34.氷、作れたんだ?!
もぉぉ疲れた。ねむい。
喋りっぱなしで緊張したし帰ったら思う存分寝ちゃうもんね、と思いながら帰宅したけど。
アイテムボックスに入ってるものを思い出した。
牛乳!
帰ってお風呂に入る時に思い出してほんのちょっとお風呂に足してみたら。肌がちょっともっちりしたような気がする。オクティもちょっと興味あるみたいだったので、ちょっとだけ入れてあげて。そのままリビングへ牛乳の容器を持っていった。
メロン牛乳飲みたいなぁ。高山について行ったらきっとまた手に入るよね。楽しみ。
まず牛乳について情報検索してみると。
アイテムボックスに入れて運んだ場合、出したらそのままだと一日待たずに蒸発したように消えていってしまうし。絞ったそのままでも3日ほどしかもたないらしい。
『抽出』を掛けて生クリームにするか、全体に火の魔力を掛けてギリギリ沸騰しない程度に加熱すると一週間くらいはもつそうだけど……遠いもんねぇ。草は平地だと生えないから、牧場をこっちに作るのは無理な気がするし。これは天人さんたちの方から売りに来て貰うか、転送盤の出番っぽくない?
あぁいや、天人さんは帰りは一瞬だけど行きは地道に飛んで来ないといけないんだっけ。それだとやっぱり転送盤頼みになるんじゃ?
牛の村にテレポートの目印つけさせて貰ってるし、あそこと帝国を転送盤でとりあえず繋がせて貰ったら乳製品の入手はかなり楽になりそう……
誰に許可取ったら良いんだろうなぁ。
実際に抽出でクリームを作ったり加熱処理したりとあれこれ確認。
ふつうオレンジ果汁と牛乳を混ぜるとモロモロになって濾したらカッテージチーズが採れたりするけど、その変化はしなかった。
なので混ぜたオレンジと牛乳はそのまま砂糖で味を調整してフルーツ牛乳にしちゃう。
チーズの作り方はと思ったら、クリームにもう一度『抽出』をかけるだけ。チーズは乾燥するとすごい日持ちするらしいので、転送盤のない地域に輸出することになったらチーズにしてから運ぶしかないかな?
なおクリームに風の魔力を加えるとホイップクリームからバターへ変化していくのは記憶と一緒。
もうすぐ小麦粉と野菜も手に入るし、チーズと言ったらやっぱりピザとか挑戦しちゃって……いや『草』とか『つる』って言ってたからオリーブとかトマトとかは、ない……かも?
全く同じじゃなくていいから、それっぽい似たようなものとか出てきて欲しいなぁ。
いや、トマトがなくてもなんちゃってなのならいけるか?豚肉を燻製機に掛けてベーコンっぽくして……いやそれより!スパイスが火の地域って、まだ見つかってないじゃん。……うぅん、ピザはまだ難しいっぽい。牛乳とチーズと小麦粉が手に入るならホワイトソースでグラタンとかいける?いや胡椒がないか。
あぁぁ、やっぱり洋食なら胡椒とニンニクくらいは欲しい、和食なら醤油か味噌が欲しいし、イタリアンはトマトとオリーブもなくっちゃ話にならない気がする。
塩が最初から手に入ってたのは救いだし、とりあえず美味しく食べられはすると思うけど。まだまだ色々足りないなぁ。
「チョーコ、またなんか色々作ってるね。やっぱり小麦を見つけたのと同じくらい必死に欲しがってただけあって、あれこれ使えるものだったんだ?」
「うん!これは更に色んな料理に組み合わせて使ったりできてね。あ、牛乳風呂どうだった?」
「多少は肌の乾燥とか荒れとかに効くみたいだけど、本当はアイテムボックスに入れてない、しぼりたての新鮮な魔力が抜けてないのを使うみたいだよ。風属性の人の肌と相性が良いから、ミラルダさんとかは喜ぶかもね」
「あー……そっか、賞味期限の問題だけじゃなくって、美容とかに使うのにも新鮮さって重要だもんね。アイテムボックスに入れて運ばない方がいいものもあるんだ。それはそうかも。クリームとかもその効果ありそう?」
アイテムボックスに入れたものではあるけど、抽出したクリームの方を見せてみる。
「これは……精製されて無属性の魔力になってるから誰にでも使えそうだね。お風呂に入れても直接塗ってもいいみたいだよ」
「あ、ほんと?それが無属性なのって私が作ったから?」
「ん、ちょっと牛乳貰える?『抽出』……いや、誰がやってもこうなるみたいだ。肌の手入れに使うなら断然こっちだろうね」
一旦アイテムボックスにクリームを入れて取り出してみる。
「これは?」
「加工済みだと安定してるみたいだね。変化なし」
「おぉっ、じゃあ牛乳はアイテムボックスに入れて運んできてもらったら、取り出してすぐ加熱か抽出して加工して、そこから一週間で使い切ればいいってことね。んー、美容クリームとか作ったら、ミラルダさんへのお礼にはなるかも……」
「冒険者は魔法で治療するついでで肌も治るからあまり気にしないけど、貴族とか戦闘職じゃない女性は肌の手入れとか気にするって聞いたことあるな。うん、喜ぶんじゃないか?」
「貴族って、美容の為だけに回復魔法掛けさせたりしそうなイメージあるけどそうじゃないんだ?」
「無傷だと発動しないからな。普通に掛けてても治しきったら止まるし」
「……あぁ、前の世界で、わざと肌を傷付けてから治して綺麗にするっていう手術方法があるって宣伝で見たかも……ちょっと怖くて実際はどうなるのか見たことないけど」
「それなら発動するけど、流石にそこまでして魔法で治そうって人は滅多にいないと思うな。『再生』はそこそこ難しいし魔力たくさん要求される魔法だから、命掛かってない時にポンポン使うようなものではないし」
「確かに回復魔法って難しいよね。私には全然よく分からなかったもん」
「俺の場合は魔眼のサポートがあるのも大きいかな。傷の状態によって、どの種類の魔力が失われてるのかを見て必要なものを多めに補充していくとよく治るんだ」
「それはオクティにしか無理だね」
「まぁ俺が使えるんだから、チョーコは困らないよ。んー、なんかこれだけオレンジ色だね」
「あっ、それは試しに作ってみたオレンジ牛乳なの。お風呂上りにいいかなって、一緒にどう?」
「もらう」
2人で分けて飲んでみる。甘さの調整で味見はしたけど、何となくフルーツ牛乳っぽく懐かしい味。
「お風呂上りはこういうのを冷やして飲むのが定番だったりしたんだよね」
「冷やすの?こんな感じ?」
手に持ったコップがぐーっと冷たくなっていく。
「えっ、なにこれ、どうなってるの?」
「火と水の魔力を混ぜるとお湯になるけど、風の魔力に水の魔力をこの割合でちょっとだけ混ぜると何故か冷たくなるんだ。割合が違うと泡立つだけだったりして冷たくはならないんだけど。――おぉ、本当だ。冷やすと旨いなこれ」
「美味しい!やっぱり冷たいものは冷たい状態で飲みたい時ってけっこうあるんだよね。その冷やす魔法って微妙な力加減が必要だったりする?」
「いや?水の魔力は本当に気持ちだけ混ぜる感じだ。商会組合とかでやらせても多分出来ると思う」
「氷って作れる?水をずーっと冷やしてくと出来るやつ」
「ずーっと冷やす……」
水を入れたコップでやってみると入れ物ごと水が凍りつき、木のカップがバキッと縦に割れた。
「あっ、ごめん凍ると膨らむってこっちでもそうなんだ、言っておけばよかった」
「あぁいや、コップは多めにあるから1個くらい気にしなくて大丈夫だ。氷ってこれでいいのか?」
「うん!……いちいち作って貰うのも大変だと思うし、アイテムボックスに入れておいたら溶けないから、まとめて多めに作って入れておきたいかも」
「分かった。作るね」
オクティはアイテムボックスから新品の桶を出すと、器用に空中へクルクルと水の塊を作っては凍らせて桶の中に落とす。木のカップで作ったのもついでに外して入れ、野球ボールくらいの氷の塊が桶一杯に出来たのを一旦桶ごとしまっておいた。
「わー、氷が使えると作れるものの幅が広がるから楽しみ。ありがとうっ!」
「ふふ、チョーコの役に立てそうなら良かった。いつでも追加するから言ってくれ。……そういえば、たしかに熱いものを冷ますのに風の魔力を使う人はよくいるが、冷やすのは見たことないかもな。俺も出来るって知ってるだけで、別に使いどころもないと思って放っておいたし」
「やっぱり二種類以上の魔力を使うものって本当に作ってる人が少ないよね。氷の作り方は、商会組合に教えたら流行ると思う!オレンジジュースとか牛乳そのまま飲む時も、多分常温より氷入れた方が美味しいと思うの」
「確かにさっきのオレンジ牛乳は冷やしたら美味しかった。なるほどな、熱いか冷たいかでも味が変わったりするのか」
「うんうんっ、あとね、凍らせて作るお菓子なんかもけっこうあるの。お昼に食べたメロンとか、そのまま凍らせても美味しい果物もあるよ」
「あぁあのメロンっていうやつも美味しかったな……確かに冷えてても美味しそうだ。山のダンジョンでああいうのが取れるのなら、ダンジョン探索に行きたい冒険者も多いだろうな」
「野菜もいろんな料理に使うし、種類もいっぱいあるから、沢山取ってきて流通してくれたらいいなぁ」
「どのダンジョンで何が取れるのかって情報が集まってからなら、直接欲しいものだけ取りに行くのもありだが、一通り見て回るのは時間かかりそうだし、冒険者たちが行くのを待とう」
「うん、たのしみ!玉ねぎとニンニクとレタスとかキャベツは早めに見付かってくれるといいなぁ」
「それが見つかったらまた何かチョーコの新しい料理が食べられるのか。早く見つかるといいな……見つからなかったら直接ダンジョン巡りに行こう」
「うん!」
「昨日も今日も大変だったし、一通り今作れるもの試したなら休む?」
「そうしようかな。夕飯代わりにこれとかどう?」
チーズに塩と、焼きウニ、緑茶割りのアルコール。
「食べる。チョーコは酔うのが好きなの?白砂糖とかもよく入れるよね」
塩をつけたチーズはまだモッツァレラみたいな生感があって良い感じだし、やっぱり焼きウニとお酒はめちゃくちゃ合う。
「うん、あんまり泥酔するほどは飲まないけど、ちょっとテンション上がって楽しいくらいのお酒は好きだよ。元の世界だと30歳越えてたから、普通に家で夕飯のついでに飲んだりもしてたし」
「30過ぎなんだ?魔力の少ない平民だったら50くらいまでしか生きないから16の俺でも成人扱いされるし30はもういい歳だと思うけど、魔塔だとまだどっちも成人したばっかりくらいの若い歳でひとくくりって感覚かな。んっ、うまっ!」
向こうのアルコールと違ってここのは魔力を大量に取り込むだけだから、遠慮なくオクティも飲んでチーズをつまむ。
チーズは何か凄く好みにハマったみたいで目が輝いた。
「魔力高いと長生きなんだっけ。成長とかも止まるものなの?」
「20代くらいまでは同じかな。そのあとは急に遅くなる。4、50代くらいからは見た目から全然違ってくるね」
「私って、どのくらいに見られてるんだろう?」
「俺はもしチョーコが人間だったら俺と同じくらいかちょっと下かなって思ってた。ちゃんと数えてない人も多いし、周りにはよく知らないけど成人はしてるって言っておいたら良いんじゃないか?」
「……ねぇ、オクティは年下の方がよかったりした?冷静に考えたら倍だよ?倍」
「いや?多分チョーコの方が長生きしそうだし、どちらかといえば上の方が嬉しいよ。それに10年かそこらなら誤差だろ?俺たちこの先300以上は生きると思うし」
「そんなに?!前の世界だと百まで行ったら長生きしたねって言われてたのに」
「あ、そうなんだ?上の世界って皆チョーコみたいに物知りで何でも出来る人ばっかりで、寿命なにそれみたいな世界かと思ってた」
「何でもは出来ないし、知識は鑑定で頭に詰め込んだのを思い出して読んでるだけだってば。前の世界は魔法が無くて、代わりに色んな技術が進んでる世界ってだけで、寿命とかそういうのが神様の領域なのは一緒だと思う」
「チョーコって結構凄いことしてても、そうやって私は普通って言うからさ。前の世界は皆それくらいできて当たり前だったのかなって」
「……あー、えっとね。前の世界で物語を読むのが好きだったんだけど、その中に他の世界に飛ばされて色々冒険するのが流行ってて沢山書かれてたの。そういうののお約束で大体『チート』っていう凄い能力を貰えるのね。最初、他の世界に飛ばされたって気付いた時にそういう物語が本当に起きることだったんだって思ったから。なんか『貰った力で凄いこと出来る』ところはスルッと受け入れちゃってた……」
「ははっ、パリィが魚人に優しいのと一緒か。チョーコが落ちものになったのを受け入れられてたのも、それがあったからかもな」
「それも確かにあったかも……でも、絶望しないで生きようって思えたのは、オクティが一緒に居てくれたからだからね。エスが一番最初に私を落とす場所をオクティの近くにしたのが意図的かどうかは知らないけど、そうじゃなかったら私はもうさっさと死んで次の世界へ生まれ直そうって考えてたと思う」
だって、最初はただのゲームとか何かの作品の世界だと思ってたから。『リセット』のつもりで簡単にやっちゃってたはずだ。
ダンジョンの中スタートは実際危険な目には遭ったけど。あのタイミングで街に出現してたら落ちものバレし、城で皇帝の制約を受けさせられた後に魔塔で調べられてからオクティに会うことになってただろう。ご飯は不味いしヤバいのばっかいるし、魔法についての理解もなかったから、碌なことにならなかったはず。
「俺……あの時、聞こえてきたのは別に悲鳴とかそういう声じゃなかったのに、あの声の所へ死ぬ気で向かわなきゃ後悔するって感じて急いだんだ。そう、か。あれがお告げとかそういうやつだったのか」
「そう感じたのなら、そうかも……あとちょっと遅かったら、あれで終わってたんだもんね」
「エスにチョーコを放っておいたって文句言ったのは謝らなきゃな。俺に知らせてくれてありがとう」
ここでも両手を合わせる、といっても合掌じゃなくて片手握って片手で掴む形だけど、胸の前に手を合わせて目を閉じるポーズってするんだな。
「ん?」
「あ、前の世界でも、神様にお祈りする時ってこういうポーズだったから、似てるなって思っただけ」
「別に意識してやってるわけじゃないけど、魔力の中枢って大体心臓らへんにあるから、両手を輪にすると丁度体内を横向きに巡るルートが出来て、集中力が上がりやすい。緊張すると拳を握ったり腰を屈めて次の動きに備えるみたいな、自然に出る動きだと思う」
「そうなると、魔力とか魔法って前の世界にはなかったのに、向こうでそうだったのが不思議」
「少ないだけで魔力はあったんじゃないか?それか魂の記憶?落ちものとして生身で移動するのが珍しいだけで、死んでから近くの世界に落ちて生まれ変わるっていうのは普通に起こることだとしたら、チョーコが居た世界にも、別の世界で死んだ魂から生まれた人間がいたのかも」
「なんか壮大だね……」
「俺にとって重要なのはチョーコがチョーコのまま俺の前に落ちてきてくれたってことだけで、自分の魂がどこから来たとか、死んだらどこへ行くとかは興味ないけどな。一度死んで生まれ変わった俺は”俺”じゃないし、今生きてる間だけ一緒に居られたらいい」
「えへへ、私も……んん。なんか安心したからかな、眠くなってきちゃった」
「そろそろ片付けて上に行こうか。もう疲れてるだろ?」
まだ夕方にもなってないけど、今日はさっさと片付けて部屋に引っ込むことにした。




