75.現場視察
商店街の入り口は保護区のラインギリギリまで帝国側に寄せたため、転送出口の所からはちょっと離れるし、中も徒歩だけで回ると結構距離があるから見学用に用意されていた獣人車があったけど。ユーゴが私がいるので不要と言って飛ばして連れ回して貰うことになった。獣人車は翼が引っかかるので乗りたくないそうだ、それはちょっと分かる。
まずは昨夜も来た地上の居住区前の転送盤、そこから入口へ。
数日前はただの土の地面だったはずなのに、切り出された石で組み上げられた見事な神殿風の入口に変わっていた。大きな太い4本のギリシャ神殿みたいな縦ラインの柱があり、柱の間の3つの穴から地下へ向けてかなり緩やかな坂道が奥へと続いているのが見える。余裕で2車線以上の広さの通路で、そこそこ天井の高さも確保されてるし、トンネルとはいえあまり圧迫感は感じない。
左が車の出口、真ん中が徒歩入口、右は車の入口となっているらしいから、右側車線。地面にも正面看板にも矢印だなとわかる記号。そして、徒歩入口の上になる中央正面には、商会紋を掲げられる予定らしい丸い石枠が大きく用意されていた。
商会紋……バラモチーフのを作って、このサイズでドーンと掲げてあったら確かに映えるかも。
陽の光はある程度進むともう入ってこないが、きちんとダンジョン鉱石の灯りが天井でも床でもしっかり光っていて通路部分は昼のように明るいので全然地下という感じがしない。むしろ天井なんてキラキラしていて遊園地のアーケード街みたい。
坂を下り切って岩場の中に入った辺りから水平に通路が続き、お店はそこから建築されていっている。
どこもかしこも沢山の人足の人がせっせと資材を運んで作業中。
よくみると、徒歩で降りてくる予定の通路の終点、屋台が始まる直前の所に転送盤を複数置ける広めのスペースが作られていて、今もそこから資材がどんどん搬入されているし。フィフィかラヴィか分からないけどちょっとした休憩室みたいなところから羽が見えてる。
作業してる今は1つしか稼働してないのに複数枚置く想定がされているので、徒歩で来られるところは各国の転送所とかから直接お客さんが飛んで来られるようにする気なんだろうなぁ。
確かに獣人車ならいいけど、徒歩でこの長い坂を往復するとなると、気軽に通えるって感じじゃなくなっちゃうもんね。
さらにロイドさんが話してくれたことによると。帝国の軍主導で『エリート獣人が引く、貸し獣人車』の運行も予定されているんだとか。
ワイバーン第二部隊が獣人村を確認したことの報告は控えていたんだけれど。どうやら大隊長のおじいちゃん、パリィの祖父だったらしい。そういえばグラディア・グラスって名乗ってたっけ。
その大隊長が誓いをして他の人族に寛容になったというので、パリィのお兄さんのララビアさんことばーべきゅー隊長がちょっと探りを入れてみたところ。既にエリート獣人さんが喋るようになって、帝国全体でも彼らの優秀さは認知されるようになっていたし。正式に『亜人種族であっても翻訳機を使えば支障なく会話が出来る者』は人族に準ずるので、勝手に捕獲して労働力として使役することは禁止とされ、エリート獣人は『従軍獣人』として、獣人村は『準人族の村』として存在を認められて。本人の意思で仕事も選んだり出来るという、人権的にはほぼ帝国に受け入れた難民と変わらないくらいの扱いになったらしい。
それまでにいた隊長を始めとするエリート獣人親交派の人たちが詳しくソンチョーさんと話をしに行った結果、さくっと獣人村から出稼ぎを受け付けることが決まり。
ちゃんと期間を決めて契約し、貸し獣人車を引く仕事としてお肉を好きなだけ買うのに困らない程度の給与が現金で支払われるというのでびっくり。
軍所属のエリート獣人さんにはただでご飯が出てるけど、所属してない獣人さんには自分で買ってもらわないといけないからで、お金の管理は隊長たちがやると。ただ、生肉と焼肉以外に興味を持っているのを見たことがないし、おそらく将来的には現金ではなく専用の腕章を見せるだけで帝国内に限り、屋台の焼き肉や焼き魚、生肉が自由に買える仕組みに落ち着くそうだ。
エリート獣人さんたちが幸せそうに働いてるので、帝国の群れに移りたいという希望があったら軍で受け入れるという話にもなってるらしいし。うん、獣人さん達がちゃんと認められてきてるなら、いいね!
――今日までに商店街の地下道を仮堀りするだけと言っていたはずだけど、もう多数の建築作業員が入っていることもあって、入り口に近い店なんかは既に壁に石タイルなんかもバッチリ張られて、あとドアや看板やショーケースなどを入れれば使えそうなくらいに見えるし、車止めを見ても足場だとか色々と、飛行種族向けじゃなくて地上を歩く人間向けにちゃんと考えられた構造になっているなと思う。
地面もちょっとずつ張り替えられていて、作業を終えているエリアは海から仕入れたピンク系のサンゴっぽい石が歩道のラインを描き、ベンチや黒い鉄柵もおしゃれ。ただの道というより公園みたいに可愛くて素敵。これは本当に散歩するだけでも来たいかも。
ロイドさんの説明によると、街の屋台だと皿やフォークや串って買ったお店でしか回収してくれないけど。ここの屋台は同じ種類の器は全部同じものを使ってるので、回収窓口があちこちに設置されていて、そこにまとめて返せるようにしたとか。
自宅の皿が足りないとかで屋台で買ったものをそのまま持ち帰って使う習慣もあるので、屋台の安い食器やカトラリーは全部量産品だが商店街のものだと分かるような書き込みを施しており、持ち帰ればそれがチラシ代わりの宣伝になるものにする工夫。
ちなみに街の屋台のメニューにはどれもこれも豪華な器付きの高い値段が付いているものがあって謎だったのだけど。貴族は平民と違ってちゃんと買った器しか使わないし、持ち帰り前提の木や石の飾り気もない板とかそういう食器での食事自体に抵抗を覚える場合も多く。器付きが売っていない場合は自宅から器を持って来ないと食べられないと感じるらしい。
なので、銀貨2枚追加でちゃんとした食器で提供。飲食後に器を返すと銀貨をそのまま返して貰えるシステムを導入するという。
別に平民が貴族気分を味わいたくてレンタルの豪華食器で買って通路のベンチで食べて器を返したっていい。こちらの器は持ち帰りじゃなくてちゃんと買って売る扱いなので店的にも何ら問題ない。
屋台が集められている中央帯はまぁまぁ広く、長さはたっぷり200mくらいはありそう。大きい柱があちこちに天井まで伸びていたりすることだけが地下だと思い出させるけど、明るい屋台広場は本当に公園みたいな感じ。奥まで行っても買って持ち帰るだけなら5分くらいで済むだろうし、パッと来てちょっと食べたいものを自由に買って食べて帰るには丁度いい感じ。その島のすぐ先には一つ目のUターン用の車道が横切っていてそこで区切り。
屋台広場を過ぎた先の中央帯は今のところはまだ単なる大きな柱。車止めや雇われ獣人や従者専用の施設になる予定で一般客は歩かないエリアらしい。その先は公園みたいな歩道が外側の店舗の前だけに切り替わった。
ロイドさんがここは茶屋でこちらが宿泊所で、この店舗はまだ未定ですとか計画書を見ながら解説を入れてくれるのを聞きながら奥へ……入り口付近の完成度から見ると、真ん中辺りは全然工事が進んでいないみたい。ほぼ穴だけの仮掘りがされているところもあれば、1店舗分の目印が付いているだけの壁もある。
また数百メートル進んだかなと思った辺り、建築がまだ始まっていない店舗予定の区画となっているただの仮掘りされた暗い穴の中でふよふよーっと飛んでる3匹の影猫たちを見かけた。どうやら地面に溶けるのは暗い所だけで、明るい所では飛んで移動するらしい。チョーコと目が合うと。銀の目をカッと開いてにゃーにゃ―言いながら近付いてきたのでハーピーを3匹出して渡したら、身体の5倍以上あるサイズのそれを軽々と咥え、ゴロゴロ言いながら飛んで帰り、それを見て穴の中の影に溶けていたらしい残りの3匹も飛び出してきたので、追加で渡す。
全部そこに集合してるって何なのかと確認したら、今の区画は『影猫カフェ』の予定地らしい……まさか話を聞いてちゃんと理解して、影猫たちも楽しみに待ってる……の?
今のところ、人間主体の店は商店街入口の屋台などから順番に開店準備を進めていっていて、不死族が運営する病院と薬草園から始まる花屋や宿泊施設やお風呂、高級店や有名店などは一番奥の方から詰めてあって、不死族が絡む酒場なども奥の方から運営を始めていく予定。
今居る中央付近はまだ選抜が終わっていないので空き店舗もかなり多いし、チョーコが自分で特に出店したいとか希望があれば声を掛けてくれたら手配もできますと言われる。
自分でお店の経営はちょっとよく分からないので、今の猫たちが楽しみにしてるっぽいし、影猫カフェを優先的に開く店に入れて貰うように言っておいた。
現時点で開店確定している店を見ると、魔道具は水の魔道具だけ欲しいという店がけっこう多くて。今のところは人間の商会員が直接水の用意をしているけれど、オープンまでには水だけ30個は追加して欲しいという話を聞きながら奥の病院というところまで辿り着くと、一旦ユーゴが全員を地面に降ろした。
奥側も入口に負けず劣らず大量の人足が資材を持ち込み建築作業をしており、灰色の石造りの壁に木製の両扉が設えられた入口と、開いた扉からも磨いた石の床が見えていた。
どうやら病院や薬屋がある奥地には転送所を作る予定はないみたいで、今は地面にそのまま置かれた資材搬入用の転送盤と男性だからラヴィだと思う天人がそのまま立ってるだけ。
よくみると、資材を運ぶ人足に交じって、不死族の人たちもたくさん働いていた。最初は作業着を着てるので気付かなかったけど、たまに羽を出して飛んだり尻尾がズボンの上から出てたり。身体強化をフル活用してバリバリ働いている表情を見ると、皆かなり希望に満ちた様子に見えて、楽しそう。
どうやら本当にごく一部の、魚人族や海神族が死の大陸へ旅をしてきた時に迎えが居なかったら悲しむだろうと残って待つことにした100人程度を除いて、ほぼ全員手伝いに来てしまったのだそうで。流石に忙しい時期が一段落すれば半分以上は帰って本国の凍土復旧作業に戻るらしいのだけど、今月の不死族の出勤人数は1960人に上りますと言われた。
「わぁ、本当にほぼ全員来ちゃったんですね……あ、でも皆にもう誓って貰ったのなら、誓わずに勝手に入ってきて悪いことする人は居なくて済みそうかも」
「そもそも人間を客として各国から多数招く以上、安全が担保できなければ運営許可が下りませんからね。こちらの病院の初期の入院受け入れは20名ほど、順次拡張工事を行って規模を大きくしていく予定ですね。通院のみの診察室は完成しており、あとは必要な薬品類を揃えるだけです」
商店街の突き当りの壁は拡張工事予定地として岩の状態で工事中の黒いロープが張られており。向かいの薬屋側に折り返した後は当然だけど行きと同じだけ帰りの通路が長く見える。
「こちらが薬屋で、こちらはもう建物自体は完成しており、薬屋は全て不死族が管理するので人間の関与は不要ということです。帰りの道はほぼ、行きと変わりませんので……ご説明するところはこのくらいでしょうか。卸売り倉庫で説明があった通り、今後の薬草関連の納品は全て、こちらへお持ちいただくことになります」
「ありがとうございました。思ったよりずっと工事の進みが早いみたいでびっくりしましたけど、順調そうで良かったです……楽しみですね!」
薬草園の入口は窓のない灰色の壁で、重厚そうな両開きの扉がキッチリ閉まっていて中が一切見えない。
ロイドさんが近付いてノックをした。
「リシャールさん、オーナーをお連れしました」
すぐに扉が開く。中は意外にもしっかり明るくて、灰色の石のカウンターの上面や床は全て板張りにされていて清潔感があり、薬棚はまだ空だけど、ちゃんと薬屋さんっぽい雰囲気に見える。
そして、リシャールさんは生成りのローブを羽織ってるのだが、フードが無くてちょっとスーツっぽく襟回りのデザインが直されてるので、なんというかすっごく白衣っぽい!
「ようこそチョーコ殿。薬草類の納品などは全てこちらで受け付けるようにということなので、受け取りは奥の部屋で行う」
そして、リシャールは一緒に来ている人たちを見回してから、少し眉を下げた笑みを浮かべた。
「すまないが、力の全てを賭けた誓いを交わしているもの以外、この奥に入れることは出来ないのだ」
顔を見られたマイクとリックとユーゴは頷く。
「僕たちはオーナーを案内しただけですので結構ですよ、ごゆっくりどうぞ。お待ちしておりますから」
「あ。いえっずっと待っててもらうのは申し訳ないので、皆さんは先に戻ってて貰って大丈夫です!案内してくださってありがとうございました」
「?そこに置いてある資材用の転送盤は倉庫じゃなくて伐採所に直通なんです。地上まで戻らないと街へは帰れませんよ?」
「我々でも出口までの見送りくらいは問題ない。あとは引き受けよう」
リシャールさんがそういうならと視察はここまでとして解散。
チョーコとリナだけ店のカウンターの奥にあるスタッフルームっぽい扉をくぐると、かなり大きな石造りの倉庫で、薬作りに使うらしい石製の様々な道具類も並んでいた。そしてそのさらに奥にも扉があり、その先はぐるぐると降りていく階段の周囲に規則的に作られた広々とした畑、ほとんど明かりはないのだけど、沢山人が動いているような気配だけはある。
階段がやたらと長く長く、ずっと地の底まで畑が続いているような……
畑の方はこんな感じだと少しだけ見せただけで、倉庫に戻り。
今後納品するならここということだし、直接ここへテレポートで来ると了解も貰ったし。
「薬草類は有害無害問わず一旦ここに全部納品と聞いているので、出していいですか?」
「こちらに広げてくれ」
箱じゃなくて四角い大きなおぼんが何枚も積み上げられて、1枚ずつ目の前に並べられる。棘草、ねむり草、高麗人参、レジアナ草、髪艶草を次々と広げていった。
棘草や眠り草はけっこう病院では使い道が多いらしくて喜ばれながら、どんどん出していく。
あとレジアナ草と組みあわせて使うかなと、板ゼラチンにニガブドウ、赤と緑の殻もありますし、アロエとかニンニクなんかもありますけど出しますか?と顔を見たら。
高麗人参を手にしたリシャールさんが黙り、横目でチョーコを三度見くらいしている。
「どうしました?」
「その……これは」
「ダンジョンで見つけたものですけど、不死族の人が育てる強いハーブと同じものらしいので持ってきました。帝国の魔塔に実験のせいで生まれつき魔力過多や枯渇の症状が出てる子がいて、近いうちにそれで治療を頼みたいと思ってるんですけど、大丈夫ですか?」
「一時的なものはともかく生まれつきのものは完治はしないので。定期的な投薬だけで済む場合もあるが、重度の場合は一生入院になるぞ。……この薬草はかなり高価だ。長期に渡れば薬代も嵩むが、よいのか?」
「本人に聞かないと分かりませんけど、今のままよりはいいかなって。それにいっぱい取れたので、本当に困ってる人なら、そこまでお金とか気にしないで治してあげたい気持ちもあるし。もちろん全員タダで治療ってわけにいかないのは分かってますけど」
「その。……商店街のためだけでなく、我々が個人的に仲間の治療に使う目的なのだが。この一部を我々にも使わせて貰えないか?」
「今すごい体調不良とか衰弱してたりする人がいるなら、全然使って貰って構いませんよ」
「ありがとう……感謝する!」
がし、とリシャールさんに両手で握手をされてしまった。
リシャールさんに両手で握手されるところまではびっくりで済んだが、握手のあとに抱きしめかけたら。彼の顎下と胸のところに、手甲が展開して小さい尖った盾の形になったものを付けた両手がそれぞれピタリと押し付けられていて、リナが彼を近付かせなくしている。
「そこまでですわ、チョーコ様に伴侶以外の男性を触れさせるわけにはまいりませんの」
「あ、す、すまない……大変失礼した」
リシャールが1歩引くのに合わせてリナも手を引き、カショッと小さな音を立てて手甲が畳まった。
「本国の王都跡に、吸血種の女王と伴侶、それに並ぶ最古の血筋のもの4人と伴侶が2人、加えて吸精種の王と王妃たち8人が住んでいてな。
国土の凍土化が進行していくにつれ、我々は周辺の影響が少ない地へと徐々に移住していったのだが。女王たちだけは決して国は捨てぬと頑として凍土の中心地に居続け……最近様子を見に行った時には、凍土に核の魔力を吸われすぎ、核が壊れかけて病に伏せていたのだ。
既にただ酒や体液を吸っただけでは魔力を取り込めぬところまで進んでしまっていて、今はもう眠りから目覚めない。皆で凍土の中心から運び出し、彼らはまだ誓っていないゆえ上陸はさせていないが、近くまでは連れてきている。
……14人分の核の修復と3人の魔力欠乏を治すほどの強力な薬草を生み出すにはとても時間も魔力も足りないと思っていたが、これだけしっかり力の満ちた物が揃っていれば、間に合うはずだ」
さっきの、延々下まで設置されてた畑、なんか多いな?って思ってたんだよね……凍土の影響がない土地で魔力回復剤を大量に育てたかったのか。
「そういうことなら全然いいです。後からまたゆっくり追加で育てて補充だってできるんですよね。近々子供たちの入院治療で使う分だけ残しておいて貰ったら。先に王様たちに使っちゃってください」
「うむ、ここまで大量には使わぬし、使った分は後で必ず補充する」
持ち込んだものの4分の1程のお盆を持って奥へ呼びかけると、同じような白衣姿の女性のヴァンパイアが来てチョーコ達とお盆を見て目を見開いたあと、リシャールに説明されてお盆を受けとり、色々話したい顔をしつつもコクコクと頷いて、即座に畑の方へ戻っていった。
「間に合って欲しいですね……」
「重ね重ね、礼を言おう。チョーコ殿の保護下にある身で出来ることなどそうないが……どう恩を返してゆけばよいものか」
「レジアナ草の化粧品とか爪を塗るものとか、髪艶草のヘアケア用品とか、スキンケアとか、人間が喜ぶようなものを作ってもらったりしてくれたら私は十分ですけど……そういうのに必要な素材とか薬草とかがあったら声掛けてください。身体にいいものっていうとニンニクとかも持ってますけど、アレってヴァンパイアの人は苦手だって本当ですか?」
「……ふ。くくく」
「?」
「いや、すまぬ。確かに身体強化で鼻が良いので、匂いの強いものに反応しやすいということはあるが、苦手ではない。ニンニクも預けてもらえば薬効を抽出して精力剤や滋養強壮剤を作ることも出来る」
「じゃあこれも少し納品しておこうかな」
お盆ひとつ分にニンニクを出す。
他なにか出せそうなものあったかなぁ。アロエとかどうかといってお盆に出してみる。
「……ハーピーを影猫の餌に持ち込んでいたが、卵はあるか?」
「えっと24個ありますね」
「くくっ、多いな。多めに2つ貰うか」
卵と髪艶草、組合に納品した方のハーブの香りの石鹸草
抽出などを使いながら絞ったり潰したり混ぜたりした後、円筒型のまぁまぁ大きい丼サイズの石製ケースに、薄緑の綺麗な軟膏がみっちり詰まったものが出てくる。
「髪を洗う洗浄剤だ。髪の傷みは治るしツヤも出る」
次に、と棘草と卵と透明なオイルとアロエをあれこれして、先程よりは一回り小さい半透明な薄ピンクのジェルがいっぱいの入れ物が出てくる。
「こちらは皮膚の炎症や吹き出物を治療し、保湿して回復させるものだ」
同じように赤いマニキュアと口紅、緑のアイシャドウ、黒いマスカラまで作ってくれた。
全部原液を石の入れ物に詰めた状態で、小分けの入れ物とか筆とかは自分で用意しないといけない感じ。
他にも平均的な体格の人間が8時間眠れるねむり薬や精力剤や疲労回復剤の錠剤だとか。
そして倉庫の棚から持ってきたのは、赤いバラ、紫のラベンダー、カモミールなど見た目や香りのよいハーブ類。小さい石の蓋つきの入れ物に入ったアルコールタイプの香水、ハッカ油のようなものも。
「――とりいそぎ最初はこんなところだ。人間に毒性がないか確認して、我々に発注してもらうことになっているから、これらは持ち帰って好きに試すがいい」
「ありがとうございます!」
それらをしまいながら、石のツボに香水や化粧品は使いづらいし、やっぱり香水瓶とかケース類をどうにか開発できないのかなと思う。
「じゃあ、これを検査とか試しに使う人とかに渡してきますね」
「女王たちが回復したならば、必ずチョーコ殿に挨拶をさせて頂く。色々と頼む」
静かに一礼する彼を残してリナを連れ、卸売倉庫へ飛ぶ。
マイクとリックは現場の誘導を行っていたのでちょっと声をかけたら、リックが事務所についてきてくれたので、化粧品や薬や花と香水類を見せてみた。
「……もう出来たんですか。使用感や毒性などがないことを確認するため臨時で人を雇う予定でしたが、もし試したい物や伝手がありましたら、そちらは引き受けて頂いても構いません」
リックの視線を辿って振り返ってリナを見ると、思った通り目をキラッキラさせてて興味津々。
「メイドさんの知り合いで誰かいるなら試してみる?」
「商会で必要な確認項目のリストを頂けましたら、全てこちらで確認させて頂きますわっ!!」
リックが紙の束を持ってきて1枚めにチェック項目一覧を作ると、二枚目を捲ろうとしたところで。
「内容が同じでしたら転記して使いますから、紙だけくださいませ!」
「――助かります」
もう勢いに押されて任せようと思ったらしい。アルカイックな笑顔を浮かべて全部渡していた。
化粧品類とチェックリストを貰いつつ、香水瓶、軟膏ケース、薬瓶や栄養ドリンクの入れ物みたいなものを作れないか、職人さんに使いやすいケースの開発をお願いするように頼む。
魔人のガラスや陶器とか小人の鍛治製品に頼りすぎると値段が天井知らずになっちゃうから、街で作れるものはなるべく作ってもらった方がいいもんね。
幸いゴムコーテイングの木製ケースだとか、液体系の密閉容器の開発はけっこう進んでるらしいし、なんとかなるものも多いはず。
納品して報告もしたのでチョーコの仕事は終わり。一度家に帰って化粧品類を広げてリナに渡し。
バラの花はこのままお友達に見せてバラのロゴマークをミーティアに作ってもらえるか聞いてみようかな、というと。是非やりましょう!となった。
マリアンたちに連絡したらすぐに、新作のチョコレートケーキとコーヒーがあるからお茶会を開くわ!と誘ってくれたので、明日はまた彼女達の家に皆で集まることに。
――そういえば水の魔道具30個追加で頼みたいし、水の魔石をせっせと作って、今日はマンゴーの酒の実でも持って行こうかなっと。
リナは美容関係のものを試しに姿を消していたから。今日はミナについて行ってもらうことにする。
***
「――うおおお、待ってたぜえ!今日はなんだ、俺も頼みがあるんだけどよぉ!」
突撃して来たドットさんは徹夜でもしていたのか赤い目をしてギラギラとテンションが高い。
「え、なになに、なんですか?!」
「どうしてもあとちょっとオリハルコンが足りねぇんだよ、小さい方の結晶があと一個でもあれば!」
「……あれば?」
「全自動ベル演奏機が作れそうなんだよう!」
「……今って帝国の貨幣の鋳造で忙しかったんじゃなかったんですか」
「おぉん?なめちゃいけねぇぜ、ドワーフ全員でかかりゃあ、あんなもんは楽勝よっ!」
「え、じゃあとりあえず水の蛇口30個、マンゴーの酒の実でお願いしたいんですけど」
「おう、こいつはもう型が出来てっからすぐだぞ」
金属部とミスリル合金を持ってきて30個をサクサクと組み上げて。酒の実と交換。
「でよー、あと1個だけっ!頼むよぉ、何かガッツリしたもん作ってやる、何でもだ!」
「んー……なんでも……じゃあ食器とか酒器とか、おしゃれで一式シリーズで揃えられてるセットを買えるだけ沢山ってどうですか?」
「小さい方のオリハルコン結晶1個で買えるだけだと?おいおい、総ミスリルにでもする気か?純銀で宝石入りのセットだって何百セットになるか……そんな食器や酒器ばっか買ってどうするよ」
「死の大陸から逃げてきてる不死族さんたちを全員保護することになって、一緒に商店街を作って色んなお店をやるつもりなんです、だから多分千や二千くらいなら全然余裕で使うかなって思うんです」
「滅びの種族を、保護……」
「魔獣を湧かなくさせたりダンジョンを吸い潰しちゃうのと、お腹が空いたら暴走しちゃうのは、そういう体質なだけなんです。ちゃんと充分な魔力を摂取さえ出来たら優しくて良い人たちですよ」
「うぇぇ何度聞いてもとんでもねぇ……んー。まぁいいだろ。分かった、シンプルにサビねぇ加工をした鉄器に銀と金とクズ宝石で絵付けしたちょっと安めだが見栄えがするやつだ。蓋付き水差し、広口の取っ手付きカップ、グラス、猪口、大皿、中皿、小皿、深皿、ナイフ、フォークとスプーン大小のフルセット。
こいつなら小さい方の結晶1つで千セット売ってやる。荷物がでけぇからお前さんが直接来るか、鳥のやつに頼んで取りに来させろ」
「サンプルってあります?」
「あるな、ちょいとまってろ」
見せてもらうと本体は直線的だが滑らかに角を取った統一感のあるデザインと、緩やかな曲線の波のようなカーブを描くフチのおかげでシャープな印象と柔らかさが共存している。普通にかなりオシャレだし。絵付けは安めといいつつかなり豪華でお高そうな見た目だけど、鉄ベースで頑丈だしお店で使うにはいいかも。水差しのサイズはは小さい方の水差しと同じで、金属製だしすごくティーポットっぽい。
あ。お猪口がサンプルに40個渡した小さいのとピッタリ同じサイズ……こっち使ってもいいかも。
ちょっとこのお猪口だけ50個別に作れますかと聞いたら、オリハルコンをこの洞窟以外で売っちゃだめという約束でおまけして貰えることになった。
小さい結晶ひとつを渡して交渉成立。
絵付けに3日もかからないから明後日かその次くらいに来いと……
ベース部分は全て型でバンバン鋳造するので時間がかからないというけど、それにしたって早いよ。
なんなら同じデザインで机の真ん中に置くような大皿だとか、追加で何かあったらそっちは酒の実持ってきたら作ってやると言う。
うーん、何かお礼、ドットさん達が喜ぶようなお礼かぁ。純アルコールそのまま飲むのは好きじゃないと言ってたけど、カクテルってどうなんだろう。今度来る時に持ってきてみようかなと思いつつ帰路に着いた。




