65.サラとカリナと事件勃発
「皆良いわね、幸せで」
「あら?どうしたのよカリナ、貴女だって格好いい人見つけたからお父さまに見せてやったわなんて前に言ってたじゃない?」
「それが……お父さまがどうしても駄目だっていうの」
「うぅん。私も彼はちょっと、止めておいた方が良いと思うの」
「サラはマシューに選んでもらえたからそんなこと言えるのよっ!」
「そういうつもりじゃなくって……」
ケンカが始まりそうなので皆で宥めて話を聞く。
カリナの彼は聞いた通り、癇癪を起こして街へ家出したけど、人の多い所じゃないと怖いから商会組合近くのベンチに居たら話しかけてきた青年。歳は14のカリナに対して21。平民なのでサラの婚約者のマシューが23でもまだ16くらいにしか見えないのと比べると完全に成人済みの見た目らしい。でもどちらかというと可愛さのある甘い顔立ちで、家出でむしゃくしゃしていて色々と愚痴ったのをかなり親身に話を聞いてくれる包容力もあるし、音楽は好きだと言ってカリナの歌をすごく褒めてくれる。
サラが遠慮がちに説明を補足してくれたのを聞くと。どうも彼はちょいちょい高い買い物をねだってくるらしく。お金持ちのお嬢様のカリナを射止めたら安泰だと思って優しく接しているだけの気がしてならない。
父親も、娘を任せるにはちょっとと渋っているという。
リリアンが顎に手を当ててちょっと思案顔になる。
「彼、平民なのよねぇ?下品な話だけどお仕事は?」
「前は木を育てて粉とか材木を取っていたらしいけど、最近は黒砂糖茶屋で給仕をしてるの。制服姿も格好よくって凄く人気があるのよ!」
「女の子のお客さんにあちこちいい顔してたりしない……?」
「それは仕事だもの、愛想良くお喋りくらいしたっていいでしょ?ちゃんと2人の時は本当に好きなのは君だけだって言ってくれてるもん!」
えぇ、黒砂糖茶屋って庶民向けの酒場?顔はイケメンで女の子に愛想良くて大人気、でもカリナには好きなのは君だけって言う、カリナに高い買い物をねだる。聞いているだけだと溢れるホスト臭を感じるよね……
「カリナのお父さんが反対しているっていうのはなんでなの?」
「まず平民の上に年上、黒砂糖茶屋で調理じゃなく給仕だけだと手に職がない、デートで私の支払いを当てにしすぎ、あとマリアンが言ったみたいに女性客と仲が良すぎるって……」
うーん。妥当な反対意見だと思うなぁ……
「浮気しそうな男は良くないな」
「ねぇ?それに魔力差ってやっぱり大きいわ。先立たれて辛いのはカリナよ?」
「お金目当てのヒモかもしれないって所もわたくしは疑っていてよ?」
「最近怖いこと聞いたのよ。誓いますって言ったフリだけして、結婚宣言までしたんだから裏切るわけないだろうって浮気三昧の人もいるとか」
「お金持ちのお嬢様だからで狙われてるのなら、有りうる話よねえ……?」
「うぅ……レンディーがそんなこと……」
「悪いことは言わないから、ちゃんと身辺調査をしなさい?わたくし、お友達が泣かされるのを黙って見過ごせないの」
「言い難いのなら、わたくしから調べてもらうように話してあげてもよろしくってよ?」
黙っている彼女の顔を見る限り、浮気される疑いはゼロだとは思ってない気がする。
ふと、オクティに顔が傷ついても好きかって言われたことを思い出した。
「カリナって歌とか音楽が好きで顔が良かったら他はどうでもいいの?私は好き合ってるかどうかが一番大事だから、顔とか声は付加価値だと思うんだけど」
「毎日格好いい人見てドキドキしたいんだもん、それにちゃんと言葉で甘やかしてくれる人がいい……」
「例えば……顔だけで言ったら天人さんとか不死族に勝てる人間なんてほぼ見た事ないよ?自分が好きなタイプの顔であって欲しいのは分かるけど、それしかなかったら後悔しそう。
それに甘やかして欲しいってちゃんと言えば婚約者なら優しくしてくれるものなんじゃないかな?ちゃんとお父さんに認められるくらいしっかりしてる人の方が良かったりしない?」
「あっうっ、天人っ、あのお顔は、ほんっとにお美しくて大好きだし毎日見たいけどぉっ!お話出来る機会なんて滅多にないでしょ?……もし天人のお顔をいつも近くで見られるんだったら私だって旦那様は中身で選ぶわよ」
「天人さんなら最近転送の手伝いでお小遣い稼いで街歩きを楽しもうって流れみたいだから、これから街でも見ること増えると思うよ?……そこそこの顔以外にとりえがない人を選んだ後で、天人さんが身近になったら後で後悔するんじゃない?」
「え、そうなの?天人が街でも良く見られるように……」
「天界語を習える言語学校も出来るって話があって、講師に天人さん呼ぶらしいし」
「ほんと?!天界語を習えば天人を近くで見られるの?!」
「そのはずだよ?」
「……さっきリリアンが言ってた誓うふりっていうの、実はちょっとそれっぽい話も噂に聞いてて……なんか、急に考え直した方がいい気がしてきちゃった」
皆で少し顔を見合わせる。
「カリナはわりと考え無しなところがあるのよねぇ。まぁ、とにかく今の彼はやめた方がいいって意見には賛成よ」
「ちなみに……天人さんと恋人になりたいとかまでは考えてるの?」
「わかんない。顔は本当に大好きだから毎日見られたら幸せだけど、見るだけで満足かも」
眺めて満足するっていうのはアイドルとかアニメや俳優みたいな感覚なのかな?
「絵とかだけでも満足しそう?本物じゃないと絶対いや?」
「……すごいソックリに描ける?」
あっ。二次元で満足出来ちゃうタイプの子かもしれない。
「ちょっとペンとインクと紙貰っていい?」
マリアンに持ってきて貰った紙を使って、少し目を閉じてサニーさんの顔を思い出す。
カラーではないけど、頑張って描いてみよう。
天使のほほえみを思い出しながらチェストアップで描いて渡すと、カリナが奇声を上げた。
「いぃやぁぁああ格好いい!素敵!宝物にするわあっ!!毎日毎朝毎晩拝んじゃう!」
「う、うん。やっぱり結婚するなら性格とか将来性とかもちゃんと考えよう?顔見てドキドキするのはその絵でなんとか発散してみて?」
両手に掲げた絵を見つめてキラッキラの目をしていたカリナが、なんだか落ち着いた顔で振り向いた。
「……ありがと。もうちょっとお父様の話も聞いてみてもいいかも。天界語を習わせて頂いて、そこで目の保養をしながら、現実はお父さまが認めるようなしっかりしてて性格が良い人と……うん、考えてみる!」
皆、一斉にほーっと息を吐いた。
品評会も演奏もお茶もおしゃべりも一段落して、今日はそろそろ帰ろうかという話が出かかった頃。
連れてきていたメイドさん達がにわかにザワザワした雰囲気で3人で真剣に数言交わしてから、滑るように1人が近付いてくる。
「ご歓談中失礼します。チョーコ様、転送所で少々トラブルが起きたそうでオクトエイド様が今そちらへ向かわれました」
「え?!すぐ行くっ。……あっ皆ごめんね?マリアンとリリアンも品評会開いてくれてありがとう!また何かあったら遠慮なく誘って!」
「わかった、今度からは遠慮しないでこちらから声をかけさせてもらうわ。お仕事頑張ってね!」
***
メイドさん達と共に獣人車に飛び乗ってからオクティの居場所をサーチ、もう転送所にいるようだったのでそのまま隣にテレポートした。
「チョーコぉっ!ごめんっ、ごめんなさーいっ!」
オクティよりも先に反応してすぐにそんな声を上げてきたのは小柄な天人の……
「えっ、リィコさん?どうしたんです?」
「ごめぇん、あのね、ちょっと力加減を間違えちゃったのぉっ……」
「リィコは悪くないってば、あの人、この天人を無理矢理誘拐してでもってはっきり考えてたもの」
と、横から言ってきたのは魚人でリィコさんと今日もお揃いのワンピースを着てる女の子、リタさんだっけ。
「えっと、オクティ?」
「どうやら、メイジア国からの侵入者が居たらしいんだ。ここで転送屋をしていた彼女に近付いてしつこくメイジア国に一緒に飛んで、帰りも転送して欲しいと言ってきたそうなんだが。隣に魚人の彼女がいて、その人間は悪いこと考えてるからついていっちゃだめだと止めたらしい」
「そうよ、それでリィコがついて行くのは無理って断った途端掴みかかってきたのよ!リィコは怪我をさせようと考えてたわけじゃないわ、ちょっとよろけるくらいの風でそっと引き離そうって手加減したの!」
「あ。なるほど……オクティ、怪我の具合は?」
天人がちょっとよろけるくらい、つまり、天人でもよろけてしまうくらいの風を人間に当ててしまったんだろう。
「片腕と片足が丸ごと潰れたけど、千切れたわけじゃないから治せるし、気絶しただけだよ。今は魔塔に収容中」
「うー、ごめんなさぁい」
「リタさんがテレパシーで聞いたら、誘拐とか連れ去り目的で掴みかかってきてたのは確かなんですよね?それだったら、正当防衛になると思います。治療できる範囲の怪我みたいだし」
「ほらね、リィコ。チョーコならそう言ってくれると思ったわ」
「うぅ……本当に大丈夫?チョーコの同族を傷付けてこの街に遊びに来られなくなったら、皆に恨まれちゃうっ」
「ショック死したとか千切れて治らないとかだったら誓いの碑文に誓って貰いますけど。治るから大丈夫だし、リィコさんに怪我がなくて良かったです!」
「よかったあ。チョーコがそう言ってくれるなら安心だわ」
「オクティ、その人はなんでそんなことをしたって?」
「魚人のテレパシーで聞きとれたのは、誘拐してでもメイジア国に連れ帰らなきゃいけないということだけで、理由とかそういうものは聞こえなかったらしい。俺が来た時にはもう意識がなかったし。ここで状況だけ聞き終えたら俺も魔塔へ行って治して詳しい話を聞く予定だったんだ」
「……私も行って平気?」
「なんとなくチョーコを魔塔に連れていきたくはないんだよなぁ……気絶した工作員を目覚めさせてから話すだけだからすぐ終わるよ。ほら迎えも来たし、今は彼女たちと家で待ってて貰えるか?」
振り返ると私だけテレポートで先に飛んだので追いかけてきたらしい、1人のメイドさんが走って来ていた。
「わかった。メイドさんと一緒に家で待ってるから、一段落したら家に戻るか私を呼んでね?」
「なるべく早く帰るよ」
***
家で待っていると、思ったよりはずっと早くオクティがチョーコの真横へニナごとテレボートで帰ってきた。
「ただいま……はぁ」
「お帰りオクティ。早かったね?」
「うん、尋問自体は俺がやらずに済んだんだ」
「それにしてはなんかちょっと疲れてるような?」
オクティの話を聞くと、魔塔へ行ったら待ち構えてたのは、何故か所長である皇妹だったらしい。
一体なんの罠かと身構えたのもつかの間、皇妹が言ってきたのは。
実験体の立場から抜けようとあれこれ画策しているのは知っているわ。いっそ皇族の一員となって、ゆくゆくは次期皇帝として立太子しない?というお誘いだったそうだ。
はぁ?――とは言わずに。神妙な顔で話を聞いたところ。どうやら皇帝が溺愛してる魚人の娘の1人が妊娠したっぽい。
しかも魚人が陸で産んだ子は人間族で水属性で魔力が高い子になるというので、皇帝は男で魔力が飛び抜けて高いなら皇太子候補に入れてもいいなんて言っているそう。
皇妹は、魚ごときの血を引く子が皇帝になるかもしれないだなんてありえない?!と断固拒否なんだけど、皇帝が決めてしまったら皇妹には覆せない。
だったら先に皇太子候補を決めてしまえ、複数居れば男性優先の年齢や魔力の高さで上から順だ、魚の子なんて許せない、なにより自分の血も引いているし、魔力ダントツのオクティの方がマシ!
「――ってところで丁度俺が呼びだされてたから割り込んだらしい。魔塔の実験体と魚人から生まれたって、どっちもどっちだと思うけどなぁ」
「えっと、それ……受けたの?」
「表向きはね。誓いの碑文と同じ内容に制約を上書きしておきたかったし、推薦するだけなら候補止まりだからさ」
「うっかり通っちゃったらどうするの?」
「流石に周りが弾くだろ。……まぁ万が一そうなっても、今の皇帝って実務は宰相とか文官たちだし?皇太子になって、国同士の制約を俺が直接やれればチョーコの負担が減るし、それはそれでありかな」
「オクティがそれでいいならいいか……あ、皇妹との魔塔の制約、無事に上書き出来たってことだよね、おめでとう」
「うん。結婚宣言の前までには、無理にでも魔塔幹部への立場変更を理由に制約し直す予定だったけど、早く済んで良かったよ」
「そっか。それで……制約だけして帰ってきた感じ?」
「いいや、そのあとは本来の予定通り収容されてたやつを治療した。そしたら宰相家の秘書の一人で普段見たことないやつが来ててさ、尋問は任せろっていうんだ」
「普段見ないって、末っ子さん?」
「多分そう。でも目を覚ましたやつに制約がかかってて、何聞いても喋れないから心を直接読んだ。
メイジア国の国王は、せっかく見つけた新しい土地があってもメイジア国に権利を貰えるように交渉するとか、ほかの人族たちとの貿易やら力を貸してもらって技術を手に入れるとか、そういう交渉を全然しなくて。ただひたすら開拓に手を貸しては帝国が発展していくだけ、メイジア国からは冒険者も商人も技術者も職人もどんどん帝国へ転民していってる。
それに王弟が耐えられなくなって。せめて転送魔法の技術だけでも、無理にでも奪って来い!って周りにいた王弟派に王命を出したらしい。で、侵入したやつが転送屋をやってる天人を見たところで、彼女を誘拐すればって考えにそのまま飲まれたみたいだ」
「あー……そっか。ここの皇妹も魚人族否定派だったし、王様だけに制約をかけても他の王族は変わってないんだ」
「で、秘書から、何も喋らせてないのにどうやってその情報を知ったのかってグイグイ詰められたから、魚人に貰った原石を1つアイテムボックスから出して、これを握ればお互いの考えが相手に聞こえるってことは教えた。
めちゃくちゃ欲しがられたけど、今回の事件が解決するまでの限定、後で必ず返せって約束させてから貸して。そしたらあとはやるから俺は戻っていいって言われたから帰ってきたんだ。
メイジア国の王弟派で加担してそうなやつや別の王族でそういうこと考えそうなやつを洗いざらい聞き出してリストアップして捕まえに行くってさ。
どうにも発想が物騒なやつだったから、本当に洗いざらい聞き出すんだろうな」
「――あそこの末弟は尋問と拷問が趣味とは聞いたことがありますわ、少々お気の毒ですわね」
「そ、そっかあ。……犯人って全員捕まったらどうなるんだろうね」
マナが握っている秘書さんたちの通信石を見せながら答えてくれる。
「今回はリィコ様が未遂であるし既に実行犯は痛い目に合わせたので許すと述べておりますので、火の山送りは免れるそうです。
ただし、帝国の傘下に入って従うという約定には反していますので、国として捕らえた王弟一派の身柄と引替えに何らかの補填をしていただくよう話し合いを行う予定とのことですよ」
「そういうことね」
まぁ、なんか色々あったけど一段落したかな?
――とほっとしていたけど。暫く経ったあとにまたマナが通信石に向かって何か話し出した。
「はい。――ん?はい、どうなさいました?は、ぇえ。……向かいます」
「どうしたの?」
「メイジア国側でも同時にトラブルが起きていたようです。秘書たちから多人数のテレポートを頼みたいので、人の少ない凍土行きの転送盤のところで待機しているとのこと。今すぐに来て欲しいと要請されました、お願いします」
「わかった、テレポートで飛ばして帰ってくるだけね、私だけでパパっと――」
「「連れてけ(ってください)!!」」
「わぁ?!わ、わかった、飛ぶね」
オクティに抱き抱えられ、腕にマナがしがみついてきて目を白黒させつつ、急ぐ話だしそのまま飛んだ。
第一秘書さんと緑髪の双子に、エリート獣人の柴犬さん2人と普通の獣人さん10人。
念の為これだけ着ておいてください、とあの赤いローブをチョーコとオクティだけ着せられた。
とにかく急いでくれというので、メイジア国の王宮の広間にまとめて飛ぶと、こちらも騒ぎになっているらしくバタついた雰囲気は感じるもののそこには誰もおらず。
緑髪の双子がそれぞれ柴犬さんたちの一団を引き連れダッシュで出ていく。
第一秘書さんが足を止めてざっと説明してくれたことによると。
どうやらあの騒ぎの後、色々と確認のためにメイジア国へ行こうとしたら『対の転送盤の周囲に障害物あり』で転送できなくなってたらしい。
そして、転送屋として待機していたはずの天人の女の子が1人減っていた。更に、リィコさんが一緒にこいと言われて断った時点では転送盤に魔力は充填済みだったはずなのに、確認に行こうとした時には魔力が減ってて入れ直していた。
一応、それ以外の転送盤の行先も全部覗きに行ってそこにいないことを確かめ、行方不明の子がいつも居る聖域や拠点も探したけど戻っていないこともちゃんと確認。
他にも工作員がいて、隙を見て近くにいた天人の手でも掴んでメイジア国への転送に無理矢理巻き込んだ。そこまでならまぁ分かる、でも何故攫われた子がテレポートで山へ帰って来ない?
これは何かあった!と大騒ぎになって、天人たちが一斉に山へ戻ったらしい。
天人が竜人に事情を伝えて彼らがメイジア国に突っ込んできたら間違いなく面倒なことになるので、何とかこちらが先に首謀者を探して捕まえて突き出す必要がある。
ということで急いでいたんですが……
「この地域の人間族を統べる長なるものよ、出てこい……!我らが朋友たる天人の1人を、ここに住む人間が拉致したことは明らか!今すぐに攫ったものを返しここに謝罪を述べればよし、隠し立てするならば、長を匿うものも同罪とみなすぞ……!」
ビリビリ響くほどの、怒りに満ちた叫びが上の方から聞こえてきた。
「あの色はユグードさんだな……翻訳機も持ってるし間違いない」
「くっ、想定以上に到着が早い――
テレポートありがとうございました、わたくしも捜索に回ります。ここは危険になる可能性が高いのでおふたりは早急にお戻り下さい」
頭を下げて居なくなられたけど、とてもこのままはいお疲れ様でしたなんて帰れない。
「……天人を巻き込んで帝国大使館に現れた人間は庶民風の服装をした男性2人、巻き込まれたと気付いて言葉を発しようとした天人の口を塞ぎ、振りほどこうとしたところにもう1人が布袋を被せ、殴打にて昏倒させたあと天人をそこに設置してあった転送盤ごと奪って現在逃走中。大使館側も、入口から多数の兵士がなだれ込んで交戦中であったため、すぐに対応できず……」
通信石越しで秘書さんたちの通信を聞いているマナの言葉によれば、まだどこへ逃げたか分からない段階。
「――ん?今、転送盤ごと逃げてるって言った?まだ攫われた天人さんとそれって一緒に運ばれてるのかな」
「え?はい、一緒に運ばれていると」
「転送盤の位置なら、わかるかも」
やったことはなかったけど。目を閉じて、いつもテレボートの目印を探すのとほぼ同じように集中する。
目印として指定した魔力が分かるなら、転送盤の魔石だって私の魔力で、テレボートの目的地として機能する目印!同じなんだから、分かるはず!
そう気合を入れた途端に、感じる目印が一気に増えた。今よりずっと下の方、おそらく地下道か坑道か何かがあるんだろう。人が走るくらいの速度で移動している目印がある。
「あった!飛ぶから浮かして!」
オクティが飛んで浮遊感を感じたところでテレポート、そして目の前にいた2人組の肩を後ろからガシッと掴む。
「「ぬぁっ?!」」
「空まで!テレポート!」
けっこう地下深かったから高めに、と思ったら飛びすぎはしたけど、今回はまだユグードさんがちゃんと上から判別できるくらいに見える。ただ、流石に3人分の重みは掴んでいられなくて手を離してしまった。
「あっ......」
「「うぎゃあああー?!!」」
自由落下する2人も慌てて、布に包まれている天人さんであろう包みを離してしまい、バラバラに落ちる3人。それを追いかけて急降下しながら。
声に気付いて上を向いたユグードさんと目が合った。
「それ!全部受け取ってくださいぃぃ!誘拐犯と、その包みが天人さんですっ!」
思い切り叫ぶと、ユグードさんは訳が分からない顔はしながらも素早くワイバーンを操って空を舞う。
まず転送盤をキャッチして手綱と一緒に持ち、空いている方の手で包みを優しく抱え、男2人を器用にワイバーンの背で引っ掛け、重ねて逃げたり落ちたりしないように足でグッと踏みつけた。
ぐげとかベキッとか若干聞こえちゃまずい音がした気がしないでもないけど、たぶん気のせい。
見事に受け止めきった曲芸飛行を見てほっとしながらユグードさんのいる高度まで降りる頃には、こちらの叫び声にわらわらと集まってきた天人さん達が包みを確かめて中から気を失った女の子を引っ張り出しているところだった。
「良かったシーアも生きてるわ!ありがとうっ」
「こいつらが実行犯なのねっ?」
「シーアを攫うなんて許さないんだからっ」
犯人たちが静かなのは、どうやら気絶してしまっているみたい。
脱げていたフードをかぶり直している間にメイドさんが声を上げた。
「誘拐の実行犯2人は捕らえ、攫われた天人も救助出来ましたが、命令を下したのはこの国の王弟ということは現在調べがついております。ただいま人を使い、全員捕縛のため動いておりますわ!」
「うんとね。他の人族とのトラブルは、被害者側の種族の処分に従うって決まってるから、犯人たちをどうするかは天人さん達の気が済むようにして貰っていいの」
「私たち、今回の件は竜人に預けることにしたわ」
「うむ、俺が引き受けた。約束通り、罰するのは罪人のみ。人間全てが悪いとは思わん。……単独犯ではないようだし、罪人として突き出す人選はそちらで判断して良いが、王の弟とやらと、この2名は必ず渡してもらいたい」
またメイドさんがすぐに頭を下げる。
「王弟と今回捕らえた実行犯2人には必ず罰を、それ以外の関係者は関与の度合いに応じてこちらで判断させていただきます。寛大な判断に感謝いたしますわ」
「よし。――あぁそれと、これは返しておくぞ、そちらのものだろう?」
手渡された転送盤を受け取ってお礼を言い、一旦これは大使館に返しにメイドさんの案内でその建物へ向かうと、入口に緑髪の秘書さんが待っていた。
「お疲れ様です。いやぁ……すぐに動いて下さりありがとうございました!あと少しでも天人の返還が遅かったら、風で全ての建物を吹き飛ばしてでも探し出すと言っておりましたから、おそらく大変なことになっていたでしょう」
「何とかなって良かったね……」
「はい!心を読む尋問により関係者のリストは手に入りましたし、獣人部隊の活躍により隠し部屋の捜索も順調です。この後の始末はもうお任せ下さい。お疲れ様でした」
「えっと……見届けなくていい、のかな?」
オクティを振り返ると、少し困った顔をしたあと、要らないよと首を振った。
「加害者側が知人だったのならともかく、被害者にしか知り合いがいないのに刑まで見届ける必要も責任もない。それに俺の気持ちとしても見て欲しくはないな。帰ろう」
「わたくしもそれは見なくてよろしいと思いますわよ?結果報告だけは隠さずに致しますから」
「ふたりがそういうなら分かった、帰る。……秘書さんたちも、もう少し頑張ってね。後でなにか差し入れに欲しいものある?」
「でしたら、ティータイムの楽しみにしていたオレンジジャムが尽きて長兄が悲しい顔をしておりましたので、おかわりを頂けたら喜ぶと思いますっ」
「わかった。後でメイドさんに届けてもらうね」
転送盤も渡したし、素直に家へ帰ることにした。




