち会うけど。決まるまでは入れ替わるかもしれないし、研修の成績で雇っていいと5人が判断した人だけで頼む」

「ありがとうございます!」


――商店街開幕初日は、なんとか無事に済んだ、かな。

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