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飢えないだけじゃ生きられない(日・水・更新中)  作者: なるねこ


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70.思い出の果物

報告に行くと言うパリィを見送り、折角今日は早起きして時間あるし、また新しいダンジョン探索に行っちゃおうかなぁ?という考えがちょっと頭を過ぎる。


「ねぇオクティ。大きい所は泊まり込みになっちゃうかもだから、なにも予定がない時にするとして、小さいダンジョン1つくらいなら今から行ってきちゃってもいいと思う?」

「構わないが、今日は途中で明日の打ち合わせとか、さっき見つけた新しい国に持っていく碑文を作ってくれとか連絡があるかもしれないから。俺たちだけじゃなくて、メイドに通信石持って同行して貰ったほうが良いんじゃないか?」

「そういえばまだ作ってなかったね、それなら戻ってメイドさん呼ばなきゃ」

「そもそも商会組合に行くとしか言わないで出てきたんだ。勝手に街からも出てダンジョン行ってたなんて、またミナに叱られるぞ?」

「――あっ」


「俺は離れてても場所を把握できるしテレポートも出来るから、変な所へ飛んでると思ったらすぐに様子を見に行けるが。メイドたちはそうじゃないからな。こっちから連絡してやらないと心配させる」

「うぅん……サーチって私にもできるくらいだからそんなに難しくない魔法かな?メイドさんたちにも私の魔石配っておいたらちょっとは平気?」

「サーチとマップは索敵範囲が魔力量で決まってくるから、山とかあまり遠くに飛ばれると探せなくなるかもな。――それに急な移動の時って、転送盤で繋がった所に行くより、全然関係ない所に居る方が多くないか?サーチできても近くに居ないってのが分かるだけで結局なにやってるのか様子は分からないなら心配はされるだろ」


「出来るだけ覚えてたら言うようにするけど。さっきみたいにパッと呼ばれてすぐ行く時とか、忘れちゃってる時が多いんだもん。――あっ!ねぇ?通信石って私は5個までしか作れないけど、洞窟のノーム種の人たちだったら宝石加工とか得意らしいじゃない?8は難しくても6個か7個のセットは頼んだら作って貰えるかも」

「俺も気を付けるようにはするが。まぁ……同じサイズにカットするだけなら出来るんじゃないか?」


「出来るかどうか今から聞きに行ってみーー」

「だから、まず一旦帰ってメイドに報告するぞ?」

「あ。はぁい」


ポンポンと頭を撫でられ、手を繋いで家まで帰る。と、緑髪の秘書さんが家の前に獣人車を止めて降りようとしているのが見えた。

すっかり双子秘書さんのお気に入りらしい柴犬さんが「わおーん、チョーコのあねさん!」と呼ぶ声で秘書さんもこちらに気付き、ぺこっと会釈しながら、手にした巻いた紙を掲げる。

家から出てきたメイドさんもその様子でこちらに気付き、振り返って一礼すると、秘書さんから巻いた紙を受け取っていた。


「ただいま。それって文面の打ち合わせが終わったの?」

「おかえりなさいませ。はい、なるべく早めに必要になったため、いつ頃出来上がりそうか目安を確認してくるようにと」

「とりあえず中に入って貰って――」


メイドさんから紙を受け取って、獣人車は門の中へ。ちょっと部屋で見て来るから、秘書さんにはコーヒーの感想でも聞かせて貰いながら待っててと食堂へ入って貰い。2階の書斎部屋で無地の碑文を取り出す。


寝室と内扉でも繋がっている書斎部屋は一般家庭のダイニングテーブルくらい広い重厚な机とたくさんの本棚が設置され、まだ本の類は何もないけどかなり立派な作りの部屋。

机の上に碑文を置いて、預かった巻紙を開いてみると。


我々は人族至上主義同盟に加入するものとしてこの制約を守るという書き出しで、この同盟は人族至上主義帝国を中心としており、人間族の加盟国は帝国に従うこと。加盟国の自治権は保証する。という内容の他は人族全てを尊重し、良き隣人友人として付き合っていくこと。一方的な搾取ではなく互いに益のある交易を目指し、交易網の発展発達の為に力を尽くすことといった誓いの碑文に寄せられた内容になっており。

そして条項のあとに、違反者は一時拘束され、帝国にて裁判の後、適切な措置を受けることとする。とあった。


このまま書くとどうなるか情報で見てみると、違反した直後に手足が硬直して縛られたように動けなくなり、帝国での裁判を受け終わるまで拘束が解除されないらしい。

うっかり全然人のいない所で違反して動けなくなったら飢えて死んじゃうんじゃないかと思ったけど、魔力を使えなくなるわけではないので、叫ぶとか飛行だとか周りに水を出すとか火を飛ばして合図とかは出来るみたいだし。まぁ、大丈夫かな?


オクティにも確認してから日本語で1枚書き上げる。

また予備があった方が良いんじゃないかというので最後の1枚も同じ内容を書いた。


完成した2枚を持って下へ行くと、コーヒーそのものの感想、合うお菓子合わないお菓子についてまで色々聞かれていたようで。

ミナが一口サイズの多種多様なお菓子を持ったお盆を手に凄く真剣な顔で話を聞いていて。

秘書さんはそろそろお腹いっぱいなんですけど……と困った顔で断ろうと苦心しており。

ドアが開くとはっと、助かった!みたいな顔でこちらを向いて「どうでしたか?!」と飛びつくような勢いで聞いてきた。


「これで大丈夫ですか?一応予備もあります」

「なんと!テレポートで直接移動出来るとやっぱり強いですねぇ、羨ましいです。――はい、文面も合っております。複製についてなのですが。今後加盟国が増えた場合、各国に1枚ずつ置きたい。というのは可能でしょうか?

政治に関わらない一般人はともかく、王族やその候補、影響力の強い高位貴族は全員必ず誓う義務を課すことで、先日のような事故は防げるのではないかという意見が出ているのです。勿論それは急ぎませんので、手が空いた時にお願い出来ればと」


「確かに……王様1人だけ誓って貰っても駄目でしたもんね。分かりました」

「ありがとうございます!いい報告が出来ます、助かりました」


ホクホク顔で2枚の板を持って、コーヒーとお菓子ごちそうさまでしたと笑顔で言いつつ逃げるように帰っていく後ろ姿をちょっと残念そうに眺めたミナが、他のメイドさんをチラッと見ると、皆一瞬ビクッとして目を逸らした。


「あ。試作と試食も大変だよね……研究して美味しいもの作って貰えるのはすっごく嬉しいけど、焦らなくていいし、無理はしないでね?」

「確かにあれだけの量の食材をあれこれ組み合わせて試すとなると、試食の量も物凄いことになるよな。なんなら時々本家の料理長の所にでも食材ごと持って行って料理研究をしてきても良いんじゃないか?あそこなら人は沢山いるから試食にも困らないだろ?」


「……邸の食材を持ち出してよろしいのですか?」

「あっ、アイテムボックスから出して渡してる分は好きにして!足りなくなったら言ってくれたら追加するし。使い切れなくて傷んじゃったりすると勿体ないけど、いちいち私を呼んで出し入れするのも面倒でしょ?」

「まぁ、ではそうさせて頂きますっ!明日のパーティーに出せるようなものをと色々考えておりまして」


「あ!それなんだけどね。さっき新しい食材を取りに――」

「――取りに?」

くわっと雰囲気が変わったのを感じてビクッと背筋が伸びる。


「あっ、えっと、さっき商会組合の前にパリィが戻って来ててね。調査の最後に新食材見つけた所に転送盤置いて戻ってきたっていうから、ちょっとそこから飛んで取って来ただけ」

「まぁ、そのくらいでしたらよろしいですが。――それで明日のパーティーに使えそうな新食材がありましたの?」


「うん!」

取って来たトウモロコシの粒の外し方から、大きい圧力なべでレバーは閉めずに中で破裂させてポップコーンにするやり方を説明。

それと味噌豆も出して説明すると、すっかりテンションが上がって機嫌が直ったように見えた。


「でね、オクティにも通信石を持ったメイドさんを必ず連れて歩いた方が良いって言われたけど、私けっこう忘れて1人でも行っちゃったりする時があるでしょう?今メイドさんたちに渡してる通信石、5個セットじゃなくて、6か7個のセットが作れるか試してみて、私も1つ持ったら良いのかなって思ったんだけど、どうかな?」


「仕方ありませんわね。……オクトエイド様のおっしゃる通り、必ず1人以上連れ歩いて頂くのが一番安心ですが。

まず家から外へ出る場合に必ず声をかけること。その上で通信石を持っていただき、行先が変わる場合はその場で、もし呼び出されて行き先を変えた後で気付いた時には気付いたらすぐに、それから帰りが遅くなったり外泊になりそうな時もご連絡頂けますか?」

「うん、忘れないように気をつけるね」


「おふたり共?その新しい通信石を作れるかどうか試してみるのに、早速どちらかに行かれるご予定ではございませんの?わたくしは付いて行っても宜しいのでしょうか?」

「ニナが付いてきてくれれば安心だな」

「あっ、うんお願い。よろしく!」


両手でそれぞれオクティとニナと手を繋ぎ、早速洞窟へ行って通信石の話と、使い切った誓いの碑文の板の追加注文のため、また20個ほどテレパシーの魔石の原石を追加。そしてもう一つ、属性魔石と魔石板を組み合わせてちょろちょろと水や風などを出せるというのを見せてみると。


通信石を切り分ける話と碑文の板の話はサラッと終わったのだが。

属性魔石と魔石板の話になるとドットさんが鼻息も荒く勢いよく食いついてきた。


「ぬふおぉーっ、貸せ!見せろ!」と奪い取らんばかりに手を伸ばしてきて、手にしたそれをじっくり見た後。ちょっと借りるぞ、とさっき渡したものを全部抱えて奥へ走って行ってしまう。


「えぇっと……このまま待ってたら良いのかな?」

「まぁ、しばらく待って何も反応がなかったらちょっと奥の方に声を掛けてみようか」

入口傍の既に定位置となった石の椅子が並ぶ小部屋に取り残されてしまったが。


ほんの数分すると、髭が生えていないノーム種が3人ほどタッタッと走ってきて、鉄のお盆に並んだカット済みの通信石を見せに来た。


「おう客人!ドットの旦那に頼まれたからちょいと試してみたぞ。まずこいつが6分割。こいつは簡単だからカットはタダで構わん。まぁ10個も20個も切れっつーならハーピーの一匹も持って来いって話になるがな。

次に7分割。こいつは真っすぐ切れねぇもんだからこの端っこのとこが欠け易くて難しいんだ。一個切るのにハーピー1匹だ。

最後に8分割。こいつはあんまりお勧めしねぇ、切るのは簡単だが、出来上がった石にちょいとでも傷を付けるとすぐに魔力が抜けて壊れちまうから実用品じゃねぇな。まぁやれってんならこの通り。こいつもハーピー1匹で良いぜ。どうするよ?」


「わぁ、もう出来たんですか。ありがとうございます!とりあえず切って貰った分はそのまま全部まとめてハーピー2匹で買い取りますね」

「おっ、毎度あり!」

ハーピーを2匹出して渡し、受け取った通信石をとりあえずニナに渡して。そういえば、と思いだす。


「宝飾品とか、彫刻とか、調度品とか、そういう美術品の類ってどのくらいで売ってくれたりするんです?」

「どのくらいっつーと難しいが。宝飾品なんかは大体酒の実1個か酔い水草ひと房で首飾りか腕輪1つとか指輪や耳飾り2つとか、そんくれぇかなぁ。彫刻やら家具やらは物による」

「アルコールそのままとか油とかハーピーだと?」

「こういう単純な加工の作業料とか量産品の代金としてなら受け取るが、ちゃんとした作品の買い取りならうまい酒に限る!」

「金とか銀とか宝石みたいな、人間の国で通貨に使われてるものとかだと?」

「金属や宝石はむしろ俺らんとこで掘り出して売ってんだから材料費にしかならんよ。――通貨。あぁ、同一規格で大量生産して支払いに使えるようにしたやつ!一律にしたいってんならまとめて作ってやろうか?そういう量産は得意だ。量産品ではあるが何千何万って取引なら支払いは酒で頼むぜぇ?」


ニナをちょっと振り返ると、ちょっと待ってのゼスチャーをしてからひそひそと通信石で喋り出す。


「もし頼むことになったら、どのくらいですか?」

「おっ、興味あるか?ちょっと待ってなー」


また3人が奥へ走っていく。

「サンプルと加工費用の一覧を持ち帰って検討させて頂きましょう。各国への流通を考えると膨大な量の発注と運搬が必要になりますが。同盟国間での通貨が一律になるのはかなり望ましいです」


サンプルとして持って来られたものの種類は結構沢山あった。

形が丸、長方形、三角、五角、六角の5種類から選べて、形による値段の差は特にない。

素材が石、鉄、銅は一万枚、銀は3千、金は1千、ミスリルは10枚、宝石貨は1枚でそれぞれ酒の実1つ相当と交換だという。


宝石貨というのの六角をサンプルで見せて貰ったが、500円玉くらいの小さな中にシンプルだが表にも裏にも浮彫彫刻が施され、このまま宝飾品として飾れるレベルだと思う。むしろ酒の実1つなら全然安い気がする。

石、鉄、銅、銀のコインは装飾も簡単なもの、ただし位置ずれなどが一切なくて大きさも機械のようにカッチリ揃っているので、並べれば偽造なんかはすぐ分かってしまうと思う。

金は少し豪華で、ミスリル貨は宝石貨ほどではないが白く輝く芸術的なものだった。


他の素材は安いし宝石貨はここの特産だから関係ないけど、銀と金とミスリルに関しては、素材の持ち込みで割り引いてくれるらしい。


ミスリル10枚と宝石貨1枚を桃の酒の実2つで買い取り、他の素材は形が分かるように数種類だけサンプルを貰って、一度持ち帰りで検討することに。

洞窟は転送盤が繋がっているし、取引するとなったら直接荷物持ちの天人さんを雇えばいいので、後はお任せ。


そんなことを喋っていたら、ドットさんが待たせたなー!とダッシュで戻ってきた。


とりあえず碑文用の板が10枚どんと出されたので引き取り。

「見ろ!」

と見せられた、金属の衝立というかただの地面に建てられる金属板の上の方に、金属箱にレバータイプの水道の蛇口に見えるものが取り付けられている。

ドットさんはその下にバケツを置くとレバーを下げる。するとたらーっとお湯が出て、手を放しても出続けている。


「わ、どこにも繋がってないのにお湯が出る蛇口っ?!」

「こいつはこうなっててな」

とドットさんが箱を弄ってレバーごと上蓋をポコッと外すとお湯は止まった。

説明によれば先程見たミスリルを使った合金が上蓋に仕込んであり、それが魔石板と並んだ属性魔石の両方に同時に触れることで、魔石板の魔力を使って属性魔石を起動させる仕組みになっているらしい。

箱の横側が空いていて魔石板に触れられる構造なので、魔力補充をそこからしていれば、属性魔石をずっと手で触っていなくても起動させておけるという。


「おぉ……流石だ。この金属、けっこう希少なんじゃないか?」

「そうだな、この部分の材料費だけで酒の実1つだが、お前らはお得意様だから作業料込みで酒の実1つかこの前の油の実でもいいぜ」

「実は――」


お風呂だとかマッサージだとかにお湯を使いたいが、水と火両方の属性を持っている人は少ないのでこの魔道具を使いたかったのでもうちょっと水量が欲しいと、火と水の属性魔石をその場でガシガシ作って、ザラザラある小さめの魔石板を出す。5個ずつ属性魔石を使ってみると、良い感じに蛇口からジャーっとそれなりに勢いのあるお湯が出るように出来た。


まず同じものを20個注文。

ついでに水だけのものも20個。

思いついたようにオクティが水を多く風を一つだけのもの注文したら親指の先くらいの氷の粒がザラザラ出る蛇口になったが、詰まったので形を直してもらう。

これも20個作って貰っちゃうかな?


するとドットさんがちょっと真剣な顔をして、鍛治でたまに綺麗な水が必要になることがあり、これまでは海の水をいちいち蒸留していたが、水の蛇口が何個か欲しい。

氷は単純に酒と合いそうで美味そうなので欲しいと言い出し。


魔石板の小さいのを幾つかと水の魔石と風の魔石を必要なだけと桃の酒の実10個で取引成立。


「んーっ!やっぱりドットさん達に相談してよかった!」

「そうだな。やっぱり細かい細工やからくりを頼むなら小人の洞窟が一番だろう」

「そろそろ昼だけど、小さい所なら行けそうな気がするから、ちょっと牛の村に寄ってみるね」


テレポートで牛の村に出ると、今日待っていたのはリィコさん。

「あらチョーコたち、ダンジョン探索?牛乳汲みに来たのー?この前はありがとうねーっ」

ホルターネックのワンピースで靴やストッキングもフリルが付いていたり、髪もヘアバンドで止めている。天人らしいトーガのようなシンプルな服とはだいぶ違うけれど、着慣れている感じで似合っていると思う。


「今日は小さいダンジョンの新しい所に行こうかなと思って。サニーさんは今日は居ないんですね」

「さっきダンジョンブレイクしそうなところの見回りに行ったところよ。すぐ行けるところだしちょうど小さい所だから見に行ってみるぅ?」

「行くところ決めてないので、すぐ行けるならそこに行ってみようかな?連れてって貰って良いですか」


手を繋いでと言われて繋ぐと、まとめて浮き上がったままテレポート。鮮やかな黄色の花が咲き乱れる聖域に飛んだ。

全方位山に囲まれた景色は変わらずで、花の色の違いくらいしかわからないけれど。こっちよーと手を繋いだまま飛んで行った先には山の中腹が大きく縦に割れて穴のようになっている黒っぽい岩肌の山のそば。


「前の崖にあった裂け目に似てる……」

チョーコが呟いた直後くらいに噴き出してきたのは、やっぱりスライムだった。


「あぁ、ね。あの魔獣が吹きだすダンジョンは大体入り口があんな感じになってるわ」

「――おや?リィコ。チョーコさん達を連れてきたんですか」

「見たいって言うから。ついでにダンジョン探索もしたいみたいよ?」

「ここをですか?まぁ、いいですよ。魔獣の掃除が終わったら行きましょう。ここはバナナが取れるダンジョンなので、出入りがあるところですし。リィコ、今日は村の待機番でしょう?あとは引き受けますよ」

「えぇー、いつもサニーばっかりずるい!今日は私がチョーコについてくんだから、サニーが戻ってよ」

「仕方ないですねぇ。危険物の判断だけはしっかりお願いしますよ?」

「やったぁ♪」


吹き出しが終わって魔獣を竜巻で吸い上げ、チョーコのアイテムボックスにそのまま流し込んで貰ってからサニーさんが帰っていき。リィコさんはルンルンと鼻歌を歌いながらダンジョンの中へ先行していった。


よく来ているというだけあって、やっぱりここも灯りは全部点いていて明るく。見るとすぐ分かるように、壁の蔓に見覚えのあるバナナが実っているのが見える。


「好きに見て回って~♪」

リィコさんはバナナのそばにふわっと飛んで行って、一本取ってその場でもぐもぐし始めた。

バナナの回収はいつも通り2階以降にするとして、他のものはなにかなーと見て回ってみたら。

石鹸草の香りがフローラルなタイプを発見。これは見て触ってすぐ全回収を決めた。


情報によると石鹸草というものの香りは多種多様でダンジョンの中にも何種類か生えているらしい。不死族が作れるハーブの一種でもあるけど、不死族が作ると何らかの薬効が付いてきて、ダンジョン産とは違うものになるそう。


ちょっとチクチクする赤黒い棘のある草。そのまま『棘草』と出るが、煮出すと苦酸っぱい茶色い汁が取れて、かなり強い解毒剤の原料になる薬草らしい。処理の方法が良く分からないし、これは不死族行きかな。


もう一つが『眠り草』その名の通り睡眠薬の材料になるらしい。そのまま食べると激しく苦くて逆に目が覚めるけど、暫くすると寝落ちて数時間は熟睡するとか。

オクティに見て貰った感じ、食べ過ぎると酷い下痢をするくらいで、特に常習性とか寝っぱなしになるとかそういうことはなさそうなので、薬の材料ということで一応回収して不死族行き。


3層目まで降りたところで、もうその先に階段はないのだけど、これまでと同じ構造で同じ作物だけ。

「これで最後ですか?最下層まで全部全く同じ構造で終わりって……珍しいような」

「そうねぇ。ここ以外ではあまり見たことがないけれど、でもこの下におりる階段はないみたいなのよ」


収穫を終えて周りを見回していたオクティが、奥の方の壁の隅を指さす。

「そこに隙間が見えるな……この下まで魔力の流れも続いているし、ここは最下層じゃないみたいだぞ」


「隙間?――あっ!」


まるでだまし絵のようだけれど土壁と土の床の色が同じせいだ、壁の一部が変に途切れていて、奥へ抜けられるように二重壁の部分があった。

奥を見ると更に下へ降りられる。

「こんなところがあったなんて、私も知らなかったわぁ……」


一層下はまだ同じ構造だったけれど、その更に下は凄い広かった。

「あれ、なにもない?」

全面土の床、壁も土。切り株みたいなものもなし、ダンジョンブレイク直後で魔獣の一匹も居ないので本当に空っぽに見える部屋だけど、オクティは見回してから部屋の奥の方へ進んでいくのでついていった。


「力はこっちに流れて……この下に向かってるな。また何か埋まってるような感じだ」

歩いて近寄ると、ふかっとした土の感触から、そこに近付くにつれて硬く何かの上を歩いてる感じがしてくる。

「この辺からずっと埋まってる?かなり大きいのかな」


「何か大きいものが埋まってるのぉ?ちょっと掘ってみようかしら」

一旦その場を退いてリィコさんが天井に届きそうなサイズの竜巻を出して床の土を巻き取っていくと、見えてきたのは白っぽい光を放つ明るいオレンジ色の結晶体というか、金属?金とは違って少し透明感があるし、結晶そのものが弱く光っている。

1つ1つは水晶のような柱状の結晶だけれど大小さまざま。奥に行くにつれて沢山積み重なっていて、小さいものでもビアジョッキくらい、大きいものは大玉スイカを並べたくらいの、鉱石の結晶としてはあまり見たことないくらいのサイズ。


風を消して貰ってから近寄ってぺたりと触れてみる。

『オリハルコン』

おっと、ミスリルに続いてなんだかとってもファンタジーな金属が出てきた。

ミスリルは希少性が高く、魔力と親和性が高く、耐久性審美性共に優れた金属として小人に人気があるものだが、オリハルコンはさらに希少性が高く、魔力を保持する性質があり、加工がとても難しい代わりに様々な魔道具の基として使うことが出来る。


平たく言えば魔石板よりも小さいサイズでたくさんの魔力を貯められる性質がある希少金属で、小人の技術を使えば魔石板の代わりにオリハルコンを使ってもっと小型の転送盤や逆に大量に飛ばすことが出来る大型転送盤や、腕輪型翻訳機とか色んなものを作ることができるということ。


「あっ、この金属欲しいかも……オリハルコンだって」

「魔石板の代わりになるのか。転送盤とかは作りやすくなるかもな」

「悪用しないなら持ってって大丈夫よ。チョーコだし!」

「ありがとう!珍しい金属みたいだからあんまり外に流さないようにはするけど。貰っていくね」

アイテムボックスを開けて、リィコさんがすぽぽぽっと地面の結晶をそこへ流し込んでいってくれる。


「えーでも。折角チョーコとダンジョン回れたのに、あたらしい食べ物には出会えなかったぁ、残念」

「あはは……そういえば、リィコさん個人用の転送盤欲しいって言ってたけど、何に使いたかったんですか?」

「ん?おじいちゃんの家に直通にして、いつでも行けるようにしようと思ったのよ?」

「お爺さん?」

「ちっちゃい頃にお世話になったんだけどねぇ、すっごい人嫌いみたいで、聖域もダンジョンも拠点も何にもない所にハーピーたちを沢山飼いながら住んでる変わり者のおじいちゃんだったのよね。会ったのはまだテレポートがうまく出来ないくらい子供の頃だからもうずいぶん前だけど、皆からはぐれて迷子になったら、ハーピーに捕まって、どこかに連れ去られて、牛の村の長老よりもっとおじいちゃんの所へ連れてこられたのよ」

「人さらい……?」


「あぁ、そのハーピーが子供好きだっただけみたいよ。どっからきたんだ、はよう帰りなさいって迷惑そうだったけど、帰り道が分からないって泣いたら、見たことない果物くれて落ち着くまで置いておいてくれて、探しに来た大人に声を飛ばして迎えに来て貰ったのよね」


「見たことない果物……それが実るダンジョンの傍に住んでるわけじゃないんですよね?」

「さぁ、それもわからないの。あれ以来探してみたけどおじいちゃんには会えてないし。その果物も見たことないわ。迎えに来てた大人とかに聞いて何回か見に行ったけど、そこには住めそうな家も見つからなかった」


「思い出の場所に遊びに行くために転送盤を使いたかったんですか……」

「どこからもテレポートで行けない所だから、行こうと思うと遠いのよねぇ。でもそんなにしょっちゅう入り浸りたいわけじゃないから別にいいわ。あの場所に居ないことはもう確認してるし」


ちなみにどういう果物を貰ったか覚えていますかと、紙と万年筆を出して書いて貰う。


――これは、苺?!

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