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飢えないだけじゃ生きられない(日・水・更新中)  作者: なるねこ


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73.休日、じゃないね

『お招き』って、午後まで待ちきれないほど天人さんにとっては楽しみなイベントなのかな?


ミナにお茶と甘いものを3人分頼んで玄関へ行くと、マナが玄関の戸を開けて門の方を指さした。

3人共ちゃんと成人してそうな背の高めな人達で、天人さんらしい普通のトーガにサンダルで手ぶら。

男性が2人と女性が1人。


押しかけてはきたけど、ちゃんと門の外で呼ばれるまで待っているのが見える。


「あそこの3人ね、じゃあ入って貰って」

マナが走るようなスピードの早足で門の方へ近付いて、どうぞと招き入れると、嬉しそうに微笑んでおとなしくマナの後ろについて中まで来た。


先に男性2人の方から。

「私は青い岩(ユーガレスタ)です。ユーゴとお呼び下さい」

「私は淡い空(ラビュラング)です。ラヴィと呼ばれてます」

女性も。「私は白い岩(ファレスタ)です、フィフィと呼んでください」

「私はチョーコで、こちらはオクティです。よろしくお願いします」


挨拶を終えるとやっぱり3人共それぞれ草で編んだ手提げ袋を出してきて、マンゴーの酒の実10個、真っ白いのでおそらく本人の羽毛と細い草の糸を編み合わせた女性もののショール、顔より大きいくらいの丸くしっかり乾燥した硬いチーズがそれぞれに入っていた。


お土産のお礼を言って食堂へ案内すると、ミナがお盆を持ってきてそれぞれの前に木の大きめなグラスと皿を並べ、オクティとチョーコの前にも同じものを置いた。


天人の人たちは甘いものが好きらしいと思ったからか、グラスの方にはオレンジジャムを加えた冷たい紅茶がたっぷり。

お皿には桃を薄いパン生地の上に切って並べて焼いた上、表面に砂糖を掛けてもう一度焼いて焦げ目をつけたケーキが天人さんの方にはちょっと大きめに切り分けられている。


フォークで1口食べると3人共目を丸くして「「「え、お、おいしいっ?!」」」と信じられないような顔をしてからバクバク食べ始めた。


オクティの方がゆっくり声を掛ける。

「コンヴィニ商会に加入したいと聞いたんだが。3人とも、不死族が怖くはないのか?」

顔を上げた3人はまだ飲み込んでなくて口は開かないけれど。揃って首を横に振る。


最初に口を開いたのは女性のフィフィから。

「私、ちょっと前に結婚予定だった恋人を亡くしたんです。それ以来天人の男性とは色々思い出してしまって辛くて、お付き合いが出来なくなってしまって。いっそ全然違う種族の国で暫く住んだら気持ちも変わるかなって思ったんですけど……竜人の所は規律が厳しすぎるし、小人たちは食生活が、海の中では暮らせないし、人間はうっかり恋人になっちゃったら確実にまた先立たれるじゃないですか?」


「不死族が好きでってことじゃなくて、ただ別種族の中で暮らしたいってことか」

「確かに……商会で働くならほとんど人間達と同じ生活が出来るかもだし、うっかり不死族が好きになっても、あの人たちは寿命がないから先立たれる心配は少ないね?」

「そうだな。そっちの2人は?」


次に口を開いたのはラヴィ。

「私は不死族がそこまで極悪な種族じゃないと聞いて、食い殺されたりしないのなら一緒に仕事して生活して仲良くなってみたいなって思っただけです。ちょっと危険な感じの美人って……いいですよね」

「仲良くなりたいだけなら、商会に加入しなくても付き合いは出来るんじゃないか?」

「うーん、人間のお金は働くか、売り物を持って来ないと貰えないじゃないですか?毎日お客さんとして通うだけだときっとすぐ遊べなくなっちゃうので、そこで仕事をしたら毎日会えてお金も貰えて倍嬉しいなって」


「ただ不死族と遊びたいだけじゃなくて、ちゃんと将来考えてるなら仕事を任せても大丈夫そうだな」

「うん、良いと思う。ユーゴさんは?」


「呼び捨てでいいですよ。私は単純に、困ってる人を助けて喜んでもらうのが趣味なんです。……コンヴィニ商会は国中から色んなものを集めてあちこちに流通させて大荷物を運ぶ仕事もすると聞いたので。手伝ったら喜ばれるかなと思って声を掛けてみました」

「人助けで感謝されるのが趣味なんだ。いいですね!うん。卸売業の商会倉庫からあちこちに荷物を運んで回るのは凄い大変なはずなので、アイテムボックス持ちの人は喜ばれると思います!」


「喜ばれて、お礼にどういうものがあれば嬉しいんだ?」

「褒められたり撫でられたりするのが好きなだけで、特に物が欲しいとかは……ないですね」


ない、と言われるとそれはそれで困るなぁと。考えながらチラッと横に控えているマナを見てみる。

「そういうことなら定期的に、不死族のマッサージ店の無料券でもお配りします?」

「あぁ、仕事を頑張ってくれたお礼にね」

「「それ私も欲しいです」」

「フィフィとラヴィもマッサージ券欲しいんですか?まぁ、あとで他のお店で使えるものが良ければ、別のお店の利用券に変更とかも出来ると思うので、その方向で伝えておきますね」

「「「はい」」」


「じゃあユーゴは卸売りで大変な商会倉庫を希望で、フィフィとラヴィは商店街で不死族たちと一緒に働きたい。現金の給与の他にお礼として不死族のマッサージ店の無料券も定期的につけて欲しいって伝えておくとして……後何かあるかな」

「天人の方々は帝国民ではないので、婚姻を結ぶまで永住権はお持ちになれませんし。ご自宅から直接勤務先への転送盤を支給されてはいかがでしょうか」

「あ。そっか、必要だね」


テレポートの魔石を3つこそこそ手の中で作ってオクティに渡す。

「用意してくるよ、ちょっと待っててくれ」


オクティが出た間、3人はオレンジ紅茶と桃のケーキをじっくり味わいながら幸せそうにしている。

「商店街っていうのは、お店がたくさん並んでいる通路のことって聞いたんですけど。こういう飲み物やお菓子も売ってますか?」

「売るつもりだし、働いたお金で買えると思います」

「仕事してお金貰って山にないものを買って、美人な子と時々遊べる生活……良いですね」

「実際働いてみて、ここはこうだったらいいなとか、こういうものも売って欲しいとか、要望があったら商会の代表の人たちに色々伝えてみてくださいね」

「「「はぁい」」」


「お待たせ。3人ともアイテムボックスに入れれば邪魔にはならないだろうから、先に渡しておくよ。勤務先が決まったら設置して使ってくれ」

自分専用の転送盤!と3人共目を輝かせて受け取り、アイテムボックスへ入れる。


マナが3人に。

「商会への報告はこちらでやっておくので、明後日、地下道建築の進み具合を確認しに行く際、顔合わせを兼ねて一緒に現地へ行って挨拶をして頂きます。朝に商会組合で待ち合わせでよろしいですか」

と説明をして面接終了。


そっか、もう明後日には1週間なんだ?ちょっと結婚式してる間にあの規模の工事が終わるってやっぱりとんでもないなぁ……


ちょっと考え事をしてる間に3人が帰って我に返る。

「あっ、そう言えばコンヴィニ商会で確保してる転送盤、1組って言ってたっけ。ちょっと少ないよね?何組か作ろうか」


このまえいっぱい譲って貰ったばかりなのに、もう残り10枚しかない。

まぁ、国にも組合にもさっきたくさん作って渡したばかりだから大丈夫かな。残りの5組を作って、報告と合わせてもう一度マナに届けて貰うことにする。


お湯と水の蛇口と製氷機と温風器は明後日直接現場で見せて、不死族が使えるかどうか確かめてからね。


***


うどんのあとに冷たい紅茶とケーキも食べてすっかりお腹いっぱいになってしまったし。

一旦2人で部屋に戻ってるから、皆が戻ってきたらまた呼んでねと声を掛けて寝室に戻った。


「あー、引き籠っててもしっかり仕事してるけど……チョーコが一緒に居るからまだましだな」

2人でベッドの端に腰かけて寄り添っているだけでも、何となく幸せな気持ちなのは確か。

「走り回ってくれてるのはメイドさんたちで、私たちはこうしてのんびりさせて貰ってるけどね」

「って言っても、今日のこれはどう考えても休みではないだろ。明日くらいまでは休ませて貰ってもいいよな」

「うん。急ぎそうなことは大体片付いた気がするし……明日休んで、明後日から頑張ろっか」


洞窟に行っていたニナ

城に行っていたルナ

商会組合に行っていたリナ

コンヴィニ商会に行っていたマナ


全員が帰って来たのは昼が過ぎて暫くしたころだった。


まずマナは2度目の往復だったのもあり、追加の転送盤にものすごく感謝されたくらいで新しい情報は無し。天人たちの所属希望や働きに応じた現金の給与に加えて時々賞与として商店街のお店の無料利用券を渡すという要望はあっさり通ったとのことだった。


次に洞窟に行ったニナ。まず酒の実10個で温風機10個の注文を出して、全体の形も少し組み替えた直接手に持ちやすく風の向きを整えやすい構造に変更したものを作って貰ってから、帝国の通貨を一律にするという話について、支払いにこれはどうかとオリハルコンの小さい結晶を見せたところ。

中々すさまじい反応で食いついてきたらしい。


オリハルコンとは伝説の金属と言われていて、洞窟の中ではほんのひと欠片が産出されたことがあり、大事に保管されているという。小さい結晶1つでどのくらいかと聞いたら、支払いの1割はもうそれでいいから、すぐにくれ!というので、3倍サイズの結晶を3つ追加してそれの10倍になるので全額これでいいかと言ったらその場でオリハルコンに飛びついて離れず、今すぐ先払いにしてくれと。


どうしても全額が無理なら今の4ヶ国分に必要な分だけ回せる分だけでもいいという譲歩ラインと、このくらいあれば安心と思えるラインと、今後増える分も見越して余裕を見て最終的にはこのくらい欲しいとほぼ最初に吹っ掛けるために無茶な量のラインを聞いていたので、最大数で作って貰えるなら今すぐ先払いで良いですけど。

と言ったら、かなりぐぬぬとなりつつも無茶な量をそのまま受けたそうだ。


オリハルコン……小人にとって伝説の金属だったのか……それは大きいのをポンポン出さなくて良かった。


新貨幣は鉄貨と銅貨が四角、銀貨が三角、金貨が丸、プラチナ貨が五角、宝石貨が六角。と決まったらしい。

今まで鉄貨が一番下だったけど、そこが銅貨になって、鉄貨は一段下がる。ある程度物価を正確に割り出すようになるので端数の計算が出来るように、らしい。

ざっと聞いている感じ、それぞれ10円、100円、千円、一万円、100万、一億。くらいの感覚なのかな。

庶民の食費が一日数百円で貴族は数千円、メイドさんたちが日給2万でお高めと言われてる。輸入物の珍しい食材が一個千円を越えることはまぁあるし……多分そのくらいなんだろう。


ニナから残った結晶と、温風機10個を受け取って、温風機は2つマナに渡しておく。

「現物の貨幣が充分揃うのなら、通貨の一律化は何とかなるのかな。両替の相場だとかそういうのはよく分からないけど、そこはやって貰えばいいんだよね」


「うふふふ。今回の支払いの立て替え、お約束によれば最初の酒の実の量換算で計上して、今回製造される貨幣から直接現金で商会へ分配されることになっておりますから、今後の支払いに必要な現金も確保出来ますし……チョーコ様の資産は正に莫大なものになりましたわねぇ」


「すでになんか、とんでもない資産が計上されてるからもっと使えって言われて始めたことのはずなんだけどね?」

「これから大量の物資を購入し、大量の雇用をして、しっかり給与も賞与も出す予定ですのよ?個人の懐を暖めるだけとは全く違いますの。それにあくまで()()()あるのであって、ただ倉庫に()()()積み上げているわけではございません。商会に資産があるとはつまり、商会で働いたり商品を売れば必ずそれだけの対価を支払って貰えるという信用です」


「信用……数万人単位で人が動くことになるんだもんね。それはいっぱい資金があるって証明出来てないと雇われる予定の人たちだって本当に給料出るのか不安になっちゃうか」

うんうんと頷いて話を終えたニナにかわって、ルナが挙手。


「はぁい。次はわたくしがご報告いたしますわねぇ。城に転送盤と碑文をお届けしましてぇ、通信石で聞いた通り商会への加入を希望する人間にはその碑文に誓って頂けるなら、他国の人間でもどなたでも受け入れるとお伝えし、帝国民でも商会に参加する人間の方には同盟用の碑文に誓って頂くこととなりましたの。他の人族の方が商会に所属する場合に関しては帝国側から干渉はありません。

わたくし達や商会長たちが誓った罰の重い碑文は帝国にて『不死族との直接交渉を行う予定であるもの。または人間と他人族の間で犯罪的トラブルを起こした初犯者の刑罰の代わりに使用される誓い』として扱われることが決まりましたぁ。

――それから本来、帝国民でなければ居住権はないのですけれどぉ。商店街のある地下と、分地の倉庫の建物内は商会の私有地ですので。商会員の寮を作って住まわせる場合は他国民を含む場合であっても自由にしてよい、とお伝えするようにとのことですぅ」

「ありがとう」


「最後はわたくしですわね。転送盤5組は商会組合長がほとんど小躍りするほどお喜びでしたわ。それから、バナナの採取できるダンジョンについては、前回見つけた石鹸草とほぼ同じで香りが違うものが取れるだけで、あとは解毒剤や睡眠薬の素材となる薬草関係だけだったため、不死族にお届けしますとご報告しましたが宜しいですか?」

「あっ、ありがとう!それで大丈夫」


「その後、製麺機の図面をお見せして、うどん粉やパスタ粉の製麺に使うという説明をしましたら、鍛冶職人たちの所へ連れて行かれまして。どこで捏ねるのだと聞かれましたので、捏ねる工程は別で行い、充分に捏ねたものをくっつかないよう周囲に粉をまぶした後、伸ばして切る工程をこの製麺機で行うと説明いたしましたが、合っておりますか?」

「すごい、合ってる!」


「商会組合に置いて纏めて作るのに使うならまだしも、一般家庭や通常の店舗で使うことを想定すると小型化が必須だと悩んでいらっしゃるようでしたから、家庭用には少し時間がかかりそうですが。大型機はすぐに動くものが出来ると思いますわ」

「そっかぁ、それがあればミナとルナみたいに凄いことが出来ない一般の人でも麺料理を作れるようになるよね……うふふ、いろんなお店で色んな麺料理が食べられるようになるの楽しみだなぁ」


報告を受け終わる頃にはかなり時間が経っていたようで、もう外の日の当たり具合をみるとしばらくしたら夕方になりそうな感じ。

そう思ったら、オクティが隣で少し苦笑する。

「皆、お疲れ様だった。――今日はまだ結婚休暇のはずだけど全然休めなかったし。明日1日改めて休日にさせて貰いたい。明後日はもうチョーコは商店街の現地見学に行く予定なんだろ?俺も魔塔の仕事に出ることにする」


明後日から別行動になるならばと、ニナが平たい木箱を3つ重ねて持ってきて蓋を開けた。


1つめは8個セットの通信石が円状にそのまま並べて置かれている小さい箱。

2つめと3つめはそれぞれ、6個と7個のセットがピンにセットされた状態で並んでいる長い箱だった。


「洞窟にてカットして貰った通信石のセットが仕上がりましたのでお持ち致しました。8個セットは非常に壊れやすく実用品ではないというノームの方々からの助言を頂きましたのでそのままに。こちらですが……まず7個セットの5つを我々が持ち、オクトエイド様とチョーコ様それぞれに1つずつ持って頂きたいと思います。そして、6個セットですが、わたくし達は本家秘書達との連絡を取ることが多いため、1つわたくし達が預かって5つを彼らに渡し、古いものは回収したいと思っております」


「うんそれで大丈夫――だよね?」

「問題ないと思うぞ。今まで使っていた方は、他に使いたいところがあるか?」

「序盤はそれほどでもありませんが、商店街は将来的に現在凍土で塞がっている部分を通り抜けてその先へと繋がる長大な通りになることを計画しておりますし、商店街内での通達および、卸売り倉庫との連絡手段として通信石を使用した連絡網を検討されてもよいのではないかと考えております」


「うん。そういうのに使えそうならどんどん使って貰って?警備担当の不死族の人たちもそういうのがあれば便利そうだよね」

「それが不死族の方々はどうやら、不死族同士での会話はかなり離れても行えるようでして。おそらく通信石は人間のみで使ってしまって問題ないと思われます」

「あ、そうなんだ?……そういえばこの通信石も元はテレパシーの魔法だし。何かテレパシーの使い方にコツがあるのかも」


少し情報を探ってみると。不死族は自分の胸に持つ核の欠片を取り出して相手に取り込ませることで、離れていてもその相手とはテレパシーでいつでも話すことが出来るらしい。

うん。不死族にしか出来ない方法だった。

不死族間での核の交換は非常に親しいことを表すだけだが、他種族に核を取り込ませることは特別に『伴侶を選ぶ』と呼ばれる行動であり、1人しか選ばれない。深く魔力的に繋がり、死期まで共有する。


あー、ヴァンパイアの花嫁ってこれね。サキュバスの人たちは選ばないのかな……

出来るけど習慣的に多妻多夫だから、1人に決めることが稀、なるほどね。


――ふと我に返ったら、全員じっとチョーコを見ててビクッとする。

「ふあっ?!だ。だから別に考え事してる時でも普通に話してて貰って大丈夫だからね?」


「いえ、これから先不死族の方々とは長い付き合いになるのでしょうから、その習性であるとかそういったことはなるべく誤解のないようしっかりと把握しておくのは大切かと思いまして。チョーコ様は色々な種族や物について、不思議なほどによくご存じのことがございますし。考えが纏まってからお教え頂こうとお待ちしておりました」


「あ、う。そっか。えぇと……不死族の人たちは凄く仲が良い人同士だとお互いの核の一部を交換する習慣があって、そうすると同じ魔力を持つようになるから離れててもテレパシーが出来るようになるんだって。それで、不死族じゃない人に対して自分の核の一部を取り込ませることを伴侶とか花嫁って呼んでて、1人だけ選ばれて、不死族の人と一緒に生きてどちらかが死んだら一緒に死ぬっていう関係になるらしいんだけど。サキュバスの人たちは多妻多夫だから、あまり誰か1人だけをってことはなくて、伴侶は滅多に選ばないらしいよ」


「それは、つまり。伴侶を持っていない不死族を攫って核の一部だけを取り出して摂取すると他種族側は不老不死になれる……ということになりませんか?……不死族が狙われる理由が増えました。幸い、出勤日数が賞与の有無に関わると決まったおかげで無断欠勤などの判別はし易いはずですわね。不死族は全て商会の保護下に入れることになりますから、彼らが行った罪の補填を商会が直接行うと共に、彼らに対する拉致監禁や強制労働、能力の搾取などに対する報復もこちらで行うことが出来ますし、しなければなりません」


「えっと、そもそも不死族を保護区に設定したところから連れ出すことは禁止だから。他の地域のダンジョンまで壊れる原因になるし。行方不明になったら急いで探さないといけない。っていうのはどんな理由があろうと確定だよね」

「そうですわね。まず強引な誘拐、拉致監禁についてはどちらかの碑文に誓っている人間が行えば、即罰の対象ですから。実行可能なのは誓っていない者だけですが」


「商会の人は全員軽い方は誓って貰うことになったし、誓っていない人間が混ざるとしたら地上の強制労働地区か、お客さんとしてくる人達だけ。うーん……一番危ないのはやっぱりお客さんに紛れてくる不審者だよね」

「ただ、ハニートラップといいますか、恋愛関係に持ち込んでの連れ去りはあり得るのでしょうか?」


「むしろ……騙して伴侶にさせたら、人間の方が死の大陸まで連れ帰られるパターンかも?」

「あ。その場合は無罪ですから心配ありません。不死族の方々には権利として婚姻の自由がございます。伴侶になったもの1人のみは好きにして頂いて構わないと上に確認も取っておりますわ。誓っている以上、相手が婚姻の意思を持っていないのに無理やり攫って伴侶にすることは禁じられておりますし。人間側にも合意があったと判定されますわ」


「そうだね。結婚詐欺の罰は本当に一生付き合ってもらうのが妥当かも。――あっ。不死族の薬草園に、ちょっとずつ注げる密閉度の高いブランデー用の大樽を設置したいなって思ってたんだった。あとあのグラスの半分サイズの小さいグラスを沢山。……貨幣の両替で銀とか金とか古金が沢山集まるはずだよね。銀と金を使ったちょっと綺麗な杯を2千個とか同じサイズで発注出来たりするかなぁ」


「キッチリ全て同じサイズ……は、なかなか難しいかと。そもそも新月の夜に使われるのですわよね?あと2週間ほどしかございませんし、2千の杯をそれまでにというのは無理がございますわ」


「んんー……小人さんたちは貨幣の大量生産で金属加工はちょっと忙しいよねぇ。ちょっとまた炎人さんたちに聞いてみようかな?」

「テレポートで行って直接話して帰って来るだけなら活動してるとは気付かれないから付き合うよ。注ぎ口が付いている大樽だったら組合の方に頼めそうだから、誰か頼んでおいてくれるか?少し魔人の交易所に行ってくる」


***


魔人の交易所の入口のところに転送盤が1つ設置されているが、今は誰も来ていないようだった。

「わっと、転送盤もう設置されてた……あ、ここで刑の見学とか大人数集めてたんだもんね。その時に置いたのかな」

「人が来てなくて良かったな。――お、いつもの炎人が来たみたいだ」


「おぉ。よく来たな!エスに婚姻の誓いをしたか。めでたいことだのう!」

「「ありがとうございます」」

「飾り気のない方の水差しの小さい方の注文なら出来ておるぞ、受け取りに来たか?」

「あ、それも受け取りますけど。えっと、前回買ったグラスやゴブレットの半分のサイズの杯で、サイズさえ同じならデザインとか素材が違っても全然良いんですけど、二千個くらい欲しいって言ったらありますか?」

「あの半分のサイズじゃったら、ちびちびアルコールや油を飲むのに使っとるから、ガラスでも陶器でも構わんというなら数は揃うんじゃないかのう……ちょっと持って来させるぞ」


炎人さんが奥へ声をかけ、いつものように待っていると水差しやグラス類を持った砂人さん達がぞぞぞぞっと舞台へ上がってきて並ぶ。


まず水差し千個分の代金として、実を2つオクティに取り出して貰って砂人さんの手に置き、水差しを受け取り。

色々種類が違っても構わないと言った通り、50個ずつ40種類。杯サンプルの見本市状態。分かりやすくガラスと陶器それぞれの、グラスとゴブレット、そしてシンプルなものから豪奢なものまで10段階


「これで二千じゃが。うーむ、半分陶器じゃし、シンプルなのも多いしのう。2個は高いな、100杯分でいいのだが」

「実のままだと大きくて分けられないんですよね。1個と、油とかで差を埋めるとかでもいいですか?」

オリーブオイルの実を出して砂人さんの手に置いてみる。


「これはうまい油だ……分量8……価値は4」

「100追加となると、25個だぞ?」

「あるので出しますね」

ごろごろと砂人さんの手に実を転がしていく……文字通り変幻自在なようで、置くものが増えれば砂の台は広さを増して、5個ずつ5列に綺麗に四角く並べてくれた。


「――釣り合った」

杯を受け取って、またなにか必要になったら来ますねーと声を掛けて帰ろうとしたところで、あぁ、そうじゃったと炎人さんが呼び止める。


「随分と良い酒をたっぷり持ってきてくれた礼と、お前さんらの婚姻の誓いの祝いってことでのう」

砂人さんが1人近付いてきてずずっと持ち上げられた小さめの台の上に、赤く輝くというか、どう見ても中に火が燃えているように見える雫型のペンダント?に見えるけど、鎖が輪じゃなくて1本しかない。


「なんですかこれ……?」

「導きの炎……?求めるものに導く?」


「触っても熱くはない、心配せずに手にとってみぃ」

チョーコがそっと触って持ち上げてみるが、確かに全く熱くない。薄いガラスの雫型のペンダントトップに見える中に、炎が勢いよく燃え盛っているように見える。


――探し物を思い浮かべて吊り下げ。惹かれる方へ進め、探し物はそこにある。


鎖を持って吊るし。試しにここに居ないメイドさんの顔を思い浮かべると、勝手に横に引っ張られるように揺れて斜めに止まる。確かに……テレポートで自宅を探すとそっちにあると感じられた。

全く知らない人とか物でも分かるのかなと、新しく見つかったというレガリア王国の王さまは?と考えてみると違う方へ引っ張られた。


牛の村とか人じゃなくても指定できるし、見たり会ったりしたことがなくても、特定できる情報があるなら探せるらしい。対象が複数の場合は次々と候補を指してしまってぐるぐるしてしまうそうだけど、知らないものでも探せるのは強い。


「落としたら割りそうで怖いですけど……ありがとうございます」

「あぁそれは壊れんぞ。それから……誰かに貸すことも出来るが譲ることは出来ぬ。渡しても無くしても、日が変わる時にお前さんの手の内に戻るじゃろう」

「アイテムボックスに入れても?」

「うむ。戻るぞ」


――それは、呪いのアイテムっていいませんか?

「フォフォ……我らの使う術はほぼ呪いよ。力は真っすぐに使え、歪めば己を傷付ける。その炎を宿す限り、我らは見ておるし、守ろう……ではまたな」


来た時のようにぞろぞろと帰っていくのを見送って。

「俺たちも帰ろうか」

「――うん」

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