31.魔道具開発
家に帰ってもまだまだ外が明るい時間。
「さぁやってみよう♪」
「さて、どういう魔法を籠めるのが良いかな……」
2人揃って、新しく追加された魔法にはわくわくしていて、帰ってすぐにリビングの机の上に練習用で沢山作った空の魔石を積み上げて、一個ずつ手に取った。
オクティは知っている魔法の中で籠められそうなものが無いかを色々探してみるらしい。
チョーコは『テレパシー』を籠めてみようと暫くやってみていたのだが。とっかかりが少しも分からないというのか、どう集中すればいいのかが全く掴めずどうにもならない。
暫くうんうんしていたら、手を止めたパリィがこちらをじっと見ていた。
「チョーコ、テレパシーの魔石を作ってみたいのは分かるけど、先に『テレポート』と『転送盤』を作るのから挑戦してみたら良いんじゃないか?多分そっちはもう製法まで完成された状態になってるんだろう?チョーコは新しい魔法を編み出す”概念”適性があるから普通よりはやり易いはずだが、最初から出来てるものとそうでないのは難易度が全然違う。まずは簡単なものから練習した方が良い」
「言われてみれば、新しい魔法は難しいとかそんな説明だったかも……そうだね。先に作り方がハッキリしてる転送盤作りから練習してみる」
「俺も実際作る時の様子を見てみたい」
今回はオクティも手を止めて、じっと見守ってくれた。
改めて。テレポートの魔石を作るつもりで。空の魔石を両手の平に乗せたまま目を閉じ。魔力で魔石を包むイメージ。
テレポートを使う時に身体から抜けていくあの力。いつも使っているその力を集めて魔石の所へ……
さっきのテレパシーの時はどこから取っかかれば良いのかが全くスカスカと掴めなかったけど、今回はなんとなく、術を使う時にこの辺りの力を使っていたはずだなというところがなんとなく分かる。
動かすのは少し時間がかかったけれど、何度か試しているうちに力の流れが感じられた。
手のひらに集めて魔石の周囲に……
「おっ!」
オクティの声がして、目を開けると。元々は白っぽく濁った半透明だった魔石が、完全に透明な中に魔眼のようなカラフルな光が揺れる綺麗な石になっていた。
「わぁ、綺麗。これで出来た……?」
「よく見せて!」
興味深そうに受け取ったオクティが魔眼で効果をしっかり見る。
「へぇ。これを握ってると、目標の座標設定は自分でやらなきゃいけないけど、充分な魔力を持っていれば、テレポートが使えるってさ。……このくらいの魔力なら俺でもいけそう。いいなぁ、欲しい」
「欲しいなら、最初の1つは記念にオクティが持っておく?」
「本当?これがあれば、チョーコの魔石と合わせて、どこでも探してすぐ飛んでいけるようになるな!」
「あぁそっか、目標座標って捜査でも設定出来るんだもんね。うん、それなら私も最初の1つはオクティに持っててほしいな」
「いいのか?やった、ありがとう。あとで防具屋に魔石を嵌め込めるタイプの帯でも作って貰おうかな」
胸ポケットに嬉しそうにしまう。
もう1つ同じように作ってみたら。さっきはどの辺りの力を掴むのかを探せるまでしばらくかかったけど、練度が上がったというのか、スキルが身に着いたというのか、あっけないほどスムーズに必要な魔力を掴んで籠めることが出来た。
「うん、ちゃんと出来るようになってるね。転送盤っていうのも作ってみようか」
アイテムボックスから2枚出して貰う。最初から磨いたみたいに平らな表面で、縁もぐるりとダイヤモンドみたいな綺麗な多面体にカットされた円形だけど、これは元からこういう結晶として産出されるのか、渡すものだからわざわざカットしてくれたのか?
……どうやらカッティングではなく結晶化が綺麗に出来たもの。でも自然生成物なのでやっぱり歪みや割れは多いはずだし、ここまで綺麗に形も大きさも揃ってるものはちゃんと選んでくれたんだろうな。
そこまで立派なのを練習に使ってしまうのは申し訳ないので、ちゃんと使えるものに仕上げるつもりで頑張ろうと思う。
まずテレポートの魔石を2つに割る。倉庫に木工用具があったからあれでも割れるかと思ったけど、水の力で綺麗に切れるらしいので、自分でスパッとやってみた。
解説を読むと、重要なのは転送盤に封じた2ヶ所以外に同じ魔力を含む石の欠片が落ちていないことであって、大小差があっても、複数に砕けてしまったとしても、こぼさずキッチリ全部封入されていればいいらしい。
起動するとお互いの魔石の魔力を頼りに、全く同じ魔力を持つ石同士が繋がって座標を固定する仕組みなので、欠片でも別の所に落ちているとエラーになってしまうようだ。
それだけ守ってればいいということなら安心して、真ん中あたりでスパッと切り、それぞれの板の上へ。
魔獣の核の粉を隙間なく被せて、上から『圧縮』をかける。
魔石板と普通の魔石は質としては同じものらしくて、圧縮で接着するとまるでもともと一部としてくっついていたみたいにガッチリ貼りついた。
それぞれをオクティが魔眼でよく見て。きちんと2枚の間に魔力的な繋がりを感じると言ってくれたので成功みたい。
それぞれの板をいっぱいにするための必要魔力は正直チョーコには減ったと感じない程度。
5人くらい飛ばしても気付かないとオクティに言われたことがあるから、その範囲なんだと思うけどよく分からない。
オクティの出力で20秒は掛からなかったし私はもうちょっと早かった。
私は水、オクティは風で試しに充填してみたけど、別にどちらの板に何の種類の力で充填しても関係ないみたい。試してみると、1人だけ飛んだりしてちょっとだけ魔力を使うと、まだ板に魔力が残ってはいるけど充填途中の状態のように板の色は消え。減った分を足さないともう一度続けては飛べない仕様だった。
中途半端に使って色が消えた後、魔力を充填し直そうとして気が付いたけど。前と違う種類の魔力を入れても普通に入って色が混ざらなかったのが不思議でオクティに見て貰う。
オクティも魔石の力を中途半端に入れたり抜いて別の力を入れたりなんてことを試したことはないので驚いていたけど、どうやら魔石板は、力を籠める時は魔石と同じで1種類か3種類同時の魔力しか受け入れないけど。込められた魔力は時間が経つとどんどん無属性に寄っていって濃いめの琥珀のような色に変わっていくみたい。
無属性に染まった板への魔力充填は、またどの種類でも打ち消し合わずに入るようになるらしい。ただでさえ結構多めの魔力を籠めないといけないので、色んな属性の魔力を持った人がかわるがわる使ったとしても、魔力が無駄になりにくい仕様なのは良いことだと思う。
「よーし、転送盤作るのも成功したし。テレパシーの魔石、もう一度挑戦してみる」
「俺も興味あるから見てるね」
魔石を1つ手のひらに乗せて。目を閉じて集中する。
テレパシーのオンオフ切り替えをした時に意識した辺り。異世界語を読み取る時に使おうと意識した辺りの魔力に集中して掌へ集めていく。
さっき挑戦した時にはいったい何をどこからどうしたらいいのかも分からなかったけど、確かに練度が上がってるんだろう、今回は確かにそれらしい魔力を掴んで動かすことが出来た。
「おぉ、出来たっぽいぞ」
目を開けてみると、さっきとは色が違って。完全に透明な中に浮かぶ光が白一色だった。
綿毛が揺れるような瞬きがふわふわと、粉の少ないスノーボールみたいで綺麗だと思う。
またオクティによく見て貰って確認。
「んん?いつもチョーコが使ってるのとはちょっと違うような。石を握っている間、対象1人とだけ、どの言語でも黙ったままでもやり取りが出来るって。考えるだけで口に出さない言葉まで全部伝わるみたいだ。
それから同じ魔石に触れている者同士は同じように話せる?うーん、このサイズの石に何人も同時に触れるって結構厳しいかも。
そもそも考えたことが全部伝わると困るやつも居るだろうな。俺は別にチョーコに対しては好きなのも一緒にいたいのも全部言うようにしてるし隠すものなんてないから構わないが、色々隠して人と付き合ってる奴は多いもんな」
元々口の動きと聞こえる音が全く一緒じゃないから、考えが漏れてるのか口に出してるのか分からない。
「ちょっと大きめのおはじきくらいのサイズの石にたくさんの人が触って話すのは大変そうだよね。テレポートの魔石みたいに切り分けて使えるか、試してみようか」
「割っちゃうなら最初のだけでも俺が欲しい。本当はチョーコが作ったものは最初と言わず全部欲しいけど、俺が代わりに外に出す分作ってやれないから最初のだけで我慢するしかないのは残念だ」
「あはは、わかった。最初の1つはオクティにあげるね」
もう1つ作って2つに切り、それを更にもう一度2つに切り、と試してみた結果。
まず、切ってしまうと、握った状態で他の人に話しかけるという能力が無くなり、石に触れた者同士でのみ話せるようになる。
石の大きさが半分以上あれば、考えているだけのことはちゃんとした言葉ではなく強い感情だけが伝わる。
それより小さいと口で発した言葉しか伝わらない。そして概ね8分の1くらいの大きさまでが限界で、それより小さいと欠片から魔力が抜けてしまって、その欠片自体が使えなくなってしまう。
元々が小さいので私は全然上手く分けられなくて、最初は3つの欠片しか使えるのが残らなかった。
2度目は最初から8つに分けるのは無理だからとちょっと大きめで分けたけど、5つが限界だった。
「うーん。大人数で喋ろうと思ったら、5つの欠片を二人で手を重ねて持って10人くらいが限界……?いや、ちょっと絵面が微妙っていうか。この世界の人って魔力相性とかがあるせいか、知らない人とあいさつで握手したりハグしたりして触れ合う習慣が一切ないから、手を繋いで話すとかって凄い嫌がられそうだよね」
「まぁ……俺でもちょっと嫌ではあるかな、それは」
ちょっと魔眼で調べて貰ったり試したりした結果。同じ石を割って作ったグループ同士でしか会話は通じなくて。別のグループとの同時通訳みたいに1人だけ2つの石を握ったらどうなるかと思ったら、思考が混線するとかで上手くテレパシーが出来なくなったので。
本当に翻訳ツールとして使えるのは同じグループ内だけ。
正直微妙と思ったのだけど。なんと同じ石を握っている同士は。遠く離れていても会話が通じるという通信機能があると分かった。
「翻訳機能付きの通信機!それは便利かも!」
「ただこれ常に魔力が入りっぱなしで、ずっと通信してるから。握ったままだと全員の喋ってる声が常に聞こえる状態になるぞ?」
「あぁー。必要な時だけ話しかけられないんだ、それが出来ないとちょっと使いづらそう」
電話みたいに呼び出し音が鳴ったり、誰かが触って呼びかけたら光るとか、そういう感じだったら本当に便利だったんだけど。いろんな地方との交易が始まったら、それぞれの担当者の所に置いて、毎日同じ時間を決めて連絡取ったりするのに使えたりしないかなぁ?
でも電話連絡したい時って急ぎの用がある時だもんね。うーんなんとかもっと使いやすく……
「そんなに悩まなくても。ほら、宰相のところの秘書たちみたいな。たくさんいて交代制で色々やってるようなところだったら、1人くらい連絡の聞き取り専門で握りっぱなしにしてて貰って、他の人からの通信は誰かが繋いだ時にその人宛の伝言をまとめて伝えるとかさ、やりようはあると思うぞ?」
「そっか、秘書さんたちは3人で動くから3個セットとかじゃなくて、5個セットを渡したら便利かも?3個セットは……あ、獣人車の運転席に2つと、獣人さんに付けたら、言葉で行き先指示出来たりして面白いかも!」
「面白いかもだけど、そんなにホイホイばらまいてたら、幾つ作っても足りないよ?」
「――はっ!魚人さん達にも魔石にテレパシーを籠められるか練習して貰うってどうかな?人間よりずっと魔法は得意だと思うし、一度コツさえつかめばやってくれそうな気がしない?」
「うーん、頼めばやってみてくれるだろうけど。チョーコみたいにテレポートの魔石で練習も出来ないから、かなり苦労はするかもしれないな?」
「やってみて無理なら私がこっそり作って、表向きだけ魚人さんに手伝ってもらったことにする」
それと、やっぱりこう、普通にテレパシーが使えるのが作りたいんだよね……
転送盤みたいに、魔石版を組み合わせたら強化したりしないかな?
目を閉じて魔石板とテレパシーの魔石に触りながら脳内検索してみると。割らないテレパシー魔石と魔石板を組み合わせて魔力を籠めたら、それを触っている間だけ口に出した言葉を周囲に翻訳して聞かせ、周囲の言葉もまとめて聞き取れる、いつものテレパシーが使える『翻訳機』が作れそう!
しかも魔石板は丸ごとじゃなく、10センチ幅くらいのブロックで足りそう。板がもっと大きいと言葉のないやり取りまで多人数相手に出来るみたいだけど、発言だけ訳せれば充分だもんね。
それでも手のひらより大きな石の塊になるから、持ち歩くには重いし大きい?会議とかで机に置いて使ったり、商会の受付に置いたり、荷車の端にでも乗せて持ち運んで使う感じになるかな?
早速試してみたいけど。今、手元にあるのは凄い綺麗なのを選んで貰ってるから割っちゃうなんてさすがに勿体なさすぎる。
なんかこう、うまく1枚掘り出せなくて割れちゃったみたいなやつない?って探して貰おうかな?それだったら食べ物と交換でもお願いできそうな気がする。
海に頼みに行くついでにテレパシーの魔石も作れるかちょっと練習して貰ったりして……!
「ふふ、めちゃくちゃ色々考えてる、可愛いなぁ。折角2人っきりなんだしそんなに焦って仕事しなくてもいいのに。作れるってなったらまたチョーコが忙しくなるから、まだ今すぐには作らなくても良いんじゃないかな、もうすこしのんびり……」
はっと我に返ってみると、オクティは手にテレパシーの原石を持ってて、あ、バレたと笑う。
「『転送盤』はともかく『翻訳機』のほうは作れるってなった途端にいっぱい作って欲しいってことになりそうだけど。その時に魚人さん達が作り方を覚えてたら、私だけが作れるみたいな扱いはされないし数も何とかなるんじゃないかな?って思うから、そこは早めに確認だけはしておきたいなって思うの」
「まぁ確かに、まだ俺も魔石に魔法を籠めるって成功してないし。チョーコ以外の人にも作れるかどうかってところは重要だよね。作るかどうかは後で考えるとして、確認だけは明日海へ行ってみようか」
***
次の日、早速海へ行ってテレパシーの魔石の話をしたら、総出で海底から圧縮されて自然にできた空の魔石や、サイズの小さかったり破損した魔石板をゴロゴロと大量に拾って来てくれたので、浜の近くで集まり皆で1日中テレパシー魔石の製造講習会をやってみたのだけど。
どうやら思った以上に難しいというか……今までに聞いたことも触ったこともない技術なのでやっぱりなかなか掴めるものではないらしく、結局その日の内には出来なかった。
でも不可能なものは不可能って分かるはず、そうじゃないので訓練すれば出来る!それにこれが作れるようになれば、魚人が踏み込むには厳しい地域での通訳にもお役に立てるのですから頑張ります!と女王様たち年輩組は揃ってぐぐっと気合を入れてくれて。
そんな女王様に見本で作ったテレパシー魔石を1つプレゼントしたらものすごく感激しつつ、せっかく集めたけど今日はそこまで進まなかったしと、サイズの小さい魔石板は全部貰ってしまったから。翻訳機が作り放題の準備はあっさり整ってしまったってことに。
よーし、これで魚人さんたちがテレパシーの魔石を作れるようになったら、翻訳機作っちゃお。いやもう作っちゃってもいい?……まぁ、今すぐじゃなくてもいっか。




