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飢えないだけじゃ生きられない(日・水・更新中)  作者: なるねこ


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63.ロレットとミーティア

ぐっすり寝て起きた時、カーテン越しにすっと外が明るくなった気がして。

ちら、とカーテンの隙間を捲ってベッドの外を見たら窓を順に開けていたメイドさんがすぐに気付いてこちらに来た。


「すみません、起こしてしまいましたでしょうか?」

オクティを気遣ってかかなり抑えた小さな声だったので、こちらも小声で返す。

「ううん、丁度起きた所。おはよう」

「おはようございます。まだ日の出たばかりですので、もう少しごゆっくりなさっても大丈夫ですし、朝食を早めることも出来ますわ」

「昨日美味しくてお肉の味見しすぎちゃったし、まだお腹空いてないかも。もうちょっとあとにする」

「はい、ごゆっくりどうぞ」


メイドさんが去った後に、オクティが腕を伸ばしてきて抱え込まれた。

「おはよう……早いね」

「おはよう。マナのマッサージ受けるとすっごいよく眠れるから、早く目が覚めるみたい。……あー。ねぇ?ブランデーをあの大きい実から小さい水差しに移す作業なんだけど。匂いが凄いから家では出来ないし、街の中のどこでやっても噂になったり被害者が出そうな気がするの。――それにオリーブオイルの詰め替えでも思ったけど、あの大きさの実から水差しの口に零さないで移すって難しいし重たくって大変だよね……しかもそれが、何百とか……最大2千……どうしようね」

「んんー……まぁ俺でも出来なくはないが。確かに数が多いし面倒は面倒だよな。液体の操作に慣れてる魚人辺りに頼めれば、さっさと終わらせられると思うけど」


「――あ、海。大きい方の魔石版、もう全部使いきっちゃったんだった。それも譲って貰いに行かなきゃだし、ブランデーが使えない代わりに、ミナに酔い水草買ってきてあげようかなって思ってたの。あと商店街の店員として不死族を雇ったりって魚人さん的には許せるのかなとか、ちょっと気になるし……海に行きたいかも」


「大して時間もかからないだろうから、今着替えてさっさと行ってくるか?」

「そうだね、パパっと済ませちゃお!」


***


2人だけで朝っぱらから押し掛けたにも拘らず。西の海の女王様はなんだか物凄くテンションが高くて大歓迎してくれたので、話を聞いてみたら。

死の大陸の御使いたちが大変な目に遭っていた話や、魔獣の核を死の大陸へ沢山捧げまくったら彼らの助けになるらしいという話を聞いて、早速ローレライ種総出で泳いで、陸地を諦め帰って凍土に一人寂しく生きると覚悟を決めた不死族達に会いに行って来たらしい。


どうやら、純アルコールによって暴走自体は抑えることが出来るという報せの方が先に届いていたみたいで皆様に荒れた様子はなく。魚人族が人間族と他種族の橋渡しを引き受けてくれたおかげで、回り回って不死族が助けられたと感謝され。急遽集めていった魔獣の核や酔い水草を快く受け取って貰い。


今後も魔獣の核や酔い水草を海の者たちで時々捧げに行くと約束して、御使い様達に抱擁して頂いたり、話したり色々と得難い時を過ごせたし。

女王様はまだ寿命までは結構あるので引き続き頑張って皆をよく率いて欲しいと言われたけれど、一緒に行ったうちの2人がかなり年輩で、まだちょっと早いけれど一足先に御使い様と長く共に過ごしたいと言って迎えて貰うことも出来たそう。


「凍土化を魔獣狩りにて抑えられることやアルコールのこともエスの風たるチョーコ様からのお知恵と聞き、妾たちも改めて感服させて頂いておりました……はて、妾ばかりがずっと語ってしまっておりますわね、本日はどのようなご用件でございましたか?」


ひとしきり興奮が落ち着いたところで、魔石版の大きい方を補充したいことや、少し酔い水草を買いたいことを伝えると、声を掛けるだけですぐに持ってきて貰えた。水草の方はあげたばかりなので少ししかないというけど家で使うには十分だし、魔石版は大きい方もかなりの枚数があり、小さい方もまたザラザラ追加されていて、本当にしばらくは困らないかも。


どんな反応になるのか気になりつつ、商店街で不死族を雇う案の話をしてみたら、女王様はそうですか!となにやら嬉しそうだったのでまた話を聞いてみると。

死の大陸での孤独な生活に耐えきれずに陸に渡ろうとした者たちが、人間達が自分たちとの共生を考えて仕事を用意してくれると言ってくれた話を聞いてありがたく思っているものの、どんな仕事を宛がわれるのか、騙されてはいないと思いたいけどと。国の不死族たちはかなり不安がっていた。


確かに魔法は殆ど無効化するし身体強化も使えるけど、それだけと言えばそれだけ。不死族には遠隔での攻撃手段がないし、性格的にもわりと穏やかで戦いに向いている方ではない。何らかの形で一度拘束されてしまえば抵抗は難しかったりする。その上いろいろと便利な能力を持ち、見目麗しいなど。不死族は他種族から奴隷にされるリスクが高いのだと、古くから生きている者たちは特に心配していたのだとか。


でもチョーコの名前で大きな事業をやるならば、そこに頼れば安心と思った――ということらしい。


ブランデーという特別なお酒の実を手に入れたので入れ物に分けて、不死族に仕事をして貰う時に各自に配れるようにしたいけど、数が多くて移すのが大変という話をしてみたら。あっさりと実から入れ物に液体を移すくらいなら得意だから任せろとワラワラ集まってきて。1つの実から小さいシンプルな水差し200個に分配を5回分という大量の作業も正に人海戦術、ものの数分で完了してしまう。

おまけで、もう一つの実も50個の豪華な角瓶の大瓶に分配して貰っちゃった。


おかわり必要になったらまたお願いします、たすかりましたー!と。

酔い水草と魔石版の山と作業のお礼に実を丸ごと一つあげたら、御使い様に捧げる特別なお酒のおすそ分けだとありがたそうに受け取ってくれたので。早朝の散歩を済ませて部屋に戻ることに


***


下に降りてミナを呼んで、転送盤の材料切れてるの忘れててちょっと海まで行ってきたからと酔い水草を渡したら。

早速ゴムの蓋付きの器を持ってきて冷蔵庫へ しまいつつ。それに関してはなんの料理に使おうかしらと嬉しそうに喜んでくれたのだが。


「ーーですが。もし朝食にお呼びしようとしてどこにもいらっしゃらなかったりしたら、まさか誘拐されたのではと、わたくし達はとっっっても!驚きますわよ?

お屋敷より外に出る場合はきちんと、おふたりでちょっと散歩に出るなら出ると一声くらい掛けておいてくださいね?」

と真顔で釘を刺されてしまった


「「ごめん(すまん)」」

「テレボートが使えるおふたりにとっては庭に出るのと変わらない気軽なお出かけなのも分かりますし、次からお知らせ下されば良いのです。

ーー朝の良い散歩ができたようで何よりですわ。では、朝食をお持ちしますので、座ってお待ちくださいませ」


にっこりといつもの優しいミナに戻ってべこりと頭を下げてからキッチンへ消えていったが……

釘を刺すときのミナ、かなり目が本気だったな。


隣のオクティを見たら、『怖かったね』と言葉は使わずに言いながら嬉しそうな顔をしている。

『ニナとミナは長女で双子だと言っていたが、確かに姉らしいな』

『うん、私一人っ子だから兄弟ってどんな感じなのかと思ってたけど、多分こういうのがそうなんだろうね』


「なんですか、わたくしの噂話です??声に出して言ってくださって構いませんわよ」

「えへへ、なんでもない」

両手に大きめなお盆を運んできたミナが苦笑しながら笑顔で朝食を並べてくれる。

焼いた玉ねぎを添えた豚肉の生姜焼きにかなり近い味の薄切り肉をメインにセロリの浅漬け、小盛のご飯と一口団子サイズの白い丸いものが入ったスープ。緑茶とフライドさつまいもが少々。


「んーー!生姜焼きだぁ、美味しい!あとこのスープに入ってる白いのなんだろう?」

「使い方がこれで合っているか分かりませんけど、何だと思われます?」

オクティは目が光ったから視たんだと思うけど、何も言わずに面白そうな顔をして、ひとつスプーンですくって食べた。

「へぇ……こんな風になるんだ。ふわっとしてよく味が染みてて美味しいな」


「なんだろう。……ん、トロロだこれ!え、すりおろした山芋って揚げるとこんな感じで固まるんだ?!かなりしっかり形を保ってるよね」

「ジャガイモのすりおろしを粉になるまで乾かした物を周りにまぶすと崩れないのですよ」

「片栗粉まで作ってる?!うわー、ミナ天才じゃない?!」


「粉単体だと少しエグ味があって使いにくいのですが、他の芋にまぶすような使い方なら気にならなかったので……」

「えっとね、じゃがいもを摩り下ろしたあと水の中に入れて洗って、そのまま粉が全部沈むまで放置して、上の水を捨てて沈んだ粉だけを取り出して乾かすとアクが抜けた片栗粉が取れるらしいよ」

「なんと!試してみますわっ!」


「明日マリアンとリリアンをおうちに呼ぶ時のお菓子もミナが居たら安心かも」

「おふたりは珍しいお茶とお菓子に目がないと伺っておりますから、カボチャとさつまいもで何種類か作りましょうね」


「あっ、さつまいもの中身とバターを混ぜて元のさつまいもの皮の上に乗せて焼いたスイートポテトが食べたいな?

あと、じゃがいもを薄ーい輪切りにして軽く水で流して水気を拭いてから揚げて、お塩とかで味付けしたポテトチップスもいいなぁ。さつまいもで作って味付けをシナモンと砂糖にしたのも欲しい」

「なるほどなるほど……本日はわたくし、キッチンに引きこもらせていただきますわ。お任せくださいませ!

お昼にお友達とお出かけの際お持ちいただけるようなおやつをご用意しますので、そちらも楽しみにしていてくださいね」

「楽しみ!」


「あ、チョーコが友達と遊びに行ってる間に、俺は魔獣の核の納品とかを済ませてくるよ。明日のお茶会も俺は遠慮するからゆっくり楽しんでくれ」

「確かにオクティは参加しづらい内容だったかも?……ごめんね?」

「いや謝ることじゃないんだ。俺が居るからそういう付き合いが出来ないなんてのもおかしい話だし、俺は俺で魔塔とか冒険者組合でやることもあるから、こういう時にまとめて片付けて来ようと思っただけ。気にせずゆっくり遊んできな」

「それぞれに付き沿うメイドは常に通信石を握っておりますから。ご安心くださいね」


***


エリート獣人のレトリバーさんと普通の獣人3人の四頭立てで、運転席の後ろがワゴン車のシートを全部倒してクッションの床にしたような雰囲気の大きな獣人車が用意されていた。個室のところの端に重ねた椅子や畳んだイーゼル、小ぶりな木箱が積み込まれているけど、それでもじゅうぶんに広い。

「わあ。凄い車……」


「高位貴族向けのものですが装飾は全て取り払っております。荷物を下ろせば後ろに8人で座れるサイズですので、皆様とのお出かけも可能でしょう。こちらは普段宰相家の車止めに置かせてもらう事になりましたので、今後も自由に使えますわ」

この家の庭も、お客さんが乗ってきたものをちょっと止めるくらいの広さはあるけど、このサイズが止まってるとちょっと圧迫感があるかな。


「車止め……なるべく小さい家がいいって、こういう所でも迷惑かかったりするものなんだね」

「使っていない日はお孫様のご家族などのちょっとした移動に貸し出すことになっておりますから。なにも問題ございませんわ」

「あ、そっちでも使ってくれるのなら良いかぁ。……じゃあオクティ、行ってくるね」

「楽しんでこいよ」

頬に軽くキスをして見送って貰い、貴族街の中でも城からは遠い方の区画に向かう。


隣同士の幼馴染と聞いた通り、家の規模としては魔塔の幹部用の邸宅とほぼ同じくらいで、雰囲気的には新興住宅街のような新しめの家が集まった中に並んで住んでいた。


ロレットの方は既に玄関先でトランクケースのようなカバンを持ったまま待っていて、個室の扉を開けたら走ってくる。

「やぁチョーコ。こんな凄い車まで用意してくれてありがとう。お誘い受けてくれて嬉しいよ。あれからずっとミーティアがソワソワしていてさ、あまり下のものから誘いを催促するのは良くないと分かってはいたんだが、つい便りを書いてしまった」

「ううん、私は貴族じゃないし誰の身分が上とか下とかよく分かってなくて、誘い方とかも今回メイドさんに教えて貰って初めて知ったから……声掛けてくれてむしろ助かったって言うか、言ってきて貰ってなかったら多分私からは言い出せてなかったと思う。お誘いは私からしなきゃいけなかったんだね、ごめん」

「気にしないでくれ、誘って良かったのなら今度からも遠慮なく声をかけさせてもらうよ!」

「うん、ありがとう」


ミーティアの家は本人ではなくメイドさんが待機していて、ミーティアの荷物はメイドさんが車まで運び、本人は護衛らしい格好の男性が2人も門までは着いてきたが、御者をしていたリナが降りて本日は私が皆様をお守りしますと挨拶したら、ミーティアだけ預けて見送られた。


個室の方に3人で乗り込み、扉が閉まると、それまでモジモジと黙っていたミーティアが顔を上げてチョーコをまっすぐ見て両手をぐっと拳に握って意を決したような顔になった。

「わ、わたくしと!おともだちになってください!」

「あっ、う、うん。っていうか一応もうお友達だから誘ったつもり!ミーティアも敬語じゃなくていいよ?」

「はわ、ご、ごめんなさい、じゃなくて、ごめんね?」

「私も今まで同世代の女友達って全然いなかったから、時々変なこと言っちゃうかもしれないの。お互い気にしないことにしてもらっていい、かな」

「……うん!」


「よかったなミーティア。……私もあんまり淑女っぽい趣味がなくてさ、貴族の子とはノリが合わないことが多かったんだ。チョーコとは元平民同士なら仲良く出来るかなって勝手に思ってるんだけど、なんか気になる事があるなら遠慮なくツッコミ入れてくれ。よろしく」

「こちらこそ、2人ともよろしくね!」


ーー門の外、剣の素振りや走り込みをしている一団が見える辺りに陣取って椅子やイーゼルをセットし始めると、2人は自前のインクや画材をカバンから出し始める。ミーティアは木製の小さいパレットと大小セットの平筆。

何となくイメージ的にロレットは大胆に刷毛でいきそうだったけど、なんと万年筆派だった。

キャンパスに万年筆いける?紙の方がいい?と心配するけど気にしない様子で、普段紙だから狭くてあまり書けないけど、キャンパスは広くていいなと早速席に着く。


チョーコも座って周りを見て……ワイパーン達はもう居ないんだねというと。

「あ、今朝出発したの見たよ!街の上空を飛んで行ったんだ、ほら」


と、走り書きしたらしいけど5体がV字型に並ぶのを下から見た構図のペン画の紙がカバンから出てきた。

「ローレすごーい!私も見たかったのに、朝食の途中で席を立たせて貰えなかったのよ」

「わぁ、走り書き?すごい上手!」


「かぁっこいいよなぁ、ワイバーン部隊!もし婿にするなら竜騎士って憧れるけど、落ちたら死ぬから風使いしか騎竜には乗れないんだっけ?流石に水属性じゃないとキツいかぁ」

「最初はそう決めたけど、結局身体強化がすごい人ならある程度高度下げてからなら落ちてもそこまで怪我しないし、自己責任でほかの属性でも訓練受けて良いってことになったらしいよ?……今回の十人も半分は違ってた。水が2人と火が3人居るはず」

「まじでっっ?!えっうそ水属性2人もいんの、絶対通うわ。えっなに、チョーコすごい情報ありがと、めちゃくちゃ感謝するっ」

「よかったわねローレ、ようやく王子様に出会えるかも?」

「ワイバーンに乗った王子様かぁ……」


ロレットのキャンバスを見ると、見てもいないのにワイバーンにまたがった筋骨隆々な男性がいい笑顔で飛んでいる図を書くんだな、とありありと分かるアタリが付けられて、ガリガリガリガリと凄い勢いで陰影が書き込まれ始めている。


私は何を書こうかしらと呟いて、ミーティアは獣人部隊と、今日車を引いてきた4人組を順番に見てから、エリート獣人のレトリバーさんに狙いを定めたようだ。


チョーコもとりあえず筆をとり、見えるままに広々とした中を走り込みや剣の訓練に打ち込む軍人さんたちがいる光景を写し始めた。

「えぇっと……貴族ってお付き合いする相手とか勝手に決めたら怒られたりしないんだ?」


「あー。跡取り娘か政略結婚の予定がもう決まってたら怒られるけど、うちは兄貴も弟もいるし、なんなら嫁なんか行かずにずっと家に居たって良いんだって言われるくらいだから、相手が平民でもそこは別に怒られないな。ただ今回竜騎士には風使いしかなれないって教えてきたの親父と兄貴だから、歓迎はされないかも」

「えぇ、大丈夫……?」

「ローレのところは女の子が親戚合わせても殆どいないので、溺愛されているのよね。だから誰を連れてきたって反対はされるわよ。うちは普通に15になるまでに、お父様が婚約者を連れてくると言われているわ」


「あ、ミーティアのところは勝手に決められちゃう感じなんだ……いいの?」

「えぇ。わたくしはこの髪だから、早めに決めないと皇帝の妾に召し上げられるかもしれないと心配されていて。わたくしとしても早急にお相手を決めていただけた方が安心で……。それこそ成人即結婚でもかまわないわ」

「あー確かに……あの皇帝若い子好きそうだから早く決めないと危ないよね。でも、それと相手を選ぶ権利が自分にないのはまた別じゃない?」

「うー……ん、わたくしはローレみたいにはっきりとこういう殿方がいいとかそういう願望はないし。穏やかで真面目でお互い尊重できる方なら誰でも……特に問題はないのではないかしら?」


「貴族のお嬢様だとそれが普通の感覚って感じなのかな?」

「多分普通というか……たしかに時々、婚約者が浮気者だったり気が合わなくて親に猛抗議をするなんて話もあるけれど。そもそもそこまでこじれるような相手が選ばれることは稀よ?

だって家ぐるみで長く仕事上も付き合う相手の中から選ばれるのだもの。よほど趣味やお顔立ちに細かく注文を付けたりしなければご令息は沢山いらっしゃるし。わざわざ問題のある方が選ばれることはないわ」


「それもそっか、メイドさんからサラはお相手と結構歳が離れてて、カリナは身分違いでちょっと揉めてるって聞いたから心配しちゃった」

「「あぁー」」

ふたりが苦笑気味に同時にため息をついた。

「あそこはなー、2人ともめちゃくちゃ面食いで、しかも絶対に将来は音楽一家がいいんだってこだわりが強かったからさぁ」


「サラのお相手ってカリナも狙ってたのよね。でもお相手の方がサラを選んですぐにご結婚の準備に入られたから、カリナが拗ねてしまって、家出して勝手に街に降りて平民と仲良くなってきたのよ」

「あ、揉めたってそういう……?」

「そうそう。別に平民とは付き合うなとかそんな話じゃなかった。揉めてるのは完全に家出のせいだね」

「あぁ……うん。家出して1人で勝手に彼氏探しに行くなんて、いくらなんでも危なすぎるね……」

「えぇ、わたくしもそこは本当に心配したわよ」


「幸い、人通りの多い商店街から商会組合の建物周辺へ行って、広場でベンチに座って話しかけてきた男に愚痴を聞いてもらったあと、気に入ってそのまま強引に自宅へ連れ帰って家族に紹介したそうだよ。……巻き込まれた男性もさぞ驚いただろうねぇ」

ロレットが笑っているけど、一歩間違えば笑い事では済まなかったと思う。


話しながら絵が形になってきたあたりで、メイドさんが少し休憩なさいませんかとお盆を持ってきた。

氷入りの冷たい紅茶にかぼちゃにシナモンを練り込んで棒状にして揚げたかぼちゃスティック。


「「きゃーすごい!」」

氷、アイテムボックスから出してないしどうやって持ってきたんだろうと目を丸くしていたら、メイドさんが携帯氷室(クーラーボックス)だと言って、毛布のような生地の袋に入った鍋を持ってきて開けて見せてくれた。蒸し器みたいに下に網が仕込んであって溶けた水は分離するようにしてあり、上に砕いた氷が入れてある。


ふたりも覗いて感心したようにすごいすごいと騒ぎながらお菓子を食べてまた感動したようにんーっ!と叫んだ。


「色からしてオレンジが入っているのかと思ったら全然違ったわ、これはなぁに?」

「うちはオレンジもまだ食べた事ないから全然分からないが、違うの?すごくいい匂いがするな」

「高山のダンジョンから取れるカボチャっていう作物に、シナモンっていうスパイスを入れて混ぜてから、オリーブオイルで揚げたものなの」


「まぁぁ、どれもまだ出回ってない高級食材じゃない!……えぇとね、マリアンとリリアンに聞かれたら嫉妬されちゃうかも?」

「あ、メイドさんからふたりの事は早めに呼んだ方がいいって教えてもらったから、明日うちにお茶会で呼ぶことにしたし、大丈夫だと思う」

「よかった。うん、貴族の階級とか優先順位とかはけっこう問題にされがちなの。……チョーコは階級でいくとかなり上の方で、気遣われる側だし怒られることも無いけど。下の子だけ仲良くして上の子を呼ばないとかは貴族にとってかなりプライドを傷つけちゃうことなの」

「うん。人を呼ぶ時はメイドさんにも相談するね」


休憩が終わって絵の仕上げをして見せ合う。

チョーコのは完全に筆書き白黒の風景画だけど、色が付いていたら本当にこの光景をそのまま切り取ったみたいにリアルだと2人はべた褒めしてくれた。

ロレットの画風は描きはじめに想像していた通り、ペン画で写実的に細かく線で陰影をしっかり書き込んでいく写実的なタイプ。

ミーティアはレタリング手法のような、白黒ハッキリ塗り分ける縁取りと影ベタを巧みに使ったイラストらしい表現で、優しそうにこっちを見ているレトリバーさんが描かれていた。


きゃっきゃと絵の感想を言い合ってから、ミーティアからチョーコへ、チョーコからロレットへ、ロレットからミーティアへと描いた絵をプレゼントで交換し、今日の記念として持ち帰ることに。


ふたりを家へ送り届けてからチョーコも帰路につく。

初めての女友達との交流は、思ったよりも気持ちがポカポカして楽しく過ごせるものだった。

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