72.きちゃった
今日はもう疲れてるから、お風呂入ったら絶対寝落ちると思っていたら……
お絵描き部屋に隠していた例の『凄くセクシーで可愛いけど着ていたら寝られない下着』が着替えとして用意されていた。
なんでこれがここに?!と驚いたのだけど。
結婚宣言間近でドレスの用意をという段階でマギーさんがお針子としてミラルダさんの所に居たので、あれこれ打ち合わせで通ううちに「とうとうあれを使う時が来たのかしら?!」と嬉しそうだったので話は聞いていたらしい。
そしていつも換気で窓を開けて回っている時、マギーさんのお店の袋がお絵描き部屋の見てすぐ分かる場所に置かれているのに気付いたと。あぁ、アイテムボックスに入れるとオクトエイド様にバレちゃいますもんね、サプライズされるつもりで持ってきやすい場所に置いてるんですねっ!と思ったので。
バレないよう、こっそり持ってきておきましたとニコニコ顔で説明される。
うん。おかげで寝落ち回避したし!無事にイチャイチャ出来てオクティもなんだかすっごくつやつやしてたので!今回は結果オーライだったけど!
下手に隠すより堂々と置いてた方が見つからないって、お店の袋そのままだったのがいけなかったか……
うぐぐ。
いや、うん。ありがとうマナ!……ううぅ。
***
丸々1日、全ての食事も部屋まで運んで貰うくらいの引きこもり生活をしてしまったけど。
早めに卸売りの2人とも話をしておきたいし、バナナのダンジョンの作物のことも商会組合に報告しないと、お湯が出せる魔道具のことを不死族の人たちに伝えたいからロイドさん達にも話を通したい。
せっかくうどん粉と醤油が揃ったから昆布出汁とかでうどんが食べたい!あとちょっとパスタメーカーも欲しいなと思ったから設計を紙に書いて注文したいし、新しい貨幣どうするんだろうとか、新しく見つかった国がどうなったとかも気になってる。高山のダンジョン探索が進んで転送盤増やしてほしいとかはどうなったかとかも気になるし、なんなら寝室に引き籠らないで高山の大型ダンジョンに2人きりで通信石だけ持って籠るのもある意味新婚旅行かなって思うし。苺の育ち具合だって気になる!
――ので、今日は起きて普通に朝ご飯食べて外に出ると言ったら。もうちょっとゆっくりしないか?出来れば一生引き籠ってチョーコとイチャイチャしたいと渋られた。
「もー、私だってオクティとこうしてるのは好きだけど、これから先ずっと一緒に居られるんだし、色々終わらせてからまたゆっくり過ごせばいいじゃない?」
「いやまあ、一生引き籠ってチョーコとイチャイチャしていたいっていうのも本当だけど、それだけじゃなくてさ。宰相から一日でも早く復帰して魔塔に出勤しろって言われてて、活動再開するなら俺はそっちにしばらく詰めなきゃいけないんだ」
どうやら、火の山送りの刑を見に行った皇妹の恐慌状態が皇帝よりも酷いらしい。ここで魔塔の所長の任から皇妹を外してオクティにやらせようという話が通ったため。魔塔の幹部を飛び越して所長になれという話のようだ。
血筋的に見直せば皇族候補なのは間違いない。しかも皇太子候補筆頭でもあるので皇妹の代わりに据えるとして遜色はないだろう、また将来的に候補から皇族に選ばれた際、長子が辞められない重要な役職を既に持っていたため下の男子が立太子した前例がある。そしてとにかく今のうちに皇妹だけでも権力から排除しておきたいという意見が重なった結果選ばれた。と聞くとちょっと納得してしまう。
「俺もそういうことなら断らないつもりではあるんだけど、もうちょっとくらいチョーコと2人きりでも良くないか?」
「じゃあせめてうどんだけでも作って食べたい。せっかく醤油が手に入ったんだもん。昆布だしもあるし薬味や具だって細ネギと卵と生姜にとろろにトウガラシも揃ってるし」
「それは俺も食べてみたい。……うん、まず家の中で出来ることは全部やろうか」
素直に起き、お風呂に行く時に簡単に着られるからと用意して貰っているガウンを着て下へ降りていくと。朝ごはんを持ってこようとしていたミナがあらお風呂ですか?と声を掛けてきたので。
オクティにはお風呂に行って貰って、その間にうどんの作り方をミナに説明することにした。
元々用意されていた朝ごはんはシンプルにパンを2個ずつとチーズとジャムとバター、良く煮込んだスープと青りんごの甘さ控えめなソーダ水に、そっと焼きニンニクが一つずつ付けてあっただけなので、メイドさんたちに分けて貰うことにして……
うどん!
情報で水の量の比率なんかを調べながら粉にチョーコが水を加えていったものを、ミナが身体強化を使って大きな塊をグイグイ捏ねて打っている間に。よーく捏ね終わったら麺棒で伸ばしてうち粉を振りながらくっつかないように折って重ねて伸ばしてを繰り返してから切るという説明をして。
たっぷりのお湯でゆでる方が良いから、一番大きい鍋をかまどに置いて、チョーコが水を出して鍋を満たし、火の魔力でもうお湯にしておく。流しにもボウルに水を沢山用意して。茹で時間とか麺の締め方、汁や具の説明をして、ハーピーの卵をまた3つほど出しておいた辺りでパジャマを着たオクティが戻ったので、交代してチョーコもお風呂へ。
……のんびり温まって戻ってくる頃には、すっかり良い香りが広がっていた。
ゆでたてのうどんをフォークとスプーンで食べるというのが違和感凄いけど……食べてみたらただの昆布だしじゃないことにびっくり。鰹節なんてなかったと思うけど、ちゃんとした合わせ出汁の味がする。
新しい安全地帯が見つかったことで畑や養殖場をこの際まとめて増やそうという話が持ち上がり。魚人さんの何人かが手伝ってくれたんだそうで。生のサカナとウニと昆布が手に入るようになった上に。
サカナはクラゲと同じように風の魔力で一気に乾燥させれば保存運搬できると分かったから、海では天人が来た時にクラゲと一緒にサカナも纏めて乾燥させて大量に安く売ってくれるようになり。サカナを乾燥粉砕した出汁の粉と干物を焙ったものなら庶民でも日常的に買えるくらいになったらしい。
元々魚人族は言い伝えでも優しい種族だと言われていたこともあって、魚人たちへの庶民人気はかなり高騰気味。彼らが遊びに来ると平民たちが色々サービスしているそうだ。
小人たちの洞窟からも、シイタケと芋はアルコールや各種妖精肉などで交換してくれるようになったそうで、そちらはまだちょっと高めだが、サカナと昆布とシイタケの乾燥粉砕した粉を出汁として使うという話はもう貴族なら使えるくらいに広まっていると。
「そうなんだぁ、やっぱり出汁がしっかり入ってるだけで色んなものの味が上がるし、良い傾向だよね!あ。醤油と味噌が使えるようになったから、これも合うと思う、今度使ってみて」
となめこを出し。こっちは醤油や味噌味の汁物の具として加えるといいという説明をしておく。
うどんを食べ終わってから、お湯と水と氷が出せる魔道具をメイドさんたちに見せてみると。めっちゃくちゃ魅力的で素晴らしい魔道具だと褒められた。
ただ不死族が使うこと前提であって、もし人間の街で流通させるということなら。
水を出したりするのに必要な魔力の量が変わるわけじゃないので、結局は水属性の人と火属性の人をお風呂のお湯が満たせるくらい雇える家にしか使えないという評価。
遠征の時などに限っては、水属性の人が任務に不要だったり確保出来ない時があるので、水筒代わりに水の蛇口を持って行ければ相当荷物が軽くなるから軍部や冒険者は買うかも。
メイドさんたちとしては水やお湯など家で使うものを全部賄おうとするとメイドさんたちだけでは魔力がきついので、氷と水を外から買ってかまどで温める今の形式で全く問題ない。
製氷機やお湯の蛇口は完全に高位貴族が贅沢品として家に置いて自慢するだけのものになるだろうという評価。また高位貴族で火と風の属性の人を両方雇える人は『暖かい風で身体や髪を乾かす』ので、ドライヤーも買いそうというか、ドライヤーだったら水場でチョーコに使いたいのでメイドさんたちが1つ欲しいという。
「あ。私は拭いただけでも後でオクティが暖かい風を掛けてくれるから困ってはいないけど、メイドさんたちも使えるから1つか2つ、家用に作って貰う?あと不死族たちのお店でも同じだろうから、追加して作ろうかな」
「追加で頼むとしたら水の蛇口は冒険者組合に卸してもいいな。不死族たちが使う分としても数が足りなければ増やすし……まず必要数の確認からか」
他に何か動きがあったりしたかなと聞いてみる。
まず、凍土の向こうの隣国との交渉。
戻っていたワイバーン第一部隊と帰路の為の天人と外交官を共に送り込むことにしたら。姿を見せた途端に兵士と大量の攻撃魔法で迎撃を受けたものの、魔法はワイバーンが盾になることで無傷だったし、兵士は第一部隊のパリィたち5人がワイバーンを素手で絞め落とせるだけの実力を見せて素手で取り押さえ、怪我人を出さずに話し合いに持ち込めたらしい。
ロシュサント王国というのは騎士国らしく、王様は脳筋で強いことを重視する人だったみたい。初手であそこまで完敗した以上は傘下に入るのもやむなし!と潔く誓いに了承してくれたと共に。やっぱり『竜騎士』のインパクトが凄すぎたらしく、選抜した騎士を騎乗訓練ツアーにどうしても参加させてほしいと熱望された。
またその国では既に『肉はしっかり焼けば食べられる』ということには気付いていて焼肉文化は広まっていたけど、飲み物は水、塩などの味付けは何もなしで焼いた肉だけという食生活だった。
塩と胡椒とカレー粉。緑茶と紅茶に砂糖を見せたらその衝撃はすさまじかったそう。
一応自治権はあるのだけれど、ほぼ属国扱いでいいくらい全面的に協力的に働いてくれる方向で同盟が組まれたので。転民しなくても、碑文に誓いさえしてくれたらロシュサント王国の騎士の肩書を保ったまま訓練に参加する許可が出せそうだという。
さらに。
ついて行っていた天人さんが人間の街同士をそうやって同盟で繋いでいくことに興味を惹かれたらしく、帰ろうとして話しかけたら詳しく聞いてきたので説明したところ。
ロシュサント王国のもうちょっと先にも人間の街っぽいものがあるのを知ってるよ!とワイバーン部隊を使ってその先まで送ってくれたので、レガリア王国という魔法国家もついでのように同盟に組み込んで転送盤を置いて帰って来たそうだ。
そちらはワイバーンよりも天人との交流があることに衝撃を受けて同盟を受け入れ。
食事事情は葛湯と紅茶と緑茶は開発してたがそれだけだったので新しい飲食にも興味津々。
特に天界語の会話を学びたい、風の魔法を学びたいという希望がかなり強くて、やはりこちらも誓いをしたものに限って転民せずにも色々学べるようになりそう。
――というわけで。チョーコ達が暫く引きこもるだろう事は理解しているが、同盟用の誓いの碑文と転送盤の追加を、なんとか隙を見て作って貰ってほしいという連絡が来たのが昨日の夕食後だったらしい。先だったら夕飯持って行く時に聞いてたけど、夜に邪魔をするのはまずいから朝食まで待ってたと。
今後絶対新しい国も増えそうだし、碑文はその場でせっせと手持ちの10枚全部に転記。オクティにも転送盤の製造を手伝って貰って、多めに10組用意してメイドさんに預けておく。
積極的に協力してくれる国が増えたおかげで、各所の開発も順調に進みそうだし、そちらの国も不死族と共に働く『いつでも開いてる何でも揃うコンヴィニ商店街』の新規開店にはかなりの興味を示し、コンヴィニ商会に入りたいという人も多いというが、加入条件をどうするかと言われたので。
チョーコとしては同盟用の誓いの碑文は内容的に不死族用のものと比べて、罰が軽いだけで条項はほぼ似てるので。竜騎士とか天人との交流と同じで、それに誓ってくれたら転民とかしなくても商会のメンバーとして受け入れていいと思う。
ただメイドさんの見立てでは商会本社と商店街を置く保護区も卸売り倉庫がある分地も帝国内のため、そこに住めるのは帝国民だけ。毎日転送盤で通勤は現実的じゃないし、たぶん商会に入るとなったら転民はするだろうと。
それならトップ数人だけは重い方、それ以外は全員、罰の軽いこっちの碑文に誓って貰おうということになった。
そして、通貨の統一は真面目に実行したくて計画が練られ。各国に両替所を設置して現行の銀貨や金貨を回収して新通貨を流す計画も計画だけはほぼ出来た。
だけど支払いとして小人が認めてくれる物品が今のところ酒の実と酔い水草しかなく、アルコールや肉では納得しないためそもそも必要数を揃えるのが難しい。その上『大口の取引は歓迎だが、流石に酒の実だけそんなに一気に貰ってもなぁ。何か代わりに良いもんないか』なんて無茶まで言われているそうで。後で金銭換算してチョーコ名義の商会資金として計上させて貰うから、チョーコに何とか用意して貰えないかということらしい。
「えー、何か代わりに良いものって……ドットさんも困ること言うね」
「温風器の注文もしたいと思っていたが、先にそっちの解決か。……洞窟で産出はしているが銀と金とミスリルなら素材費の一部として受け取ると言っていたから、価値の高い金属もありか?この前見つけたオリハルコンなんかかなりの希少金属なんだろ?支払いに使えるかもしれないぞ」
「加工技術があるのは小人くらいだと思うから、何か作るってなったら洞窟へお願いしにいくつもりだったし、私がオリハルコンを持ってることは洞窟にだけは知られる予定だもんね。んーこれはちょっと組合とかに預けるのは怖いな、誰かちょっと直接持って行って貰っていい?」
「わたくしが参りますわ」
ニナの前にビアジョッキほどのサイズがある透明感のある金色の光る塊をゴトゴト取り出す。その小さいのは6個だけで、残りはもう3倍以上大きいのしかない。3倍サイズだったら結構いっぱいあるのでゴロゴロ出してみる。
「全く知らないものですが。こちらはミスリルに比べてどのくらい希少なのでしょうか?」
「んーとね……少なくとも10倍くらい、だと思う」
「10倍であると仮定したらこのくらいとして……そこからはみ出さない範囲で交渉して参りますね」
3倍サイズの塊を5つ。一応交渉で刻むために細かいの6個も持って行くといって、箱に詰めた。
「メイドの誰かが行けば俺たちからだってことは伝わるはずだから、足元も見られないだろう。あとニナが行くなら火と風の魔石と魔石版も渡しておくから、温風器も10個くらいまとめて作って貰おうか」
それ用の支払いに桃の酒の実を10個、温風器の材料とオリハルコン結晶を詰めた箱を担いだニナが洞窟まで行ってくることになり。碑文と転送盤の束はルナが城まで走ることに。
あ、どうせだから商会組合用のダンジョン探索用の転送盤も作って持って行って貰っちゃおうか、と残っているリナに頼んで5組渡し、ついでにパスタメーカーというか、数本のローラーで生地を徐々に薄く平たく均一に伸ばして出口に等間隔にワイヤーが張ってあり、捏ねた生地をそこに通せば同じ太さの麺が出てくる製麺機の図を書いて、うどん粉とパスタ粉の調理器具の一つとして届けておいてもらうことにする。
ロイドさんやマイク&リック兄弟との打ち合わせについては、マナが軽く伝言や質問の確認を取ってきてくれたらしい。
ダンジョン産の素材、不死族に回す薬草などは、商会用倉庫に直接納品して貰えば組合への報告や使わない分の販売もこちらでまとめてやりますのでこちらに納品してください。
分地の流通倉庫に大型冷蔵庫などの保存設備もついているので、極端に日持ちしないものを除いて倉庫で受け取れます。商店街側で飲食店の食材であったり、店の備品など必要な資材を直接提供した場合、資材の出納リストと帳簿がずれるので何をどのくらい提供したか分かるようにしてください。
ただし、人間に害があるものは商会では扱えないので、有益だが取り扱いを誤ってはいけない薬草などは直接不死族に納品して頂き、それらは管理も不死族に一任。
人間が使える形に処理した安全なもののみを不死族から仕入れて、商店街での使用や販売をすることとします。
「なるほどね。じゃあ今度から持ち帰ってきたものの報告は分地の倉庫にすればいいんだ。倉庫っていつから動くんだろう?」
「倉庫の部分はもう荷物が入れられる状態、冷蔵設備は近々準備できるそうです。既に転送盤は1組確保していますので日持ちのする荷物であればいつでも受け付けられますね。それから……天人から3名、不死族との交流にとても興味を持つ方々がいらっしゃいまして。商会員になりたいそうですが、如何致しましょうか」
「天人さんって不死族のこと怖がってるんじゃなかったっけ?」
「実際に当人にお会いはしていないので性格的な所はまだわかりませんが。他の天人の方々に言わせると『不死族と一緒に過ごしたいと言っている変わり者』らしいですね。女性1名と男性2名がいらっしゃいます」
ちょっとオクティの顔を見てみる。
「本人が不死族に何らかの夢を持って交流を持ちたいとか、付き合いたいとかは全く止める気ないが。それなら単純に恋愛目的で近付けば良いだろうし、商会に加入したいのはなんでだろうな」
「このおうちにご招待したいって伝えたら来てくれるかなぁ。荷物運びだとか、直属の冒険者の手伝いをして貰うとか、天人さんが手伝ってくれたら助かることはいっぱいあるし……ちょっとお話は聞いてみたいよね」
「あと天人は商会員になるとしたら人間の同盟用の碑文は使えないから。不死族と同じか何か問題を起こさない限りは誓いをせずに働いて貰うことになるかな?」
「そうだね。不死族と顔合わせした時に無しだと問題がありそうなら、同じものに誓って貰えば良いと思う」
「わかりました。来られるということであれば、いつ面会に致しますか?」
「今日の午後とかでも、いいよね?」
「まぁ、来て貰うだけなら」
「じゃあそれで」
マナがコンヴィニ商会へのお使いへと走り。ミナがお疲れさまでした、とコーヒーを出してくれた。
「あっ、庭に植えた苺ってどうなったかなぁ。土が合わないとかで枯れちゃったりしてないといいけど」
「元気ですよ、ご覧になりますか」
幾ら家の庭でも外に出るのでささっと簡単なワンピースに着替えさせて貰い、靴を履いて庭に出る。
「ふぁっ?」
植えたのは5株だけのはずなのだが、小さいのが増えて今は8株ある。よく見ると掘り返して魔獣の核を混ぜた範囲いっぱいに蔓が走っていて、そこから芽が出ているらしい。
最初に植えた5株についていた小さい緑の実は順調に膨らんできていて、とっても楽しみな感じではある。
落ちものの植物らしく、太陽の光が当たっていれば勝手に育つのだが、魔獣の核が撒かれているところには積極的に蔓を伸ばして増える。逆に撒かないとその場で育つだけで余り増えようとはしないらしい。
「なるほどぉ。畑を広げたかったら、決めた所を掘り返して核を混ぜておいたらちゃんとその範囲に広がって育ってくれるってことかぁ」
そういえばあそこの苺畑も綺麗に範囲内だけ苺だったな。あのお爺さんがあそこで育てることにしたのは、ダンジョンや人里が近いとダンジョンブレイクで大量の魔獣の核が撒かれたりして面倒なことになるからなのかも……
「……あっ。そういえばニガブドウ手に入ったし、赤と緑の染料作ろうかな?苺柄のお財布……はちょっとあまりにも子供っぽいか。赤と緑のモチーフって言ったらバラかなぁ……」
「前に話してた友達に配るってやつか」
「使えそうな布製品はいくつかご用意しております、ご覧になりますか?」
食堂に戻って座って待つと、ミナが布製品を何種類か平箱に並べたものと赤と緑の殻の入った箱と絵筆用の平筆を大小と小皿を幾つか持って戻ってくる
お揃いのお財布をお願いしただけのはずだけど牛の毛製っぽい真っ白な布製品がお盆いっぱいにあった。
フックが内側だけに仕込んであって表には何もボタンなどがついていない、表裏真っ白な四角いお財布タイプ。
形は同じで、宝石のボタンが表についている、赤、ピンク、青、透明、緑、黄色、橙の7人お揃いで使えそうなタイプ。
四角いお財布よりちょっと大きめ、普通の巾着袋タイプ。
端にフリルの付いた真っ白いハンカチも。
「この辺りでしたら、彩色してプレゼントされるには宜しいかと」
「わぁ、良いかも!ありがとう」
赤と緑の染料はすぐに作って貰い、黒インクは小皿に出す。ニガブドウの汁は艶感も変わるらしいので、黒インクにもちょっと混ぜた。
やっぱりお揃いで使うならそれっぽいのがいいかなと、宝石ボタンのものを並べ。
まず黒インクで縁取りをどうするか考えて、自分用予定になるだろう橙から手に取る。宝石が一列に3個端についているので、宝石を左側にして。右下の角に沿うよう蔓をL字に走らせ。蔓の真ん中付近に少し大きめなバラを描く。上下に蕾と葉を書いて、赤と緑で塗り絵。
裏側は四角く真っ白なので、中央にリースのような小さめの丸い蔓を描き、小ぶりなバラと葉で周囲を囲む。
大体イメージは固まったので、それを見本に全部同じように描きこんでいった。
「まぁ……華やかで優美な花ですわね。プロポーズの花束の花とは形が違いますけれど、これは一体?」
ミナは風を使って一つずつ丁寧にそれを乾かしていく。一度完全に乾かした後、水で洗って苦み成分を洗い落として、形を整えながら乾かして完成らしい。
「これは不死族が生み出せる植物の1つで、バラっていう花なの。見ても綺麗だし、香りも華やかで香水にもなる植物だと思う」
「まぁ……香水。それは是非コンヴィニ商会の商会紋になさってみてはいかがでしょう?不死族らしいモチーフだと思いますし、美しく気品がありますから、」
「商会紋って企業のロゴマークってことかな?うーん、こういう複雑な図案って使いづらい気がするし、もっと単純なものの方が……」
「印章のデザインはミーティア様がお得意だと聞いております。折角ですから、こちらをお渡しする時にでもご相談してみては?」
「あっ、確かに画風的にそういうの得意そうだったよね!うん。皆にこれを配る時は集まって貰って配ろうかな?その時に聞いてみる」
「集まる日程が決まり次第お声がけに伺いますね」
「よろしくね。……ミナたちも小銭入れとかハンカチ、使う?」
「では、宜しければハンカチを」
丁度7枚あるからオクティも含めてお揃いにしようかな。
「何か好きなモチーフある?オクティも何か考えて?」
「うーん、チョーコが好きなものや喜ぶものなら良いんだが……」
それでも一応なんとか考えてはいるようで、そのままオクティは黙ってしまう。
「わたくしは、今は苺がかなり来ておりますっ!あれはとぉっても、味や香りだけではなく見た目も素敵ですよね」
「あぁ、苺はいいな。あれを見つけた時とか食べてる時の顔を思い出せるから絵で持っていたい」
「苺柄っ?えぇ、あんまり可愛くなりすぎてもあれかなって思ったんだけど。葉っぱとかも書いたら大丈夫になるかな」
角の一つに寄せて苺の葉を1株分描いて、黒枠で白い花を描き、大きく苺を幾つか。一部塗らずに白を残したら光っぽく白抜けして良い感じになった。
モチーフ化した苺だと本当に可愛い子供の持ち物みたいになるけど、普通に写生したからか意外と大人が持っても浮かなさそうな気がする。
あらいいじゃないですかとミナにも好評だったのでそのまま7枚とも書き上げ。
そして苺の株の陰に紛れるように小さく、チョーコ、オクティ、ニナ、ミナ、リナ、マナ、ルナとカタカナで書いた。
変な影の形してることには気付く人は気付くだろうけどテレパシーか翻訳機がなければ読めないし、どれが誰にあげたものか分からなくなっちゃうのはなんとなく気になる。
「あらまぁ……良いですわね!ではこちらも仕上げておきますわ」
ミナが全部乾かしてから木箱ごと回収し、色付けのインクと筆のセットはまた思いつくかもしれないからアイテムボックスにしまうことにした。
「ただいま帰りましたっ。天人の方々3名を午後にお招きするとお伝えしまして――もうそこにお待ちしていらっしゃいます」
あっ、きちゃった。




