77.新しい魔道具
マリアンたちの家から帰る前に商会の卸倉庫の事務室へ行って商会紋を提出。すぐに彫金師に袋や箱などに押すための印章、役員用の書類に使う印章、商店街の入り口に掲げる大きいレリーフなどを発注するらしい。
マイクが裏に沁みないような厚手の紙を原画に被せて、鉱石ランプの上に翳しながら万年筆でちょいちょいとしているので何をしているのかと思ったら。
原画と今印を付けた紙を並べ、スルスルと万年筆で書き写し始めた。
「――えっ」
書き上げたものをちょっと借りて重ねて光に透かして見るが……まぁ本当に若干、万年筆の線一本分程ずれてる所もあるのでコピーじゃないなとは分かるけど。
ただ並べてみただけだと殆ど分からない。
「えええ……何ですかこれ、全部透かしてじっくりなぞったわけでもないのに」
「リックは透かしてなぞらないと無理だと言っていたので、多分これは僕の特技……ですかね。絵を習う時に模写ばかりしていたせいでしょうか。原本をそのまま渡して破損されては困りますので、発注の際はこうして控えを作って渡すんですよ」
「特技……人間コピー機過ぎる」
「はい?」
「あ、いえ。人間と思えないくらい精度が高すぎるって思っただけです。も、もう一回見てみたいってだめですか」
「いいですけど」
ちょいちょいスルスルと描いてみせてくれる。しかも今度はずれてる所が見つからない。
「こっちの方が正確に写せてるっぽいので、1枚目の方は帰ってから見せたいので貰ってもいいですか?」
「渡しますが、商会紋の盗用はかなり厄介な問題になりますから、流出や紛失には気を付けてくださいね?」
「気を付けます。あと……明日か明後日あたり、ちょっと食器や酒器なんかのテーブルセットがたくさん手に入りそうなので、お店で使うのにどうかなって。持ってきていいですか?」
ピタッと動きが止まった。
「テーブルセット……店で使うものに陶器やガラスとは、おっしゃらないでしょうね」
「あ、勿論お店で使うなら落として割ったら困るので、金属というかサビないように加工した鉄で作って貰ってます!」
「鉄……なら大丈夫でしょう。屋台などはともかく、商店街内のレストランや喫茶店等で同じデザインで揃えるなどは、統一感があって良いですよね」
「はい!大皿とか他にも同じシリーズで欲しいものがあったら別途追加で注文も出来るらしいので」
「それは楽しみにしています」
「あ。同じデザインといえば……その薔薇の商会紋、マリアンとリリアンが物凄く気に入ったみたいで、赤とピンクの薔薇のデザインのものが欲しい、出来れば本物の花も赤とピンクで欲しいって言ってましたけど」
「むっ!ありがとうございます……来月末が2人の誕生日なので、なににしようかと考えていたところでした。良いことを聞きましたよ」
「薔薇のデザインの商品で商店街のオリジナルグッズを作るのも良いかもしれませんね?赤と緑のインクは作れますし。赤は白を入れればピンクになるので、白のインクを作ればいいのか……」
「白い色のものはそれなりにありましたから、ニガブドウを混ぜてインクが作れないかの実験は一通り試したのですが、今のところちゃんとインクになる素材は見つかっていないようで。新素材を待つしかありませんね」
「うーん。あまり沢山じゃなくていいなら白い絵の具は持っているんですけど、商会のグッズとしてたくさん作っていくとなると足りないかも」
「ベースを赤のラインナップで統一して、ピンクは特別なイベント限定商品として部分展開しましょう!……サンプルの為!白の絵の具を少々でも宜しいので納品して頂けますか?貴重品であることは存じ上げておりますが!」
急に早口になったし。
かなり目が本気と書いてマジ。と思ったけど、そうか、マイクがリリアンの婚約者だったっけ。
「わ、わかった。作ってみますね。えーっと作り方は、と」
袋いっぱいに貰ったケサランパサランを出し、情報を調べる。作り方は単純。風で完全に乾燥させ粉まで粉砕する。あとはただ水に溶けば白絵具の出来上がり。赤いインクに混ぜて使うなら定着剤なども特に添加する必要はないらしい。
飛び散ると困るからちょっと厚手の鍋の中に入れ……お?ほわほわした巨大綿毛みたいな感じで軽いから分からなかったけど、綿みたいに膨らんで。思った以上にいっぱい詰まってた?
「飛び散らないようにこの鍋の中だけで渦巻け風よ、乾燥させて粉になれ」
蓋もないのに飛び出してこないミキサーを見ている気分。鍋に小麦粉をドパッと積み上げたような状態になったので、マイクを振り返る。
何故かまた神妙な顔をされてる気がするんだけど、これに水を入れたら白絵具になるので、粉の状態で保存して使う時に混ぜると良いと言うと、じょうごとまぁまぁ大きな鉄の瓶と、ゴムパッキン加工がされてて漏れないようになっている蓋を持ってきてくれたので、瓶いっぱいくらいにいれるが、ちょっと余る。あまりギリギリまで無理に詰めて溢れても勿体ないなと思う間もなく、スムーズにそのまま小さい瓶と蓋を持ってきて交換してくれたので、残りを全部詰めて小さいのは自分用に貰っていくことにした。
「……こんなに」
「あ、はい!このまえ天人さんがくれたんですよ。嬉しかったですけど、流石に白だけでこんなには使わないから、後で冷静に考えたらどうしようかと思ってました。思ったよりいっぱいありましたね」
「ありがたくお預かりしますね」
何故か色々諦めた顔でにこっと微笑まれてしまった。
「あとは何か困ってることってありますか?」
「今すぐにどうこうということではないのですが。商店街の通路のデザイン部分でですね。初期は中央の屋台部分のみ歩道で囲む予定でしたので、深海から輸入しても余り気味だったサンゴの飾りタイルを使ったのですが」
「あぁ!あの歩道のところ、ほんっとにピンク系で可愛くて黒い鉄製のベンチとか柵にも合ってて良かったですね」
「そうなんです。入り口だけですがリリアンとマリアンにも見せたら大好評でして、外側の店舗前の部分も少しは馬車から降りて歩きますから、そちらも歩道を作って欲しい、デザイン的にもある方が絶対に良いということで両側は奥まで歩道がつづくことになりましてね。……サンゴが不足しました」
「あぁ……確かに、屋台周辺だけじゃなくて一番奥までとなったら一気に使用量変わりますもんね」
「幸い商店街自体が工事をゆっくり進めていきますから、歩道は柵とベンチだけ先に設置して、地面は順次張り替えてゆけば目立つことはないのですが。西の海に問い合わせたところ、サンゴは育つのに時間がかかるので、今の分を使い尽くすと暫くは売れないと。環境的に南の海ならかなり沢山採れると聞きましたが、今朝の報告をみたところ、そちらの魚人族はあまり友好的とは言い難い様子。途中から歩道の色を変えるか、ある程度以上は柵とベンチのみ設置するかとデザインを考え直しているところです」
「そっかぁ……うーん。南の魚人さん。不死族を騙しているかもとか、奴隷みたいに働かせるのではとか不安なら、直接不死族の人に話をして確かめてみてくださいとは今朝返事を返してもらったので。それ次第かなって思います」
「お察しします。本当にただ揃えられたら統一感があってよろしいと言うだけで、途中からは通常採掘できる石材の中から選ぶか、いっそ素材がある所までで一旦区切るということでも運営上は問題ありませんから。困っていること、といえばその程度ですね。覚悟していた以上に忙しいですが、リックも僕もお誘い頂けたことを感謝しております」
「それならよかったです!困ったこととか手に入らないものとか、何かあったらまた連絡してください」
***
今日はまだ日が残っているうちにオクティも帰ってきたし、商会紋を見せて、ミーティアにはデザイン料として天人の絵の具を譲ってあげたことを話したり。昨日の朝に南の海の魚人が会わせろと言っていたらしいと報告が来ていた話をしたり。
ミナが製麺機のテストに立ち会って作ったのを分けて貰ってきたというパスタ麺は薄い平打ち麺で味がよく馴染み、厚さが均一で茹でムラもなし。商店街でもこのクオリティで製造できるならば高級レストランで十分に使えると思う。
カット幅を大きくしたり小さくしたりすることで、食感が変わること。例えば平たい四角のシート状にして、ソースと重ねて上にチーズを掛けたラザニアとか、そういう料理も出来ると話すと。
ローラーの高さを調節して太さを変えられるようにしようという話は出ていたが、ワイヤーをセットしている枠組みを外して付け替えられるようにして、カット幅も変えられるように伝えておきますとメモを取る。
玉ねぎとトマトと薄いブタ肉の他、使い切ったと思っていたアスパラも入っていたので聞いてみたら、商会の冒険者に天人をダンジョン内に同伴せずに入ったらどのくらい回収できるのかを試させるため、ニンニクのダンジョンへ行ってもらったらしい。
あそこは確かに魔獣は走るのだけだったし、規模も小さくて手頃に行けそうな感じだったよね。
フロアも小さく5層で終わる小さいダンジョンだと分かっているので、移動と帰りの荷運びのため、行きと帰りだけユーゴに手伝って貰うかたちで一泊二日のプランを組み、奥へ行って作物を袋に詰めては入口に置くを繰り返し。
最下層のニンニクまで沢山集めようと頑張ったものの、なんせ5階分の階段を荷物を担いで上下を繰り返すわけなので、2日かけても全部は持ち帰れなかったみたい。
入口から奥までバケツリレーが出来るほど人数を増やすとか、手段がなくはないので取り尽くすのは不可能とは言わないけれど。1チームでは規模から考えて最も小さそうなそこで2日では足りないとなると、天人の同行の有無は本当に大きな意味を持つ事になりますねと。
「んー……」
アイテムボックスを魔道具化って出来るの?出来たとして私のと繋がらない?
うっかり試して私のと繋がったあと、作り直そうとしたら中身が全消しとか怖すぎるね。
よくよく情報を確認してみると、魔道具化は可能だけれど、魔石板でもオリハルコンでも輪状になっているものを用意すること。
その輪にアイテムボックスの魔石を接着、魔石の部分に触れると輪の中にアイテムボックスが開く。
袋の容量はオリハルコンなどに含まれている魔力量に比例して、目安として転送盤で飛ばせるくらいの量が入る空間に繋がり。一度展開した空間は魔力が尽きたりしない限りは魔力を追加しても減らしてもそのまま固定。
魔力消費は最初だけ多くて後はとても少ないもののジリジリ減ってはいく、使い続けて補充を忘れていたりするとうっかり消失する恐れあり。アイテムボックスの魔石が外れても輪が壊れても中身は消失する。生物を入れると死ぬ仕様もそのまま。
違うのは、魔石に触れている間しか出すことも出来ないことくらい。
あ。一応天人さんや私が使えるアイテムボックスも容量無限ではないんだ……へぇ。
「えっとね。アイテムボックスの魔道具……転送盤で一度に運べるくらいの容量小さめなら作れそうだけど、大きいのは滅茶苦茶大がかりな装置になりそうだし素材が多分総オリハルコン……」
「総オリハルコンは幾らなんでも無理があるな。小さいのはどういう感じで作るんだ?」
説明すると、とりあえず魔石板の小さいのを沢山並べて魔獣の核で張り合わせて作ってみようということになり。意外と丸く並べるのって難しくて苦労した結果、継ぎ足し継ぎ足し……最終的に透明な石レンガで作った井戸の入口?みたいなそこそこ大きい石組の輪が出来がってしまう。
「小さ……くはないね。大丈夫かなこれ」
「落とすと確実に壊しそうだから怖いが。まぁ試作品だし、データだけ集めて実用化出来るかは改めて考えよう」
アイテムボックスの魔石を試すのは初めてだったけど、やってみたら金と緑の光がゆらゆらと泳ぐ……凄く風の石柱によく似た色の石が出来た。
井戸の側面というか指輪の石みたいに真ん中の辺りへ石をセットして魔力を充填……転送盤への充填や10人やそこらの纏めてテレポートする時には魔力を使った実感はなかったけど、これはちゃんと流し込んだ実感があったってことは容量もけっこうあるかもしれない?
魔石板はかなり頑丈だけど、接着した魔石部分は普通にカットが出来る強度だから、多分強く硬いものにぶつけたり高い所から落としたら割れる。そして割ったら中身全消失って怖すぎる状況だけど。
どのくらい入るのかなと……試しに行こうかと思ったら、オクティにもう暗くなったから外に出るのは明日にしようと引き留められた。
う。でも早く試したい……誰かに代わりに。
――あ。
指令書の存在を思い出して取り出したら。メイドさんたちはちょっと面白そうな顔になって、良いじゃないですか。調べてレポート書いて来いって言いましょう!ときゃっきゃと騒ぐ。
「明日の朝までは流石に可哀想ですしぃ、明日中に報告に来いくらいで良いんじゃないですかぁ?」
「そうそう。極秘で!って言ったら1人で頑張りますよ。あそこも皆身体強化も風の魔法も使えますから、力仕事でも大丈夫ですわ」
「えぇなに、メイドさんたち、末っ子さんのこと嫌い?」
「そういうわけじゃないですけどぉ、話しかけても目も合わさないし、施設に居た頃からいつも不機嫌そうで人のことちょっと見下した風だったのでぇ。正直ちょっと良い機会かなとは思ってますぅ♪」
「ただの長男大好きで人付き合いが苦手なだけの人ってことは先日分かりましたけどね?」
「ふふ、他の兄弟たちに手伝ってもらうのは許して差し上げては?」
結局、まぁ容量の確認してもらうだけだし。指令書のテストなので。使うだけ使ってみようということになり。
新しい魔道具を思いついて作ろうと思ったのだが、試作品が出来た所で暗くなってしまって試しに行けなくなったので、代わりに試して容量がどうなったかを調べておいて欲しい。明日くらいまでにお願い。
そして使い方と、開いたアイテムボックスに生き物が入ると即死するから決して飛び込まないようにと注意事項を付け足して。
他の秘書さん達にだけは手伝って貰って構わないけど、極秘でお願いしますと吹き込んでからルナへ、割らないように厳重に包んだ井戸の入り口状態のそれと指令書を渡す。
――まぁ明日中にならそんなに無茶な要求でもないよね。
今回ので小さい魔石板もかなり使ってしまったから補充したい……大きい方も使い切ったし、んん、でもまぁ今すぐ必要な分は揃えた後だもんね。ついこの前沢山貰ったばっかりだから少し待ってようっと。
***
流石に3日目だし最終日ということで、朝はオクティも少し落ち着いて自主的に早めに準備を済ませ、チョーコに行ってくるよと自分から抱きしめたり見送られの挨拶をして、ニナと共に出勤していき。
チョーコは朝食後のティータイムとして苺そのまま1つにチョコソースを作って貰い、ミルクと一緒にじっくり味わってのんびり。
「オーナー!大変だっ!」
と門の方からバロックさんっぽい聞き覚えのある声がした気がする。
すぐにメイドさんが向かったのでしばらく待っていると、マナが食堂の入口へ戻って来た。
「商店街内にエルフ種の魚人が60人ほど押しかけ、不死族を解放しろと一部店舗の建物を破壊する騒ぎを起こしたとのこと。急ぎ警備担当予定の不死族に制圧を任せ、代表のリシャール様を呼び、そのままこちらへ来たそうなのですが。どのように対処するのが宜しいかと」
「えぇ入口の建物を破壊って、かなり大変なことになってそうだけど……大丈夫だったのかな」
「完全に破壊されたのは入り口付近の完成して作業員が移動した後の建物部分のみ、その時点での怪我人はなく、すぐに不死族が対処に当たったそうですから。それ以降の被害はないと予想しますわ」
「私、直接行った方が良いと思う?」
「現状の確認は直接ご覧になるのが確実ですが、まずはわたくしが行ってまいりますわ!ご伝言があればお伝え致します」
「じゃあお願い。オクティがいないまま知らない怒ってる魚人さんたちに会うのは流石に怖いから、今日は不死族の人たちにゆっくり話を聞いて貰って、明日オクティと一緒に改めて会いに行くからって伝えてくれる?」
「分かりました。それではわたくしも現場の確認に行って参りますっ」
マナが行ってくれるなら何とでもなるよね。でもちょっとじっとしていられない気分になってうろうろしてしまい……気分転換に小人の洞窟にでも行ってこようかな?と。お皿を片付けに来たミナにまたついてきてくれる?と声をかけ、ドットさん達へのお土産として純アルコールを使ったかなり強めのカクテルを作って貰うように頼む。
純アルコール、沢山必要そうですから買ってきますねとお使いに走ってくれたので部屋でゴロゴロしながら待とうと部屋に戻った途端、今度はリナが呼びに来た。
「指令書の件、結果報告に参りましたのでお会いしますか?」
「えっ、早くない?行くね」
リナに手伝って貰って軽く着替えてから下に行くと。玄関入ってすぐの所に、やっぱりなかなか目が合わない末っ子さんが大きく中に緩衝材を詰めた中に井戸の入り口がデンと鎮座した木箱の蓋を開けたものを床に置いて、手に紙を持って直立不動で待っており。
チョーコが来るとチョーコに直接その紙を渡してくる。
「ご確認をお願いします」
容量:1875キロ
2トンに迫る容量?!そんなに入るの?
重さについての情報を脳内で読み直してみると……どうやら向こうの世界だと、縦横高さが10センチの箱を満たす水の重さが1000ミリで1キロだけど。
ここでは計量カップ2杯分を1キロと呼ぶので800ミリ0.8キロ相当。
1875キロはむこうだと1500キロ。なおいつも作っている転送盤はこちらだと469キロでむこうだと375キロ。
つまり……?このアイテムボックスは転送盤4回分の重量が入ると。いつもは人間込みでその重さだから、荷物だけで考えたら5回分は入るってことになるかな。
小さい魔石板だけ使ったから大して入らないつもりだったけど、大きい魔石板の4枚分も使ってたのか……それは大きくなるはずだわ。
「――あの。報告内容はそちらで宜しかったでしょうか?宜しければ半券をお渡しください」
「あっごめん。考え事しちゃってた。ありがとう!」
吹き込む時に千切ってた紙を渡すと。ようやくちょっとホッとした顔で末っ子さんが一礼する。
「最初の仕事からこれとは……あとの2つに何を申し付けられるか緊張致しますね」
「指令書のお試しだって聞いてるので、無理なら無理って戻して貰っていいですからね?夜まで終わって無かったら自分でやるって引き取りに行こうかと思ってましたけど、凄く速くてびっくりしました」
「無理とは一言も言っておりません、何でもやります」
「えぇ……じゃあ今商店街にいつも取引してる所とは違う国の魚人さんが60人くらい押しかけて不死族解放運動のデモをして捕まったっていう話が来てて。マナに行って貰ってるんだけど。万が一マナが魚人さんに攻撃されたら怖いから、帰ってくるまでちゃんと守ってとかは?」
「ろくっ……ぐ。吹き込まなくて構いませんのでそのまま1つお渡し下さい」
とんでもないなとハッキリ顔に書いたまま手を差し出す末っ子さんに指令書を1つ渡すと。すぐに一礼してから去っていった。
かなりの負けず嫌いなんだなぁ。
とりあえず、置きっぱなしにもしておけないので箱ごと試作品をしまう。
食堂のドアが開いてミナが顔を出し、幾つか試作してみましたが如何ですかと声を掛けられたので行ってみた。
小さいグラスにほんの少しずつ、一番薄いもので酒の実と同じくらいのアルコール感を狙って、アルコール4割にオレンジジュース。4割とソーダ水と黒砂糖を溶かしたもの、次は強めで6割に緑茶、そして挑戦的な配合として、アルコール8割、酔い水草2割、シナモンと白砂糖を足して香りと甘みをプラス。
あ、意外とラム酒とシナモンの香りがケンカしてなくて、火を吹ける強さだけど確かに良いかもしれない。
酒好きドワーフさんたちへのお土産としてはけっこうありかなと。シンプルな小さい方の水差しを千個補充したばかりなので、色が分かりやすいお茶とオレンジとソーダは四角い方、酔い水草入りは丸い方に一杯作って入れて。
またミナを連れて洞窟へ訪ねてみることにした。
――ドットさんは大きなタコの足に見えるものを焼いたのと、桃の酒の実それぞれの手に持って齧りながらいつもの部屋に座って待っていたみたいで。チョーコ達がくるとすぐに「よーう来たな!」と叫んでから残った酒の実の残りを口に放り込み、そのままタコ足ももぐもぐ食べてしまう。
「こんにちは。まだ昼前ですけど、まさかもう出来てるんですか?」
「鋳造部分は終わって、後はノームたちに絵付けを頼んでるとこだ。俺らがやるとこはもうねぇよ。まぁちょっと座って待っててくれや」
「あ。今日はお土産持ってきたんですよ。純アルコールそのままだと飲んでも味がないかなと思って、カクテルを作ってみたんです」
座ってから4つの水差しとシンプルな鉄のグラスが並ぶお盆をそのまま引っ張り出してミナに渡すと。
ミナがグラスにそれぞれ半分くらいずつ注いでからドットさんの前に差し出して待つ。
「カクテル?ふんふん……実の汁を絞ったもんかと思ったが、酒の実でこの香りのやつは知らねぇな?」
迷う様子もなく、オレンジをまずグッと一口。
「うぉぉ!酸味も香りもいい。この酒の実はなんだ?初めてだぞ」
ミナがにこやかに解説を返す。
「アルコールと共に酒の実ではない通常の果実を使ったものです。オレンジという現在平地で育てている果物ですわ」
「こっちは透明で……なんだこのシュワシュワ?んん!!いい!いいぞこの弾ける感覚!のど越し!スゲェぞ?!」
「風の石と黒砂糖を加えたものです」
「風の石っ?ガキの頃はおやつ代わりに齧ってたもんだが、そうか!こんな使い方があるとはなぁっ!次は……おっ、これは甘い匂いが全くしねぇな。っかー?!スッキリさっぱり、グイグイ飲めらぁ!しかもこいつは強いな。良いぞ良いぞ」
「緑茶割りですわ」
「見たことねぇもんばっかだ。この最後の奴は……分かるぞ、酔い水草の匂いがぷんぷんしやがる。だが何か他のもんも入ってるな。――な、なんじゃこりゃぁっ?!やべぇうめぇ!!」
一口飲んでカッと目を見開いたあと。グラスをじっと見てからミナとチョーコを見比べる。
「はー……スゲェ手土産だったぜぇ。なんだよ。まーたなんか俺らに頼みでもあんのかぁ?何でも言ってみな、とりあえず残りは後でじっくり飲ましてもらわぁ」
飲み物入りの魔人族製の水差し4つ分を貰う代わりだと。金属製の水差しとかグラス類のセットを適当に見繕ってくれと奥に声を掛けて持ってきて貰ったものは。大きい方の水差しが更に4個分入りそうな卓上金属樽、大きい水差し1個、小さい水差し2個、金属製のグラス8個セット
銀ではなくて鉄をサビない加工したもので絵付けもない、簡単なお礼だと言うけれど、純銀セットに負けていない光沢。シンプルでなめらかな曲線がとても美しいセットだと思う。
「うわぁ……絵付け全くなしでもすっごく綺麗じゃない?」
「えぇ!これはとても素晴らしい作品ですわね……」
「アルコールのうめぇ飲み方を教えて貰った礼ってやつだ。気にせず受け取れや」
水と氷は魔道具があるが、オレンジ、黒砂糖、白砂糖、緑茶は全部山にはないものなので、今後『割り材』としてそれも一緒に輸出してくれれば、純アルコールでの支払いも酒の実同様に受け付けると約束して貰い。
ふと思いついて、新しくアイテムボックスの魔道具を考えたんだけれど。耐久性がなさ過ぎて持ち運びがちょっと怖いと、箱のまま出して見せてみる。
「ぬほぁっ?!こいつはまた……面白れぇ!ふぅん。この魔石のとこだけ残して、全部鉄で囲ってやろうかと思ったが、内側の輪はこの石肌かオリハルコンが露出してねぇと起動しねぇのか。んー……それにしてもこの石だけの構造じゃあ容量がイマイチだ。あの小さい方の結晶1つでもあれば10倍はカタいぜ?」
ちらっちらっとチョーコの方を見て来るのだが。
目が合った時に流れてきた本音からすると、伝説の金属をいじくり回すこと自体が大変楽しいようで。溶けたオリハルコンを素手で練り上げる感触がたまらないらしい。またあれを存分に触りたいと思っているだけなのは良く分かった。
「うぅん……商会用で大きいダンジョン探索して貰う時にあったら便利、ではあるんだよねぇ」
「完全に1点もの、商会用の装備として保持していればそれだけで箔がつきますわよ」
「もし使うのに問題があったら、家の調理場に置いて食材保管用に使おっか」
「…………はい」
珍しくミナの間がいつもより長かったけれど。作るだけは作ってみたいという本音には逆らわずに小さい結晶を一つ出して渡し、預けることに。
「いぃぃやっほぉぉう!よっしゃぁ。ちょっと俺は炉に行ってくるぜ。出来上がった食器もここへ持ってこさせっから、のんびり待っててくれや!」
食器を受け取りながらのんびりと待って昼を大きく過ぎたくらいになった頃、満足げなドットさんが箱を持って来て見せてくれた。
銀色と金色の蔓が絡むようなデザインで全体を覆われ、芯のほんのり琥珀色に透き通る透明な石の輪が覗ける。そして蔓の周囲に銀の取っ手が6つどちらからでも掴みやすいように付いており、その取っ手とは違うところに蓋のように開く葉の模様があって、その蓋を開けないと魔石には触れないようになっていた。
「他の奴がうっかり石の所を掴んで起動させたまま生き物が落っこちたら危ねぇからな」
「うわ……ありがとうございます!」
ほくほくしながら箱ごとしまい、帰ることにした。




