79.ボトルメーカー
チョーコを残して先行したオクティが心配なのもあるし、どうなっているのか見えなくて不安なのもありサーチを繰り返していたら、オクティがそう遠くない所に留まったのがわかる。
そう思った直後に、それまで響いていたゆるっとした話声のように感じる響きが急に叫ぶようなトーンに変わって、すぐに途切れ、しばらくの間さほど大きくはないが物音が続いた。
しばらく待っていたら、チョーコの前に唐突にテレポートしてきたオクティに抱きしめられる。
「ただいま」
掴んで肌に押し付けていた通信石を離してそのままオクティに抱き返した。
「おかえり……どうなったの?」
「まぁざっとは片付いたよ」
今度は灯りをちょいちょいつけながら奥へ。
そこそこ広めの部屋の中にだけ明かりがついていて、部屋の床には食事代わりに直接齧っていたらしい齧りかけのサトウキビが乗った皿とか、水のコップだとか、干し肉っぽいものだとかが片付けもせずにそのまま、荷物も広げっぱなし。
床に冒険者が使うマットが4枚くっ付けて敷かれている真ん中あたりに毛布に包まって眠っている金髪の頭と毛布からはみ出した翼がぐったりしていて、泥汚れも交じってなんだかずいぶんボロボロに見える。
敷かれてるマットもなんだかちょっと染みだらけで汚い感じ。
その周囲に、明らかに冒険者っぽい6人が全員頭をびしょびしょにして倒れ、床の土も水を吸って泥っぽくなっているのだが、入り口で見張りをしていたっぽい赤と青の戦士系の人の2人以外、鎧どころか服もまともに着ていない。乾いた毛布が雑に掛けてあるのはオクティが後からやった気がする……
見たところ戦士っぽい4人は緑髪と金髪の二人が風、赤髪1人、青髪1人。魔法使いは金髪と薄い緑髪で両方風。
同じパーティーで6人中4人が風って珍しいかも。
全員息はしてるけど、陸でずぶ濡れで気絶って何したんだろう?
「あぁこいつらは、出会い頭に水球を被せて溺れて気絶するまで待っただけだよ。彼女の方は最初から気を失ってたけど、魔力的には弱ってないように見えるからただ寝てるだけだと思う。彼女の治療、俺がして平気?連れ帰って天人の誰かに任せる?」
「すぐ治してあげた方がいい、と思う」
「じゃあちょっとまた、外で待っててくれるか?」
「わかった」
一旦部屋の外へ。入口の脇へ引っ込んで待つ。ばしゃばしゃ洗うような音や暖かい風の気配がしていて、2分も経たないくらい。もういいよと声がかかったので中に入ると、すっかり洗われて顔とか髪がスッキリした様子のリリーさんが乾いた毛布に包まって眠っており。
オクティはその辺の毛布の類を適当に切ってねじって縄にして、男たちを後ろ手に縛って目隠しと猿轡をかけ、装備品類や散らばった荷物は本人たちのものと思う袋などに詰める作業をしていた。
「――魔力差が大きすぎたおかげかな、表面はかなり汚れてたけど怪我はなかった。それに多分最初から襲うつもりで連れ込んだわけじゃないっていうのは本当かもしれない。……命乞い交じりであまりちゃんと聞いてなかったけど、うっかり痺れ草を彼女が食べて、喋れないし動けないし魔法も使えない状態になって。つい魔が差したってことらしい。痺れ草はもうすぐ切れる頃だと思うよ」
効果が切れかけたら食べさせようとしたと思われる、痺れ草の乗った皿も近くにあったみたい。
「悪気はなかったし未遂かもしれないけど……この人たちごと纏めて牛の村にでも連れて行って、リリーさんの気が済むようにして貰えばいいのかな?」
「――ふ、う……っ」
彼女の方から寝言のような微かな声が聞こえて、チョーコが近寄ってしゃがむ。
「リリーさん?大丈夫……迎えに来たよ?」
「……?……っ!」
ぶわっと毛布ごと空中に浮きあがったリリーさんがチョーコを見て、視線がオクティと縛られた6人をなぞってからチョーコに戻る。
「サニーさんが心配してたから様子を見に来たの」
「ふ、ふぇ、うぅぅ……」
チョーコの方に飛び込んできたが、リィコさんの頭突きみたいな勢いとは違ってちゃんと受け止められるくらいの勢いだったので良かった。そのまま抱えてよしよしと頭や背中を撫でる。
「どうする、このまま牛の村に帰る?この6人を起こして謝らせる?」
「おこさない、あいたくない、サニーのところかえる……」
「この6人は人間の街で処罰するだけでいい?」
「うん。もうあわない……」
「じゃあ牛の村に帰ろうね」
「うん」
オクティはここで6人を見ておくというので、ここに目印だけ残して牛の村へ。
「リリー!どうしたんですか!」
「ふぇぇ、サニー……」
「怪我はないみたいなんですけど、どうやら冒険者たちに閉じ込められて悪戯されてたみたいで……」
サニーさんは今度は牛に干した草の束を運んで来ているところだったが、こちらを見ると目を丸くして草束を投げ捨ててきた。
毛布ごと渡すと、サニーさんが抱きかかえて、手に魔力を溜めて身体に翳しているので、状態を調べているのかなと思う。
「あのね、毒草を間違えて食べちゃったら身体がしびれて、人間たち、助けてくれなくて……逆にその草をもっと食べさせてきて、つかまっちゃったの」
「確かに怪我は……なさそうですね。リリー、怖かったですね、もう大丈夫ですよ」
「あの冒険者たちと二度と会わなければそれでいいってリリーさんは言ってるので、彼らはこちらで連れて行こうと思うんですけど、それで大丈夫ですか?」
「怪我も治療の跡もないようですし。リリーが二度と会いたくないというならそれでお願いします。しかし、本当に状況的に魔が差しただけでしょうか?……今後、最初から悪意を持って山に来るものが現れないとも限りません。何か、そういう悪意を見抜ける工夫があればよいのですが」
「その辺りは本人たちが全員気絶しているので、起こしてからちゃんと確認します。一応、オクティの見立てでは冒険者たちは魔が差しただけと言っていて、本当にそう言っていると思えたそうです。今後の工夫というと?」
「ガルドさん達に見ていて貰えれば安全ですが、竜人の方々は忙しいので常にというわけにはいきませんし。私たちにも魚人たちのように本心を知る技があればよかったのですが」
「……この村の出入りを見張る人だけが使うのであれば。心も分かるテレパシーっぽいものは使えるように出来ますよ」
「訓練生が持っていた翻訳機のような?村番だけが交代で使うとお約束すれば使わせて貰えますか?」
「あれは声に出した言葉だけで、こっちは1対1なら心で直接喋れるやつです。テレパシーを使い慣れている人は心を隠すことも出来るので、魚人さんとか私たちとか、不死族の人たちには通じなくて。逆に慣れてないうちは、言うつもりがないことまで全部相手に喋っちゃったりもしますから……慣れるまでちょっと大変かもですけど」
「ちょっと試させて貰えますか?」
テレパシーの魔石の原石を渡すと、サニーさんは魔石を手にして集中した。
『ふむ?これでテレパシーが使えるようになるとは、つくづくチョーコさんは不思議な技を沢山持っている。これがエスの息吹たる力でしょうか……転送盤についている石と似ていますが力の種類が違う。あの石もこれも綺麗だ、風の柱と色が違いますが力の流れ方は似ていますし、石の性質としては同じようなものでしょうか、なるほど、力の流れがこう――こ……で。……このくらいでしょうか。聞こえますか?』
チョーコの目を見てそう言った後にピタッと心の声は止まる。
「わ、もう調節できるようになったんですか……?凄いですね。私はかなり最近まで結構漏れちゃってたみたいなのに」
『慣れではありませんか?これであれば私たちなら誰でも使えそうです。村番だけで交代で持ち、山の平和の為にありがたく使わせて頂きますね』
「はい。――あの冒険者たちは人間側できちんと罰を受けさせるようにしますね」
ぺこりと頭を下げて、オクティの所へ戻る。既にマットだとかも纏め終わっていた。
「おかえりチョーコ。どうだった?」
「冒険者たちは二度と山に来ないように罰して貰えたらそれでいいって。あと、今後山に悪い目的の人が近付くと困るからってことで。テレパシーの魔石の原石を転送盤前で見張ってる人にだけ持ってて貰うように1つだけあげたんだけど……良かったかな」
「こんな被害が出た以上は心配にもなるだろうし、そのくらいはいいだろ?あんまりにも潔癖にほんの少しでも怪しい素振りがあったら即追放みたいな極端な動きになってきたら、その時に考えよう。じゃあ一旦、こいつらを帝国に送って起こして詳しく……面倒だから、末っ子の指令書3個目、使わないか?」
「あっ、そうだね。折角のお休みのダンジョン探索だし。ゆっくり最下層見てみたい」
ちょっとメイドさんたちに通信石で話しかけると即返答が帰って来たので、軽く説明をして末っ子さんに指令書3個目で冒険者6人の尋問をお願いしたいと言うと。
少しそのまま待っててくださいねと間が空いて。商店街の地上にある転送盤に来てほしいと言われたので、全員まとめて移動する。
3分も待ってないくらいすぐに転送盤から飛んできた末っ子さん、今日はだいぶ目が合う。最後の仕事内容は尋問と聞いてちょっと楽しみにしているらしい……
早速6人のちょっとだらしない格好の冒険者たちの顔を順番に見て。それなりに実力のある冒険者の顏くらいは大体見覚えていますが合致しません。帝国の冒険者じゃありませんね、と言ってから一応オクティから改めて解説を聞き。
「暴行に及んだのがわざとか魔が差しただけかをしっかり調べて欲しいという指令は理解しましたが。そんなことより。碑文への誓いも転民の誓いもせずに帝国の転送所を利用して山へ侵入した密入国者である疑いが濃厚です。ついては、またあれをお貸し頂きたいのですが……いかがでしょうか?」
テレパシーの原石を使いたいらしい。
「面白いからだけで使うなよ……?」
「わたくしはきちんと仕事の役に立つ使い方をした上で、己の欲求を満たして満足感を上げているだけです。それに指令の内容的にも、過失か故意かなんてあれを使わない限り『ちゃんと』は分かりませんよ。仕事以外では使いませんから、出来れば正式に1つ買い取らせて頂けたら大変有難いのですが?」
「チョーコ、どうする?徹底的に調べるか、表だけで終わらせるか?」
「ちゃんと調べるとはサニーさんと約束したし。それに確かに、秘書さんたちの仕事的にあれば役に立つことは多いかなって思う。んん……やたらに使わないようにはして欲しいから。仕事以外では長兄さんに預けておくとか、どうかな?」
「俺はそれで構わないと思う」
じゃあ、と1つ出して渡す。
「特にお金とかはいらないので。仕事で必要な時にだけ使って下さいね。長兄さんにも伝えておいて貰うので」
「『くっ、とんでもない人たちに弱みを握られてしまった』……ありがとうございます」
指令書とテレパシーの原石を1つ渡して、報告はメイドさんたちにしておいて貰えたらいいからと伝え。
メイドさんにも経緯を伝えて。
改めて、さっきの部屋から続きを探索することにした。
痺れ草や油の蔓やらも通り道だけ集めながらひたすら最短ルートで最下層を目指し、下って下って……ここは『中型』と言ってたのに、だだっ広いフロアが11層もあった。12層目が最終フロアらしく天井全体が薄明るく光っていて、明るいってほどではないけど視界はちゃんと遠くまで通る。土色が広がって見える広々とした広場全体を見回してみたら……ぽこっぽこっと見ている間に走るタイプの魔獣たちがフロア全体で急激に増えだしていく。
「えっ、なになに?」
「――ダンジョンブレイクだ!」
素早くチョーコを抱き上げて、オクティが天井付近まで飛んだ。
一瞬の差で周囲からどどどっと魔獣が飛びついてきて地面が埋まるが、天井付近までは飛んで来られないっぽいし、走るやつは壁登りも苦手らしい。
「あ、危なかった……ありがとうオクティ」
「いや……間に合って良かった」
土色の上に焦げ茶っぽい魔獣が増えていく様は、勢いの凄さもあって大鍋の泥水がボコボコ沸騰して吹き出しかけているかのよう。
そのまま沸騰した泡が鍋から吹き出す勢いで、さっき降りてきた階段からどどどどっと黒い塊となって吹き出し始める。
外が街なら慌てるけれど、あそこなら崖下に落ちていくだけだし、高山でこの走るタイプの魔獣に慌てる人はいないから、このまま吐き出しきるまで待つだけ。
待っている間にオクティが部屋の中をじっくり見回している。
このフロアもかなり広いけど、地面がむき出しで見えているから何か埋まってるパターンなのかな。
「そうだね、埋まってる……全体的に。埋まり方の感じはブランデーの時に似てるかな」
「またここも広いよねぇ。サニーさん居ないし、頑張って自力で掘ってみようか」
魔獣たちがはけるのを待ってから、2人で地面に降りる。
「ちょっと試してみるね……風よ、地面の中に埋まっているものを優しく掘り出せ持ち上げろ……」
サニーさんがやっていた時のような、土の中を持ち上げてゆすって周りの土を振るい落とすようなイメージをもって力を籠めると、ゆっくりだけどなんとか2個纏めて掘れた。やっぱり出てきた物も見た目はブランデーの実によく似てるけど、こちらの実の形は背が低くて横に丸く広い、カボチャみたいな形。
触って情報を見てみる『(高級)ウィスキー』とあり、細かく見ると人間でも匂いだけで倒れるようなことはなく、流通そのものに危険はなさそう。ただしストレートでは舐めただけでも人間には毒。良くて昏倒、悪ければ死ぬ。
アルコールが濃度100%とすると、圧縮されて1割増くらいになってるのが高級、2割増し以上が最高級で、ブランデーの量が200で250って言ってたのがおそらく限界値。つまり度数125%……100%越えてるじゃんってツッコミ入れたくなるね、今回見つけたウィスキーは110%くらい。
抽出で採り出せる量を目安にすると、黒砂糖が1%白砂糖が5%、人間はスプーン数杯分の白砂糖で酔いを感じるけど、泥酔までの限界値は個人差が大きくて、魔力量が高い人の方が耐性も強い。酒の実や酔い水草が大体40%くらいでドワーフが『キツイ酒』と呼ぶレベル。おそらく普通の人間が普通に飲んでも良いのはグラス一杯にアルコールなら数滴、酒の実は薄く切って上に乗せるくらいだと思う。
解説を見ると100%までは飲んでも『消化』で吸収するから、多めに飲んでも死亡するほど重度の魔力過多症にはならないそう。アルコールで身体の表面を直接拭いたりしても何も害はないので無害表示。
しかし、高級や超高級のような高濃度の酒は浸透圧と似た感じで圧縮分は消化関係なく一気に吸収してしまうので、ドワーフたちならともかく人間が薄めずに口に入れたら本当に死にかねない。
110%は口にさえ入れなければ全く危なくないが、120%を越えていると空中への拡散が早く、匂いだけで泥酔まではいくので流通禁止の判断は正しかった。
……意外と、むこうみたいに急性アル中が直接死の危険って感じではないのかも?
「酒では死ぬほど重度の魔力過多症は起きないといっても。流通には問題ないくらいの安全性であって、一晩中吐いたり高熱が出るくらいはあるから飲み過ぎても良いってことじゃないし。一般人でも暴走中は魔法の出力上がるから、大暴れされたら危険だぞ?」
「うん、泥酔するまで飲んだらだめだよね。……ねぇ、不死族の人って今は純アルコールしか飲んでないけど、ブランデーの反応を見ると高級なお酒は大好きじゃない?ウィスキーは不死族専用のお酒として酒場に置いておいたら……だめかな。これだったらブランデーと違って目の前で注いだりしても匂いだけで倒れたりはしないみたいだし。カクテルにすれば人間でも飲めるよね?」
「客と店員が一緒に飲める酒か……不死族専用、人間は絶対にストレート禁止、飲むなら100倍くらいに薄めてから飲むなら良いかもな。ただ本当に味見で死ぬ可能性あるから。客の手には届かないように、店員が薄めてから渡す所までやるって徹底しないとだめだろう」
「そうだねぇ。そこは徹底してくれるならって相談してみようかな」
コツを掴んだオクティがザクザク掘り出すようになったので、掘り出された実だけを風で袋へ吸い込むのをチョーコがやり。一旦帰って一泊し、その後なんと2日丸ごと掛かったけど。何とか回収が終わった。
けっこう途中からは慣れたと思ったんだけど、本当に丸々2日。
ずうっと風を操り続けて凄いお腹が空いて、出る前の朝食も帰った後の夕食も2人揃ってなんかすごい食べてしまった。
探索終了を伝えて帰宅して。
高級ウィスキーの入れ物だとか、色々また洞窟か火の山で相談しようかなと思っていたのも疲れて後回し。
3日休んだので明日は仕事に行かなきゃなとオクティが言うので、そのまま寝て終了。
オクティが仕事に出た後、またチョーコは食後のおやつを出して貰っていたのだが。
末っ子からの報告が上がっていますというので話を聞いた。
彼らの出身は魔法国レガリア、天人の住む高山は豊かで緑の地で様々な実りと彩りに溢れ、力ある美しい天人が住む地だと言い伝えられ。帝国の豊かさの理由は多彩な物資のある高山に行けて天人と交流が出来ているからだと認識している。
正規の手段でちゃんと誓いを立てて天人と交流するには国に高い税を取られるため。彼らは帝国民になる誓いをして転民する人達に紛れ込んで密入国し、そのまま冒険者の恰好で山のダンジョンの攻略に行く帝国の冒険者だと話して山へ。
単純に新しいダンジョンを攻略してごっそり物資を持って帰って換金するのが目的。
終わったらレガリアに帰ってしまえば誓いを立てるくらいの資金も今度は出せるから、以降は堂々と正規のルートでレガリアから高山に行ける。密入国は今回この1回だけ……のつもりでやったことだった。
案内についてくれた天人があまりに可愛すぎたのと、たまたま入ったダンジョンに痺れ草があった上に彼女がうっかり食べて抵抗できなくなったため魔が差した。しかも3分の2が手を出す方に加担したため多数決だった。
これに関しては指令なのでよくよく確認したが、最初の1回はわざと食べさせたわけではなく本当にうっかり自分で食べた。素直に連れて戻ろうか検討もしたが、単純に抵抗できなくなるだけで苦しんだり副作用らしいものもなく、時間が経てば解けるようで安全そうだったし、もうちょっとだけ食べさせて閉じ込めていたと。
うーん。有罪!
言葉も通じない大人6人に監禁されるなんて相当怖かっただろう。
密入国の上に天人を監禁しようとしていたと、レガリア国には今回の事件内容を報告。彼らには天人との交流と高山への入山を今後一切禁止とすることを通達。また、転民の誓い済みの人に誓わずに紛れ込んだらしいので、その辺りの管理徹底を要求。
6人には初犯として重い方の誓いをして貰い。交易路建造や凍土の開拓などの強制労働で一定期間従事して貰った後にレガリア国へ送還予定。
ついでにロシュサント王国とメイジア国にも改めて密入国者の防止のため誓いの有無のチェックなどきちんと見直すように通達をする。
――という結末になったらしい。
話を聞き終わったら、リナがいつも天人さんが持っているお土産袋を持って来た。
昨夜は2人が即寝するほど疲れてそうだったので報告しなかったけど、昨日の昼頃にリリーさんとサニーさんがちょっとだけ家を訪ねて来たらしい。リリーさんはサニーさんにケアされてすっかり落ち着いた様子で。助けてくれてありがとうと伝えてほしいと言って門前でお土産だけ置いて帰っていったそう。
結婚宣言の時の、ベールとフードを外して向かい合うチョーコとオクティの肩上のアップを描いたカラー画が書かれたノートサイズの小さいキャンバスだった。
「わ、わぁ……?!」
写真の切り抜きを貼った?!っていうくらい書き込みが超細かいけど、空から見ながら描いてた?!
滅茶苦茶幸せそうな顔で書かれているのが、嬉しいけれど、恥ずかしい。
「とってもお上手ですね……伝説通り、風景をそのまま切り取って閉じ込めたようです」
「すごい、ね。で、でもこれは流石に恥ずかしすぎて外に置いとけない……」
「あら。良いと思いますけど?あまり外に置きたくないのならば寝室にでも、花束と共に並べておくのが宜しいかと」
「あ。……確かに、花束の所に置いてあったら、いいかも」
いつもベットから出入りしている側とは反対の机に置いてあるから。毎日見るわけではないし。
「それではこのサイズの額を設えて置いておきますわね」
にこにこしながらリナがその絵は回収していった。
***
卸売り倉庫にダンジョン報告をしに行く前に。ちょっと洞窟へ行こうと思ったので誰でも付いてきてと言うと、しばらく付き添いしてないからとルナが手を上げた。
着替えの用意だけは譲らないとマナが言い張ったので、そこはお願いする。
「じゃあちょっと洞窟寄ってから卸売り倉庫と薬屋さん行ってくるね」
ルナと一緒に洞窟へ行くと、今日は誰も待ってない。
「こんにちはー、チョーコです」
呼びかけると、なんだか妙に顔を赤くした髭のないノームたちが5人纏めてこっちに走って来た。
「おぉ客人!お前さんが教えてくれたソーダ割りってやつ、うめぇなー!風の石と水の魔道具と氷でアルコールを割るだけ!もう止まんねぇ止まんねぇ!ドットの旦那も今日は飲んだくれて休みだが、なにがどうしたぁ?」
「えっとですね……特別で大事なお酒を詰めておく入れ物ってあるかなと思って」
「大事な酒ぇ?水差しでも樽でも、中身があったらみんなで飲んじまうもんなあっ。1人で飲みたかったら匂いが漏れねぇようにキッチリ蓋閉めて隠しとくしかねぇや」
「がははっ、ちげぇねぇっ!」
「匂いが漏れないくらい蓋がしっかり閉められる入れ物なんてあるんですか?」
見せて貰いたいと言うと大きい箱で持ってきてくれた。
紅茶缶とかであった気がする、太い針金で止めて蓋が緩まないようにするタイプのものとか。
薬とかクリームを詰めるようなネジ式の丸い筒型のケース。
石がセットで付けてあって、その石は火で溶かせるので、溶かして封をして冷やして固めるとかいう、ワインボトルそっくりな形の瓶に、取っ手付きの差し込むタイプの蓋がセットになったものもあった。
が、それより気になったのは妙に大きな金属製の注射器みたいな形のもの。
何かと聞いたら、注入器だと。使い方はそのまま注射器。引っ張る所に目盛りが付いていて、計量カップ8分の1から2杯まで計って細い口でどのボトルにも入れやすい。
触った時、カボチャ型の方も量はブランデーと同じだけ入ってるとあったはずなので。
「すごく大きいお酒の実からカップ2杯サイズのボトルへの詰め替えで100本とかそういう感じなので、出来るだけ簡単な方法ないか考えてるんですよね……」
「デカい酒の実……ごくり」
「1リットルボトル100本……じゅるり、おっといけねぇ」
「なぁ客人よ、でっけぇ実からボトルへ楽ぅ~に詰め替えられるカラクリ作ったらよう?」
「その酒を俺らにも味見させてくれるかぁ?」
「味見なら良いですけど……そんなに楽にって出来るんですか?」
「へっへっへー、言ったな!ちょっと待ってろよ!」
彼らが持ってきたのは、運ぶの5人がかりでやっとだろうと思える巨大キャビネットというか、ワインセラーの棚というか。厚みはワインボトルを横に寝かせたくらいだが、縦横が大きい。そして彼らの頭くらい、人間の胸より下くらいの高さに横に飛び出した台があり、そこにはやたら大きなじょうごがあった。
解説を聞くと、じょうご部分はカップ400まで入る形状になっていてそこで酒の実を潰して汁を出す、実の皮とか異物は網が付いてて別に分けられる。ハンドルを回すとキャビネット部分に入れたボトルが自動で縦になってじょうごの下を通り、管が差し込まれて決まった量を注ぐ。ボトルが流れて来るのに合わせて管が次のボトルの口に刺さり、注ぎ、次とハンドルを回しているだけで勝手に定量が注ぎ分けられる。
あとは出てきた瓶にキャップを付けるだけ。
瓶に差し込むタイプのキャップを付けるカラクリも作ってるので、繋げればそこまで自動になるんだぜ!と自慢げに胸を張る5人。
金属蓋だとどうしてもずれそうだけど。木とかゴムとか持ってきたらそれで蓋してくれたりするのかな……
持ってるもので出して聞いてみたら、油の木はちょうどコルクのように適度な伸縮性と水を弾く性質があり、バッチリ密封できる蓋が作れるといって、ノーム達は油の木自体にもかなり興味を持ったみたいなので多めに渡してみる。
けっこう大量にあるので、ちょっと試しに2カップボトルを200本、油の木のコルク栓でこれを詰めて貰いたい。とカボチャみたいなウィスキーの実を2つ出して見せたら、5人共飛び上がった。100本詰めたら1本くれ。ついでに中身を出したあとの実の皮もくれというので了承したらすぐに空ボトルの数を揃えてきて作業を開始。
――上が丸くて平たくなってる立派なコルク蓋が200個出来るまでほんの2分程度だった。シャンパンボトルみたいに手で抜ける形なのはとってもいいと思う。栓抜きなんてまだないもんね。
そしてシンプルだが機械のように均一な金属ボトルにコルク蓋をした立派なボトルが200本、すぐ出来上がったと思ったら。
剥いた実の皮を1人がパリパリとキュウリみたいな音を立てながら齧り始めた途端、あっという間に5人で群がり、うめぇうめぇと奪い合って食べてしまった。
渡すボトルは2本。
今ここに居るのは5人。
ぐるりと全員がこちらを向いて、一斉に迫ってくる。
あと8個くらい詰めさせろ。1人2本は欲しい!という勢いに押されて、この世界の1リットルサイズのボトルウィスキーが千本出来た。
ま、まぁ、腐るものではないもんね。お店に置けなくて倉庫で引き取ってくれなかったら直接不死族に納品すればいいし。
コルクの上面がうまいこと平たく丸いから、ここに商会紋のスタンプとか良いかも?
10本ノームたちに分けて。990本をしまう。
ノームたちに、このカラクリはここに置いとくから!また詰めたくなったら来いよぉ!と大歓声で送り出されながら帰ることになった。




