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飢えないだけじゃ生きられない(日・水・更新中)  作者: なるねこ


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44.メイドさんたち

宰相さんは仕事でもう城へ行かねばならないそうなので、下見は私たちとメイドさんたちだけの7人だけで向かうことになった。

4人乗りの獣人車2台に分かれて、私たちは後部座席に並んで座る。こちらへ一緒に乗ったのは一番左に居た、メインで喋っていた子みたい。


「わたくしが御者を兼ねて、こちらにご一緒させて頂いてよろしいですか?」

「あ、はい。よろしくお願いします」

「うふふ、チョーコ様。わたくし達は本当にただの使用人なのですから、もっと気楽に接して頂いて構わないのですよ?」

補助の手もなく、ひらりっと地面から助手席へ軽々と飛び乗った動きはまるで忍者みたいでカッコイイ!

でも、立ったらチョーコより頭半分くらい背が低いし、本当に護衛などの荒事も仕事にしているなんてどうにも信じられないくらい小柄で可愛らしい子にしか見えない。


「えっと、私本当にこういう使用人とかそういう人を雇ったりしたことがなくて、扱いとか分かってなくてごめんなさい。皆のことは、なんて呼んだらいいの?名前とか教えてくれる?」

車を走らせながら、メイドさんが一瞬固まって、不可解なことを聞いたという顔をしながらチョーコを振り返った。


「……秘書達から聞いた時はまさかと思いましたが、チョーコ様はわたくし達のことを見分けられるのですか?」

「えっと、まだ無理だけど。長く一緒に居るなら、名前くらいは知っておきたいなって……何かおかしかった?」

「いえ。その、わたくし達が派遣されるような現場において、わたくし達を『人間扱い』する雇い主は珍しいものですから、少々動揺しただけですが」


「えっ。どういうこと?」

彼女はオクティとチョーコを見比べ、しばらく言葉に困った様子を見せた後。

「わたくし達『従者』の教育を受けたもの達は、教育の一番最初に『いずれ主と定めたものを命に代えてもお守りする』という誓いを自分自身に向けて立てておりますし。わたくし達は主の為に死ぬことを恐れません」

「えっと、うん」

「このように外見を徹底的に似せ、見分けがつかないようにしているのは。雇い主の方々に、わたくし達を純粋に『数』として管理して頂くためです。勿論人員交換が最低限で済むよう、自己防衛も鍛錬もしっかり行いますが。わたくし達はそういう存在ですので……雇う側も名を聞いたりはなさいません」

「そうなんだ……わひゃっ?!」


ちょっと俯いてしまった私に横から腕が伸びてきて、オクティの膝に引っ張り込まれた。

少し抵抗しようとはしたけどそのまま抱えて離してくれないので、諦めて胸にもたれ掛かる。


「俺たちにそれを説明したのは、なぜだ?」

「チョーコ様は少々優しすぎるように感じますので、最初にきちんとお伝えした方が将来的に齟齬は少なくなると判断致しました」


「確かにそうだ。――ただ、俺たちはただ守られるだけの貴族じゃない。出来れば、身を挺して庇うんじゃなく、敵の位置も共有して一緒に戦えるようになるといいと思っている」

「おふたりはこれから貴族の一員になる……というお話のはずでは?」

「俺たちは()()()()()()()()。だから、正確には役職に就いたとしても貴族ではないつもりでいる。帝国貴族の親族で、帝国の魔塔所属ではあるが、気持ちは冒険者のままだ」


「!それは。なるほど……あの秘書たちが気に入るわけです。わかりました、屋敷を見て回ったらわたくし達の自己紹介をさせて頂きますね」


着いてみると魔塔に近いっていうか、魔塔を大きく囲う塀の内側が細かい壁で区切られている場所にあった。完全に魔塔関係者が住む専用の地区。外側に大きい門があるけど、内側の塀にも魔塔側からのみ鍵がかけられる扉が取りつけられていて、家から直接魔塔の敷地に行けるようにもなってる。


道から門を覗いた限り、手前の方にはアパートみたいな集合住宅が何棟かまとめて建てられてる地区があって、奥の数軒だけ大きい戸建てになっていたから、そこが幹部用の家なのだろう。

一番奥の端で、家のサイズは隣と同じだけど。庭に小ぶりなアパートというか、警備員用の寮が建てられているのはうちだけらしい。


宰相さんは赴任中の仮暮らしに使う程度の家だなんて言っていたけど、庭だって公園かなって思えるくらいの広さはあるし、建物も石造りの二階建てで頑丈そうな感じ。

どう考えてもファミリー向けで赴任の単身者や夫婦だけで済むような広さじゃないんだけど……


ひとつだけ。全ての窓が外側から鉄格子なのがちょっとだけ不穏ではある。

けど、これなら窓から侵入者の心配はしなくて済みそう。私たちならドアを閉められても出られないわけじゃないしね。


中に入って窓を開け、灯りも付けて貰って見学。建物が縦半分くらいに分かれているみたいで、玄関入ってすぐ右側は壁でドアが付いており、その先は使用人の居住区。左が主人の家みたい。

一階は玄関すぐ横と、奥の方の食料保管庫の所で使用人区画と繋がっていて、二階から先は直接使用人の部屋とは繋がってないらしい。


使用人居住区の中には階段も水場も使用人用の食堂もあって、主人宅と共有しているのは食料保管庫だけだそうだ。まぁ水と食料の管理は常にするものだもんね、一括の方がやりやすいんだろうし合理的だと思う。


入口は二階まで吹き抜けの小ぶり(といっても庶民感覚では充分立派な)エントランスフロアになっていて、一階の床や壁、柱までは石、二階への階段と天井は板張りになっている。

彫刻などの装飾は少ないけれど、上手く石と木の色合いを工夫して見せていて、上品な印象に纏まっている感じ。


一階はかなり大きめの10名以上座れそうな食堂と、食器棚と大きめの空の水樽や木箱が置かれたかなり広めの食糧庫、宰相さんの家ほどではないけど充分に広い水場には、立てかけられた水浴び用の大きなたらいがあるだけで、家具は壁の一面が大鏡になっているのみ。


二階は今使ってるのと同じくらいの広さの主寝室と執務室、専用のドレッサールームの他、8畳くらいありそうな家具のない小部屋(こべや?と驚いたがメイドさん達の感覚だとそうらしい)が3つ。


この家だと平民上がりの重役や貴族の中でも下の方の人が住むような規模で、正直言って宰相の孫夫婦が住むには格違いなんですがと言われたけど、これ以上大きい家を紹介されても正直困るのでここにしようとオクティに言って決まった。


とりあえず主寝室の所にはテレポートの目印を付けておく。


ちょっと気になるところと言えば、食料保管庫が本当に箱と樽だけで配膳出来る台すら何もなかったので、調理台と贅沢を言えばかまどと流しが欲しいと言ったら、2日もあれば揃えてくれるそう。


工事費用なんかも、これまで積み上がった功績が払いきれてないので、気にしなくていいらしい。

ついでに言えば使用人や警備員を追加で雇ったりするような時も、費用関係は宰相家がまとめてやるので気にしなくていいと。


「チョーコ、新しく調理台とかも入れてくれるって言うなら、それが出来たらすぐ引っ越ししちゃおうか?」

「そうだね、料理出来るようになるなら色々試してみたいし……ねぇ、引っ越しはすぐ終わりそうだけど、ご近所さんへの挨拶って普通はどうするものなの?」


「別の国に行くわけじゃないし、ただ魔塔で役職がついて家を貰うからそっちへ移るって伝えればいいだけだよ。でも、なんやかんやお世話になったのは確かだし、また家の前で焼き肉でもする?」

「それがいいかも!野菜とお肉用意してバーベキュー作ろう」


「おふたりに本家当主からの伝言ですが。以前の家はすぐに借り手がいるわけではないので暫く出入りしていても構わないとのことです。不用品の倉庫代わりに使っても宜しいでしょう」


「あっ、そういえば倉庫に結構色んなものしまい込んでたし、お絵描き部屋……は、こっちにも空き部屋あるから一部屋丸ごと移しちゃえばいっか」

「そうだな、不用品は取っておくか処分するか一度ゆっくり見たほうがよさそうだ」


調理場ができるまでは元の家で暮らし、メイドさんたちに来てもらうのもその時からでいいと決めてから、改めて自己紹介のために食堂へ集まった。


折角なので、高山で貰った牛乳とバナナでバナナミルクを作り、ホイップクリームをちょっとトッピングして、更に()を入れたものを配ると

ほんわり穏やかに微笑んでいた1人がクワっと目を輝かせてきた。

「こ、これは!高山の牛乳とバナナっ!高級食材ですけど私達まで頂いて良いんですかっ?!」


ちょっと勢いがすごくて仰け反ってしまったけど、ただ心底美味しいものが好きなんだなと分かりやすく伝わってきたのでコクコクと頷いて返す。

「高山の亜人騒ぎを落ち着かせたお礼とかで貰ったものだから沢山あるし、気にしないで飲んで」

「ありがとうございます!」


カップが行き渡ったところで、苦笑しながらメイドさんのひとりがすっと立って、一礼。

「騒がしくて申し訳ありません。早速ですが。わたくし達の自己紹介をさせていただきますね!

まずわたくしはニナと申します。わたくしとこちらの、先程お騒がせしたミナは双子で、この中では最年長の14歳です」

「ミナです。料理とか甘味とかお酒とか、チョーコ様が広めて下さった新しい味は全部好きです!私たちとこちらのリナまでが三姉妹です」

「はい。わたくしがリナ、13歳ですわ。一応ニナとミナの方が姉妹ですけれど、何故かそちらのルナとマナと私が三つ子扱いされますのよねぇ」

「わたくしがルナと申しますぅ。そちらの3人とは従姉妹ですけど、ほぼ5人全員姉妹と思われてますわねぇ。12歳の末っ子ですの。得意なことは不審者のお掃除ですわぁ♪」

「マナ13歳です!一番得意なのは情報収集ですが、戦闘では防衛担当なので、チョーコ様付きの護衛……というかお世話係希望ですっ」


「だーから、さっきも言いましたでしょう?そういうのはこちらからおねだり禁止ですのよ」

ツッコミを入れたのは真ん中に座ってたリナ。


「えぇと……チームリーダーがニナ、料理担当がミナ、屋敷の防衛担当で攻撃が得意なのがルナ、防衛が得意って言ってたのがリナとマナ?」

全員少し固まったあと、ニナがいち早く我に返った。


「はいそうですっ。本当にわたくし達を個で認識されてらっしゃる……えぇと。マナ、あなたは護衛ではなく諜報員として、情報収集や連絡に回ってもらうわ。わたくしがオクトエイド様、リナがチョーコ様の護衛に。ミナはメイド長として料理や家政。ルナは警備隊長として屋敷内の防衛と今後雇う警備関連を任せます。……おふたりから何かご要望があれば追加しますがいかがでしょうか?」


「俺は特に拘らないが、マナをチョーコに付けなかった理由は?」

「マナは可愛いもの、綺麗なものが本当に好きで。チョーコ様のお傍に置いたら隙を見てお世話をしようとしますから、気が休まらないかと思いました」

「あ。気遣いありがとう……えっと、うん。やりやすいようにやってくれるのが一番だと思うから、采配は任せるね。護衛はリナ、ね、よろしく」


「わたくしがチョーコ様担当ですのね、よろしくお願いしますわ。外ではメイドとして扱って頂き、あまり名前は呼ばないようにお願いしますね?」

「あ、呼ばない方がいい?」

「外では同郷の者にも会いますので。家の教育方針上、()()()()()()のはあまり外聞が宜しくありせんのよ」

「わかった。外ではメイドさんって呼ぶね」

「俺もそうしよう。メイド長と警備隊長と、あとはメイドだな」

満足そうに5人とも頷いている。


「あ、ねぇオクティ、翻訳機と通信石も作って渡しておいていいと思う?」

「魚人から沢山貰ったし、良いんじゃないか?」

テレパシーの魔石を6個と小さい魔石板を5個オクティに渡す。組み立て始めたのを見て5人はソワソワというかザワザワし始めた。


「え、本当に頂けるんですか?」

「まだわたくし達何も仕事らしいことは出来てませんけれど……」


「この先私たちと行動するなら、いろんな人族とも会うことになると思うし、私たちのために働いてもらうなら、必要な道具は揃ってた方が良いかなと思って」


パンと手を叩いて喜んだのはリナだった。

「ありがとうございますっ!実はあの秘書たちから散々自慢されておりまして、もう悔しくって仕方なかったんですの!」

「あ、そうなんだ?結構秘書さんたちとも交流あるのね」

「曲がりなりにも彼らは本家当主直属の座を得たエリートですもの。お手本として育成施設に講義をしに来ることもありましたし……わたくし達も施設の中ではトップの方におりましたから、特別講義として直接習うこともありましたのよ」


「トップのエリートだったのに私たちに従うようにって言われて、嫌じゃない?」

「「「まさか」「全然」「はい?」」」

口々に思わず漏れた言葉が被ったらしいけど、聞き取れた限りそんなわけないでしょうと言いたいのが伝わってきた。


「え、本当に全然不満じゃないの?」

5人で顔を見合わせてから、ニナが口を開く。

「わたくし達にも拒否権はあります。顔を合わせてみて従いたくない人物であれば、その理由を本家に提出して辞退することが可能ですのよ?わたくし達にはいい意味でも悪い意味でも代わりはおりますし、まだ若いですもの」


「命懸けで守る相手を決めるのに、後悔とかしないの?」

「何故そんなにも自信をお持ちじゃないのか分かりませんけれど、わたくし達なりの合格ラインは越えていると思いますわ?……少なくともお金以外に長所のないエロ爺や、暴力暴言、見下しや欠点をあげつらって契約条件を変えようとしてきたり、といった、いわゆるお断りしたい案件には思えませんし」


「ルナは正直、ご主人様たちが強すぎるとわたくしの出番が減っちゃうなって思ってましたけどぉ。トラブル多そうな感じもするし、そのうち面白いことになりそうな気がするからオッケーですぅ♪」

「可愛くて綺麗なご主人様に仕えるのが夢でした!」

「このバナナミルクに入ってる冷たくて固い水も初めて見ましたわ!チョーコ様にお仕えしていたら、色々な食材と触れ合えそうです」

「わたくし、優秀だけど少し抜けのある方が好みで、全力で守ってあげたくなりますの。チョーコ様の護衛なんて今からわくわく致しますわ」


「抜け……てるかなぁ?」

「テレパシーとテレポートが使えることは本家に報告されてますけど、アイテムボックスが使えることも公開情報でしたかしら?」

「あ」

ふは、とオクティが笑ってチョーコの頭を撫でる。


「そうなんだよね、たまに色々油断しがちだから、傍について守ってくれる人がいるのはありがたいと思う」

「むむぅ。……ねぇ、私の能力についてってなにか調べたり本家に報告したりするの?」


「主人の能力の把握には努めますが、本家への報告義務はございません」

オクティが少し不思議そうに首を傾げる。

「今の直接の雇い主は本家じゃないのか?」

「いいえ。あくまでわたくし達が仕えるのはおふたりだけ。今は仮契約のお試し期間というだけで、おふたりが正式に雇うと決めればそのまま本契約、断られれば育成施設へ帰るだけですわ」


「本契約になると何か違うの?」

「わたくし達は返品不可ですの。一生を捧げる誓いをしておりますので、本契約を結んだら死ぬまで着いていきますわ」

「……主人が没落して給料払えなくなったりしたら大変だね?」


「没落なんて、情報収集や根回しなど、サポートが足りない従者にも責任はありますのよ。そのために財務や家政も学んでいるのですもの」

「護りきれずに先立たれること、サポートし切れずに主人が落ちぶれることはわたくし達の恥ですから。そこは主人が悩むことではありませんわ」


「それでも、一生背負う覚悟がないなら軽々しく雇うとは言えないね……」

「うふふ、わたくしはますます気に入りましたわぁ。わたくし達の実力を認めて雇いたいと言わせてみせますの」


ルナがぐっと両手を握っているのを、隣のマナがやれやれといいたげな顔でつつく。

「戦闘以外で役に立たないと難しいんじゃなーい?まぁわたくしも身繕いのセンスとかで勝負できないから厳しいけど」


ニナは変わらずニコニコしながらパンと両手を叩く。

「仮契約は最長1ヶ月となっておりますから、それまでに決めて頂けたら宜しいですわ!……調理台などが揃うまではおふたりは元の家で過ごされるということですから、その間にこちらの家を整えたり警備を集めたりしておきますね?」


「あ、うん。その辺は全然分からないから、全部お任せしちゃっていい?」

「お任せ下さい!」


一通り自己紹介が終わり、今日のところは一旦メイドさんたちに新居を任せて、チョーコとオクティは元の家に帰ることにした。

引越しのお知らせとお別れ会がてらバーベキュー大会でもやろうということで、商会組合にでも寄ってみようかな?

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