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飢えないだけじゃ生きられない(日・水・更新中)  作者: なるねこ


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71/89

71.無事に宣言

苺って、好きなんだよねえ……ビジュアルの可愛さも、味も、香りも、生でもジャムでもジュースでも良いって最高だよね。

やばい。想像したら食べたくなってきちゃった。


リィコさんはずっと昔に食べたってことだけど、まだあるのかなぁ?

……あ、あるらしい。落ちものの植物で高山の奥地に。


「えっとリィコさん、おじいさんと会った山ってどの辺りなんですか?」

「遠いわよ?普通に飛んだら1日かかるわ。こんなことに竜人呼んでワイバーン貸して貰ったりもできないし」


「その絵の果物、多分なんですけど、私がすごい好きで絶対食べたいやつっぽいんですよね――あっ、ワイバーンならパリィに頼めないかなっ?!」

「向こうに連絡して聞いてみますわね」


ニナに話をつけていてもらっている間に牛の村から転送所を使って戻り。

待っていると言うので案内されるまま門外のオレンジ畑の方へ行くと、ワイバーンの背に乗ったまま待っているパリィとその隣にメイドさんがいた。


「お前ら、明日結婚宣言で祭りを開くってのに、ダンジョン踏破に行った上に食いもん見つからなかったから追加で果物探しに行くんだって?ったく……まぁ俺も連れてってくれるっつーなら喜んで着いてくけど!」

「はぁっ?!明日結婚なんて、私知らなかったわーっ?!なんで教えてくれなかったのよっ?!」

そういえばちゃんと言ってなかった。

「ご、ごめんなさい。そこまで大々的に人を呼ぶつもりなかったから忘れてて。時間は明日のお昼から商会組合近くの広場でやる予定……

でも、私もやるって聞いたのは今朝だったりするの、えっと、私のお祖母様になる人が衣装を作ってくれててね、明日仕上がりそうだから、宣言式は午後にやるって」


「もー!急に決まったのならいいけど、明日の昼からね?呼ぶつもりなかったっていっても広場でやるなら、自由に参加してもいいんでしょう?」

「う、うん」

「お祝いごとは皆でやらなきゃ!明日は私たちも行くからねっ?!」

「ありがとう」


「じゃあおじいちゃんの山まで送って貰いたいんだけど、えーっとあなた……訓練で山にいたのは知ってるわ、その可愛い髪の色は見覚えあるし」

「あぁ、パリィア・グラスだ、パリィって呼んでくれ」

優美(リィレイコー)よ、リィコって呼んで!じゃあパリィ、ちょっとワイバーンで引っ張って、よろしくね」

「へへ、美人の頼みは断れねぇな?」

「やだありがと、もうちょっとスリムで翼があったら好みかもぉ」

「あははっ、翼はどうしようもねぇや」


竜人さん達がやるようにワイバーンの後ろに下がっている輪にまとめて掴まらせてもらい、飛んでいるワイバーンを加速して山に向かう。


角度調整はリィコさんがやるので、ただ真っ直ぐ飛んでくれたらいいと。

説明している間に山の景色が流れていって辿り着いた先には、奥地とか秘境みたいな雰囲気とは真逆で、背の低い、山というより土の丘が全面新緑に覆われた風景が広がる場所だった。


「私がおじいちゃんに出会ったのはこの飛び出た白い大きな崖の所よ。棚岩にハーピーがびっしり住んでいてね、そこに居たら声をかけられたの」

パリィが白い崖の周辺をゆっくり旋回してみると、崖の中腹に一段横に飛び出している部分があり、確かにそこにはハーピーの巣がびっしり見える。


でも、人が住むような感じではない。崖から先を見回しても草に覆われたなだらかな山だけがどこまでも続いて見えるだけで、隠れるような障害物もないはず。

「んー、苺は高山の奥地に生えてる筈。でも……苺の葉はもっと濃い緑でああいう黄緑っぽい明るい色じゃないんだよねぇ。あー、もうすっかり食べたくなっちゃったのに、こんな広いところで見つかるかな」


「チョーコが探してるのは苺って果物か。好物だったのなら、なんとか探して帰りたいな」

「うん、すごく見た目も可愛いし味も香りも大好きでね。思い出したら食べたくなってきちゃって」

「つっても見える限り同じ色の葉っぱばっかりだぜ?」

「ん。――なぁパリィ、崖から離れてあの草山の方に向かってまっすぐ飛んでみてくれないか?なんか変なんだ」

「おう」


変?と言われて下を見ながら移動していくと、徐々にこちらの目にも変な光景が見えてくる。

遠いように見えていた丘の連なりは実は大きさが徐々に小さい山になっていくせいで実際より遠く見えていただけで、近かった。

その連なりの後ろには崖のように一段下がった空間があり、濃い緑の丸くギザギザな葉がひしめく広い畑が広がっていたのだ。


「え。えー……?!さっきのダンジョンといい、なにこれー!」

リィコさんが叫んだ時、崖下の岩場に直接引っ掛けられた草枯色のハンモックに、小さい人影が動いたのが見える。


地面一面畑に見えるので地面へは降りないように、ハンモックの辺りへワイバーンを寄せてもらうと、その小さい人影はくしゃくしゃにしわの多い、細くて小さい天人の男性だった。


「おじいちゃんっ?!生きてたのっ?!もー!居るんならなんで顔見せてくれなかったのよっ?!」

「おやぁ?暫く会っておらんのにまだ全然大きくなっとらんじゃないか、いや、育ちはしたかの。まぁええ、今日は迷子じゃあなさそうだ」

「いつの話しよっ!私ここへは何度も来たのに1度も顔見せてくれないなんてひどいじゃないっ!」

ズドーンと勢い良く胸に飛び込むリィコさんに、お爺さんは全く動揺もせずよしよししているだけだけど……すごい痛そうな勢いで飛び込んでたよね、今。


リィコさんが胸に埋まったまま静かになってしまってから、お爺さんはゆっくりこちらに顔を向ける。

「……はて、竜人以外でワイバーンに乗ってるもんは初めて見たなぁ。んー、こりゃ()の言葉を信じるしかあるまいかぁ。本当にエスの息吹が吹いてきたと」


「あの……初めまして!チョーコっていいます。苺を分けてもらいに来ました。あと、リィコさんが時々はお爺さんに会いたいって言ってたので、ここにテレポート出来るようになる転送盤を置かせてあげてもいいですか?」

「あぁ、あぁ、なんでも好きにすりゃあええ。お前さんの吹きゆく先を遮るものなど何もない……ふぅむ。そうかそうか、リィコ、おまえには良い風が吹いたのか」


リィコさんの再会の邪魔をしてもいけないし、許可は取ったのでふたりから離れ。畑の外側の一段高い草地にワイバーンを降ろしてもらって、オクティに抱えて飛んでもらう。

葉をかき分けてみると想像の倍は大きなサイズの真っ赤なイチゴが沢山!

木のお皿を出してとりあえず10粒ほど摘んで横を見ると、メイドさんも浮遊して苺を踏まないように丁寧に収穫していた。


確認すると、苺は無属性の地でも生えるので平地に持ち帰っても育つけど、陽が長く当たる方が甘くなるので高山の方が適しているらしい。


端の方を数株、土ごと掘り出しては布で土をこぼれないように巻いて木箱に回収させてもらう。

植えておいたら根で増えていくので、牛の村の近くとか平地にも少し植えさせてもらおうと思う。


株を回収して空いた土地に新しい転送盤を置いて、パリィがワイバーンと一緒に待っている草地へ箱と苺のお皿を持って戻った。

オクティの移動に合わせて、メイドさんもこちらへ来る。


「パリィ、おまたせー」

「おう、その箱は?」

「ここにリィコさんが来られるようにするって言ったけど、お爺さんはあんまり色んな人が出入りするのは苦手なのかなって思ったから、苺だけ少し他のところへも植え替えさせてもらおうと思って。アイテムボックスには入れられないから、このまま持ってくの」

「この苺という果物、とても美しく香りが良いですわね」

「牛乳とか生クリームに合うよ!味見してみよう。お爺さん、リィコさん、いただきまーす」


牛乳を皆に分けて、早速ひとつかぶりつく。

ちゃんと酸っぱさも残ってるけど、しっかりと甘い!

「「んー!!」」


「これは流石に私たちだけ食べたら怒られちゃうと思うし、4人分お土産も持って行こうね」

「ありがとうございます。1人を除いて食に執着はありませんけど、流石にこれは存在を知れば食べたがるでしょう」

「ここまで甘く育てるには高山じゃないと無理なんだけど、一応平地でも育つから家の庭にも植えてみようかなって思ってるの」

「それは楽しみですね」


苺を食べ終わってお土産分も……我慢できずにちょっと多めに摘ませてもらっちゃって。

もうやることは終わったのでさすがに様子を見てみようかな?とお爺さんたちの方を見て見たら、リィコさんは泣き疲れたようですっかり眠っていた。


『このままでいいですか?連れて帰りますか?』

そーっと近付いておじいさんと目を合わせて話しかける。

『おや、魚人たちと同じことをするのだね……このまま寝かせておこう。この子はもう迎えを待つだけの子供ではない。好きなところで眠り、どこへでも羽ばたいていける。お前さんの吹かす風は、この子には心地よいようだ……また気が向くままに吹いてやっておくれ』


転送盤を見せて、畑の端に置いておくとリィコさんへの伝言を頼んでから、帰路につくことにした。


――牛の村の裏手のあまり使っていなさそうな斜面にそっと3株植え、砕いた魔獣の核を根元にたっぷり撒く。

「いっぱい増えますように!」


パリィをテレポートで壁外の凍土行きの転送盤付近に送り届け、自宅の玄関へと飛んで、外に出て見回したら。

家から直接魔塔へ行ける扉へ向かう側が少し広く空いているので、そちら側の端をちょっと風と水で耕しつつ魔獣の核をたっぷり混ぜ混ぜ……そこに5株。


取って来すぎたかな?しかもまだ緑の実も残ってるのを持ってきちゃった。

いっぱいなって欲しいし。早く大きくなってくれたらいいな。


わくわくしながら家に戻ると、マナが飛んできて速攻でお風呂へ連行されたけど。……楽しみ!


***


夕飯前に寝落ちたら困るからとマッサージはなしにしてもらったおかげでしっかり元気にパスタのお皿とご対面。


麺の厚みや幅が四角く均一で、どうやったのかと思う。機械で押し出したみたい。


と、聞いたらルナがワイヤーで切りましたと言われて吹いた。

『こねて伸ばして細く切る』と聞いたけど、麺の太さがバラバラだと茹で加減に絶対ムラが出るじゃないかと悩んでたら手伝ってくれたらしい。


ルナ凄い!と褒めてから2個ずつおるすばん組に苺を配り、パスタを堪能。


ちょっと太麺だけど生麺だから芯もないし、たっぷりオリーブオイルとトマトと控えめなニンニク、薄切りの豚肉に塩コショウに唐辛子少々のシンプルな味付け。

かぼちゃと人参のマッシュサラダとカットした青リンゴに冷たい紅茶。


ふはぁー……

幸せいっぱいになりながらお皿も片付けて貰う。


今日は遂にイチゴも食べれたし、明日のお祭りも上手くいくといいなぁ。


「あぁそうだ、チョーコ。明日の打ち合わせがあるって呼ばれてるから少し出てくるよ」

「えっ?オクティだけ呼ばれてるの?」

「広場に人を集めておいて、ただ並んで宣言してキスして退場じゃ短すぎるって、ちゃんと儀礼的に色々やることにしたけど。花嫁衣装は歩き回れるようには出来てないから、俺だけ動いて色々やるらしい」

「わ、大変……」

「チョーコも折角なら皆が楽しんで帰れるような祭りがいいだろ?せっかく作って貰ったドレスがボロボロにならないように俺が動くのは全然いいよ」


「オクティ……ありがとう……」

「どのくらいになるか分からないから、先に寝てて構わないからな」

「う。横にはなるけど、頑張って起きておくもん」

「ちゃんと寝ろ。先に言っておくよ、おやすみ」


***


結局のところ。寝ました。


ううーん。新婚になってもこれだったら、パリィが言ってた寝付き良すぎて構ってくれないから寂しいって別れたみたいな状態になっちゃうんじゃないの……?!

大丈夫?私?!


……いや、きっとオクティなら多分時間をずらすとかで対処してくれそうな気がする?ま、まぁ、おいおい話し合っていけばいいことだよね。


あれ。まだ暗いし窓も開いてないけど、隣にオクティの気配が無い?

まさか帰らなかったの?

あ。手を伸ばして探ってみたらほんわり暖かいから、帰っては来たみたい。


緊張して目が覚めちゃった?

起き上がってサーチしてみると、玄関の外にいる。外の空気を吸いたくなったのかも。


寝てる気分ではなくなって、チョーコも起きて、外に出るならさすがにこのままはまずいとシンプルなワンピースを着てベッドから出た。


下に降りていこうとしたら、食堂側から出てきたメイドさんと目が合う。

「あらっ?チョーコ様まだ日の出前ですのよ?目が覚めてしまったのならお茶でもお入れしますからこちらへどうぞ」

「あ、ううん。オクティが玄関の外に出てるみたいだからちょっと様子を見に行こうかと思っただけ」


「本日は結婚宣言をされる日ですもの、改めてじっくり考えたいことだってあるかもしれませんわ。

お声を掛けずに行かれたのならひとりで行きたかったのでしょうし、お戻りになるまでそっとしておきませんこと?

新しい食材が沢山増えてミナが張り切っているおかげでお茶菓子が沢山ありますの。いかがです?」


「あ、そっか……確かに大事な日には少しひとりで考えたい時だってあるよね。うん、じゃあ少し貰おうかな。どんなのがあるの?」

「パン生地を平たく薄く伸ばして青リンゴの薄切りをたっぷり乗せてバターとシナモンと白砂糖を振って焼いたものが個人的にはいちばん美味しかったですわね。恐ろしいほどお腹に貯まりますから、小さく切って少しだけお召し上がりになるのがよろしいですわ」

「えぇなに……聞いただけで美味しそうすぎる、めちゃくちゃ太りそうだけどちょっとだけならいいよね。甘くない熱い紅茶と一緒に食べたいかも」


リナと一緒にキッチンに行ってみると、リンゴケーキは調理台でまだ布を掛けてあって作りたてっぽい。

ちょっと冷蔵庫を見てみたら、わざわざ木の棚が差し込んであって何段もお皿が見える。

開けたついでに牛乳とクリームが減ってたので補充しておいた。


「すっごいことになってた、冷蔵庫」

「でしょう。今日のパーティーで持っていく予定ですから減ると思いますけれど。これが終われば新作の開発の手は止めて、今までのもののブラッシュアップに戻るでしょうし」


お茶のお湯を沸かす隣で細くカットしたリンゴケーキも軽く温め直し、そこへホイップクリームをほんの少々。


食堂いっぱいに甘い匂いが広がるのを吸い込んで、席に着く。

ケーキのリンゴはまだ少しシャキッとした歯ごたえが残っているし、かけられた砂糖は控えめで酸味のバランスもいい。

バターの香りとシナモンの香りを楽しみながら紅茶を飲む。


あー、有名な喫茶店が丸ごと家にあるみたい。


「メイドさん達を雇ってよかったぁ」

「わたくし達もチョーコ様のところで働きたかったので、雇って頂けて本当に良かったですわよ」


「……そういえば、メイドさんたちの給料って昇給の決まりとかあるの?何も書いてなかったから最初のしか知らないけど」

「いいえ。物価が大幅に変われば見直しは行われますが、基本は変動しませんのよ。仕事ぶりに応じて主人から別途賞与を頂くくらいですわね」

「お金とか物とか?」

「はい。こちらで潤沢にお出しして頂けているこの高級食材の数々も、わたくし達が自由に食べて構わないという時点で賞与の一環ですわね。金銭に換算すると恐ろしいことになりますけれど」


「マリアン達を呼んだ時に思ったけど、私って色んな種族から色々買い込んでくるから、現金より現物支給の方が原価でいい物渡せることが多いかも」

「商会の卸売部門が動き始めましたら、基本の誰でも出来る取引を彼らに任せ、入手の難しいものをおふたりで探してくるのがよろしいでしょうね。そもそも売っていただけないものもありますもの」

「そうなの?」

「魚人は比較的友好的ですが、テレパシーの魔石と魔石版はチョーコ様専売として譲りませんし、天人は気まぐれなので、お出しいただける時とそうでない時の差が激しく。小人や魔人は気に入った人間としか取引をしないのですが。腹黒い人間というものにとても敏感で、野心の強い商人は中々好かれません。不死族は全員チョーコ様の保護下に入ることになりますので、直接の売買が出来るのは商店街のみというのが現状ですのよ」


「――卸売りを頼む2人とは、準備してるうちからちゃんと話した方が良さそう」

「はい。それはもう、しっかりとお話いただいた方が宜しいですわね」


1週間くらいで全体像のサイズ感が見えて、やりたいお店から優先して建築を始めるわけだから、手が空き次第話しておかなきゃかな。


外が明るくなってきて日が昇る頃に玄関から音がする。上へ行かずに真っ直ぐ食堂に来た。

「チョーコおはよう。起こしちゃったか、ごめんな?」

「ううん、起きたのは昨日早く寝すぎたからだし。目が覚めちゃったからリナにおやつ出してもらってたの」


「それならいいんだが。――宣言だけとはいえ、結構人が集まりそうだ。流石に緊張するな」

「あぁっ、考えると緊張しちゃうから考えないようにしてるのに。……いよいよって感じするよね」

「チョーコは殆どただ立ってて、誓いの言葉だけ言ったらいいから」

「えっと……儀礼的に色々って、なにするの?」

「それはお楽しみってことで」

「ミラルダさんたちが考えてオクティが頑張ってくれるのなら、わかった、楽しみにしてるね?」


――朝ご飯は意外にもかなりしっかり食べさせられた。昼から午後は色々な人に応対していて食べてる暇が無いかもしれないと。


そして食休みをしたら直ぐにオクティとふたりで宰相家の方へ移動。

あの大きい獣人車に今日はエリート獣人さんだけが5人とも揃えられて、獣人さん達まで頭の上に留めるシルクハットみたいな形の黒い飾り帽子と、形が燕尾服に似た裾の長いコートも首のリボンが赤く染められたものを着せられていて、めちゃくちゃ可愛くて格好いい。


男女別に分かれて支度をするらしく、メイドさんは5人全員チョーコにつき、オクティの方へは秘書さんたちがぞろぞろついて行った。


やたらと豪華で大きな鏡のあるドレスルームで立ったまま動くなと言われ、手を上げたり下げたりしてるうちに次々着付けが進み、立ったまま髪もセット。後ろはヴェールで隠れるからか、髪は下ろして横から前に垂らす形で崩れないように緩く編む。


布を重ねるデザインで身体のラインは出さないから、コルセットもしていないし、髪も詰めて結んだりしてないから長時間でも耐えられるかな。


鏡で見る全体像は思った以上にちゃんと純白のウェディングドレスでちょっとびっくりした。

後ろから見ると白一色禁止に触れないよう、一部に刺繍で黒と金の縫い取りがハッキリ入れられているのが分かるけど。それも上からヴェールをかければチラチラとしか見えない位置。


そしてドレスの着付けが終わる頃にミラルダさんが来た。

「んまぁ……黒髪に白のドレスも素敵ね。本当に美しいわよ。チョーコさん」

「ありがとうございます……こんな素敵なドレスに仕上げて貰えたのはミラルダさんのおかげですね」

「チョーコさんのデザイン画が分かりやすく描かれていたから作りやすかったわよ。本当に絵がお上手なのね?」

「嬉しいです。本当にイメージ通りの仕上がりでした」


ミラルダさんに手袋越しに手を取られて、見ると銀色の台座に風が吹くようなモチーフの模様が入った彫り込みのあるちょっと太めの指輪が手のひらに置かれていた。


「ガラテアマンダ家の者である証の指輪よ。印章としても使えるから無くさないようにね」

よく見ると小さな鏡文字でチョーコと読める。

「ありがとうございます」

試してみると親指にはやや小さい、中指ならゆとりはあるけど落ちなさそうなのでそちらにした。


式手順として、チョーコは合図があるまで獣人車で待機、合図があったらメイドさんたちが手伝って宣言をするためのふたりが立つ舞台まで移動。

あとはオクティが来るまで待って、来客の方を向いて並んで宣言と誓いのキスをしたら、舞台をおりて歓談するだけだという。


司会の人が居るので、本当に宣言以外は喋りもしなくていいらしい。


「さ、そろそろ行きますよ?」

メイドさんが畳んだヴェールを持ってきて、それをミラルダさんが手ずから被せてくれる。やや光沢のある薄い布が重なっていて外からは顔が見えないが。中からは思ったより見やすい。


たっぷり布が使われて豪華かつ、レースの範囲は少ないがきちんと全体に施されているように見える、全くみすぼらしくないドレスの仕上がりにミラルダさんも改めて満足そうに頷き、チョーコの手を引いて車まで導いていった。


獣人車は後ろの個室部分もオープンカー仕様に改造されており、座っていても胸の上くらいからは完全に見えている状態。

オクティも宰相さんに手を引かれて連れてこられ、車の後ろの席へ並んで座ると、獣人さんたちはかなりゆっくりした速度で街中をぐるっと回ってから広場に向かう。


平民街の人たちは車の後ろを面白がって徒歩で着いてきてお祝いを言いながら広場まで来た。

空を見ると既に天人さん達はひらひらと空を泳いでいるし、周りを見ると魚人さんたちもかなり見に来ている。


司会の人がオクティとチョーコの出会いのプロフィールを読み、特殊な黒髪として魔塔に生まれたオクティと、旅の中で全ての身内を亡くしたチョーコがエスの導きにより出会い、ここに夫婦となろうとしていることを話す。


その説明が終わったところで、マリアン達6人だけでなく、あまり会ったことのない色々な年代の男女が集まってハミングのような歌詞のない音の楽曲を歌い始め、先にチョーコがメイドさんたちに裾やヴェールを5人がかりでお世話されながら舞台まで歩きだす。


オクティは、立ち上がるとまず、天人さんたちが集まる方へ飛んでいった。天人さんがいくつかのグループに分かれているところを回りながら、彼らから1本ずつ色の違う花を貰って回る。

赤、青、黄、緑、橙、ピンク、紫、黒。8本全ての色を受け取ると、サニーさんがその花束に白いリボンをかけて結び。

それを持ってオクティが舞台に来て、花束を両手でチョーコに差し出した。


司会の言葉で、天人達の守る聖域の花を集めた花束でプロポーズをされると、その花の色は消えることなく、愛も消えないのだと語られる。


オクティは固まっているチョーコの目を見て微笑む。

『今朝、集めるのを手伝ってもらってたんだ、受け取ってくれる?』

『!出かけてたのは、それだったんだ?ありがと……』


花束を受け取っただけで泣きそうになるけど、泣いて宣言出来なくなったら本末転倒なのでぎゅっと口を結んで頑張った。


歌が盛り上がり、静まる。皆の方を向いて宣言。

「私たちはエスの名のもとに、ここに夫婦となることを宣言します。命の続く限り、互いを愛し尊重し、子が出来れば子も、孫が出来れば孫も愛することを誓います」


歓声に続き、誓いのキスの解説が司会によってされたあと、オクティがちょっと緊張して手が震えてるのがわかる動きでチョーコのヴェールを外し、オクティのフードはチョーコが外す。


口付けとともに再び歓声が響き、持ち込まれていたらしいチャイムやベルによる演奏が始まり。


――セレモニーが終わってほっとした所でメイドさん達と秘書さん達もきて、それぞれをエスコートして、皆を見渡せる位置に置かれた席へと座らせた後で前にテーブルを設置された。


楽器の演奏も丁度途切れ、司会の声は皆さまお待ちかねの飲食解禁、と今日提供されている料理の数々の説明に移る。

本日の主役の2人から直接提供の食材もあるが、チョーコが新しく不死族保護区にて活動するために立ち上げたコンヴィニ商会が様々な手を尽くして集めた素材の数々が使われているとか、近々、保護区に大きな商店街が開き、不死族たちとの交流も楽しめることの宣伝などもされている。


その語りをBGM代わりに、オクティとチョーコに挨拶をしたい人達が怒涛のように寄ってきて。

いの一番に飛び込んできたのは流石のリィコさんだった。


お祝いを言った後に、プロポーズの花束は絶対にアイテムボックスに入れてはいけないから、皆で手で持ってきたのよ!と話してくれる。

この花は摘まれても魔力が尽きない限りは生きていて、永遠に色褪せないから。ずっと傍に飾っておいてねと。


永遠に枯れない花のプロポーズなんて、本当に素敵だな……

大事にしよう。


その後はパリィをはじめワイバーン部隊の人たちや、会長や副会長、焼肉屋さん関係の軍人さんたち、冒険者たち、今度商会に入って働く予定なんだという人たち、魚人さんや天人さん、卸売り代表の2人は思ったよりずっと遅めに来たと思ったら、マリアン達6人が人ごみを掻き分けることができなくて遠巻きにオロオロしていたのでエスコートしてきてくれたらしい。


平民街の人達はそういった人達が終わったかなというタイミングになってからわっと来て、お祝いを言い、出されている料理をほめ、商店街が出来たら買えなくても見学だけは行くからと伝えてきた。


――ようやく挨拶が途切れた頃にはかなり時間が経っていたと思う。

メイドさんたちが一口で食べられるものと飲み物だけは並べておいてくれていたので、飲み物だけは飲んだけど。流石にちょっと疲れたし休みたい。


と思ったらパリィが芋と肉とポップコーンが山盛りに盛られた皿を手にしながら通りかかる。

「おいおい、お前らまだいんの?新婚なんだから今日はさっさと帰れよ」

「まだいるのかはないだろ。さっきまで挨拶してたんだ。っていうか、招待側って最後まで居るもんじゃないの?先に帰っちゃまずいんじゃないのか?」

「こんな出し物があれこれある事がまず珍しいんだけどさ、新婚で一番大事なのはふたりで仲良くすることだっつーの。オクティは育ちが特殊だが、普通はそういうのも結婚してからするもんだからな」


「本当に先に帰っていいのか?」

とオクティがこっちを向いたけどマナー的なことは分からないので私もメイドさんのほうを向く。

「はい。挨拶が十分に済んだと思われたら新居に向かいますわ。戻られますか?」


ちょっと見回して、追加でこちらに向かってそうな人は居ないようなので頷く。


再び司会からそれではこれより新郎新婦が新居に向かわれますと見送りのコメントがなされ、大勢の酔っぱらいの歓声に見送られながらオープンカーで家に帰ることとなったのだった――

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