39.隣国との接触
転送盤で帝国へ戻ると、場所が転送所ではない所へ移されていた。見回すと見おぼえのある違和感満載の岩ブロックに見える四角い塊。冒険者組合の裏口にある、資材搬入倉庫の中だと思う。
そこに第三秘書を名乗る秘書さんが待っていて。髪が緑なので今日は双子さんか、と思っていたら自分は双子の下の方で、あの日の帰りに獣人に話しかけてた方が自分ですとこっそり自己紹介。
「頂いた通信石、双子の兄と一緒に2人で片方を持って、もう一つをエリート獣人のあの子に握って貰ったら少しだけ話せたんですよ。ありがとうございます」
嬉しそうな笑顔でひそひそとそう言ってから、仕事中ですから、急ぎましょうと冒険者組合の中へふたりを案内。
そこで待っていた組合長がオクティの後ろにいるチョーコを見て、わざわざ君まですまない、と話しかけ名乗って来た。
「冒険者組合長として、君は国同士の争いには参加しないと聞いているし、前に出る必要は一切ないと先に宣言しよう。
ただ、相手の国にも突出した魔力の持ち主がいたり、落ちものなどの秘密兵器がある可能性を考えて、万一押されるようなことがあれば知恵を貸して貰いたいと思っているのだが、その時は協力を願っても良いだろうか?」
「あ、私が戦いに関与しませんって言ったのは、人間を傷付けるのが嫌なだけで、襲われた人を護るのは嫌じゃないので、防壁を突破されるようなことがあれば防衛には参加するつもりです」
「恩に着る」
「それで組合長、相手はどの辺りまで来ているんだ?」
「変に遅延して帰還を引き延ばすのは遠征隊の者たちに危険が及ぶ可能性があるので、通常通りの速度で移動すると連絡が来ている。予定では今日の午後には到着するはずだ」
「今は昼前だから、まだ余裕はあるな。先に少し偵察に行ってみるか。極端に魔力の強い人がいれば魔眼で見ればわかるし」
「お前なら任せられるな、頼むぞ」
「オクティが行くなら私も行きたい……」
「大丈夫、飛んで上から視てくるだけだよ、すぐ戻るから」
「事前情報からすれば、オクティ1人で充分どうにでも出来る相手だ。任せて良いと思うぞ」
「……遠征隊の人たちより先に帰ってきてね」
「わかってる、そんなに時間はかけない」
全然余裕そうな雰囲気で出かけて行った通り、森の上を飛んでオクティが様子を見に行って、お茶の一杯も飲み切らないくらいの時間ですぐ帰ってくる。
オクティが視たところ、近付いてきているのは全員防具なし、抜き身の武器のみ装備、痩せてはいるが健康で、突出して強い魔力を感じるようなものもいない、本当にただの難民らしい。
そしてテレパシーの魔石で心を読んだところ、『安全地帯に住みたければ他国の土地を武力で奪って得るしかない』と強く思い込んでしまっているらしく。新たな土地がある、と知ってしまった今はもう、それを得るまで他の事は一切考えられない。
――という状態の人達だと分かった。
上空を飛ぶオクティの方を見向きもしないほど遠征隊の動向に熱中しているので、殲滅するならそれこそ1人でどうにでもなる状態ではあるのだけれど。
「うーむ、森を抜けてくるくらいに元気な難民なら、是非とも労働力として全員受け入れたいところだが。おとなしく投降して貰えなければ、怪我をして働けなくなってしまう」
「『戦って奪い取る』って制約がかかってるのが厄介だな。最終的に『安全地帯に住める』と理解さえすれば落ち着くはずなんだが。ここへ到着した途端に剣を振り回して突撃してくると思う。向こうは防具を付けてないから、下手に武力で止められない。それになにより数が多い」
悩む二人に、チョーコの横に控えていた第三秘書さんが小さく挙手をする。
「あのう、こういう時こそ皇帝の御力の使い時ってやつなんじゃありませんか?」
組合長が数秒空けて、パンと自分の膝を叩いた。
「……おぉ!それだ。よし、宰相に連絡を頼めるか」
「もちろんです」
バタバタと一筆書いたり伝令を出したりし始めた組合長は、あとはやっておく。オクティは彼女を護衛して街で待機していてくれ。とふたりを送り出した。
送り出されたものの、どうなるかはまだ気になる。
「皇帝の力を使うって、落ちもののことかな?」
「そうだと思う。動きさえ止めさせてしまえば良いわけだから、確かに効きそうだ。相手に魔力の高い奴はいなかったし……」
「なにか引っかかる?」
「いや、制約と隷属の石で食い違う命令をされたら、どっちが強いのかと思っただけ」
「んっと……両方発動して、どちらかの条件を満たすまで混乱しちゃうみたい。あっ『混乱中に指示が聞こえると、それに従いたくなる』ってあるよ」
「……それ、伝えておいた方がいいな!」
オクティだけ走って冒険組合へ『魔法の構造的にそうなるはずだ』と説明に行ってきたので、あとは本当に様子見しようということに。
ちょっと平民街を歩いてみる。
一応、遠征隊を追って土地の強奪を狙う一団が来ているという情報は来ているらしいのだが。帝国はかなり前から軍備には力を入れているし、魔塔もあるし、最近は強そうな他の人族たちとも交流を始めているし。
平民たちの反応は『確かに怖いけど、なんとかなるだろ?』というのが大半、あまり不安や暗くなっている様子はなさそう。
そして、午後。城の方から、妙に作りの大きな獣人車が8人もの獣人たちに引かれて街の中を門の方へと進んでいき、その車の上にはいつもの豪華な真っ白いローブに加えて、兜と王冠を合体させたようなものを被った皇帝が1人ゆったりと座り、周りを軍の人たちがぞろぞろと固めて進んでいった。
おぉ!珍しく皇帝がやる気だ、と。平民街の人たちは概ね好意的に皇帝を応援して讃える声をあげている。
獣人車はゆっくり進んでいき。
城壁外の空き地の途中、充分に森が見渡せる所まで近付いて止まり、軍人たちが森に向けて陣を組んで待った。
連絡通り、遠征隊が文字通り何かに追われるように走って森から出てくる。そして、それを追うように森の中から次々と、粗末な衣類を身に着けた人々ばかりが剣を振り回しながら走り出てきた。
「盾持ち構えー!進ませるな!」
軍部の人達は木製の大楯を構えて森を囲み、先へ進ませないようにするだけで攻撃はしない。
次々と後ろから押し寄せる人の波は前の人を乗り越えようとする勢いで一塊になっていく。
その集団に向け、皇帝は車の上で立ち上がると両手を前に翳して力を溜めた。
「愚民どもよ!余の声を聞き、人族至上帝国に従うと誓え!」
よく通る声でそう命じる。走っていた人々が足を急に止めて、武器を落として頭を抱えて苦しみだし、バタバタと地面に転げていった。
取り囲んでいる盾持ちの誰かが叫ぶ声が響いて。
『私は大いなるエスの前に人族至上主義帝国の民として生きると誓います』と言え!
と繰り返すと、徐々に難民たちの声がその通りに繰り返し始め。
やがて、すっかり静けさが満ちる。
ふん。と得意げに胸を張った皇帝が再び席に着くと、両側の軍人たちが獣人に合図して獣人車の向きを変え、少数の軍人たちが付き添って、皇帝だけ先にゆっくりと街へ戻っていった。
「「うぉぉぉ……!エルダード皇帝!すげえ!本当にやりやがったぞ?!」」
騒ぎを鎮めて見せた皇帝に、平民街の人たちはかなりテンション高く叫んで出迎える。
「「「エルダード皇帝!エルダード皇帝!」」」
歓迎ムードの国民たちに、皇帝も満足げに手を振りながら城へ帰っていく。
正直ずっと、隷属の石なる特別な落ちものを与えられた神に選ばれた皇帝だとか宣言してから30年近く。功績らしい功績も見たことがなかったので、正直疑ってたという声も多少混ざっていたが。
一気に皇帝への信用度は増したようだ。
難民たちは制約と隷属の切り替えにまだショックが収まらないようで、口だけは土地をくれと言い続けているけれど抵抗のない状態となり。
残った軍部の人たちがわらわらと寄っていって少人数ずつ列を作って回収していく。
そして城壁外の空き地に場所を決めて棒で線を引き。次々と、ここからここまでがこのグループの使って良い土地だと指定していった。
ギリギリ寝転がれる程度の土地ではあるが、自分たちの使って良い安全地帯の土地が貰えたと聞いた途端、目がぐるぐるしていたのがぴたっと落ち着き、正気に返ったようで。これからは帝国の配下として頑張って働きますと言い出す。
彼らが持ち込んだ武器類も回収し終え、全員に彼らの土地を指定し終わり。とりあえず自分たちの場所に杭を打ったり囲ったりするのは各自でやってもらうとして。
まずは水と木の粉だけではあるが、食料を配りながら負傷度チェック。
幸い、同士討ちで死んだとか大怪我したような難民はおらず、打ち身などは順次治療されていく。
門の近くから外を覗いていたチョーコ達もほっとした。
「良かった、なんとか無事に受け入れできて」
「あぁ、隷属の石の効果もちゃんと出てたみたいで良かったな」
一旦自宅にでも帰ろうかと、騒ぐ街の中を歩いていたら、さっきの第三秘書さんがエリート獣人の引く4人乗りの獣人車でこちらに走って来ていた。
「ワォーン、チョーコのあねさんを見つけたっすよー!」
「よーしよくやりました!」
秘書さんがわっしわっしと獣人の頭を撫で回してからしゅたっと車から飛び降りてくる。
「チョーコ様、オクトエイド様、主人が呼んでいます!通り道の魔獣や亜人の掃討が済んでいる今のうちに調印式だけでも終わらせたい、相手の王族を呼び出すために主人が向かうと言っておりまして。護衛としておふたりを同行させたいと申しております」
「え、いきなり宰相さん自ら相手の国に行っちゃうんですか?」
「宣戦布告も無しに派兵してきた国ですからね。色々な事業のために人員は幾らいても足りませんし、早急に帝国の配下にして人的資源の提供などをさせる話を纏めたいと。半端なものを行かせるよりは最初から主人が行って、それでだめなら戦争も辞さないとのことですよ」
「初手で全力なところはすごく宰相さんらしいかもですけど、流石に危険なんじゃ……」
「なので、おふたりをお呼びしたいのです。ですが勿論、最良の手として最初にお声がけをさせて頂いたまでです。拒否を咎めるものではございません!」
オクティの方は、渋い顔をしているが。チョーコを見て「どうしたい?」とだけ聞く。
「あの宰相さんが自分で行くって言うくらいだから、ここで行かないといろんな話が勝手な方向に進んだ上に終わりそうな気がするんだよね……んん、歩くと数日かかる距離だし、転送盤作りたいけど、作業できる場所が……」
「あぁ、あれなら行く途中で作れるよ。石だけ作ってくれたら、あとは俺がやるから」
それならと獣人車の後部座席に乗せてもらい、チョーコが魔石を作ってオクティが切って板に乗せて封入する。ふたりで1枚ずつ魔力を込めて、オクティが仕様の確認をしている間に宰相邸へと着いた。
早急に奥へ通され、謎に暗い赤色のゴテゴテしく宝石で飾られ、顔もフードだけじゃなくベールまで仕込んであって完全に顔が隠せる『ザ・怪しい魔法使い』なローブと、わざわざ曲がりくねった意匠に仕上げられ、これまた宝石がゴテゴテついた木の杖が3セット目の前に置かれた。
「素晴らしいぞ、転送盤まで用意してきてくれるとは流石だ!
今から向かうのは俺と第一秘書の2人だけだが、後であれこれ文官が行き来する必要があるのをどうやって運ぶかと考えておったところだ」
「えぇっ、まさか2人だけで行くつもりだったんですか?!」
「お前たちが護衛を引き受けないと言っていたら、普通に軍隊引き連れて歩いて向かうことになっていただろうな。引き受けて貰って助かったぞ」
宰相さんはいつも通りの白地に青模様のローブだけど、秘書さんはその謎にド派手で怪しいローブを着る。
「人数を増やすと速度はどうしても遅くなりますからね。主人はせっかちなのです」
「無駄を省いているだけだ。ーーそれはお前たちも着ておけ。最初に圧倒的な力や技術を見せつけるのは外交上でも大事だからな、転送盤も持っていくが、魔塔の中でも数人はテレポートを習得済みということにしておく」
「えっと、私が飛べるのは私が行ったことがあるか、知っている人がいる人のところで……先に忍び込んだりしないといきなり好きなところに現れられる訳じゃないんですけど?」
ピタッと秘書さんが動きを止めてこっちを見た。
「……先に誰かが忍び込めたら、そこに直接飛ぶこともできるってことですか?」
「ほう、それは面白いな。それでいくか」
ニヤッと宰相さんが悪い笑みを浮かべ、第一秘書さんも、釣られるように言葉を続ける。
「行き先への潜入はわたくしが参りましょう。準備は何が必要ですか?」
ーーあれ。なんか余計なこと言っちゃったかな?
流石仕事の早い宰相さんというか、もう色々と既に同盟が締結したら必要な書類やら担当文官や武官の人員の選出まで話を進めていたみたい。
転送所に転送盤の片割れを設置しながら、そこに呼ばれた人々を紹介される。
軍部の隊長、といってもパリィのお兄さんじゃなくて、濃い青髪で薄い灰色の目のちょっと軍人さんにしては細めな体格のグランツ・マーロウ隊長という人の部隊12名と宰相さんの部下の文官3名が選出されていて。
同盟を組むにあたり、向こうに大使館を作って貰うので。そこに転送盤を設置して人やもののやり取りをしたいらしい。
警備メンバーを正式に選出するまでの仮で、この1部隊が向こうで泊まり込んで国家間の同盟のあれこれを決める文官チームや転送盤の護衛をするそう。
手順としては。
まず自分たち4人だけ向こうの国へ行って。
同盟の合意が取れたら、大使館に使って良い場所か建物を用意して貰う。
そこに転送盤を設置、護衛部隊をそこに呼び待機させて盗難防止とする。
調印式という名の制約を交わす担当、おそらく王族を連れ帰る。
こちらで皇帝と王族で調印させて、同盟を成立させたら、王族を国へ送り返し、追って文官を送る。
ここまででチョーコ達は任務終了。と説明を受けた。
「同盟を組んだ後に文官さんが色々やり取りするんだとしたら、調印って一体何を決めるんです?」
「まず、向こうは自国の土地を増やすことと、帝国から利益を得ることしか考えん。だが、こちらは開拓やら遠征やらで人手が大幅に足らん。つまりこちらに力を貸すなら、向こうも溢れた人間など居なくなり、新たな土地の奪い合いなど不要になるわけだ。
まずは相手の国に『帝国に従い開拓に力を貸す』『自国の自治権のみ認める』『同盟の意向に従い他の人族への敬意を払い客人として扱う』それだけを約束させ、無駄な土地の奪い合いなどせず開拓にのみ集中させるのが目的だな」
「なるほど……」
向こうがもし魔力の高さ自慢の王族だったとしたら、帝国民と難民だけで開拓して、新規開拓した土地は全部相手国のものだとか、他の人族から得た利益も貢げとか、開拓などまるっと無視して全部奪って終わりにする可能性もあるわけだし。巻き込まれてでも最初に釘を刺しておくって思った以上に大事なのかもしれない。
「で、ここからの相談だが」
と一旦文官さんたちから離れて4人で集まる。
まず忍び込む担当の秘書さんから髪の毛を1本だけ貰って指に巻いておく。これでサーチの準備完了。次に3個セットの通信石を出して、宰相さんと秘書さんに1つずつ握っててもらう。
「この石は合流までずっと握っててください。喋った言葉が石を通じて握ってる人にだけ聞こえます」
「秘書を潜入させてこれで合図を送り、合わせてお前が飛ぶわけだな。相手の国までの移動はどのくらいで行けそうだ?」
「前にオレンジを見つけてきた遠征隊が、その先へ向かって見つけたんですよね?あの近くまでは行ったことがあるので多分すぐ行けます」
秘書さんが動いて、杖を横に構えて立つ。
「おふたりとも、こうしてみて頂いていいですか」
従うと、3人で内向きに並んで杖を組み合わせて三角に構えた形になった。
「テレポートなど何か魔法を使う時は3人でこう構えてなるべく声を合わせ、誰が使っているか判別出来ぬようにしましょう。おふたりは必要以上に声を出さぬように、やりとりは主人とわたくしが主に致しますので、適当に合わせてください」
――とりあえずまずは現地を見てみようと、先程のように杖を構えた形にして、宰相さんは囲いの中に入って貰って杖を掴んで貰う。全員纏まったところでオクティがまとめて風で浮かせた状態にする。湖のずっと上空までテレポート。流石にもうそろそろ日が傾いてはきているけど、まだ夕焼けまでは遠い。
こちらに攻めて来た国というところを空から探すと切れ目はよく見えたので、もう一度切れ目の上空にテレポート。こちらはおそらく最初から安全範囲ギリギリに城壁を立てたらしく、内側は外周に近付くほど狭苦しい建物が多く、中央の一部だけが広々とした建物。城壁外の森には押し出された人が生活しようとしていたらしい跡だけがたくさんあったが、人は誰も見当たらない。
城壁の上に結界などは張られておらず、見張りらしい見張りが立っているわけでもないので、風の魔法が使えたら入り放題のように思うけど、魔獣さえ入ってこないなら気にしないのだろうか。
「おい、どこまで潜れそうだ?」
「中央のあれが王城でしょうから、謁見の間や大広間といった王族が居そうな場所を探してお呼びしますね」
「よし、行ってこい」
宰相さんが楽しそうに口端を上げてそう言うと、秘書さんがパッと杖ごとその姿がかき消えた。
「えぇっ?!」
まさか秘書さんまでテレポートを使えたのかと思って、サーチをしてみたら姿を隠して飛び降りていたんだと分かった。……この高さを?
秘書さんの髪色は白や青に近くて判別しづらいけど一応緑で風属性らしい。
オクティが言うには姿が消えたように見えたのは『結界』の応用版である静止画を映す『影写』の更に上。周囲の景色をリアルタイムに映して居ないように見せる魔法なので、魔眼持ちなら見えるらしいのだけど、本当に透明になったみたい。光学迷彩ってやろうとすると色々難しいんじゃなかったっけ?
驚いて解説を聞いているチョーコを見て、宰相さんが小さく笑った。
「ふっ、お前が驚くとは思わなかった。全知全能というわけではないのだな」
「そんなわけないじゃないですか。全部知ってたら最初から新しいものを探そうなんてしないですよ」
「なるほどな。――俺はな、あの国に育って、飯の不味さと皇帝の不合理さと、その要求に逆らえん自分の無力さが嫌いだった。どれ1つ、どうにもならんと思っていたが。お前が現れてから希望が見えた」
「あぁ……あの食事を一生続けていくのは、私も無理だと思ってましたね」
「特に他の人族との付き合い、あれは良い。これまで全く知らなかった美味いものや便利なものが手に入るようになってきたし……ククッ、あの娘たちのおかげで無能なくせに口だけは出したがる皇帝も黙ってくれるようになったしな」
「そんなにハッキリ言っちゃっていいんだ……私はただ。いつか、街にいながら、色んな国の食事や素材や便利なものが何でも得られるような所に住みたいなって思っているだけですから」
ふっと、宰相さんの凶悪そうに見える釣り目が暖かく笑んだ。
「できれば我が国の街がそうなってくれれば良いと思う。――これからも力を貸してくれ」
「そう、ですね。もうここまで来たらって感じなので、出来る限りは手伝います」
『――わたくしです。よろしいですか?』
潜入していた秘書さんからの声が聞こえてきた。
9月中が少々忙しいため、しばらく更新お休みします。




