43.言語学校も出来るらしい
宰相さんの家から帰宅後、早速オクティと共に翻訳機の量産に向けてテレパシー魔石を魚人さんが作れるようになってくれたかどうか。海へ行ってみたら。
なにやら女王様が上機嫌に微笑んで出迎えてくれた。
やってたら何となくつかめるようになったという魚人さんが結構増えたのだそうで、それぞれ安定して作れるまで練習したと、テレパシーの魔石がザラッと百個以上出てきてちょっとビックリ。
「わ、わぁ、頑張って下さってありがとうございます!」
女王様は明らかにホッとした顔で微笑む。
「妾たちのように陸に上がれぬ者にも手伝えることがあってなによりでしたわ……。魔石板も大小揃えて引き続き集めておりますから、必要なだけお持ちくださいね」
「はい、すっごく助かります!」
よかった、これで堂々と翻訳機を大量生産しても魚人さんたちのおかげって言えば済みそう!
オクティに魔眼で魚人の作った魔石もチェックしてもらったところ、効果もチョーコの作ったものと同じで無言のままでも話せるようだし、割れば通信石も作れそうだし問題なさそう。
「よかったぁ。実はちょっとだけ、私の『テレパシー』って言葉のイメージがそのまま出たせいで、普通は言葉だけなのに口を開かなくても話せる魔法になったのかと思ってたけど、元々そういう仕様なのね」
と言ったら、近くにいた魚人さんが「え、テレパシーは口を開かなくても喋れますよ?」と言う。
水中ではそうじゃないと喋りにくいでしょう?と。言われてみればそうかもしれない。
――あれ、まって。私の心の声がダダ洩れになってる疑惑ってそれじゃないよね、大丈夫だよね?!
魚人さん曰く、相手と話そうと意識して話すだけでテレパシーは勝手に発動するけど、発言したものだけ伝えるか無言で思考だけ飛ばすかは自在に切り替えられるそう。
「喋り始めの幼体の頃は上手く調節出来なくて全部喋るので幼いほどお喋りですね。ですが、喋っているうちに自然に『言葉にしよう』と思った言葉だけに力が乗るようになっていきますから。特に意識して抑える訓練などはしなくても、使っているだけで意図した言葉だけを伝えられるようになるんですよ」
他の種族がこの石を使うときも最初は全部出てしまうかもしれないですが、使い慣れれば誰でも同じように出来るはずですと。
聞いているとますます、私のダダ漏れ疑惑が深まっていく。
「まさか、オクティ……前から私の心の声がテレパシーで聞こえてたりしてた?」
じっと顔を見ると目を逸らされた。
「オクティ……?」
「確かに会ってすぐの頃はあったかもしれない。あとテンションが上がると妙に口数が増えるなって思ったりはしたけど……ハッキリ心の声だとは思ってなかったんだよね。それにもう、最近はほとんど漏れてはないと思うよ?」
「うぅ……ほんと?」
改めてテレパシーを使いながら確かめてみたところ。私の場合は人の考えを読みとるのは難しく、相手とちゃんと目を合わせて集中しないと無理だった。でも自分の思念を飛ばす方は、心の中で叫ぶような時は出ちゃってるみたいなので。やっぱり私の心、駄々洩れだったかもしれない……どこまで漏れてたんだろう、怖い。
ただ、心の中で考えてる中でも、相当テンションの高い声じゃないと無意識には出ないっぽいから、そんなに全部じゃないと思う。思いたい。多分。
色々漏れないように意識して、伝えたい言葉だけを無言で届けるのはやってみたらちゃんと出来たし、テレパシーの魔石で読み取ろうとしても余計なところは聞こえないと言われたから、今はもう出来るようになったってことなのかな?
これで駄々洩れ解消!……してくれてるといいな!
ついでに魚人さんたちにも、魔石から翻訳機をどう作るのかを実際に作って見せてみたりした。材料はたくさん揃ったのでとりあえずで何度も説明しながら作って見せてたら15個ほど完成してたので、明日はこれをまとめて持って行けばいいよね。
ただどうやら、海では元々魔石は海底の水圧で勝手に出来るものだから、魚人さんたちにとっては『圧縮』も完全に新しい概念と技術らしい。
何度か練習すれば出来ると思うけど、一発では出来なかった。
「なんと、不甲斐ない……」
また女王様がしょんぼりしてしまう。
「あっ!これは人間でも使える人が沢山いるから、魚人さんが自分で翻訳機を作りたいんじゃなければ、わざわざマスターしなくても全然大丈夫なんです!気にしないでくださいっ!」
「それならばよいのですが……。テレパシーの魔石はお声掛けいただければ百程度は即日でご用意いたしますので、必要なだけお申し付けくださいませ」
「本当にありがとうございますっ!」
そこから先の加工はこっちでやることにして、魔石板も集まってるものはまとめて預かることに。これまた本当に大小様々に集めてくれていて、有難いやら申し訳ないやら。
「こんなにして貰っちゃって……お礼は何がいいんでしょう」
「妾たちはエスの御心に従っているまでですから……あぁそういえば。ここ数日、天人たちが再びこちらに良く参られるようになりましてね。チョーコ様の国へ交易がてら遊びに行くので通訳を借りたいと言われるので。妾達も交易品を天人の方に預けて送り出しておりますけれど。
天人達から、山とここを転送盤で繋いで欲しいとチョーコ様に頼んでくれないか、と言われたのです……一体なんの事でしょうか?」
「あっ。転送盤っていうのは、皆さんに探してもらった大きい方の魔石板で作る、決まった2点の間で天人さんのテレポートみたいなことが出来る道具なんです。転送盤で海から山と帝国へ行き来出来るようにしていいですか?」
「なんと、テレパシーと同じようにテレポートも道具にするとは。安楽な道はやりすぎると毒になるものもありますが……他でもないチョーコ様の国との交易をスムーズにする為ですので、宜しいでしょう。人の国との繋がりはこの浜に、山との繋がりはいつも彼らの来る小島に置くこととします」
「ありがとうございます。オクティ、組み立て手伝ってもらっていい?」
「勿論」
テレボートの魔石を2つオクティに渡して作って貰ってる間にふと思い出したので、また女王様の方を向く。
「そういえば、海のクラゲを風の魔力で乾かしたものが、色々便利なゴムという素材の原料になるので街で沢山仕入れたいそうなんですけど。天人さんが来た時にまとめて乾かしてもらって交易品に追加して貰ってもいいですか?」
「まぁ。クラゲにそんな使い道があるとは存じませんでしたわ。風で急速に乾かせばよろしいのですね、分かりました。そのようにして輸送致しますわ」
「チョーコ、出来たよ」
「ありがとう!」
2セットの転送盤を見せ、実演しながら説明してから、1枚は帝国の転送所に設置すると言って預かる。
対になる板は浜辺でも海側ではなく岩場に近い所へ設置してもらうことにした。
***
そんなこんなで無事に翻訳機の準備もできて3日連続宰相さんのお家へ。
海と繋がっている転送盤の片割れは秘書さんがニコニコしながら預かってくれたのでお任せする。
今日の秘書さんは髪が緑っぽいから双子のどっちかみたい。
「連日呼び出してすまんな」
「いえ、大丈夫です」
オクティと二人で並んで座ると、暖かい紅茶とセットでカットバナナにホイップクリームが添えられたものが出てきた。
「これって山の……もう入ってくるようになったんですね」
「うむ。どうやら追加で山に残っている訓練生まで呼び出しがかからないなら、戦争というのもたいしたことはなく済んだのだろうと判断したようで、また天人達が顔を出すようになってな。ーーあぁ、訓練生たちだが、無事に10人全員ワイバーンを捕獲することに成功したと報告が来ているぞ、あとは馬具を揃えて飛行訓練を済ませたら帰還するそうだ」
「もうですか?!」
「うむ、お前たちを呼び戻した日にな。なにやら焼きにんにくでごり押した甲斐があった、とかよくわからんことを言っておったが?」
「にんにくっていうのは……これです。高山で拠点にしていた村の近くにある小さいダンジョンの最下層で取れるんですけど、焼いて食べると体力や精力の回復効果がすごいみたいで」
サンプルとしてゴソッと机の上に積み上げると、髪が青緑の秘書さんが竹籠を持ってきてササッと綺麗に盛り直してくれた。
「肉体労働の軍人や前衛の冒険者なら体力回復効果の面が強いが、そうでない時に食べるとほぼ精力剤だ」
オクティの説明に、宰相さんは自分でも魔眼で確認してなるほどと頷く。
「味がいいなら貴族向けの精力剤にも、軍人向けの肉体疲労回復にも人気が出そうだ」
「あ、じゃあ沢山取ってきたので……」
追加で出そうとしたら止められた。
「納品は商会組合にまとめてやってくれ。組合長からも山と海から色々入ってきて使い方を確認したいものがあるから、お前の手が空いたら顔を出して欲しいそうだ」
訪れた天人と魚人たちが対価代わりに、牛乳や野菜や果物、人魚の鱗やサンゴなどあれこれ商会組合に持ち込んで換金してから街へ出てくれているため、まだ規模は小さいながら先んじてデザートなどの開発も進み始めているらしい。
竜人は用がなければ来ないみたいで今のところユグード以外は来たことがないが。
天人たちも気軽な街歩きや買い物が楽しいらしくて日々遊びに来る人数が増え、もっと帝国の通貨を入手したいと思うようになったり、直接人間族とも話したいなと思うようになっているそうで。
自分で天界語を習いたいという人間や、逆に直接人間とやり取りが出来るように共通語を習いたいという天人の為に。商会組合や冒険者組合なども協力して人間の街に『言語学校』を作り、共通語を学びたい天人を中心に天界語の教師として雇うのはどうか?という案が出ており、ほぼ通ると決まっているというか、既に学校に使う建物や働く予定の人員などは目星がついて準備も始めているんだそう。
「今日お前を呼び出したのはその件だった。2ヶ国語を操れるものがまだ誰もおらんのでな、最初はテレパシーを使える通訳を雇う必要があると判断したのだが……秘書の話によると、既に翻訳機は完成品があるそうだな?」
「あ、そうなんです。これを」
折角作って来たので、魔石板を使った大きい翻訳機を見せることに。
ちょっと大きいので教卓の端にでも置いて、それに手を置いている間だけテレパシーが使える仕組みだと説明する。
かなり興味津々そうで、手に取って調べ始めた。
「ふむ、魔力の充填も転送盤と違って滅多に要らないようだし、これはよいものだ。
今後、多人種会議がまた行われることもあるだろうし。会議用にも幾つか作って欲しいのだが、報酬は何か希望はあるか?」
「何個くらい要りますか?私が今欲しいのはお金じゃなくてですね……」
「あぁ、そやつから話は聞いたか?転送盤とこれなら魔塔の研究成果として出せば貢献度は充分足りるだろう。取り急ぎ翻訳機は、学校、城の会議、国家運営の商隊、遠征部隊で使う分として12機はすぐに欲しいな。他は都度注文とさせて貰う」
追加を出して12個テーブルに並べると、少し宰相さんが目を丸くした。
「話が早くて素晴らしいぞ。……お前たちの新居だが、すぐに入れる空き家は選択肢が少なくてな。貴族街の少し外れにある古い所か、魔塔の幹部用の社宅が候補だ」
「俺は家にこだわりは一切ないから、チョーコの希望優先でいい。どうする?」
「あんまり大きすぎる家は落ち着かないかな……あと私は特に自分のことは自分でやるのに慣れていて、ずっとお世話してくれる人がくっついてる生活はちょっと。メイドさんとかそういう人は仕事の時だけ隣の家から通ってきてくれるくらいの距離感がいいんですけど……」
「規模が小さいのは魔塔の社宅だ、赴任中の仮住まいというところだな。だがまぁ、最低限護衛用の別棟と使用人の居住区が揃っているし、そこなら掃除だけは済ませているからすぐに住めるぞ。見に行ってみるか?」
「見てみたいですけど……そんなすぐ住めるものなんですか?」
「寝具や家具は揃った物件だからな。門番は元々魔塔所属の専任者が居るし、取り急ぎ、護衛も兼任出来るメイドを数人申請済みだ。書類関連は我が家で確保した物件に俺の孫夫婦を住ませるだけの事だから俺の許可で済む。普通は使用人や警備員まで全て揃うのを待ってからだが、その辺りは構わんのだろう?」
そういえば、電気ガス水道やネットの開通を待つ必要がないんだった。最低限ベッドだけでもちゃんと使える状態だったら私たちの場合は困らないか。
「メイドさんたちはもう決まってるんですね?」
「貴族向けの施設は、誰も付けずに使用申請すると使用人まで魔塔から派遣されることになっているので使用人の名前を申請しておく必要があったのでな。だが実際は、いつまでもうちの秘書達にお前たちの家の仕事までさせておくわけにもいかんので、お前たちにも専任の人間を決めたまでだ」
「あう。確かに……結構色々秘書さんたちにお世話になっちゃってますけど、本来私のお世話って秘書さんたちにとっては業務外で迷惑ですよね」
「当人たちはそれなりに見返りがあるので、むしろ進んでそちらの任を受け持ちたがっておるがな。こちらの仕事の手が減って効率が落ちるのが困る。まあ表向きは護衛兼メイドとして申請したし、その仕事も任せられるが。お前たちのことだ、主な業務は我が家や各組合との連絡や周囲貴族や魔塔との折衝といったことになるだろう。実際に雇うかどうかは、会ってみてお前たちが決めろ。相性が悪いようなら別の者に変えるので妙な遠慮などせず正直に言え」
お世話の為に常に傍に控えているメイドさんじゃなくて、秘書さん達の代わりに連絡その他のことをしてくれる人、ということなら納得。
ちら、とオクティを振り返ると。にこっと笑んで軽く頷かれた。
チョーコも頷いて返してから、宰相さんを見る。
「それでお願いします」
***
「「「「「よろしくお願い致します、チョーコ様、オクトエイド様」」」」」
全員金髪ツインテールに薄めの灰色の目をした、ものすごくそっくりな女の子たちが5人、宰相さんの家の玄関ホールに出てきた所へ並んで待っていて。チョーコとオクティが出てきた所で声のブレさえ感じないほど揃った挨拶と共に頭を下げられた。
年頃はまだちょっと若いというか、皆かわいい系でむしろ幼さが強いように見える。
「よろしくお願いします……護衛?」
ぽろっと思わず漏れた言葉に、一番左に立っていた子が微笑みのまま頷く。
「はい!わたくし達はこのお屋敷の秘書たちと同じ所で学んで参りましたので、武芸も修めております。おふたりの護衛もお任せください!」
「えっと、あー……」
表向きがメイドさんなのはともかく護衛部分は断ろうかと思ったけど、ちゃんと訓練してきてる人に下手な断りは失礼にならないかな、それに幼いからとか女の子だからとかそういう理由で戦わせたくないっていうのは、私のエゴ……かも?
言葉に詰まっていたら、オクティが代わりに口を開いた。
「相手が魔獣や亜人だったら、俺たちの方が確実に戦い慣れてるから手は出さなくていい。相手が他の人族の場合はなるべく話し合いがしたいから、防御専念で決してこちらから攻撃はしないで欲しい。人間が相手の時だけは、俺たちだと過剰防衛になりかねないから君たちが前に出て、捕縛とか穏便に対処して貰えるかな?」
「分かりました!『穏便に』ですね」
「チョーコ、勝手に決めたけどそれでよかった?」
「大丈夫、ありがとう……うん、本当に殺し合いみたいなことになったら私たちが直接動く方が良いかなって思ったけど、確かに人間相手だったらお願いした方が良いよね」
メイドさんの2番目の子がちょっと首を傾げる。
「なるほどぉ、ご主人様たちはおふたり共かなり上位の魔法使い系冒険者って聞いてましたけど、火力が強すぎてやり過ぎちゃうタイプなんですねぇ。攻撃で私が出る必要はなさそうかもぉ」
続けて3番目の子も涼やかな笑顔で口を開いた。
「貴女は屋敷の警備を担当をすれば宜しいでしょ?それより、これまで人間同士での争いごとには関わってこられなかったのなら。――わたくし達が気を配るべきは、直接的な刺客よりも派閥の動向についての情報収集かしら。本家とのやり取りは密にする必要がありますわね」
4番目の子が最後の子の方を手で示しながら微笑む。
「攻撃よりも防衛に長けているのはわたくしと、この子ですので。おふたりにそれぞれ護衛として付き添う任には、わたくしたちがお供致します」
「私っ、出来ればチョーコ様に付きたいですっ!想像の倍くらい可愛らしいお嬢様なんですもの。是非お傍に付かせてください、出来れば外出時の身支度とかもお手伝いしたいんですけど……」
「こら。個人のお世話に関しては本人からの要請が無い限り手出し無用と最初に説明されたでしょう」
軽く裏拳で肩にツッコミを入れたように見えたのだけど、”ゴッ”と重い音が聞こえた。
「メイド服の下に結構な防具と武器を仕込んでるな」
ボソッとオクティが小声で教えてくれる。
「あ。護衛用の装備ってしっかり着てるんだ。じゃあ安心かも」
にこ、と一番最初に声を上げた左の子が微笑んで、パンパンと手を叩いた。
「さぁ、細かい自己紹介などは現地で致しましょうか?早速参りましょう」
新居候補の家へと案内してくれるのは彼女たちらしい。




