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飢えないだけじゃ生きられない(日・水・更新中)  作者: なるねこ


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32/89

32.空からの来訪者

丸1日海で講習会をして疲れたので、次の日は起きてからずっと昼までオクティとゴロゴロしていたら。

お昼前くらいに家の前へ誰かが走ってきて、急いだ様子でノックを響かせる。


「おーい!オクティ、チョーコいるかー?俺だー!」


オレオレ詐欺再びだけど流石にもう怖くない。

「あれ、パリィ何か慌ててるみたい?どうしたんだろ」

「何かあったのかもしれない。俺は先に話聞いてくるから、チョーコは着替えてて!」

「わかった!」


オクティが駆け降りて話を聞いているうちに冒険用の丈夫な方のワンピースに着替え、魔石付きのリボンで髪を結ぶ。チョーコが降りようとすると、入れ違いでオクティが上がってきた。


「通訳に魚人を連れた天人のグループが街に来て、街の外でチョーコを呼んでるらしいんだ。俺もすぐ行くから家の前で待ってて」

「えっ??あ、うん。わかった」


ローブや靴をちゃんと身に付けて外に出ると、パリィがよっと手を上げた。迎えはひとりで来たみたい。


「チョーコお前、魚人と喋れるだけじゃなくて天人も知り合いだったのかよ?ほんと何でもありだな」

「いやいやいや、知らないよ?!魚人さんとは最近また少し海に行ったりしてちょっとだけ仲良くなったけど。天人がどんな種族なのかもまだよく知らないもん」


「ほんとかー?まぁいいや。とにかく、話がしたいって街の外まで来てるんだ。着いてきてくれ」

「あ、まって。オクティも……」

「おまたせ!行こうか」


ナチュラルにひょいとオクティがチョーコを抱え上げて飛ぶと、パリィは遠慮なくそのままダッシュ。

前回亜人暴走注意のダンジョンで通った門より更に右、初めて来た時とは反対側の門まで運ばれて降ろしてもらい、すぐ外に促されて出た。


門の外は他のところとそれほど景色は変わらず、広い土に軍事関連の設備が揃って森との境目あたりにダンジョンっぽい建物が見えるだけだけど。


出てすぐ左の方に囲いが作られ、オレンジの葉がついたまだ小さめな苗木が並んで育てられていた。


「あ、チョーコ様!」

逆の右の方から呼ばれてそっちを向くと、広い空き地の部分にやや不自然に木の椅子と木のテーブルがデンと置かれ。10人近い男女の『天使』と1人の魚人の男性がそこに並んで座ってお茶を出されているのが見えた。


なんだろう、全員美形過ぎるし背中に羽生えてたりするし、気合いの入った特殊メイク系の衣装を着たヴィジュアル系バンドが木の武骨な机でお茶飲んでる姿?まるでPV撮影の休憩時間に見えてくるかも。


……申し訳ないけど魚人さんたちいっぱい居すぎて顔の見分けがまだ全然ついてないので、付いてきている魚人さんはあの湖の人なのかどうか確証が持てないけど。多分……湖の長の人かなと思う。


「魚人さん、こんにちは!えぇっと……この人達は?」

正確には男性5人と女性が3人、全員ギリシャ神話のトーガみたいな、まっ白い布のシンプルな服を纏って草で編んだサンダルを履き、豪奢なウェーブの金髪に純白の翼を背に生やした姿をしている。

彼らに連れられてきたせいか、今日は魚人さんまで同じトーガを着せられていて、着慣れない感はあるけど普通に馴染んでいた。


グループの代表らしい男性が1人だけ、立ち上がってこちらに頭を下げた。

どちらかというとおっとりとしていそうな、柔和な顔立ちの若いお兄さんという感じ。

「本当にテレパシーで会話ができる人間族がいるとは。初めまして、私たちは向こう(と指さしたのは街と反対方向)の山に暮らしている天人の一族のものです。私は朝焼け(サージェニー)という名で、サニーと呼ばれています」

「よろしくおねがいしますサニーさん、冒険者のチョーコです」


とりあえず座って欲しいと言われて、天人が3人立ってチョーコたちに椅子を譲ろうとするので、周りで見ていた軍の人達が追加の椅子を運んできて、パリィとオクティに挟まれながら座ると。


サニーさんがどこからともなく草を編んだようなお皿の上に、メロンそっくりの匂いがする黄色い果実の切ったものを出して3人分並べてくれた。真ん中の種の部分は無くて、全部実がぎっしり。


アイテムボックス持ちだー!

あ、そうか。テレポートが使えるってことはそれも使えるってことだよね。


「わっ、ありがとうございますー!メロンもあったんだ、頂きます!」

スプーンとかついてないけど、ちゃんと切り込みまで入れてくれてるのでそのまま皮を両手で持って端からかぶりつくと、果汁の多い芳醇な香りが口いっぱいに広がる。

「んーっ!ほんとにメロンだ、美味しいーっ!」


躊躇なくいったチョーコを止めようかどうしようか一瞬迷ったり呆れたりしていたオクティとパリィも、若干恐る恐る、手に取って食べ始めた。


「まずはこちらのオグ殿(といって魚人さんを示し)の住む海へ我々が訪れた理由ですが。実は高山地帯の中で一番大きなダンジョンの内部に、ワイバーンとハーピーという亜人が大繁殖しましてね……」


メロンを食べながら話を聞かせてもらったところによると。

高山地帯というのは、この大陸全体の北側約3割ほどを占めるやたらと広い山なのだそう。


そこに住んでいる天人と竜人という人族たちは全域合わせても数万程度しかいないため。あっちこっちにたくさんあるダンジョンをいちいち全部定期的に踏破してブレイクしないように抑えるなんてことはとてもやっていられず。


ダンジョンの位置だけ把握しつつ上空をパトロールして、魔獣が溜まりきって外に吐き出されたところを纏めて空から薙ぎ払って掃除するという手段を取ってきた。


魔獣の種類は高山も平地も大した違いはなく、空を飛ぶものは飛翔ではなく滑空しかできないモモンガ程度、それ以外の地を這うものは上空からの攻撃には無力。


苦戦したことはこれまで一度もなく、今までずっとそうやって対処してきたのだが。

一番大きなダンジョンが最近全然溢れてないな?と不思議に思っていたら、今朝、早朝から突然亜人の大群が吹き出し始めたらしい。一気に外には出られないようだが延々ずーっと出続けていて、どんどん増え続けているそうだ。


しかも魔獣の核の魔力を食べまくって群れ全員が完全にアッパー状態。

敵もろくにいない環境でよく育ったのか大きさも力も強めのものが多い。


天人も竜人ももちろん戦える種族ではあるのだけど、広大な土地にちらばって暮らしているため、近辺のものを急いで集めたところでたかが知れているし。


その上、ワイバーンは魔法に対する抵抗力がめちゃくちゃ高く、肉弾戦メインの竜人はともかく魔法戦メインの天人にはちょっと苦手な相手だったりするので。

その場は竜人達に任せ。天人達は一旦退避で、他の竜人を呼んだり他の種族でちょっと手を貸して貰えるものが居ないか探すと四方へ散った。


そして海まで逃げたこのチームが西の海の魚人達に会ったが。一時避難や回復や食料の提供なら出来るけれども。ただでさえ苦手な陸上で、しかも魔獣相手ではなく暴走した強めの亜人との対空戦となると、魚人が手を貸せる話ではないとの答えだった。


それよりはまだ、人間族の方が出来ることがあるかも、とテレパシーで会話が出来るというチョーコ達を紹介されてここへ来た。


……ということらしい。


「人間族は数が多いだけで戦力的にはそれほどでもないと聞いていたのですが、チョーコ様は偉大なるエスの寵愛を受けていて、番である黒髪の人間と共に『巨栄の水獣』さえ倒した例外だから一度話してみろ、と西の海の長まで口を揃えて言うものですから」


「暴走している亜人の群れを何とかして欲しいってことですよね?近くで見てみないとわからないので、そこへ連れてって貰いたいんですが。えっと、オクティだけ一緒に来てもらっていい?」

「勿論」


「ははっ、チョーコならひと睨みで片付けてきそうだな。んじゃ俺は留守番してる」

「見に行くのはおふたりだけで宜しいと?……分かりました。ひとまずテレポートで見えるところまで案内しますね」


いつも通り何も言わなくてもオクティがチョーコを抱えてふわりと浮く。サニーさんは軽く頷くと彼も自分の翼を広げて浮き、オクティの肩に触れてテレポートを使う。


完全に今までと違う空気を感じた。


ひんやりとした強い風が舞うそこには、薄いグリーンと金粉を混ぜたような不思議な色の、透き通る大きな柱が天を突いており。


地面は一面、深い青色の花弁をした百合、としか言えない花がびっしりと咲いた草原で、柔らかな甘い花の匂いが空中を舞っている。


見回せば青々とした草と黒い土と白に近い岩肌が混ざる、どこまでも続く大山脈があった。


「では移動しましょう」

素直に付いて行くと、なんとなく魔力の膜を通ったような感触。


「中からは好きに出られるが、外からは入れない壁みたいだな」

「はい。あの中はテレポートでしか入ることができない、我々の聖地なのです。高山地帯の各所にあるあの風の柱が、私達のテレポートの基点になっていましてね」


「あ、天人さん達のテレポートって、どこでも好きに行けるわけではないんですね」

「そうですね。高山地帯の中ならある程度楽に近道が出来ますが、外へ出る時は飛んでいかねばならないので面倒です。……あ、あそこに見えますか?黒い煙のように見えるあれがその群れです」


本当に煙や入道雲にも見える巨大な蚊柱があった。

あの点の1つ1つが暴走した飛行型の亜人だなんて、確かに悪夢でしかないだろう。

群れの周囲で10を越える幾つもの真っ黒い大きな塊が浮かび、その中に時折激しい金色の光が見えるのは……あそこには対抗するために亜人まみれになって戦っている竜人がいる?


ぐんぐん近付いていくと、その群れは草地の山肌にいる白い毛の大きな牛のような生き物たちに襲いかかって巻き上げているようだ。

放牧されているらしいその草地よりもっと向こうには、広い丘のようなところに牧場や建物などの村のようなものも見える。草地が終わればそっちへ向かう予定だろうなとは見ているだけでも何となく察せた。


「あの襲われている白い……妖精?あれは?」

「あぁ牛たちが……!あれは落ちものらしいのですが、牛乳や白い毛が取れるために高山地帯では重要な家畜として私たちが飼って増やしているのです!」

「牛乳ーっ?!落ちものの牛ってことは全滅したらもう手に入らないってことだよね?!大変!」


「小麦くらいの反応ってことは、それもチョーコが探してたものなのか。じゃあ本当に急がなきゃな」

「うん!急いでーっ!」

グンと加速して、群れがどんどん近づいてくる。


ギャアギャア鳴きながら()()を奪い合う亜人の群れは確かに2種類混ざって見える。

片方はワイバーンという名前からなんとなく想像していたけど、想像よりずっと、グリーンドラゴンという名前の方が近い気がする。首が長くて凶悪そうな顔で手も足も爪が鋭い。


もう片方は両腕がカナリアイエローの大きな翼になっていて、女性の裸そっくりの体がついているハーピー。

顔もなんとなく女性っぽくはあるけど、口が裂けたように大きくて目が緑で白目がなく、翼の先端にも鉤爪があって、両足も膝下は鳥の鉤爪のある黄色い足なので、ちょっと怖い。


オクティはスピードを落とさずに突っ込んでいき、チョーコは群れがこちらに反応するのを待って『威圧』を使う。


さすがに範囲が広すぎて全然届かないので、そのままぐるぐると周囲を囲うように飛んで貰って何度も『威圧』を放つ。


それまでテンション高くギャアギャアと騒いでいた亜人たちが凍ったように動きを止めては、落下しかけて我に返った途端、蜘蛛の子を散らすように四方八方へ逃げ回った。


崖に飛び込んだものや岩陰どころか草葉の陰にでもなんとか隠れようとするものなど。固まっていた群れはどんどん崩れて霧散し始め。


暫くすると空に大きく広がっていた入道雲のような黒い蚊柱はすっかり姿を消していた。


周囲の地面にちらほらと、先程の戦闘から離脱したらしい金色の翼のある人影があちこち座り込んでいたりするのも見えるけど、見回した感じ、完全に倒れ伏している姿は見当たらないと思う。


先を見ると、おそらく群れが次に狙おうとしていたのだろうと思っていた、大きな牧場といくつかの民家のある村があり。その牧場の前に立ちはだかるように、立派なツノと金色の翼を生やした竜人が2人、身の丈ほどの大剣などを構えたまま呆然としているのが見えた。


「あの……チョーコさんお疲れ様、です?今、何をしたんですか」

おずおずとサニーさんが近寄ってくる。


「ただ『威圧』をかけて、暴走状態を強制的に落ち着かせただけです。一時的に恐怖状態にするだけなので、あとで我に返ってから普通にまた牛とか狙ってくるかもしれませんけど……」

「いえ!あの数の群れだったから脅威だっただけで、いつもより多く襲ってくる程度なら問題になりません。ありがとうございます!……本当になんとか出来てしまうなんて、エスの寵愛という話は本当かもしれませんね」


「なんとかなったのなら、良かったです」

「ひとまず状況の説明もしなければいけません、そこの『牛の村』へ降りましょう」


牛の村へ降りると、さっきの武器を持った竜人たちに出迎えられた。大剣を持った方が男性で、双剣の方が女性。2人は夫婦でこの村に家を持って周辺の警備をしているそう。


「さすがにあの数は見たこと無かったからなぁ、数十年ぶりに死を覚悟したわ」

とガハハと笑う男性がガルドさんで。


「その人間の2人には命を救われちまったってことだねぇ。お礼に何が欲しい?」

と困ったように笑う女性がラルーダさん。


何が欲しいと言われて思わず牛乳下さいっと叫んだら、皆に笑われてしまった。


ラルーダさんには妙に気に入られてしまったみたいで、人間なのに欲のない子だねぇ!こっち来な、と牛の囲いがある方へ連れていかれ、金属製の両手で持たないと動かせない大きな牛乳壺一杯の牛乳を入れ物ごと持って行っていいと渡される。


……これが、偶然の一致というか多分機能美の関係でデザインが同じになったのだと思うけど、金属の丸い筒型のボディに上の方に付いた取っ手とはめ込み式の蓋。

記憶にある子供の頃に見に行った牧場で見た牛乳入れまさにそのままでちょっと感動した。


その感動が牛乳入手によるものと思われて、そんなに嬉しいなら無くなる度に汲みに来な、と言ってもらい。有難く牛の村にテレポートの目印を付けさせてもらう。


牛乳を入れ物ごとアイテムボックスにしまったら、後ろからサニーさんの声がした。

「え……貴女『アイテムボックス』を使えるんですか?!」

「あ」


さっとオクティがサニーさんとチョーコの間に半分割り込むように立つ。

「チョーコは人間だけどちょっと特殊な適正持ちなんだ。さっきの『威圧』が使えるのもそうだし。目立つのを嫌がっているから、あまり吹聴しないで貰えないか?」


「あぁ……あまり人間の中で変わった特性持ちが知られると大変なんですね?分かりました……なにしろ恩もありますから、私達はチョーコさんをお守りする側に立ちましょう」


ふっと上空に大きな影が過ぎ、上を見ると

先程のワイバーン、ではなくガッチリ馬具を装備したワイバーンの上に、騎士っぽい鎧を着て大きなランスを軽々と片手で掴んでいる男性の竜人が立って乗りながら、村の上を旋回している。


「ガルド!ラルーダ!ここはどうなった……?村には戦いの跡が全く無いどころか、亜人の死体が1つも転がっていないな」


「ユグード様!退避していた天人が、人間の街から援軍を連れてきてくれたんです。その子たちが綺麗にビビらせて追い散らしてくれましたよ!」

「何?その子ら、とは、今そこにいる……?」


バッサバッサと綺麗にカーブを描いて村の空き地に着地し、軽々と飛び下りてきた騎士っぽい竜人は、オクティとその背に庇われた私を見て、先にオクティをじっと見たが。


少し迷うようにチョーコを見た。


「あの亜人の群れを追い払ったのはこの少女ひとりの力だと……まことか?」

「私は追い払ったといっても『威圧』で恐怖状態にして暴走を消しただけです、倒してはいません」


「……真のようだ。山の危機を救ってもらったこと、この地を守護する竜人の1人として礼を言おう。亜人がどれだけ居ようと最後まで戦えば我らが勝つであろうが。大切な牛達にあまりにも大きな被害が出れば、取り返しがつかなくなるところだった」


「いいえ、私も牛乳はすごく欲しかったので!何とかなって良かったです」

「目的が牛乳だけ?……よし。この者たちを連れてきた天人というのはお前か。助けを求めに行った街まで案内を頼む。どうやらこの娘は欲があまり無いようだ。この功績はその街の上役に直接伝えるしかあるまい」

「はは、そうですね……分かりました」


村に居た夫婦の方に他の竜人への伝言などいろいろ指示を残しながら、騎士の竜人は自分の騎竜の方へ歩いていく。


「え、わ、わざわざそこまでは……」

止めかけるとオクティが首を軽く横に振る。

「チョーコ。彼には彼の、受けた恩を借りっぱなしにするのは恥だとか、色々あるみたいだからさ。気が済むようにしてもらっていいと思うよ?」

「そっか。……あ、それに考えてみればここの人たちと人間の街が仲良くなったら、交易のきっかけになるかもしれないもんね?」


納得したっぽいのを見てか、サニーさんがにこやかにワイバーンの方へ移動を促してくる。

「では案内しますので、飛行姿勢を取って彼の騎竜の尾のところに掴まって下さい」


オクティに抱えられて、サニーさんも一緒にワイバーンの尾のところに吊り下げられた頑強な鉄輪に掴まると、ひらりと背に飛び乗った竜人が立ったまま手綱を操ってワイバーンを飛び立たせた。


「さあ頼むぞ、思いっきりやってくれ!」

「では行きますね『追い風よ』」

サニーさんが囁くように言葉を紡ぐ。


ぐわ、と波のように周囲の空気がうねるのを感じ。身体の周りを風の層が守ってくれている感覚と共に。周囲の景色が吹っ飛ぶように後ろに流れ始めた。ここまで急加速だと相当なGが掛かりそうなイメージがあるけど、そこまでの衝撃は無くて。飛行機にでも乗っているような気分で気軽に周囲を眺める。


ヒマラヤ?アルプス?なんか、日本では絶対に見ないような山脈が視界の果てまで広がる光景。

なんというか、色々なスケールが大きすぎて感覚がバグりそう。


「はっはぁ!やはり天人の追い風は最高だな!」


オクティも周りを見ながら速さに呆然としていた。

「俺もスピードをどこまで上げられるか挑戦したことはあるが、ここまでの速度は……」

「追い風をかけると、正面からもほぼ同じくらいの風の魔法を受けることになるので、生身に掛けたら潰れてしまいますよ?ワイバーンには風の魔法が効きませんので、負荷を全てあの鼻先に集中させて周りを保護しているんです」

「なるほど……」


「人族同士でも種族が違うとあまり付き合いなかったりするって聞きますけど、天人と竜人は仲が良いんですね?」

「まぁ種族的には私たちが胎生で竜人が卵生なので交わりはしませんけど。同じ天界語を話せて、一緒に牛を飼って、魔獣清掃をして回って。どこか遠くへ出かける時はこうして牽引してもらい、帰りは我々のテレボートで飛び……良き隣人として仲良く出来ていると思います」


「そうなんだ、素敵ですね……」

話しているうちに正面奥に赤みがかったキラキラした傘を被った街が見えてくる。そして向かって右の方に、一瞬氷原かと思うような白っぽい青灰色の、かなり大きい範囲で森が裂けて地面が露出した部分があった。


「んっ?あの氷みたいな色の広い土地ってなんですか?」

「あれは凍土と呼ばれます。魔力の尽きた死んだ土地と言われる場所ですね。あの中に入るとけっこうな勢いで魔力を吸われますから、端の方ならともかく中央付近に着陸するのは危険ですよ」

「死んだ、土地……」


行き来する生物がおらず、死んでしまった土地。というのは、いずれあんな感じになってしまうということだろうか。見渡した限りその一部以外は森が消滅している所は見当たらないのでひとまずはまだ安心してもいいってこと?


「おい、どこへ降りればいい?」

不安が胸を過ぎるヒマもなく、飛行速度が落ち着いてきて、大きく街の上を旋回し始める。


「我々の仲間が手前側の壁の外で座って待っていますから、その近辺にお願いします」


ゆっくり円を書くように高度を下げていくと、座って待っている8人が遠巻きにすごくキャーキャー言いながら眺められているのが見える。

軍部の人たちが近寄らないように警戒して周りを囲っているけど、物珍しさに門から出て一目見ようとしている一般人が後を絶たない状態になっているみたい。


――が、ワイバーンに乗った竜人がバッサバッサと降りてきたら、一般人は皆わーっと一斉に門の中へ引っ込んでいった。

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