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飢えないだけじゃ生きられない(日・水・更新中)  作者: なるねこ


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80/89

80.商会オープンが見えてきた

ルナを連れて卸売り倉庫の事務所の方へ向かうと、今日居たのはリック。

教えて貰ったのだが、マリアンたちがプレゼントしたという袖に留める飾りボタンが赤ければリック、ピンクならマイクなのでそこを見れば間違えない。


「リックさんこんにちは」

「あぁオーナー。商会紋の印章、オーナーの分も出来てますよ」

小さな木箱に布を張ったものにきちっとはめ込まれているそれを受け取って印の所を見てみると、金色の金属製で線の部分が凹んでいるタイプ。鏡文字でチョーコと書かれているのも凹んでいる。


すごく立派で綺麗だけどハンコじゃないことに違和感で、逆に文字の所が凹んでると呟いたら。

「あ、初めて見ますよね。それはそうでした……これはこうして使うものです」


蝋石という灰色の石を火の魔法でジュッと溶かして印章の面に垂らし、バターナイフみたいな形のヘラでぴっぴっと均して紙に押しつけてから離すと。

模様と文字の部分だけが灰色の蝋で象られて残った。


「大抵は手書きサインで十分ですから、商会にとって重要な契約などでしか使いません。大事な郵送物などに封緘とする場合も、よほど大事なものだけです。これは印章指輪と同じで、自分の名前入りのものを持っていることに意味があるんですよ」

「なるほど……逆に文字の部分にインクを付けて押すのはないですか?」

「それは荷に押す判がそうですね。木箱に押す大きいのと、商品類に押す小さいのと……あ。まず倉庫へどうぞ、押したいものと見比べた方が良いですよね」


商品に押すようなスタンプが欲しいということは、何か商品があるんだろうと察知したリックに連れられて倉庫へ行くと。数日前に来た時よりかなり荷物が充実してきている。

「わ、だいぶ荷物増えてきてますね」


「来週あたりからもう開店を始める予定の店舗が幾つかありますので、準備はしておきませんと。

開店セレモニーはオープンタイプの獣人車に乗って、商店街入口のリボンを切って入り、中を一周して出てくるだけですが。オーナーのご都合はよろしいでしょうか?」

ルナを振り返ると頷かれた。

「6日後、新月の日の正午からですわね?空いておりますわ」

「あっ、もう新月?早い……」

「忙しくて早く過ぎる時間は心地いいものですよね。それで、オーナー?本日は一体どのようなものをお持ち込みに?」


「えっとまず、昨日高山の中型ダンジョンを1つ()()()()()()んですけど」

「……はい」

油の木、サトウキビ、サトウダイコン、葉野菜、痺れ草、とボトルに詰めた高級ウィスキーを1本並べ。


「ダンジョンで金属製の瓶が?!」

「あぁそれは違って!ウィスキーっていうアルコールより強力な濃縮されたお酒なんです。不死族たちにとっては凄い美味しい高級なお酒なんですけど。そのままだとあまりに扱いづらいので、洞窟で千本くらい瓶に詰めて貰って来ただけなんですっ」

「あ、あぁ、驚きました。すみません、どうぞ続けてください」

葉野菜は普通の葉野菜だし、他は黒砂糖と白砂糖と油が抽出できるだけ。痺れ草は薬草なので不死族行き。広かったけど最下層以外に目新しいものはなかったという説明をしてから。


「最下層で取れたウィスキーにこの油の木で栓をしてボトルウィスキーを作って貰ったので。これを酒場と砂糖茶屋に置いて、人間用には百倍くらいに薄めてカクテルに、不死族はストレートで出したら、美味しいお酒をお客さんと一緒に飲めていいかなって思ったんです!でも酒の実の3倍くらい濃いので、お客さんがうっかりストレートで飲んだら死んじゃうようなお酒って流石に置いておけないですか?

ここのコルクの上のところに商会紋押してオリジナル商品にも出来そうかなって思うんですけど……」


「酒の実の3倍……それはそれは。単純な濃さだけではなく付加価値もありそうですし、相当に高値が付けられそうですね……」

「詰めてもらう手数料分減って990本ですけど、沢山あるので香りとか確かめてみます?」

「はい、確認させて頂けますか」


チョーコが確認用にもう1本とガラスのグラスを出したら、ルナがすすっと出てきて『カクテル用の道具を借りたい』と声をかけ、リックが水と氷の魔道具と金属製のいつもの計量カップの他に凄く細長い柄杓みたいな形のスプーンがサイズ違いでセットになっている束をお盆に並べた。


ルナがささっと瓶を取り上げてボトルの首に布のリボンのようなものを結んでから上手にコルクをゆっくり引き抜き、長いスプーンから1本選び、ひとさじ掬って計量カップへ移して蓋を閉め。水を注いでキッチリ線に合わせる。


100倍ですわ。とグラスに氷と共に少量だけ注いでリックに渡す。


「おぉ、これは……本当に香りが素晴らしい。100倍でもこの量でしっかり楽しめますし、他の割り材も加えて楽しむなら120倍でもいいでしょうね。なるほど、間違いなくこれは高く売れると思います。お客様の手に原液のまま渡らないよう徹底すればいいだけですから、原酒は不死族の飲む高級酒として。酒場と白砂糖茶屋のみに卸して一般販売はしません」


「売れそうですか?」

「これは革命的な商品になるかもしれませんよ。店のシステムとして酒場や白砂糖茶屋で店員が一緒に飲むのは、お客様からお酒を奢られた時だけでしてね。

不死族の店員にボトルを買ってプレゼント出来るサービスと共に、このコンヴィニ・ウィスキーはオリジナル商品で高く売り出します。コルクに商会紋を押し、瓶のボディにも高級に見せるリボン等でラッピングを施しましょう。

人間用にも特別なカクテル(高級ウィスキー使用)として別途用意します。

カクテルは高級品にふさわしい品質のものが開発されればボトル販売もしますが、ストレートのボトルは不死族店員へのプレゼント限定で自分用には買えません」


「ちゃんとそこを徹底して貰えるなら安心ですね」

「黒砂糖と砂糖と油は使い道がありますし葉野菜と共に全部納品して頂いて。ウィスキーはまず300本、様子見で引き取らせて頂けますか」

「わかりました」

痺れ草以外は油の木も含めて全部とボトル300本、今栓を開けてしめ直したリボン付きのボトルは混ざると面倒なのでルナに預け。次は薬屋の倉庫へ――


「ふんふ~ん♪――あらっ?チョーコじゃないの、納品?」

白衣を着たサキュバスさんが機嫌良さそうに見るからに口紅っぽい色の赤い液体を練り練り混ぜているすぐ目の前に出てきてしまったが、驚きもせず作業を続けながら笑顔で話しかけてくる。


「ダンジョンに行ったらこれが生えてたので納品しに来たんですけど……これって使えます?」

「ん、使えるの基準が分からないけど。痺れ草は抵抗する子に盛って動けなくするようなアイテムとしては後遺症も一切無くて時間も調節できてとっても安全に使えるものよ?治療としての使い方は緊張や引きつけを起こして舌を噛みそうとか、そういう子に使う鎮静剤の材料になるから沢山買い取り出来るわ」


慣れた様子でルナが納品用のトレイを持ってきて、チョーコの前に1枚ずつ出していってくれるので並べていく。

「えっと薬を盛るのは犯罪なので、ぜひ病院で鎮静剤として使ってください」

「そうねぇ。それが平和よねー」


「皆が平和に便利に、美味しいもの一杯食べて暮らせるようにっていうのが私の夢なんです」

「うふふ♪ここは周りに人間達がいっぱい居てくれるから、お腹が空かなくって幸せよ。あとは美味しいお酒と可愛い男の子が居たら言うことないわねぇ。そういえば、惚れ薬とかそういうのは作らないの?」

「えっと……魅了の毒みたいな?」

「まさかぁ、好きでもないのに無理に振り向かせるのはダメなんでしょ?元々好意がないと効かないものよ。興奮剤とか感度を上げるとか色々あるわ」


またルナを振り返ってみる。

「夫婦間で盛り上がるきっかけになるのは良いですけれど。しっかり強い効果が出るものを一般販売は不可ですわね。好きだけど付き合う気はない相手を薬でその気にさせて行為に持ち込めば、罪になりかねませんわ」

「難しいわねぇ?」

「副作用や後遺症が一切ないと言い切れるものであれば、伴侶にしか使ってはダメと銘打って、男女ペア限定で1回分ずつお売りするのはありかもしれません」

「んふ、それは面白そう。そういえばチョーコ?あなたも伴侶を持ったって聞いたわよ。熱ぅい夜を過ごせるお薬、作ってあげましょうか♪」


「えっ、い、いらないです」

「どうして?」

「チョーコ様とオクトエイド様は相性が良すぎてすぐ飛んでしまうので、むしろそちらが大変ですの」

「わぁぁぁ?!そんなことここで言わなくていいじゃない?!」

「あら薬要らずだなんて良いことよぉ!百年くらい経てば慣れてお互い丁度いい感じになるわ。鈍らせる方のお薬もあるけど長い付き合いなんだから、最初はそれも楽しんだらいいの。もしどうしても困ったらまたいらっしゃいね」


練り終わった口紅は木製のパレットに詰めて、小筆じゃなくて小さなヘラみたいなものを入れて閉め。表に黒いインクでペタペタ商会紋を押しては手早く箱に詰めていき、次の石の入れ物を手元に入れ替える。


「あ……そういえば影猫カフェの建物は出来たしハーピーのお肉も届くようになったけど、チョーコが来ないって影猫ちゃんたちが拗ねてたわよ?毎日とは言わないけど、数日に一度は顔見せてあげてくれない?」

「あっ。それは帰る前に寄ってみようかな」

「毎日うろうろ待ってるわ。どこからでも私たちの誰かを呼んでくれたらお店まで運ぶから気軽に通ってあげてね」


「香水用の薔薇はこのくらいで足りそうか……おやチョーコ殿、来ていたのか。美術館の場所が決まったので、今建築作業をしているところだ。展示物がまだあまり無いので、置きたいものがあれば声を掛けて貰いたい。内部が整ったら案内させて貰おう」

ひょい、と畑から顔を出したのは赤と白の薔薇を抱えたリシャールさんだった。白衣姿ですら薔薇が似合う。


「ありがとうございます。あ、一応確認しておいた方がいいかなって思ったんですけど。新月の日、今月は1960人分でしたっけ?」

「うむ。女王たちとその世話をしている者たちも誓いを交わして上陸はしたが、ここの仕事はしていないので、数えられるのはそこまでだ」

「女王様達って、新月の打ち上げには顔出されたりします?その分お酒も増やした方がいいのかなって……」

「見に来られはすると思うが、女王も王や王妃たちも何もせず商会から施されることを良しとする方々ではないので追加は不要だ。我々が生み出した植物を捧げることはあるが、国民が働いて得た褒賞を受け取ろうとはせぬ。それと、これは預かっていたものだ」

豪華な大きい空の水差しとグラスは綺麗に洗われて酒の匂いはまったくない。受け取って片付けつつ、少し考える。


「ブランデーよりはちょっと弱い、ウィスキーっていう高級なお酒があるんですけど。伴侶の人たちはまだ療養中って聞いたので、女王様たち14人分だけ快気祝いにどうですか?」

「ほう、チョーコ殿からの快気祝いということであれば喜ばれるであろう。入れ物ごとお渡しできるものが望ましい。また、酒の種類が違うことが我々の儀礼的にも良い。我々の打ち上げに付き合って杯を持つためだとしても、女王と同じ杯を掲げてよいのは伴侶のみゆえ」


皆と同じものを配っちゃいけないのがマナーなら丁度いいとボトル15本を出す。

「こっちはブランデーと違って人間が匂いだけで倒れないギリギリの強さなので、今後酒場とか砂糖茶屋でも本当に特別なお酒として扱う予定です。1本は毒味というか味見用というか……いきなり女王様たちに飲ませるのは不安かもしれないので、一緒にお渡ししておきますね」

「心遣いに感謝する」

「あと……夜中は私が寝ちゃってるかもしれないので祝杯用のお酒も先に預けていいですか」


出そうとすると、奥の畑とは別の扉を開けて本当に倉庫のみに使うらしい鍵のかかる部屋に案内された。大小色々なものを置けるようになってる棚もあるので、樽の数が揃ったらそれも並べられそうな感じ。

ブランデー入りの水差しを並べ、それから8分の1サイズの杯を。サンプルを除いたガラスと陶器の分でピッタリ1960個だけど女王様達とか追加で必要かもしれないし。鉄杯の50個も追加。


この杯はご褒美用のサイズで揃えたし欲しい酒器のデザインサンプルにもなるし、新月用に預けっぱなしでいいと伝えておく。

使い終わった水差しも倉庫に預けてもらったら大丈夫。


渡すものは渡してスッキリしたから、影猫カフェの見学して帰ろう。

リシャールが送ろうとしかけて、男性が触れるのは良くないというのを思い出し、女性のサキュバス2人を呼んでくれた。それぞれチョーコとルナをバックハグ状態で抱きかかえて飛んで連れて行ってくれる。


「「「んにゃーっ!(遅い!)」」」「「「みゃぁーっ(ままー!)」」」


すっかりお洒落な石タイル張りで蔓が絡む柵が嵌った、デザイン性ばっちりな可愛い店構えになっているそこに近付いた途端、窓からぽぽぽんと6匹黒い毛玉が鳴きながら飛び出してくるけど。

「……まま?」

「必ずではないけど、生まれて初めて肉を貰った相手を親だと思うことがあるのよねぇ」

「あ、なるほどぉ」


顔中を毛玉に纏わりつかれながら、地面に降ろされて送ってくれたサキュバスのお姉さんたちが帰り、お店の担当らしい別のサキュバスの人が店内から出てきて扉の中へ案内。

そのままハーピーを配って帰るつもりだったけど、お試しで入店していってと誘われ奥の席へ。


まとわりついている猫たちが気になるのか、ルナの手が時々うずうずというかわきわきしていて、撫でてみたいんだろうなと心を読まなくてもわかる。

「影猫ちゃんたち、こっちは私の家で雇ったメイドさんでね、あと4人いるけど凄くお世話になってるから、来た時は仲良くしてあげてね?」


「「んにゃー(ふーん)」」

皆ルナの方に視線は向けるけれど動こうとはしないのでチョーコが顔中にまとわりつかれている状況は変わらない。


影猫たちは相変わらずひんやりふわふわした触感で、動くぬいぐるみみたい。

撫でてあげると空中でお腹を出して撫でさせながらゴロゴロ鳴く。

見覚えのある広口カップの鉄器で紅茶が出され、小さい皿にカットフルーツ。そして木製の箱に黒猫の顔が大きく描かれているものの中に、猫草らしい細い尖った瑞々しそうな新緑色の葉と、から揚げ作る時に切った鶏肉そっくりの生肉が6個。

チョーコとルナの前にそれぞれ置かれた。


「あげる時は箱を持って影猫たちに近付けてあげてくださいね」


フードメニューを見せて貰うと飲み物は紅茶か緑茶かコーヒーだけがホットも選べて、氷入りのものは炭酸系やフルーツ系など結構色々ある。

ドリンクと猫の餌箱のセットが銀貨1枚。ドリンクのおかわりは1回だけ無料で別のものも選べる。フードメニューは甘いものかフルーツばかりで銀貨1~3枚くらいに設定されてるみたい。


軽食とかご飯ものはないのねと聞いてみると、影猫は充分食べられる環境が続くと突然分裂したかのように増えるため、気付いたら増えていて人間の肉料理に手を出していたという事故を減らすために食事系は省いたらしい。


「この箱でご飯をあげるのね。こうかな?」

食べる?と聞きながら箱を差し出して見せると6匹で群がって肉を一個ずつ食べ、猫草も取り合うようにして食べ。全部なくなったらようやく猫たちがルナの方を向いたので、紅茶とフルーツを食べながら見ていたら。


餌箱の近くへ確認しにいったのが3匹、ルナの方に向かってパタパタ飛んだ3匹は、興味深そうに鼻をくんくん近付けるけど、ルナの視線が向くとすっと距離を取る。

餌箱前の3匹もルナの方まで歩いては来るけど、手を伸ばそうとするとすっと下がる。

「餌が欲しいのかわたくしに触りたいのかどっちですの?触りたければ触ればよろしいのよ」


ちょいちょい、と1匹が木箱を前足でつつきながらルナを見ている。

「差し出されないと食べないようにしつけられているのね?なかなかマナーの出来た子たちですわ」

箱をひょいと取ってほらお召し上がりくださいな。と声を掛けて持つと、わらわらっと集まって中身を空にする。

食べ終わってゴロゴロ言っている1匹をそっと撫でようとすると、ぬるんと不可解な動きで腕をかいくぐって離れた後。ルナを見た。


「猫はこっちから捕まえようとするより、放っておいた方が構いに来るって聞いたことあるよ」

「むぅ、それなら勝手になさいませ」

紅茶を飲んだりフルーツを食べたりして無視すると決めた途端、急に肩に登ったり膝にぬるっと上がりこんだりし始めた。


「ふひっ、くすぐったいですわぁ、ちょ、こら。中に入るんじゃありませんの」

襟ぐりから服の中に潜ろうとしたのを引っ張り出そうと反応したのが面白いのか、捕まえようとする手から器用に逃れながら肌が出ているところ辺りを狙ってじゃれつき始めた。

1匹は完全に頭の上にとりついて楽しそう。


「こ、この影猫というものたち、完全にわたくしのことをおちょくってますわね?」

しかしルナの目も楽しそう、寄ってきてくれたのは嬉しいらしい。


「悪戯好きって聞いたけど、こういう悪戯なら可愛いかも?本当に嫌がってる人にはやっちゃだめだし、お客さんの荷物を勝手に触ったり、物を壊したり隠したりされると困るけど」


「ふんっ、こんなに人懐っこくては攫われてしまわないか心配ですわっ」

ルナが紅茶とフルーツを食べ終えて猫たちを撫でようとすると、今度はそのまま頭を撫でさせてくれたことにちょっと感激している。


ウェイトレスのサキュバスさんが微笑ましそうに眺め。

「影猫はかなり縄張り意識が強くてね。人ではなくて場所に着くというのかしら、慣れた人でも縄張りから連れ出そうとするのは難しいのよ」


「それなら、この店に来ればちゃんと会えるという事ですのね。また来て差し上げますわ」

「にゃーん、ごろごろ……(メイドさんはごはん持ってきてくれる人!)」


「あ。ごはん持ってきてくれる人だって覚えたみたい。本当に賢いね……影猫カフェってこういうところだけど、どうかな」

「流石はチョーコ様のご考案されたお店ですわ。お使いの合間に寄れる時は寄りたいですわね」

「知ってただけで思いついたわけではないんだけど、うん、私も今度はオクティと一緒に来たいな」


***


オクティの帰宅後。

色々今日のことを話しながら、ウィスキーのボトル詰めの話でルナに預けていた試飲用の1本を出し、ミナが興味を示したので渡すと、調理場からお盆に乗った小さい方の水差し、多すぎる数のグラス、何種類かの果物、氷、風の石、マドラー、牛乳とホイップクリーム、砂糖と塩とスパイス類まで持って来られた。


薄めでちょっと試してみましょう。と、コルク栓を引き抜いた。ブランデーと違って香りの広がり方がちょっとおとなしい、ウィスキーらしい香りがゆっくり広がっていく。


サラは目盛り付きの入れ物などは使わずに目分量でまず60倍に薄めたものを水差しに半分ほど作る。そこに好きな割り材を入れるというので。

メイドさんたちには甘くないソーダ割りなどシンプルに。

オクティとチョーコの2人だけは、最初はそのまま氷だけで味見をしてみた。


コルクは繰り返し開け閉しても思ったより頑丈で全然ヘタらず密封し直せるので、飲みきらなくても瓶は出しておいて大丈夫そうね。


不思議と木の樽のようなほんのりスモーキーさを感じる、本当にウィスキーらしい香り。向こうのお酒を知っている身としてはこれだけだと薄く感じるから、他のものを加えてカクテルにする方が良いかもとは思うけど。

じっくり味わえば十分感じ取れる。


更にソーダで割ったり果物を添えたりしても合うけど、料理やお菓子に使うにはやっぱり弱いかな……酔い水草とか酒の実の方がいいかも。こうやってリラックスタイムに少しずつ楽しむにはとても贅沢な感じがするお酒だなと思う。


オクティとチョーコには追加で3種類ほど薄めに作って貰ったけれど、メイドさんたちはお酒は最初の1杯でいいらしい。

リナ達が大変高級で素晴らしい香りと感じますと言うと、ルナが商会で特別なお酒として高く取り扱うことになるらしいと経緯を皆に報告。


どうやらルナは店員に高いお酒を貢がせるという購入煽りの方法、今も白砂糖茶屋で確かにそれっぽいものがあるけれど、そんなにハッキリ貢がせるため専用の高いお酒を用意する発想が気に入ったみたいでやたらと褒めている。


「えっと、単純にお店で提供するってなったらお客さんしか飲めないから、プレゼントにして一緒に飲めたら気に入った店員さんと一緒に飲めて楽しいって話じゃなくて?」

「そういう一面もあるってことですの。色々な意味で素晴らしいですわぁ♪」


ふとオクティが顔を上げて、荷物を取りに席を外すという。

「思い出した。俺が向こうの家に現金のまま溜めてた分。全部新貨幣に両替してきたからチョーコに渡しておくよ。何かで現金必要になることあるかもしれないだろ?」


「わぁ、お小遣いを実際自分で持ってていいんだったら少し持とうかな、ありがとう。じゃあ早速あのお揃いの小銭入れを使ってみちゃおうか――」

ゴトン。


テレポートで戻ってきたオクティが置いた人の頭くらいに膨らんだ布袋のインパクトで言いかけた言葉が止まった。今取り出した小銭入れはせいぜいポケットティッシュくらいの容量しかないので、30枚くらいしか入らないかな?見比べて数秒フリーズする。


「両替するから家にある現金は全部持って来いって言われて用意したら思ったより溜まってたんだ。現金で置いとくには多いかもだし、必要な分だけ残して後はコンヴィニ商会かメイドに預けておいたらいい」

「こ……れはオクティの分じゃない?」

「今はダンジョンからの収入はチョーコの商会、魔塔関連は俺ってことになってるから、魔塔以外から急に追加収入があると経理がうるさそうなんだよね。それに転送盤とか翻訳機とかの分が俺の方に入ってきてるんだ、正確にはそっちがチョーコの分だろ?」


「まぁ、オクティと私だったらどっちが持ってても一緒かな……ありがとう」

ちょっと開けてみてみると、本当に新品出来立てピッカピカの宝石みたいな新硬貨。

見た感じ丸い金貨と三角の銀貨の割合が多くて、四角い銅貨や鉄貨はほんのちょっぴり、なんだけど。

出して積み上げて数えてみようと思ったら、下の方から白銀色に発光している五角形のコインが30枚も出てきた。


ミスリル貨って金貨100枚分じゃなかったっけ。つまり三千万?

これを前の鍵も持たずに出入りしてた家の倉庫に置きっぱなしだった、と改めて考えると怖い。

あ、でも倉庫の中のものを何があるか探した時、それっぽいものを見つけた覚えはなかったから。空き巣が居たとしても気付かなかったかも?


動けないままちらっとメイドさんたちに目を向けるとニナがすすっと寄って来た。

ミスリル貨5枚、金貨20枚、銀貨5枚を花柄の財布へ。そして混ざっていた鉄貨4枚と銅貨10枚と残りの銀貨8枚をなにも絵を付けていなかった白い財布に。残りの金貨とミスリル貨だけ袋へさっさと詰めて袋を持って下がった。

「えっと」


「残りは預けておきますわ。貴族の店で使うのは金貨か銀貨だけですから、普段は絵付きのものだけお持ちになり。細かいものが必要なときだけ白い方を出せば宜しいですよ」

「いや、ミスリル貨5枚も要る?」

「皆様とお歩きになっている時に、どうしてもお揃いでプレゼントしたいものを見つけられるかもしれませんわ。7人分ともなりますと余裕を見るならこのくらいは必要かと。あ、釣銭が膨らんだ時はお傍にいるわたくし達がお預かりしますのでご安心くださいね」

「貴族のお嬢様って友達に金貨10枚越えのものを気軽にプレゼントしたりするもの……?」


「通常は扶養されている立場ですから金貨1枚を越えることはありませんが。今月は新月の日に開店イベントがありますし。来月半ばにはサラ様のご結婚、月末にはマリアン様とリリアン様のお誕生日ですよ?

しかもこちらの招待で皆様をご自分の商店街にご案内するわけで……例えば1つ金貨20枚するブレスレットですとか、皆様が本当にお気に入りなご様子だったり、お揃いで持ちたいものだと感じたら今回のお土産として皆様に配ろうとはなさいませんか?」

「あぁ、お祝いだし、今回のお土産ってことで良いよって……言いそう」

それは納得しちゃった。


「不死族の店員や顔見知りでしたら直接商会の口座からと言えば硬貨を使わずに買えますが。人数的には面識のない人間の店員が圧倒的に多いので、常にある程度は現金で持ち歩いておいた方が安心ですわ。

商店街の両替商で商会紋の印章を見せて照会するには、わざわざ入口まで戻らねばなりませんからね」


「私の口座なんてあったんだ?」

「っ?!……ご報告が漏れていたようで申し訳ございません。以前はオクトエイド様の宰相家への預かり金でまとめておりましたが、婚姻により正式に帝国民となりますから、チョーコ様が商会を立ち上げられる時点で商会に個人口座が用意されました。

倉庫に納品した素材や食器等の支払い、先日の貨幣鋳造の支払いは全て商会口座に計上済み。本日納品分は売値などを決定後に計上。不死族たちへ納品した分はまだ収入がないのでストックされている状態ですが、営業が始まってから順次支払い予定となっております」


「経理関連はよく分からないけど……宰相さんの所にまとめておいたままだと問題があったのかな」

「そもそも商会の口座の預金というのは……いわば、チョーコ様からコンヴィニ商会への貸し付けをしている状態であるとお考え下さいませ。ダンジョンや洞窟から仕入れてきた物資を商会に渡す際にいちいち金貨を受け取らず、その分の金額を貸しにしているわけです」


「ウィスキーボトルとか腐るものでもないのに何でまとめて納品じゃないのかなって思うことがあったけど、高いものは仕入れて売れなかったら借りっぱなしになっちゃうから?」

「はい。お持ち込み頂いた商店街揃いの食器一式なども。あまりに高値がつきすぎるものは耐用年数によって償却できない可能性を考えていらしたはずですわ」

「わぁ、なんにも考えてなかったから、やっぱり会長も卸売り倉庫の管理も全部任せて良かったぁ」


「預金といえばですが、こちらも仕上がってまいりました。商会に預金のある方へ毎月配られる金券ですわ。チョーコ様は最大数の月300枚ですわね」

むこうの銀行口座と違って商会の預金には額面上の利子が付いていくわけじゃない代わりに、商店街で銀貨1枚と同額で使える金券が毎月貰えるみたい。300枚なら毎月金貨30枚も利子が付くのといっしょ?


渡されたずっしり重い袋を開けてみると絶対これ一斉回収した古い銀貨で作ったでしょうと思う大きさと形。長方形のチョコみたいな形の薄い銀チップに、商会紋の薔薇が打ち込んであるだけのものが出てきた。

刻印の雑さも形の歪みも新帝国銀貨には遠く及ばないものではあるけど。商店街ならば銀貨と同じように使える上に旧銀貨と形や大きさが同じなので、価値の勘違いをされることはないと思う。逆に庶民の間では普通に銀貨として出回りすぎて、帝国の商店通りの店舗には支払いに使うの断られたりしそう。


「ご自分で使っても宜しいですし、以前お住まいのご近所様であるとか、商店街へ直接ご招待されたい方がいらっしゃれば、招待状代わりに配られても宜しいでしょう」

「オクティ、平民街の知り合いに配る?」

「ほぼ銀貨そのままか……平民街で配るにはちょっと単位が大きいから、本当に付き合いのあった人だけに限定して配ると特別扱いが過ぎるかもな」

「お引っ越し祝いにも結婚宣言の時にも沢山来てくれてたけど、誰が来てくれてたのか分からないんだよね」

「結婚宣言に参加頂いた方は流石に把握しておりませんが、お引越しの夕食会に参加された方々は15世帯お集まりだったことは確認出来ておりますから、それぞれに20枚ずつ配ってオープンイベントまでになるべくたくさんご友人をお誘い下さいとお声がけしておく、というのはいかがでしょう?」


「ふむ……それなら、いいかもな」

「結婚宣言の時にも、買えるお金がなくても見には行くからねって言ってくれる人たちも居たし。折角商店街に行って何も買えないなんて悲しいから、先に配っておくのはありだと思う。あ、でも転送費用は別で必要……だったりする?」


「いえ、屋台広場直通の転送盤は、魔力補充で雇う天人の費用は全て商会が負担し、往復無料でご利用いただけることになっておりますわね。そして、現地で御者付きのエリート獣人車を1日2銀貨で貸し出しを行いますので、奥の店を利用されたい方も徒歩でいらっしゃれますよ」


あ。じゃあ平民街の人たちは商店街を見に行くだけならただなんだ!いいね!

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