33.多種族会議
――ズン。と、地面に降り立ったワイバーンの背から竜人が飛び降り、私たちも輪を離れた。
座って待っていた天人達が、えっ、戻るの早くないですか。何かありました?!とサニーさんに話しかけている横で、竜人さんがワイバーンの首の鎖を引いて、繋げそうなところを探してキョロキョロすると。
何か察したらしい軍人さんが数人ダッシュで近寄ってきて、普段魔獣の警戒の為に亜人を沢山繋ぐのに使っている地面に固定された鉄輪の所へワイバーンを引く竜人さんを案内しようとする。
天人さんたちの方は魚人さんが付いてるので大丈夫だろうと、チョーコは竜人さんの方へ。
竜人さんが、このふたり(チョーコ達)に大きな借りが出来てしまったので、この街の上役に話をしたい。その間このワイバーンはここに繋がせて貰うが、妖精や亜人の肉などがあれば分けて貰えるだろうかと。
物資を入れる大きめの箱丸々一つ分くらいの分量を示して、渡せるものは今このくらいだろうかと、サファイアやルビーなどのかなり綺麗にカットされた宝石類が入った袋を出してきたが。
それを周りに通訳すると。
「いや肉なんてただで良い、幾らでも出す!それよりその騎竜っ!乗りたいんだが、そいつは訓練すれば俺たちでも乗れるのか?!」
と。叫ばれた。
周囲を見ると警戒の為に外に待機していた軍人や冒険者の殆どが、ワイバーンに大注目している。
宝石を受け取らずに箱に肉を詰めて持ってこようとする人間達を見て、竜人が不思議そうにチョーコの方を見た。
「彼らはなんと?」
「あ。えぇと、皆は肉なら幾らでも出すので、自分たちもワイバーンを騎竜にして乗りたいそうです」
「ふむ?この度の礼も兼ねて、ワイバーンを騎獣にする方法を教えるのは構わん。ただ、ワイバーンはあまり弱いものは主人として認めない。挑戦したいものは山まで来て貰って、実際に戦って従えることになるのだが?」
そのまま周囲に伝えると、今が弱くて竜に乗れれば強くなれるかもと期待したもののテンションは下がるが、腕に覚えのあるもののテンションは上がったのが分かりやすい。
出来るかどうかの挑戦が出来るというなら是非したいという声がざわざわと聞こえてきているうちに、門の方から新しく近付いてきたのは、宰相さんと秘書さんたちと、文官っぽい人たちと、組合長2人と、赤髪の軍人っぽい格好のお爺さんとその部下っぽい人たちなど、地位の高そうな人たちがたくさん。
流石にワイバーンの姿に気付いた瞬間はビクッと揃って足が止まったが、気を取り直して近付いてきた。
話せる顔ぶれが揃ったようだし、一旦街の中へ招待するので、落ち着いて座って話せるところで話しましょうということになり、当事者だからとチョーコ達も一緒に呼ばれる。
お偉いさんたちだけで話しをすると聞いて、さっきワイバーンに乗れるかもと期待していた人たちがわっと、軍人っぽいお爺さんと冒険者組合の組合長の所へ集まって話している間。
竜人が繋いだ騎竜の扱いについて色々説明していたのでチョーコはそっちの通訳を。
「ワイバーンは知能が低く、命令というものは一切覚えない。己が格上と認めた者がいる間は与えられた肉以外食べないが、主人が居なくなった途端に勝手なつまみ食いを始める生き物だ。おそらくお前たちが考えている以上に長く首を伸ばして噛みついてくるので、私が戻るまでは決して近寄らないように」
と警告をしていたのでそのまま伝え。肉の箱をワイバーンの鼻先に置いて、全員遠巻きに離れたのを確認してから街の中へ。
天人8人と竜人と魚人で合わせて10人、それに人間側も偉い人がぞろっと沢山。
かなりの人数なので、新しく開いた白砂糖茶屋を急遽貸し切りにして、ホールの机を並べ直して座ることに。
――しまったぁぁ、翻訳機の素材揃ったんだから、作っておけばよかった!
流石に今この場で作っていきなり出したら不自然すぎるし、お偉いさん3人と竜人さんと天人代表のサニーさんだけとかに絞って貰って5つセットを渡す?
「チョーコ、大丈夫?」
「えぇとうん、今更あれを出すのも不自然だよねって悩んでただけ」
「そう、だな。流石に今この場では止めておくか」
「あれ、とは?」
びくーんと2人揃って叫びそうになったら、いきなり口だけに風がふっと吹き込まれてきて言葉ごと息を吸いこんでしまい、声が出なかった。
振り返ると第一秘書さん、うん。この笑顔は第一秘書さんだ間違いない。
2秒ほどオクティと黙って目を見合わせたが、誤魔化すのは諦めよう。
そっと5つセットの翻訳通信石を渡して機能を簡単に説明すると、分かりやすく目が輝いている。
「確かに、持っている当人同士にしか聞こえないとなると、このような会議には不向きですが。――わたくし達が書記として会議内容を書き留めることになっておりますので、一旦お貸し願えますか?」
「あ、はい。そういう事でしたらどうぞ」
会議自体は仕方ないので天人さん達側は魚人さんが、人間側はチョーコが通訳をするということで頑張って喋ることになった。ちゃんと書いておいてくれるらしいし、多少翻訳グダグダでも許されると思いたい。
ほんの少々アルコールを垂らした紅茶が配られ、1人ずつ軽く自己紹介をしていくのを、魚人さんとチョーコが2人交代で必死で通訳していく。
お互い多人数に一気に喋られても無理なので、それぞれ代表が一人ずつ喋って貰うと約束。天人さんたちの方は基本的に竜人さん、天人じゃないと分からないことだけサニーさんが代表で話すと決めて、会議が始まった。
竜人がまず、高山地帯での亜人の暴走にチョーコとオクティを送って貰ったお陰で貴重な牛が全滅せずに済んだことの礼を言い。先ほどの反応を見るに、人間達へのお礼は希望者を高山へ連れて行って、ワイバーンを騎竜に出来る実力があるかどうかはやってみないと分からないが、一通りの指導を受けさせるということで良いだろうか?と話す。
ざわざわと話し合った後、軍部の大隊長と名乗っていたお爺さんが挙手。
「是非そう願いたい。最大何人まで参加出来るだろうか?」
「危機は去ったとはいえ、今は亜人がかなり多く周囲にいる。目が届く範囲の人数と考えると一気に受け入れられるのは10名程度だろう。また、こちらも護衛はするが、不測の事態は起こり得るので、最低限自衛が出来るものに限らせて貰いたい。
もし、それが上手くいったならば、続けて実力者を集めて再び訓練を行うことも可能だ」
お爺さんは頷いた後、チョーコの方を真っすぐ見て。
「山へ通訳についていって貰えるだろうか?」と聞いてくる。
ちらっと魚人さんを見ると「落ち着いてからならともかく、亜人の大発生中は無理です」と即座に首を振られた。
山に行けば牛乳にメロンがあるのは確定。それに高山地帯って絵具の素材の他に、野菜もあるって情報にあったよね?それは正直。すっごい興味ある!
「最初についていくのは大丈夫です。でもずっとじゃなくて、向こうの亜人がある程度落ち着いて普通くらいになったら通訳の交代も出来ますか?」
「はい。亜人の出現が落ち着いてからなら、交代できます」
通訳付きで10人は挑戦者を受け入れる。そして初回の様子を見て問題なさそうなら追加も可という条件が決まったので。
改めて、まず高山地帯の亜人について、従えられるかどうかという事だが、そもそも能力的にワイバーンやハーピーはどうなのかと質問がでた。
「能力的にか。まずワイバーンは特殊攻撃や魔法などは一切してこない。ただ全身に生えている鱗が魔法をほぼすべて弾くので、天人のように魔法主体で戦うものにとっては天敵と言えるな。
物理的には硬いのは背中側と手足だけで、腹側や顔の辺りは簡単に刃が通るので倒すのは楽だ。だが騎乗したいのであれば深手を負わせるわけにはいかんので、刃の付いていない鈍器や身体強化した身体で戦うことになる。まず山に来たら、ワイバーンのあごの下やわきなど、鱗の少ない柔らかい部位をきちんと覚えて的確に狙う訓練をして貰う」
「的確に狙えるようになったら、他にはどのような訓練が必要なのか?」
「後は騎乗訓練だけだ。奴らはとにかく大食いで肉に目がなく、フェイントなども一切なしにただ獲物に向かって真っすぐ突っ込んでくるので、戦略的にはやりやすい相手だからな。
そしてワイバーンは相手が自分より格上か格下かだけを判断し、一度格上だと認めれば逆らわない。自分より力が強くて充分な餌をくれる主人だと思わせることさえ出来れば、躾は完了といって良い。
馬具の扱い方や体重の乗せ方だけは、身体で覚えて貰うしかないので訓練だ。ワイバーンの馬具は元々、皮膚の薄い所を棒で刺激するように作られていて、その刺激で自然に身体をひねって飛ぶ向きを変えるように出来ているので。命令などは何も必要ない」
「なるほど。ハーピーの方は?」
「ハーピーは風の魔法を操り、群れで狩りをする。飛ぶスピードはそれなりに速く、一斉に風の魔法を操って斬りつけて来たり、集団で獲物を掴んで空から落として弱らせようとしたり。亜人にしてはかなり賢くて器用だ。
しかし羽を傷つけるとすぐ飛べなくなり、足はあるがまともに歩けないので接近戦に弱いし。天人ほど強い魔法を撃ってくるわけでも、魔法耐性が特に高いわけでもないので、魔法でも物理でも倒すのは苦労しない。
掴んで空に放り上げられる攻撃にさえ気を付ければ苦戦はしないと思うが……そうか。人間の場合はそれがかなり厄介なものになるかもしれないな。羽が良く燃えるせいで火の魔法にとても弱い。事故を防ぐ意味で火の魔法が使えるものを連れていくと良いだろう」
以上だ、との声に冒険者組合長が挙手。
「ハーピーの方もそれだけ賢いのなら、飼い慣らせれば使い道があるのではないか?」
「ハーピーを飼う……?」
竜人には、ハーピーを飼うという発想そのものがなく、ちらっと天人を見る。
サニーさんがはいと手を挙げて。
「まずハーピーを飼えるか否かと言われれば、飼えますし人に懐きます。天人の中でも変わり者の部類ではありますが、実際に飼っている者がいますので、そこから聞いた注意事項を伝えます」
まず、性格がとても悪戯好きです。
地上から人や物などを掴んで飛び上がり、上から投げ落とす遊びを特に好むそうです。ものが壊れるだけではなく、重いものなど避け損なえば怪我をしますし。天人の子供は投げられても飛ぶので問題ないですが、おそらく人間の子供では事故が起こると思われます。
また、巣箱に必ず帰るように躾けることは簡単ですが、完全に閉じ込められることを嫌がるようで。鍵を掛けたり繋いだりすると無理矢理外してしまいます。
とても賢い上に風の魔法も使うので、縄で繋いだくらいでは切断しますし、切れないような鎖に変えても繋いでいる棒の方を切ったり、地面に刺した杭を掘って抜いたり。扉や鍵も単純な構造なら開けるし、複雑な構造なら壊します。力も50キロ程度のものなら足で掴んだまま飛べます。
最後に、ハーピーはメスしかいない種族で、繁殖の際は他の種族のオスを襲います。飼い主が男性であれば必然的に真っ先に狙われます。
気が済めばコロッと落ちつくそうですが、閉じこめておけないので大変だそうです。
ワイバーンほどは獰猛でなく、肉よりも魔獣の核を好んで食べるため、家に湧いた魔獣も勝手に駆逐してくれますし。卵から飼えば簡単な言葉も覚え、出先から家に荷物を持って先に帰るくらいのことは簡単にやってのけ、ペットや狩りのお供としてはたいへん優秀だと聞いています。
「――ですが、少なくとも人が密集した場所での飼育はお勧めしませんね」
「なるほど。魅力的ですが、人間の街での飼育は難しそうですね。ありがとうございます」
巣箱を設置した周囲の魔獣を自動で狩ってくれるのならば街道沿いの中継キャンプなど、人里離れたところで飼うのはどうだろうかと小声で隣と話しているのは聞こえるが。今回の打ち合わせとしては、ワイバーンの捕獲と、それに乗る訓練についてを優先するのでそこは訳さなくて構わないらしい。
その後も山での生活について必要な物資だとか、準備した方が良い装備であるとか、山の方で準備して貰えるものであるとか、そういった細かいことを話し合い。
今回高山のダンジョンに亜人が住み着いた件については、ハーピーだけならよくあることだが、身体の大きいワイバーンがダンジョンに住んだのは初めてだったそう。というか普通のダンジョンの入口は人間サイズに作られているので、ワイバーンはサイズ的に入り込めないはず。
ただその一番大きいそこのダンジョンだけは、入り口から広く作られていて入り込めてしまったらしい。
ということは、今後もそこには亜人が入るかもしれない、と分かったので。人間の冒険者が山に出入りしてくれるようになったらついでにダンジョン攻略もして貰えると山側としてはとても助かるという。
高山のダンジョンは、ダンジョン内の土の部分や壁に様々な草や蔓型の植物が生えており。野菜や果物がたくさん実っていて。貰ったメロンもダンジョン産だそうだ。
竜人はどちらかというと肉食寄りでそれらは好んでは食べないからわざわざ行かないし、天人は果物や葉野菜を取りにいくことはあっても、ダンジョン内は狭くて飛べないし翼があちこち引っかかるので積極的に探索しに行くことはない。
人間たちがダンジョン攻略をしてくれるというなら、テレポートとアイテムボックスが使える天人が、取れた作物の一部を報酬に貰うかたちで、移動と荷物持ちのサポートをしてもいいと言ってくれて。
チョーコ達が食べていたメロンだけでなく、他にもいろんな食べられる実や葉があると聞くと、人間側は興味深々にならざるを得ない。
今回の10人の訓練をまず実施してみて、高山での生活や環境などに問題が無いかも様子を見よう。それで問題なければ、引き続き訓練希望者と、ダンジョン攻略を希望する冒険者を集めて送ろうということに話がまとまり。
選抜を終えるまで天人達には街に滞在していて欲しいと頼み、城には愛妾になった魚人ちゃんたちが住んでいるのと同じような作りのゲストルームが大小幾つかあるそうなので、彼らはそこに泊まってもらうことになった。
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話し合いが終わるとすぐに第一秘書さんが寄ってきて、チョーコ達も城に泊まらないかと呼ばれていると言われたが、嫌なら断って良いと言われたので今回は遠慮させて貰った。
もう喋りっぱなしで疲れたし、この上城になんて正直行きたくない。そもそも今日はゴロゴロする日の予定だったので、早く帰って寝たい。
天人や竜人に隷属の石が使える人間などいるわけないし、魚人が居たら制約言語とか意味がないから変な制約掛けられる心配もないし、皇帝には人族皆尊重するって制約掛けてるから失礼な態度はいきなり取らないはずだ、たぶん。
通訳に来ないのであれば代わりに5つセットは貸しておいてほしいと言われたのでそれは了承。
入手方法を聞かれたので、魚人さんたちと一緒に開発中でそれはまだ試作品、そのうちちゃんとした翻訳機を出しますと伝え。
オクティと共に家に帰った。




