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飢えないだけじゃ生きられない(日・水・更新中)  作者: なるねこ


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61/89

61.人間には秘密

「うぉーい!来るのが遅いぞぉっ、ついでにベルまで付けちまったぜぇ」


洞窟に飛んだら、いつも話すのに使っている入口すぐ傍のちょっと広くなってる所に鍋とか碑文などの完成品に加えてハンマーや金床のような工具や金属くずが詰まった鉄箱が持ち込まれていて、ドットさんの他にも4人ほど同じような赤毛で長い長い髭のドワーフたちがいた。


見ると、碑文10枚は勿論、立派な圧力なべは大きさ違いで5個くらい並んでいるし、フライヤーも完全に業務用っぽい、流しサイズの鉄箱の中に複数に分かれた金籠がバラバラに出し入れできるように並んでいるものから、家で使えそうな1籠だけサイズのものがこれまた4種類サイズ違い。


――の中で妙に気になったのが、フライヤーの手前側に横長の目盛りが刻んであって、一番左に三角の矢印が付いていて、目盛りの右側にぐるぐる回せそうなハンドル?


「なにこのハンドルと目盛り??」

「おっ、そいつはベルだ。こうやって使うんだぜ」

右のハンドルをぐるぐるぐるっと回していくと、三角の矢印が目盛りの上をキリキリと微かな音を立てながら一番左から右に向かって動いていく。


お試しだからか目盛りの1割くらいだけ移動させて手を放すと、ぜんまいのカチカチ回る音がして、じわじわと三角の矢印が左へ戻っていき……

一番左に到達したところで『シャンッ!』と鈴を振ったような澄んだ音が響いた。


「タイマー機能だー?!しかもこの音って、鈴?楽器って開発されてないんじゃなかったっけ??」

「音そのものの良し悪しじゃなくて音の並びを楽しむ?ってぇのは知らんが。合図の音が全部一緒じゃぁ混乱するだろうがよ?違う音が出るやつも色々あるぞ」


興味があるらしいと判断して、ドットさん以外の人が2人ほどタッタッと走って奥から通路ギリギリではと思うサイズの鉄箱を2人で担いで帰って来た。


金属の中が空洞の筒で長さが違うものが色々、それを金属製の小さな長いハンマーで優しく叩いて音を出す楽器や、笛というか正に金属製のホイッスル、大きいのから小さいのまで音階や音質が様々な鈴や鐘。


「うわうわ、笛も鈴もチャイムもあるんだ……!」

「へぇ、なるほど、楽器って聞いただけだといまいち想像出来なかったが、こういうものか……チョーコのイメージだと、こういう同じシリーズで高さの違う音を並べて使うんだよな?」

「そうそう!勿論違うシリーズのものと組み合わせたりもするけど。同じもの同士は纏めて使うことが多いと思う」


「音色の良さはどれも自信あるぞ!サンプルに好きなの何個か持ってって、注文してくれりゃあ作ってやるぜぇ」

「え、じゃあ遠慮なくサンプル持っていこうかな……」

同じシリーズで大きさを変えた音階違いのチャイム、同じくサイズ違いの鈴、釣鐘みたいな形のやつ、ホイッスルを選ぶ。

圧力なべとフライヤーもサンプルを含めて全部持って行けと言うから、流石に最初渡した10玉じゃ釣り合わないと思って、追加でオリーブオイルをもう10玉あげた。


「うぉぉっ?!太っ腹だなぁ!よーしよし、ベルの注文もあるかもしれねぇんならこっちもあれこれ新作考えとくからよ。また注文しにこいやぁ!」


がはがはと機嫌よく笑いながら、さっそく貰ったオイルで揚げ芋だとはしゃいで片づけをし始めたドットさん達に見送って貰い、新しいダンジョンを教えて貰いにまた牛の村へ向かうことにした。


転送盤の近くでリクライニングチェアにでも座っているような格好でふわふわ浮かび、メロンを素手で持って幸せそうな満面の笑顔で齧りついたサニーさんがいて、思いっきり目が合う。


『ハッ』と、齧っているポーズのまま固まったけど。口に入った分を飲んでからこそっと食べかけのメロンをアイテムボックスに戻して口を拭いて姿勢を正した。


「――こほん。すみません、みっともない所を」

「あっ、こ、こちらこそ休憩の邪魔してごめんなさいっ!」

「タイミングが悪かったな。また新しいダンジョンに行きたかったんだ」


「気にしなくていいですよ、いつでも食べられますからね。今日も小さい所が良いですか?ここに近くて小さい所であと残っているのは、キャンパスの枠に使っている木材になる蔓を取りに行っているところだけで。あそこは本当に他に使えるものはなさそうに思いますけど……」


「あぁ、昨日長老さんが使ってたあの木の枝ってそのダンジョンから取って来た蔓だったんですね」

「そうですね。ほんのり優しい香りが付いていて硬さも使いやすくてとても良いんですよ。絵描き会場にこの村が使われているのはそのダンジョンが近くて牛も沢山飼っていて布も手に入るから、キャンパスを作るのに都合が良いからなんです」

「優しい香り……」

「興味はありそうですし、あそこは1階にしょっちゅう人が出入りしていて見るだけなら危なくないですから、とりあえず行ってみますか?」

「はい!見に行ってみたいです」


手を繋ぐなりなんなりでまた一塊になってくれたら纏めて運びますよというので、いつものようにオクティがチョーコを抱き上げて、そこにメイドさんたちがくっついて浮遊する。


よく行っているというだけあって、ダンジョンの中の明かりまで全部光っている。天人さんたちは魔力が桁違いなので、一度触ったら数日光りっぱなしになってしまうのかも。

今は人はいないし、天井や壁にモモンガが沢山張り付いているだけだけど、壁の蔓の何本かは切り口が見えていて、たまに収穫されているんだろうなと思う。


「私はその辺りの魔獣を片付けておきますから、ゆっくり見回って下さいね」

「ありがとうございますっ!」

切られている蔓の所へ近付いてみると、かなり薄くだけど、確かにちょっと覚えのある香りがした。


「――あれ、これってシナモンじゃない?」

手で触れてみると、そのままではほとんど匂いはしないけれど、粉末状にしてからフライパンなどで乾煎りすると強く香りが出るらしい。


「シナモン?」

「この蔓を細かい粉末にして、加熱すると香りを楽しむスパイスになるって」

オクティはチョーコのアイテムボックスからフライパンだけ取り出すと、壁の蔓を一本切り取ってフライパンの中で粉末にしてからそのまま火の魔力を掛けていく。


周囲にハッキリと分かるくらい香ばしく優しいシナモンの香りが広がっていった。

焦げないように注意して充分過熱してから冷ます。


「あ。これはすごく良い香りですね……」

釣られてサニーさんも見に来る。

「メロンは分かりませんけど、オレンジみたいにちょっとすっぱめの果物とか、バナナや生クリームにも合いますよ」

いつも付いてきて貰ってるし、今作った分は小さい壺に分けて譲ると、これは素直に受けとってくれた。


「ありがとうございます。これは少量でいいみたいですし。火の加工は竜人に頼めば小人にやって貰うことも出来るので、他の子たちにも教えてみますね」


ダンジョンの蔓は全部回収してもすぐ戻るらしいけど、一階は天人さんたちがしょっちゅう来るらしいから下に降りてから貰っていくことにしよう。


蔓はシナモンだと分かったけど、他の作物って何が生えてるんだろうと思ったら。

なんだかとてもウツボカズラのようにみえる、緑色で蓋のある花というか壺というか……そんな植物がみちっと部屋いっぱいに繁殖している。

小さな羽虫なんて存在しないはずなのに、ウツボカズラ……?と、恐る恐る近付いて触ってみたら。

『酢』

らしい。


「酢?!」

ちらっと花の蓋のところを開けてみると、確かにツンとした酸っぱい匂いがする。

……いやでもビジュアルが!消化液!


「す?」

「この部分の中に貯まってる液体が、お酢っていう酸っぱい味を付ける調味料として使えるの」

「液体ですと入れ物が必要ですわね」

メイドさんたちが興味ありそうだったので鍋を一つあげたら、手際よくウツボカズラの中の液体を鍋にひょいひょい注いで集めてくれる。


こわごわ味見してみたら、酢自体は米酢に近く、酸味がそこまでキツ過ぎない使い易そうな風味で美味しくはあった。

「毒ではなさそうですけど……うーん」

サニーさんがやや引いていて味見も断られる。正直なところを言えば私もビジュアルでちょっぴり引いたし、メイドさんたちが集めてくれると言わなかったらスルーしてたかもしれないので、気持ちは分かる。


「オリーブオイルと塩コショウにこのお酢を混ぜたものは、大体どんな野菜にもあうドレッシングになるので、使い道はあると思いますよ」

「そのように使える、ということは皆にも共有してみますね」


そして別の部屋を探してみたら、ただの緑の草が生えていた。

「香りは悪くないんですがとにかく筋っぽくて、これは焼いても食べられないんじゃないですか?何かを包んだりするには葉が細すぎるし。牛の餌としてはあまり喜ばないですし……」

これも香りが良いと言うので一本摘んでみたら、これまた凄い覚えのある香り。


「生姜だー!」

掴んでみたらやっぱり、葉ではなくて土に埋まった一番根元のところが本体とわかる。

掘ると丸々とした、よく見るボコボコした形ではなく巨大な里芋みたいなまるっとした形に膨らんだ根茎が取れた。


これは肉料理の時に一緒に入れてと生臭さを消したりするのに使ったりするけど、摩り下ろして絞った汁を砂糖と一緒に飲み物に入れて飲んだりも出来ると使い方を説明。


折角だから一個刻んで搾るのをオクティに手伝ってもらいつつ、砂糖と水と風の石と混ぜてジンジャーエールを作って、氷も入れて配ってみたら美味しかったみたい。

さっきの酢とは全然違う反応で、サニーさんも嬉しそうに飲んでいるが、生姜自体は全部くれた。


回収するならと下へ行くことになったら、1階と違って誰も来ないらしく、魔獣の数がハンパない。降りれば降りるほど数が増えていく。

ーーといってもサニーさんとオクティが居るので苦戦は一切なく順調に降りながらせっせと回収。


そして最終フロアは。モモンガの()が広がっていた。ここまでのフロアは狭かったのに、最終フロアだけは今まで見たダンジョンの中でもトップレベルに広いかもしれない。遠くまで広がるフロア一面にひしめくモモンガはまるで波のよう……そして天井にも壁にもびっしりと。

それが、こっちに気付いた途端に次々と突撃し始めた。


それをバッサバッサと切り払ってはアイテムボックスへ吸い込みながら。サニーさんはのんびりと説明してくれる。

「このフロアは何故か、いくら倒しても倒してもすぐに魔獣が大量に湧いてしまいましてね。ですが別に積極的に上を目指すわけでもないし。ここには特に作物らしい作物も見当たらないので……とりあえず放置してるんですけど」


「謎過ぎるな。これだけ溜まっててダンジョンブレイクもしてないのはなんでだ……?」

オクティがよーくこのフロア全体を視て調べているあいだにも、隣でサニーさんがバッサバッサ魔獣を狩ってはアイテムボックスに吸い込んでいる。みっちみちに詰まった魔獣は倒しても倒しても減っている気がしない……


ただ、流石に倒した直後に新しいのが湧くわけではないみたいで、大量に倒しまくっているうちにだんだん地面が覗けるようになってきた。でも草っぽい色は見えない。黒々とした土の地面が広がっているだけのようだ。


「おそらく天人がよく来るからだと思うが、このダンジョンに貯まる瘴気は他とは比べ物にならないくらい多いな。……ここも土の下に何か育ってると思う。力の流れはそこが終着点だ、溜まりすぎて溢れてるように見える」

徐々に地面が見えてきたので、降りられそうなところへ降りて地面をよく見てみると、確かに木の棒を地面に差してから切ったような、小さい切り株とか棒の先端に見えるようなものが点々と地面のあちこちに生えて?いるのが気になる。


掘ってみると作物にしては超大きい!一抱えもある硬い実のようなものが埋まってたけどちょっと腕力では持ち上げられそうにない。メイドさんが2人がかりで身体強化を使ってスポンと引き抜いてみせてくれたら。高さが1メートルくらいある巨大ヒョウタンが出てきた。


ヒョウタンといってもほとんどくびれはなくて、本当に太めの大瓶って感じ。上に飛び出していた棒を切ったようなものはヒョウタンの栓のところで、オクティが器用に一番上の固まっている部分だけぐるりと切り込みを入れて引っ張ると、コルクのように細長い棒がすぽんと抜ける。


すっごい強烈なアルコールの匂いと共に、高級な洋酒のような魅惑的な香りが周囲へ一気に広がった。

「ふぅん、純アルコールとほぼ同じ魔力バランスだが、より高濃度の魔力の中で寝かせて効果が増しているものらしいぞ?チョーコ、これは不死族がかなり喜ぶんじゃないか?」

「『最高級ブランデー』って名前が付いているね。すっごい高級酒の香りがするし、確かに喜びそう!」

「こ、れは、香りだけで酔い、そう」

「きつ、うぅ」

メイドさんたちの様子を見て、サニーさんは外していたコルクを奪うように素早く取ってすぐに蓋を閉めた。


「お嬢さんたち大丈夫ですか?……これはちょっと強すぎますね」

「だ、大丈夫ですわ」

メイドさんたちは香りだけで酔いかけて座り込んだけど、オクティが見たところ魔力を取り込み過ぎただけだからすぐに治るらしい。

「おふたりにはともかく、普通の人間族にとっては危険物でしょう。街へ売るのは許可できません」

「そうみたい。凄い高級品だと思うけど……これは不死族か魔人族へあげるくらいしか使えないかも?」

「不死族か魔人族へお渡しされるためでしたら、好きなだけ持って頂いていいですよ」


「いいの?実は不死族の人たちが凍土を開拓してくれたら、そこで不死族を雇ってお店をやりたいなぁって思ってて。そこで働いて貰うお礼に何が良いか考えてたんだけど。これだったら喜んでくれるかなって……」

「私としては、高山から持ち出したものが事故に繋がらなければいいので。人間の街には流通させないとだけお約束頂ければ構いません」


「わかった。人間には秘密にしておくね!」

「――オクティさんの目を信じるなら、このダンジョンはこれに向けて力が貯まる一方で、ダンジョンブレイクで外に出てくることも無い状態になっているということですよね。ダンジョンはきちんと時々は吐き出させた方が健全ですので。一旦全部吐き出させてしまいましょう」


サニーさんは風を操って地面を深く掘り込み、土ごと空中へ持ち上げてふるい。ヒョウタンを掘ってふかふかにした土の上に全部出していく。

島中の火山を操っていた炎人さん達を見た時も思ったけど、やっぱりすごいなぁ。


「天人は普通の酒の実で十分ですし、魚人も酔い水草でよいでしょう。竜人や小人の分はこちらで預かっておいて時々渡しますから。残りは全て不死族と魔人族の分として構いませんよ」

サニーさんが3割ほどのヒョウタンを回収し、残りをこっちの袋に全部入れて貰ったら。本当にモモンガの沸きがピタッと落ち着いた。


オクティがもう一度周りをよく視る。

「やはり酒にそれ以上力が入り切らなくて溢れた分が魔獣として湧いていたみたいだ」

「つまりここの魔獣が異常発生するようになったら、ブランデーに注がれる力が溢れているので取り出して入れ替えた方がよいという目安ということになりますね。なるほど、ありがとうございます」

ホッとしたように微笑むサニーさんは、本当に安心したようにみえる。


「……モモンガが共食いしてなかったのはなんでなんだろうね?」

「彼らは私たちのように魔力で飛ぶわけではないので、重くなると飛べなくなりますし。元々の性質なのではないのですか?」

「そういえばあいつらだけは纏めて複数出てくることがあったな」


「ともかく、調べ終わりましたし帰りましょう。送りますから」

また回収した核をこちらの袋に譲って貰い、牛の村まで送って貰って解散。


「次からも小さい所へ行きたければ別の拠点へご案内しますし、ここから近くてもっと大きい所もありますから、お声がけ下さい」

「ありがとうございます!むしろいつもお世話になりっぱなしですし、サニーさんが気になってるけど行けてない所とかがあったら教えてくださいね?」


帰ろうとして転送盤のところでふと、折角不死族と魔人族専用の特別なお酒も手に入ったことだし。帰る前にちょっぴり炎人さんたちの様子も見に行こうかな?と言ったら。

ニナの方が「あのっ、洞窟の近くまで陸橋がかかる、とか伺いましたし。一度どのような様子か見せて頂いたりは……」とそわそわした様子で言ってきた。


「あ、折角だから行ってみようか!」

「それからミラルダ様への贈答用に使う液体の入るガラスか陶器の容器に関しても、直接ご相談されてみてはいかがでしょうか?特に透明度の高いガラス容器の大量購入でしたら高級酒での支払いも妥当なものと思いますし。全部一気にお渡しせず、定期的にそういった様々な高級品の仕入れを行われる方が、人間の街からの交易品の値崩れも起こらず安定的な取引が出来ると考えますわ」

「――そっか。私がこういうものを一気に安く渡しちゃったら、商会から持って行っても普通のアルコールとか材木が売れなくなっちゃうかもしれないもんね」


「えぇ。ブランデーの存在を天人がご存じなかったということは、おそらくそうそう一朝一夕ですぐに溢れるほど実るというものではないのでしょうし。次回の収穫までの時間が読めない以上、全部渡してすぐに使い切ってしまい、追加を求められても困りますでしょう?少量ずつ取引をして様子を見ることは必要とお察しいたします」

「わかった。贈答用と、それから雇われてくれる不死族へプレゼントするのにも豪華じゃなくてもちゃんとしたのを使いたいから……どのくらいと交換してくれるか聞いてからちょっとずつ出すね。ありがとう!」


アドバイスを貰ってから洞窟前の転送盤に飛んで少しだけ山すそを迂回してみたら、海の方に黒々と煌めく岩の通路が見えた。

ワイバーンも余裕で並べそうな広さの道の両側、欄干代わりに盛り上がった部分には赤々と燃える溶岩が溜められた溝。


夜でも飛んでる人たちが黒い岩の陸橋にぶつからないし、黒い道でも明るくて道を踏み外さない親切設計ではあるけど、熱そうでちょっと怖い。と思いつつ欄干の内側まで近付いて……


「あれ、全然熱くない?」

「溶岩の上に透明な……何か硬い蓋がしてあって、直接手は突っ込めなくなってるみたいだな」

見た感じ本当に透明で、触って確かめる気にはなれないけど、オクティが言うならそうなんだろう。

と思ったら、メイドさんがコンコンとノックして確認して、本当ですわと呟いていた。


しばらくは遠く、はるか向こうにうっすら見える火の大陸の影を見ながら歩いていたけれど。

メイドさんたちも一通り見て満足したようなので、終着点近くまでテレポートでショートカットして、今度からはそこをテレポート用に覚えておくことにする。


長い道を一番高い所まで登り切ったそこは山の火口の真上に浮いたように作られた大きな円形状のステージの上だった。


黒々としたステージの周囲に見えるのは赤々と溶岩が湛えられた火口から火の大陸側へ溶岩が流れていく光景。時折水しぶきのように吹き上がる真っ赤な溶岩と、もうもうとした黒煙。

こちらもどうやらステージの周囲は何か見えない壁があり、一番最奥に門のような黒い岩が二本建てられた間だけを除いて、火も煙も入っては来ないようだけど、見た目には大迫力だ。


「おぉー……ここが、魔人族の交易所……すごぉい」

「おや?出来た途端に早速誰か来たと思えば、やっぱりお前たちか。今日はなんだ、橋の出来を見に来たのか?どうだ、なかなかいい出来だろう!」

奥の門のところからふわーっと飛び込んで来た炎人さんは、すぐに真っすぐ近くまでやってきた。


「はい、すっごいです!今日は、ちょっと高級そうなお酒を見つけたんですけど。ちょうど今、大きさが揃っていてちゃんと蓋の出来る、液体が入れられるガラスの入れ物がすごく沢山ほしいと思っていたので。良いお酒と交換だったらどのくらい作って貰えるのかな?と思って、相場を教えて貰いに来たんですけど……」


「ほほう……わざわざ『高級』と呼ぶ酒じゃと?よーし、蓋つきで密閉可能、液体の注ぎ口が付いている、大量に作れて大きさの揃ったガラスの器だな?それならいいのがあるぞ。待っておれ?」

奥へ行って、火を吹いて人を呼ぶ。


暫くして砂人さんがずるずるとステージの上に登ってきて、砂で出来ているらしい台を置いて、というか自分の身体の一部をその形に変化させてるのかな。その砂の台に、牛乳パックよりちょっと幅が広くて背が高いくらいのシンプルで飾りのない丸瓶や角瓶、その半分くらいのサイズの同じデザイン、壮麗な浮彫が施された豪華なデザインも大小の丸瓶と角瓶が並べられていく。


どれも蓋部分はしっかりと閉められて上に注ぎ口があり。蓋は外して中に手を入れて洗えるくらいの広口タイプ。角瓶でも蓋は丸くて中に落ち込んだりもしない。

「わ、確かに凄く使いやすそう……」


「スパイスに使っていたカップとこの小さい方が同じサイズだ。大きい方は4倍入るようになっておる。もちろんデザインに希望があるならオリジナルの注文も受け付けられるぞ。純アルコールほどの酒であるなら大小どちらでも、シンプルな方はカップ1つにつき2つ、豪華な方は1つだ。

それから水差しとセットで使えるような、この小さいやつの更に4分の1サイズのグラスやゴブレットもあってな、デザインは水差しと合わせてあり、4個セットで1つ分でいいぞ?こいつが気に入ったならそれも合わせて使ってみんかね」


「カップ1つで……えぇっと、まだカップで量ってないんですけど。まとめて渡してカップ幾つ分かそちらで量って貰ったり出来ます?」

「無論、砂人は全てのものを『量りとる』ことが出来るのだ。そのまま手に乗せてみよ?」


「お願いします!あ、重――」

「「お手伝いしますわ!」」

アイテムボックスから引っ張り出そうとしたら途中で支えきれなくなりそうだったが。素早くメイドさんが2人で飛びついて引っこ抜き。さっきオクティが栓を一度開けたものからまず出して、砂人さんの手だという、もう一つ置かれた台の上まで運んで貰う。


「……量は200。ほう……価値は250。……これは良いもの」

「ぬおおっ、こ、この香り?!なんともたまらん、素晴らしい香りだな……この酒が手に入るのならば、千でも二千でも売りたいところだが。幾つ買ってくれるのだ?」


ちょっとメイドさんを振り返る。

「えっと……これ1つでシンプルな方は500個、豪華な方は250個買えるってことだよね?シンプルな方って念のため二千丸々用意しておいた方がいい……?それだと4個支払い?」


「最終的に必要になる可能性はありますが、早めに欲しいのは300だけですわね。まず今買える分だけ買って、順次追加されれば宜しいのでは?」

「それから豪華な方も使い道はございますから。100もあれば充分すぎるとは思いますが、幾つか確保しておいてもよろしいかと」


「えっと、すぐに手配できる数って、どのくらいまでいけますか?」

「……今保存されている完成品の在庫は……シンプルなものが各500……豪華なものは各200……」


「んーと、まずシンプルな小さい方は角瓶500、丸瓶500全部で2個分。豪華な方は大きいの40、40、小さいの80、80で……豪華な方だけグラスとゴブレットを5セットずつ付けて貰ったら、丁度3個分かな」

またメイドさんに手伝って貰って2つ出して隣に置く。カップ200杯分入ってるらしいから、前の木の数を考えると3個もあれば皆で分けられる量はあるはずだよね。


砂人さんが炎人さんに釣り合った。と言うと、商談成立らしい。

また少し待つと、注文分が続々と運ばれてきて、それを受け取り。そのうちに小さい方は1000くらい追加したいと思っているので、また今度2個くらい持ってきますねと伝えて、今日は帰ることにした。

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