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飢えないだけじゃ生きられない(日・水・更新中)  作者: なるねこ


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52.魚人さんが詳しかった

冒険者組合に置いたはずの3つの転送盤を置いたところへ一旦戻ろうと転送盤を使ったら、森に近い塀の外……見覚えのある獣人暴走のダンジョンの建物が見える所だった、どうやら転送盤を相手に使われることを警戒して待機場所を街の外の凍土に近い側へ動かしておいたらしい。


転送盤の近くには、いつもの腕に腕章を付けた柴犬さん2名と野良獣人さんが30人、大剣持ちの軍人さんが4人と、赤髪で魔法使いっぽい冒険者が2人並んで待っていたし。他にも連絡を受けたのか、急いで街の方から駆け寄ってくる団体さん。

メイドさんが2人と、緑髪の秘書さん2人、軍部のお偉いさんとして前に見たお爺さんや、その付き添いらしい軍人さんたち6人が見える。


近くまで駆け寄ってくると、まずお爺さんが前に立ってこちらを見回した。

「わしが今回現場の責任者をしておる。状況は?」


まず転送盤の反対側3枚は現地に置いてきてあり、人質の18人は中毒の治療中だが全員元気という事を伝え。大まかに不死族についての特性や日が沈んだら改めて打ち合わせすることまでを説明。

それなら誰かがここに転送してきた場合はそのまま街へは通さず一旦確保するようにとお爺さんが待機組に命令。


そして増援予定で待機していたメンバーに転送盤の見張りは任せて、一旦街の中へ移動することになった。

街中を魚人の女の子とお揃いの服で歩いていた、小柄な天人のリィコさんらしき人がこちらに気付いてやっほーと手を振りながら近付いてくる。


「今日はよく会うわねチョーコ?何か物々しい感じだけどどうしたのよぉ。手が空いてたら一緒に街歩きして遊ばなーい?って誘おうと思ったのに」

「えっと、あー。実は街から近い所に不死族の人たちが居て、遠征隊にいた人間達が捕まってしまったので、彼らにどう対処するかを今から話し合おうと――」

「不死族――死の御使い様と一体何が?!」

急に声を上げたのはリィコさんとお揃いの服を着ている魚人の女の子の方だった。


「ん?リタ、死の御使い様ってなぁに。不死族のこと何か知ってるの?」

「ずぅっと南の果ての海に、常に夜で霧に包まれた死の大陸っていう地があって。私たち魚人族や海神族たちには、寿命を迎える頃が近付くとその大陸を目指して長い旅をする『死出の旅』っていう習慣があるんだけど。

死の大陸に住む御使い様、不死族とも呼ばれる皆さまは、全ての生き物に真の安寧に包まれた永遠の眠りを与えると言われていて。そこに辿り着くことが出来たら、この上なく快い安らかな眠りに導かれると言われているの」

「ふぅん。安らかな眠りに導く死の使い、かぁ……ちょっと怖い感じもするわねぇ?」

「実際に見たことはないけれど、とても暖かく優しい方々だと聞くわ?海はそれなりに過酷で寿命を生き切ることが出来るのはそれだけでも名誉なこと。それを達成した魚人たちへの最後のご褒美が死出の旅なのよ」


なるほど、山は死んだら火の山で燃やすって言ってたけど、海の生存競争での死亡は食べられてしまうから死体の処分って考えはもともとあまり無くて。寿命を迎えるとなったら自らへのご褒美として死の大陸へ旅をして不死族に最後を任せるのか。


「そっか……魚人さんたちにとっては、不死族の人たちは素敵な死出の旅を守ってくれる死神なのね」

信仰対象みたいなものなら、あまり変な扱いをされては気分が悪い、かなぁ。

「そうなのよ。それで、御使い様達がどうしてこんな陸に上がって問題を起こされたというの?」


「えっとね――」

素直に最初から全部、情報から調べたことも説明してしまうことにした。


随分前から死の大陸では不死族の増加のせいで他の生物が死滅したり、大陸全土が凍土化したりして不死族の人々は食糧難に陥り、共食いによって人数が激減。こちらの大陸まで地下道を掘り抜いてやって来たらしい。

ただ、彼らは瘴気を吸いまくるため、定住すると平地にあるダンジョンが崩落したり、湖のように魔獣が消えたせいで魔力不足になったりしてしまう。既にかなり広範囲の凍土を平地に生み出してしまっているので。それ以上被害が広がらないようにしないといけない。


その上、今回遠征隊の一行を18人も纏めて連れ去る事件が起きてしまったので。こちらとしても一切何もなく無罪放免というわけにもいかない。

という説明をすると。


リタさんはまぁ……と痛ましい顔で眉をひそめた。

「長老が聞けば、死の神の皆さまが飢えておられるのは、寿命を生き切るまで生き延びてお傍に行けるものが少ない、弱い我らの責任でもあります。とか悩んでしまいそうだわ。……私たち魚人にとっての不死族というのは、生き切った者たちの最後を見守り、苦しみを除いて暖かく眠らせてくれる優しい方々。出来ることなら……皆さまにも穏やかに暮らせる地を確保して暮らして頂きたいところね。

例えば、地上にも死の神殿や病に苦しむ者が訪れるような施設を作って、最後を迎える方が穏やかに過ごせるように見守って頂くとかはどう?」


「不死族の人は病の治療とかが凄く得意、なんだよね?そっか、病院を作るのはありかも。治療から最後の見守りまで全部出来るってことだし」

「私たちの言い伝えによると、魔力欠乏症や魔力過多症に生まれつき苦しむような人とか、中毒症状、精神を壊した者……特に大切な番に先立たれて心を病んだ者の回復は著しいと聞くわ。死を覚悟して若いうちに死出の旅に向かったら、治療されて帰されたっていう話は沢山あるの」


「ヴァンパイアのパートナーになることとか、サキュバスの夢を見ることについては、何か言い伝えってないかな?」

「ヴァンパイアの花嫁になるというのは、2人で魂を分けて一生を共にする誓いを結ぶことよ。不死族になるわけではないけど、同じ時を生きられて。どちらかが死んだ瞬間、もう一人も一緒に亡くなるのですって。

それから、サキュバスの夢?……うーん、実は魚人の中でサキュバスの夢は『魔獣狩りが足りていない』っていう意味の予告の夢見だとされていてねぇ。特に地上の武者修行の旅の途中でそれを見た時には、とにかく沢山魔獣を狩って核を大量に大地に撒け!って言われてるの。不思議よね?」


「あれ、なんとなく魚人さんって恋愛関係派手なイメージがあったから、サキュバスの夢はそういう方向で喜ぶ話かと思ったら、そうじゃないんだ?」

「御使い様よ?恋愛だなんてとんでもない。畏れ多いわ」

「そういう感覚なのね。――あ。えっとね、死の大陸が凍土化してしまって今は住めないそうなんだけど。凍土って魔獣の核を大量に集めて、大量に撒きまくると徐々に復活して、元の使える土地に戻っていくらしいの!ダンジョンもないから瘴気が増えやすい地になるっていうし、不死族の人たちが住むにはむしろ都合がいいじゃない?土地が戻れば植物も妖精も復活するんじゃないかな?魚人たちから不死族への貢ぎ物として、核を定期的にいっぱい届けてみるとか……どう?!」

「――それは長老が何かしたいって言うかもしれないから、伝えてみるわね。ありがとう!」


人間達がどうしても彼らを受け入れられなくなったとしても、死の大陸が少しでも住める環境に戻ればなんとかなるかもしれないもんね。海はまだまだ魔力過多だし、凍土に核を沢山提供していたら丁度よくなるかもしれない。


色々不死族について知ることができたと2人にお礼を言ってから振り返ると、黙って数人が真剣な顔でメモをガリガリ取りつつ待っていた。

凍土に魔獣の核を沢山撒いて土地を復活……ダンジョンが無い地は瘴気が増えやすい。ブツブツ聞こえる言葉に反応する前に、一団と共に移動して連れて行かれた建物は、入り口を軍部の人が警備している石造りの堅牢そうな四角い三階建ての建物。

通されたのはなんというか、漫画とかで見る軍事会議的な部屋?長い机の両側に椅子が並んでいて、机の上には手書きの地図と、木を建物や人の形に削った駒や棒、ペンとインクと紙。


紙の上に今後の開拓計画、なんてタイトルであれこれ書いてあるのが表向きに置いてあるんだけど。

こういう重要そうな会議室の書類とか見えちゃって大丈夫なんだろうか。


「さて、とりあえず皆集まってくれて感謝する。立ち話もなんだ、適当に座ってくれ」

お爺さんがお誕生日席に先に座って皆を見回したので、こちらもそれぞれ地図が見えるように並んで座る。


「えー、今回遠征隊の生存確認に行って貰った魔塔所属のオクトエイド=ガラテアマンダ、流れの冒険者チョーコ、その従者、以上3名。まずは素早い生存確認と原因の究明、ご苦労だった。

報告によれば、遠征隊18名の身柄は現在、南の果てから繋がる巨大地下洞窟の、最も帝国に近い先端部分に滞在中。

不死族9名による魅了を強制する毒の中毒を発症しており、強制的に引き離せば精神崩壊を招く恐れがある。それを中和できるのも現在は不死族のみであるため、話し合いまでに治療をするという約束で全員現地に残して帰還した。

不死族は生き物が吐き出す瘴気を吸って生きる種族であり、周囲に充分に生き物が生息していない場合は土地やダンジョンを枯らし凍土化を広げる特性を持つ。

ただし、瘴気を吸う特性によって、彼らの周囲にはダンジョンが無くても安全地帯が発生するため、人為的に安全地帯を幾らでも広げることが出来る。――これは非常に重要な優位性だろう。

また、彼らは薬物毒物の扱いに非常に長けており、精神疾患や生まれつきの魔力疾病の治療を得意としているらしい。これに関してはまだ実例が示されていないが、魚人族から齎された情報であるから信ぴょう性はある程度あると考えよう。

不死族は現在、食糧難によって全体でも2千人規模まで激減しており、本国は住める状態ではないため、平地へ住むことを希望している。現在活動しているのは3百名ほどだが、状況によっては他の者も動くと予測される。

彼らは生き物が発する瘴気や魔力や体液を吸う特性上、協力体制を取るにあたっては、他の生き物との『触れ合い』を要求している。

――以上が報告等から得られた情報となるが、相違ないかね?」


頷く。


「わしの考えをまず述べるが。現在、凍土化しているという土地は海から山まで横断するほど広範囲にわたると天人などから聞き及んでいる。その地下全てに地下空洞が既にあるとすれば、通路を爆破等で埋めて彼らの通行を防ぎ、土地から追い払うような手段は正直不可能だ。

それに激減したとはいえ規模は2千ほど。風、水、結界などの無属性も含めて、火以外全ての魔法が効かず。アンデッドのように死ににくく、身体強化を使える人間のように素早く動き。中毒性の非常に高い、強力な快楽を覚えさせる毒を作り出し、魅了の魔法も使って人を虜にした上、魚人のそれとは違って行動もある程度操れると予想する。

――敵に回すのは危険すぎる種族だ。しかし、魅力的な能力もまた非常に多い。複数の同盟国を巻き込んででも、提供する人員を選んで差し出し協力を結ぶことを念頭にしても良いと考えておる」


部下らしい軍人の1人が挙手をする。

「では、そこを交渉における最終ラインと仮定しましょう。私の考えですが、まず、彼らとの協力関係において。広大な凍土の土地に魔獣の核を撒いて土地として復活させる事業に全面協力して頂きたいと考えています。生物が自然に発する瘴気を吸って生きるという体質であるならば、作業員を大幅増員し多数投入することで、直接的な接触がなくともある程度は飢えを満たす状態を維持できるのではないでしょうか?

私は、生贄のように人間を提供するという考えではなく。協力体制を組んだ人族へ、交友の一環として『縁談の斡旋』を行うことを提案いたします。

――凍土から復活した土地は、不死族が棲めば魔獣の発生しない安全地帯となる。ですよね?街どころではない広大な安全地帯が用意できるとなれば、人間は幾らでも集められます。農地、病院、工場、娯楽施設。……特に歓楽街などは流行るでしょう。凍土を使える土地に復活させるための作業に全面協力して貰い、復活させた新たな土地は表向き彼らが住む地として、様々な施設を作り、人間も土地と設備を使わせて貰う。

その見返りに各所から集めた魔獣の核の継続的な提供や、希望者を募っての縁談の斡旋を行うわけです」


「「リオ隊長の意見を私も推します」」

そう言って軍人さんたちの3割ほどが一斉に手を上げる。


メイドさんが手を上げた。

「現在治療のために預けている18名の身柄についてはどうしますか?」


リオ隊長と呼ばれた彼が振り返る。

「国としては誘拐を良しとするわけにはいきませんので、勿論一旦は返還要求を行います。ですが……()()()()()()()()にまで首を突っ込む必要はないというのが私の考えですね。問題は、彼らがそれを逆手に取って中毒患者を故意に生み出してかどわかしを行うことですが。何か意見はございますか?」


2秒ほどの沈黙の後、何故かチョーコに視線が集まる。

「他の人族について詳しい方にも是非ご意見を伺いたい」

「……ふえ?え、えっと……制約とかそういうのは多分効かないと思うので、単純にきちんと約束をしておくのはどうでしょう?本当に一目惚れだとか、恋愛感情を持つことだってあると思うので、普通にナンパしたり恋愛するのはいいけど、薬を使った魅了は禁止とか、気に入ったからって勝手に連れ去りは禁止とか」


リオ隊長が大隊長のお爺さんにチラッと目を合わせる。

お爺さんの方が再び、チョーコに目を合わせてきた。


「うむ。当人同士が恋愛関係であることを認めて伴侶になるのは良いが、同意のない連れ込み、誘拐、薬での魅了は厳禁とし、処罰対象とする。……交渉役を頼んでも良いかね?」

「話してみるだけなら。――えっと、でも1つだけ。

皆さんが不死族の人たちを怖がるのも分かるんですけど……逆に、不死族の能力や彼らの持っている強い快楽を得られる毒を目当てに彼らを害そうとするような人間が現れた時とか、彼らが自衛の為に毒や暴力を使うことだってあると思うんです。理由に関わらず毒を使ったら即追放みたいなのは、平等じゃないかもって思いました」


「ふぅむ。確かにな。不老不死を持ち、その花嫁となったものもその恩恵を受ける可能性。強い快楽を得られる薬、数人囲っているだけで広く発生する安全地帯……我が国はともかくこの先の同盟国のどこかから狙われる可能性も充分に考えられるだろう」

「友人として対等に助け合いの関係で居たいのなら、自衛のためだった場合は例外にして、その主張があればきちんとその真相の調査をするとか。他の人族との触れ合いは警備のある決まった設備でのみ行うとか。こちらも譲歩するべきかなって思います」


「その通りだな。基本的には平地に住む以上は他人族への毒の使用や暴力行為は禁止だが、自衛のためであれば例外とする。ただし、過剰防衛と判断されないように気を付けて貰いたい。――こちらも、公共設備の警備は厳重にする等、対策を考えておくとしよう」

「分かりました、その方向でしたらお話してみます」


「よし。――攫われた人員についてだが。与えられた快楽が強すぎて、おそらく既に日常生活にそのまま戻ると支障が出る状態であるそうだな?

不死族が住む地は安全地帯になるという証明を兼ね、まずは凍土近辺に大規模な居住区を建造する。凍土開拓の人員が住めるようにな。今回攫われた18名は街に戻さず、そこに住んで今後は不死族と共に凍土開拓の任について貰う。

正直、一度魅入られた人員をそのまま街に戻すことにはまだ少々不安が残るのだ。強制入居はその18名のみで、後は希望者とし、通いの作業員を多数投入していくが。定期的に不死族への好感度などを確認し彼らに心酔したようならそちらの居住区へ移り住んでもらおう。

サキュバス種が夢を見せることを許可して欲しいという話だったが、居住区に居る人間に対しては許可する予定だ。

その場合、最初から不死族の存在を認知している者たちなので、毒は使わぬようにして貰う」


条件としては……とりあえずは良いんじゃないかなと思うし、小さく頷いた。


少し気になってオクティの方を見ると、思ったよりも、ほっとした顔をしてる。

『大丈夫そう?』

そっと聞いてみると、ふっと目を細めて微かに頷く。

『死の大陸や洞窟の中に連れ去られて戻ってこないんじゃ困るけど。人間は地上の居住区で住ませる条件なら、俺たちも会いには行けるからな』

『それなら、いいの?』


『あの人さ……どうやら俺の父親って人が死んだこと、ずっと引きずってたみたいなんだよね。さっき少しだけ話した時にさ。あの吸血種に魅了されて、こんなに心が軽くなったのはあの人が亡くなって以来久しぶりだ、楽になったって、嬉しそうに微笑んでたんだ。魚人の彼女が言ってた、伴侶を失った辛さを抱える人の治療には効果てきめんって聞いて納得したよ。彼らの傍に居ることで心が少しでも楽になって、幸せに生きていけるっていうなら……ありかな』


『あぁ……そっか、お義父さんって人も、きっと素敵な人だったんだね』

確かに、心の傷って十年以上引きずること、あるもんね。


少しでもお義母さんが楽で幸せと感じて生きていけるなら、確かにそれは……良いことかもしれない。

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