69.明日?!
持ち帰った食材の使い道などをミナに説明し終えたら夕飯は先に用意して貰っていたもので軽く済ませ。
その日の夜はまだ明るいうちからお風呂にゆうっっっくり浸かってマナのお世話を受けたんだけれど。
その時に出して欲しいと言われたのがブルーのローションタイプのペイントボール。
何に使うのかと思えばマッサージの時に滑りをよくすることで、強く力を籠めて擦っても摩擦がなく肌荒れが起きにくくなるんだそうで。不死族に渡すときもピンクとブルーはマッサージ店で重宝されると思います。と言って実際に使ってマッサージをして貰う。
いつも凄いけど、今まではあまり強くし過ぎないよう手加減してたんだ……
そして最後に石鹸で綺麗に洗ってお風呂にのんびりと浸かりながら髪艶草を早速塗り込まれて頭皮もマッサージ。
――頭もマッサージされると気持ちいいんだぁ。と思っていた記憶を最後に寝落ちてた。
しっかりとネグリジェを着て髪も横にゆるく結われ、オクティに抱き枕にされたまま目が覚め。
パチパチと瞬きをするけどまだ暗い。
……と思ったら、窓をそうっと開ける微かな物音が聞こえ、ほんの少し薄明るさを感じた。ということは日の出直後くらい?
「チョーコ、おはよう?」
メイドさんが去ったすぐ後に、耳元に小さく囁かれてちょっとくすぐったい。
「オクティおはよ、ふふ」
「昨日のマナのマッサージは気合が入ってたみたいだな?」
「うんすっごく。ペイントボールのローションがマッサージに使えるっていうから、試しにやって貰ったの。凄くいいみたい」
「不死族たちもマッサージ店で働きたいって声が結構多く聞こえたし、その使い方は早めに教えておくと良いかもな、と思ったが……お湯、使えるのか?流石に洗い落とすとなると冷水じゃ厳しいだろう」
「人間が手を入れても熱くないくらいのお湯なら大丈夫って。――ん。お湯を作れる方法?なんか今、魔石と魔石板でいけそうな気がした……」
「うん?」
「火の魔力だけの魔石と、水の魔力だけの魔石って、そのままだと効果がないんだけど。魔石板に並べてくっ付けておいて、魔石板の方に魔力を込めておくと、魔石の部分に触った時に魔石板の魔力を使って水が出たり、温めたり出来るみたいなの」
「……それ、試してみるか。無属性でも魔石板に魔力を籠めることはチョーコの無属性の魔石が作れたから出来るはずだし。魔道具が作れれば不死族たちにはかなり便利かもしれないな」
「それが出来たら天人さんでも水とかお湯が使えるようになったり、魚人さんでも火を通したものが食べられるようになったりするね?」
「水はともかく、火は煮炊き出来るほど強い火が出るのかにもよるぞ」
ちょっと試しに魔石板の小さいのと魔石を出して、火の魔石だけ作って貼り付けてみた後、魔力を充填。
念のためオクティと一緒にベッドからは出ると、石の壁に近い所でオクティがそれを浮かせたまま、そうっと火の魔石に触れるが。チョーコの目には特にも何も起きてなさそうに見える。
「あー、なるほど。これはちゃんと小人とかに依頼して使える形にして貰う方が良いかもな」
オクティが説明の為に風の魔石や水の魔石と桶を用意して、貼り付けた後に桶の上で石の横側を手で持って、水に触れると、板の裏側からタラタラと水道をちょっとだけ捻って細く出したくらいの速度で水が桶に出始める。
火と水を同時に触れると手で触るとちょっと熱めのお風呂くらいのお湯が同じような速度で落ち、風と火を触るとふわーっと勢いは弱いがしっかり熱風が吹き、水と風を触るとずっと当たっていたら手が痺れそうな冷たい風が弱く出る。
「こんな感じで風や水は分かりやすいんだが。火だけだとその場に熱気が溜まるだけで特に何も起きてないように見える。ただ、ずっと触ってると温度が上がり続けるから、うっかりそこに手を突っ込むと見えない熱の塊で火傷をするかもしれないし、溜まっているところに水や風を入れると一気に過熱されてやっぱり危ないな」
「必ず同時に触るか水だけで触るように使い方を説明するしかないかなぁ。あと……ちょっと勢いが弱いって言うか、これだとコップ1杯水汲むのにも大変そうだよね」
もう一度検索してみると、魔石板のサイズを増やすと全体の使える量が増えて、属性魔石の方を増やせば、出力も増えるみたい。
ただ。幾らおはじきサイズとはいえ、並べて同時に触れる数には限りがあると思う。
たくさん並べた上で火だけ触ってしまったりしたら事故の元だし、なんか使いやすくする工夫が必要だよね……
ああでもないこうでもないと言っていたら、ノックの音がして朝食に呼ばれたので。一旦それは片づけて下に行くことにした。
下から……パンの匂いがする?!
「えっうそ、パンの匂い!」
急いで食堂に向かうと、ミナがおはようございます!と、むふーっと効果音が付いていそうな自信ありげな笑顔を見せてきた。
テーブルにはカンパーニュみたいなちょっと表面硬そうな感じだけど、握りこぶしよりちょっと大きいくらいの丸っこいパンが幾つか籠に積んである!
その隣には一口大にカットしたチーズの皿とオレンジジャムの壺。
「組合で小麦を納品する際に報告された使い方の中にパンがありましたのでずっと気になっていたのですわ!丁度卵をお持ち頂いて、バター、牛乳、砂糖、塩、風の石、全て揃いましたから試してみましたの!」
それぞれの席には、葉野菜とトマトと茹でて潰したジャガイモにドレッシングをかけたサラダと、細ネギを添えた人参とツチノコ肉のソテー、カットした桃とメロン、コーヒー。
「ほんと凄い!凄すぎるよぉ……!」
早速パンを一つ手に取って千切って味見、ほぼ記憶と遜色ないくらいのフランスパンっぽい硬くてもちもちした歯ごたえ。塩と砂糖もちゃんと入ってるのか、凄く風味もしっかりついているし、チーズともジャムとも合う。
コーヒーは粉で用意してあり、飲み方はお好みでというので、普通に入れて砂糖とミルクを持ってきて貰う。オクティが俺の分も作ってと言うので同じように作ってあげたらパンじゃなくてコーヒーばかり何杯かおかわり。
パンは何もつけずにおかずと一緒に一つ食べ、オレンジジャムとチーズで半分ずつ、まぁまぁ大きいサイズを2つ食べたら朝からお腹がいっぱいになってしまってちょっと苦しいけど。
パンとコーヒーが付いてる朝ごはんは本当に嬉しい。
「はぅぅ、美味しかった……ミナ天才。食べ過ぎて動けない」
「うふふ。作り甲斐がありましたわぁ♪」
テーブルの上を片付け、コーヒーセットはカップだけ新しいものに取り換えられる。
「すごい完成度だったし、もうこのパンだけで普通にお店出せるよね」
「ありがとうございます。夜はパスタの方にも挑戦してみますから、楽しみにしていてくださいね」
「うわぁ楽しみっ!あー、食べ過ぎて太っちゃわないかな……」
「俺と比べてもそんなに食べてないと思うけど?食べ過ぎはパリィみたいなのを言うんじゃないか」
「あは、確かにパリィとか身体を動かす人たちはすっごく食べるよねぇ。……そういえばワイバーン部隊で色々調べたりって今はどうなったのかな?パリィが暇なら、色々手に入ったしまた新しい食べ物持って行ってあげようかと思ったんだけど」
リナがワイバーン部隊ですか、と思い出す素振りをする。
「確かまだ……凍土の先の地を調査に行っている最中で戻ってはいないはずですわ。あそこは徒歩では通れませんので、パリィア様が所属しているワイバーン第一部隊が凍土上空からの調査、地図作成および越えた先に転送盤を幾つか設置してくる任務を受けております。第二部隊は川向こうの分地を見つけたのもそうですし、メイジア国方面の新規開拓で順調に進んでいると聞いておりますわね」
「そっか、凍土が完全に横断してるから歩いては抜けられないし、ワイバーン部隊が行くしかないよね。明日から遠征って言ってたのって高山のダンジョンに行く前だったから……あれ?もう何日か経ってると思うけど、まだ戻ってないんだ?」
「徒歩より早いとはいえ、天人の方々を連れているわけではありませんし、転送盤のおかげで遠征隊もワイバーン部隊も夜寝る時は帰っているそうです。それに予定では今日か明日には終わるはずですわ」
「そうなんだ!飛んで移動してるならそうそう事故はないと思うけど、良い報告があるといいね」
コツコツ、とドア越しで小さいがノックの音っぽいものが聞こえた気がした。
「あれ、誰かきた?」
「――ん。第一秘書と末弟、かな」
すぐにニナが食堂に呼びに来る。
「本家の秘書たちがオクトエイド様を訪ねて参りました。こちらにお呼びしてよろしいでしょうか?」
「俺に?何の話か知らないが、チョーコも一緒に聞いておくか?」
「うん、席外してくれって言われなければ聞こうかな。コーヒーのカップも2人分追加お願い」
コーヒーのカップが届いたところでドアが開き。ニナに連れられてきた二人は、入室してドアが閉まった所でこちらを向いて並んで立つ。第一秘書さんはぴしっとこちらを真っすぐに向いているけど、1人は同じ髪色ではあるものの、泣くほど叱られた後みたいなものすごく気まずそうでぶすっとした顔のまま視線を逸らし、全然こっちを見ない。
「チョーコ様、朝から失礼致します。オクトエイド様、大変申し訳ございません」
末っ子さんっぽい人の方は相変わらずこちらから目を逸らしていたけれど、第一秘書さんが頭を下げたのを横目で一瞬見ると、すぐに秘書さんよりもっと深く頭を下げた。
「申し訳ございません……わたくしがオクトエイド様にお借りしたものは、事件が解決次第すぐにお返しするようにというお申し付けでしたが。返すのが遅くなりました」
「何か事情があるのなら聞くから、その席に座って貰っていいか?」
びくっとして、末っ子さんは頭を上げないが。秘書さんの方は顔を上げ、小さくはぁとため息をつく。
「座って、きちんと目を見て、自分で話しなさい」
「……はい」
余計にビクビクして、濡れた猫みたいにぺしょっとした顔で、秘書さんと共に席について、目を泳がせまくりつつ、でも目を見ろと言われたからかチラチラと時々目を合わせてくる。
ぽそぽそと伝わってくる言葉を繋げると。
『尋問時に隠せない本音をスルスル聞き出せるのが楽しすぎてやめられなかった』
らしい。
机の下で見えないが、たぶん隣で秘書さんが小突いたんだと思う。
「……全部聞こえるのが楽しくて、つい、他の仕事でも使ってしまって。返すのが遅くなりました」
すぐに目を逸らしてしまうが、時々ハッとしたように目を合わせてくるので、ちょいちょい秘書さんが突ついているようだ。
すみません、と掠れるような声で呟きながら、箱に入れた石を押し出してくるのをオクティが受け取って確認し、脇に置いた。
「遅れたと言っても数日だし。今返して貰ったから今回はそれで構わない」
「う、埋め合わせをさせてください!何か仕事を受けさせて欲しいです」
目を見て伝わってくることによれば、埋め合わせしないと秘書さんからお仕置きされるらしい?
「チョーコ、何かあるか?」
「うーん……」
メイドさんたち優秀だから、手が足りないってこともないしなぁ。と思いつつ。
返還も終わったし、2人にコーヒーを作る。秘書さんはオレンジジャム入れた紅茶とか好きみたいだし甘い方がいいかもと、ちゃんと砂糖とミルクも入れて二人の前に置いた。
「これは?」
「昨日ダンジョンで見つかったコーヒーっていう飲み物です。折角なので感想貰おうかと、飲んで正直にお願いします」
「「……頂きます」」
「おぉ、快い苦みでミルクと砂糖にとても合いますね。香りも良いし頭もスッキリする感じがします」
「わたくしは……砂糖抜きでミルクだけの方が好きかもしれません。徹夜明けなど、眠気がある時に飲むと目が覚めそうな味がします」
素直に感想を言いつつも、チラチラと、何か仕事を貰えるかどうか不安そうな思考が目を合わせるたびに伝わってくる。
「末っ子さんが得意なのは尋問とかって聞きましたけど、他には何が得意なんですか?」
「得意……何でも出来ますし、何でもやります。尋問は好きなだけです」
なるべく目を合わせて話そうとしているので聞こえてくる中に。『この人、本当に俺が末っ子ってことまで明かしているほど兄さんに気に入られているのか』と、なにやら妙に嫉妬じみた感情が流れてきた。
うん?と思ってじっと見ていると。どうやらお仕置きが嫌で埋め合わせさせて欲しいわけじゃなく、不手際で秘書さんに叱られたり、失望されたり、埋め合わせが出来ずに見限られてしまうかもしれないことが怖くて仕方ないらしい。
「秘書さんは見限っても良いと思ってるような相手の為にわざわざ付き添って一緒に謝ったりしませんよ?そんなに暇人じゃないと思いますし……」
「っ!っぁ、そ……『なんでここで言うんですか?!』」
「新しい力が使えるようになって調子乗っちゃうくらいは、まぁあると思いますし。今回は特に他に被害が出たり誰かに迷惑かけるようなことにもなってないですよね?埋め合わせはそもそも必要ないかなって。……今後危ない所に潜入捜査とかでメイドさんを行かせたくない時に頼めばいいのかな?って考えても、危なかったら多分私たちだけで直接行って済ませちゃうから。思いつかなくて」
「俺も言った通り、少々遅れた程度だし今回はこれで構わない」
末っ子さんはこちらの話を聞いているあいだずっと口をパクパクさせながら、終わりだ――みたいな感情や、兄さんの前でバラすなんてとか、この先どんな顔してればいいのかとか、え、なにも埋め合わせしなくていい?でもそれで兄さんの心象はとか、一気にいろんな考えがぐるぐる回っているようでどんどん顔色が悪くなっていった。
ふ、と秘書さんは困ったように眉を下げる。
「おふたりが相手となりますと、金銭や物品の類は溢れるほどお持ちで、戦力や人脈もあり。個人で埋め合わせが出来るようなものがございません。正直わたくしにも素直に謝罪するくらいしか思い当たりませんでした」
「そうですね、このくらいのことなら素直に謝って貰えばそれでいいですよ」
ようやく末っ子さんが覚悟を決めたようにそうっと秘書さんの方を真っ青な顔で振り返って目を合わせると。
秘書さんがちょっと苦笑気味に微笑んで、片手を伸ばして頭をポンと撫でる。
「わたくしとしてはそれなりに末弟はよく可愛がっているつもりでしたし、一緒に謝るくらいは当然なのですが。あまり伝わっていなかったようですねぇ」
ぶわ、と末っ子さんの目に涙が浮かぶのが見えた。
「うっ……調子に乗って巻き込んで謝らせて、すみません、でした……ぐずっ」
「こら。もう少し人前では態度を取り繕えるように訓練しなさい」
ハンカチを末っ子さんに渡しつつ困った顔だが、あまり見たことないくらい優しい目をしてると思う。
「秘書さんがそんなに表情変わるの珍しいので、結構わかりやすいと思いますけどね……伝わらないのはちゃんと顔見て話さないから、かも?」
「では今日からお仕置き代わりにそこを訓練することにしましょう。――あ、ミラルダ様からご伝言で。『ドレスは明日までには仕上がりそうよ。明日の午後、丸ごと空けられるか聞いておいて貰える?』とのことですが、明日の午後は御予定いかがでしょうか?」
「明日っ?!えーと……はい。あいてます?」
オクティとメイドさんたちの顔を見回すと、空いていると頷かれる。
「大丈夫そうなら明日の午後に結婚宣言の祭りを広場でやりましょう、とのことです。商会組合長が会場の手配、料理に関しては本人が用意したいものがあると聞いているので、服飾関係だけしか手を出さない予定だけれど、必要なことがあれば何でも言うようにとおっしゃっておられました」
「あっ、やっぱり話が早いですね……わかりました。逆に私たちから皆さんに何かやらないといけないこととかあるんですか?」
「いいえ?急な話ですから、お知り合いの招待漏れがないよう気を付けることくらいでしょうか」
「そうだ、平民街の人たちにも声かけておかなきゃ」
「マリアンヌ様達や平民街の方々へは、わたくし達が伝えに行って参りますわ」
「ありがとう。後は、料理はミナがいるし……あれ、私がやることってもうない?」
「準備も万全なようで何よりです。予定通り明日で良いとミラルダ様にお伝え致しますね」
――秘書さんたちは重ねて頭を下げつつ帰っていった。
ミナが料理研究の為にキッチンへ籠り、あとの4人は分散して伝言やらに回るというので、折角朝から起きてて時間も空いているのだからどこか探索に行こうかなと思ったところで。明日の会場の準備は商会組合長がするというのを思い出し。
「昨日の報告の続きもあるから商会組合まで行ってくるね」とキッチンへ声をかけて、オクティと2人でそのまま出かけることにした。
すると広場で「おーいオクティ!チョーコ!」と声を掛けながら組合の建物の方へ走ってくるパリィの姿。
「お?おはよう」
「あれ、パリィおはよう。遠征から戻ってきたの?」
「おうっ、たった今転送盤を置いてそこから飛んできた所なんだがよ。えーっと……まずこっちから話すか。見たことねーもんが生えてるのを見つけたからそこに転送盤置いて取って来たんで、中で話そう」
肩に担いだ袋を示して、商会組合の中へ先に入っていくのを追って2人がカウンターへ行くと、奥に呼ばれていつものように組合長が話を聞きに来た。
「おっ?今日は珍しい組み合わせだな」
「私は昨日ダンジョンから届いた品物、前半しか報告してなかったので後半の報告をしに来たら、そこで遠征先で珍しい植物を見つけたっていうパリィに会ったので一緒に来たんです」
「俺は凍土調査の最後に見たことないものがあったので持ってきたんだ」
「よし分かった、んじゃまず報告の続きから順番によろしくな!」
素材の説明をしつつ、たくさん入っているココア、うどん粉、パスタ粉、コーヒー、白桃、アロエ、細ネギは3箱ずつ納品。酒の実と髪艶草は1箱だけ納品、レジアナ草は見せるけど加工が難しいからそのまま引き取って不死族に回すことを説明。
満足そうに組合長がニコニコしながら次はパリィの方を頼むと促した。
「持ってきたのはこいつだが、見て貰っていいか?」
担いでいた袋から出てきたのは、ものすごくトウモロコシに見えるものが、根っこごと丸ごと上から下まで3本。
そして、同じく根っこごと丸ごと持って来られている形容しがたい、見たことのない形の植物がやはり3株。根からすぐ、茎と呼ぶにはぐにゃぐにゃした長い蔓のようなものが一本だけ生え。その蔓に根元から先端まで一列に、ソラマメにも負けないサイズまで巨大化した小豆のような赤や茶色っぽい豆がずらーっと並んでいる。根本側が若く先端側が熟しているように見えるので、徐々に下から新しい若い豆が増えていくのかもしれない。
「こっちはトウモロコシ……と、これは、なんだろ?」
触ってみたら『味噌豆』と出た。
根元の薄い色の豆は白味噌っぽく、段々赤味噌から茶色い味噌に変わって行き、黒々とした豆の中身は醤油だという。
「わっ、味噌と……醤油きたー!」
豆の色で中身は大体区別がつくこと、しょっぱい系の調味料で、独特の風味があり、使い方はほぼ塩だと味噌豆の説明をして、トウモロコシの方を見る。
硬い粒で火をかけると弾けるポップコーン品種だった。
「ポップコーン作れる!わぁ、こっちもお祭りが明日だしいっぱい欲しいかも!」
隣で一緒に見ていたオクティが、少し面白そうに声を上げる。
「へぇ。この植物はどちらも、太陽の光を浴びて自力で魔力を少しずつ生成して溜め込む性質があって。凍土に近い土地でも比較的育ちやすいし。この植物が沢山育っていると凍土化も少し遅らせられるらしいぞ」
「あぁ、そういうことか!凍土の向こう側の普通の土地に近付いた辺りにあったんだけどよ。周りの木はまだ全部枯れてんのに、この2種類だけわっさわっさ生えまくってたからよく目立ってて見つけられたんだ。それに、凍土の近くはワイバーンが嫌がって降りたがらないんだが、これが生えまくってる辺りだけは素直に降りたしな」
「わぁ、たくさん生えてるなら後で取りに行っちゃおうかな。ポップコーンも明日の結婚宣言のお祭りで出したら盛り上がりそうだし!」
「はっ?!お前ら結婚宣言明日すんの?!急だな」
「ミラルダさんが衣装づくりが終わりそうだから、明日の午後にやるってさっき連絡来たの」
「おうなるほど、あの人ならなんか納得だわ。帰還した次の日は一日休めるから明日なら俺も出られるぜ。おめでとうな!」
「「ありがとう」」
「こっちにも話は聞いてるぜ。嬢ちゃんたちの結婚宣言の時は会場手配も司会もさせて貰うって約束したからな、明日の午後は広場を貸し切りにして準備してやるよ。楽しみにしてな!嬢ちゃんの方で色々料理を準備するってことだが、作り方さえ教えてくれりゃあこっちで人手も出せるからな」
「料理関係は……じゃあ後でメイドさんに打ち合わせに行って貰いますね」
「おう!わざわざありがとな」
「んでさ、チョーコに相談なんだが、転送盤置いてワイバーン連れてこっちへ飛ぼうとしたら、重くて無理だってんで俺だけ来たんだよ。ちょっと一緒にあいつを迎えに来てくんねえ?」
「あ?!うん、分かった。トウモロコシと味噌豆も欲しいしすぐ行こう。――じゃあ組合長さん明日よろしくお願いします」
パリィと共に壁外に置かれた転送盤を通って向こうへ着くと、木がある所まで連れて行って繋いであったのだが、どうもその辺りはまだ魔獣が湧かなくて亜人も近付かなくて食べ物が寄って来なかったらしく、ちょっと悲しそうな顔でクエークエーと激しく鳴いているワイバーンが居た。お腹空いたのに何も肉が来ない!繋がれてて食べに行けない!と若干キレ気味になっているようだ。
「しまった、ここじゃ繋ぐにはダメだったか。もっと凍土から離れたとこへ連れてかねーと」
「あ、丁度ハーピーがいっぱい届いてたからすぐあげられるよ」
パリィと一緒に近寄って、ほらごはんいっぱい持ってきたよ!と目の前にハーピーをちょっと多めに出してあげたら、お腹いっぱい食べてコロッと機嫌が直ったらしい。
情報を見て確認したところ。どうやらパリィもパリィのワイバーンも体格がいいため、パリィのコンビは合計すると制限重量を若干越えてしまっているようだ。
転送盤の飛べる容量を増やすなら転送盤に魔石板を追加してくっ付ければいいだけだけど。他全部増やすのは大変だからこれだけパリィ専用の板になる。
「そういうことかぁ、他の奴らは普通に飛べたのに変だなと思ったんだ」
「テレポートでまとめて飛ばすなら重さ関係ないから声かけてくれたら良いけど、遠征の途中でちょっと転送盤置いて帰って来てこっちで休憩とかは専用のじゃないと無理ってことだから……作る?片方自宅とかに置いておいて、途中で休憩するためだけに使う感じになるけど」
「頼んで良いなら頼みてぇかなぁ……夜は一時帰宅で休んでいいし、補充のための天人まで雇われてんだけど、俺だけ飛べねぇから野宿するしかなくてさ」
「うわぁ。お疲れ様……じゃあ新しいの一組そのまま専用で作っちゃうね」
といっても組み立てはほぼオクティに頼むのだけど。魔石板を2枚ずつ使って、二枚の板を砕いた核と圧縮で接着すれば普通より倍分厚い転送盤の完成。普通の体格のワイバーン乗りが2人まとめて飛べるサイズなら何でも担いだまま飛べるはず。
そしてトウモロコシと味噌豆は全部取ったらいけないので、半分くらい。ついでにテレポートの目印もつけておいた。
「2人とも、折角だしこいつの背中に乗ってみるか?」
「浮かんで引っ張って貰うんじゃなくて直接乗って良いのか?」
「3人で乗っても重くない?」
「たくさん乗ると早く腹が減るだけで、一度に運んで飛べる量はかなりのもんだぞ」
先へ進むのなら転送盤はもう少し先まで運んでおくかと。その場でもう1組新しいのを組んで味噌豆とトウモロコシの近くにセットして、置いていた方は回収してもっと先まで運ぶことにした。
パリィの言う通り3人乗ったところで重そうな様子は一切なく、勢いよく飛び立って斜めに高度を上げていく……
生成りや茶色しか見えない森の光景の中、チラチラと赤いものが木の隙間に見えた気がした。
「あれ、あの先のところ、木と違う色が見えるよね?」
「本当だ。街があるな」
「――お、マジじゃん。じゃああの近くまで転送盤を運んでから帰るか!」
バサリと翼をはためかせ、そちらへ向かわせる。
近付いてみればそこは間違いなくかなり堅牢そうな城壁に囲まれ、壁の上には赤い旗がぐるりとはためいている立派な城塞都市がある。
いきなり突っ込んでも政治的な話し合いが出来るメンバーではないし。今回は街がハッキリ見える所まで近付いたら森におりて、木陰に転送盤を置く。
「よっし、んじゃ一旦帰って報告だ!」




